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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第二章〜ナナの家と愛情の形〜
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「兄として」

第二章 第三十七話


兄として


━━━━━━━━━━━━━━━


猫神様の社。


掛け軸のある和室。


クロ

「それにしても」


「色んなことがあったんだなぁ」


掛け軸の中で。


クロは、

改めてノワ達を見渡していた。


猫が人間の姿になれる部屋。


人間の姿を保つための、

猫フード。


そして。


今ではノワ達が、

人間の姿で生活していること。


どれも。


クロにとっては、

昨日まで知らなかったことばかりだった。


それだけではない。


昨夜。


掛け軸の中で、

ソラと色々な話をした。


この世界を彷徨っている、

迷い猫のこと。


帰る場所を見つけられず。


そのまま彷徨い続ければ、

魂は少しずつ不安定になっていくこと。


そして。


自分もまた。


ノワ達に見つけてもらえなければ、

同じように迷い猫になっていたかもしれないこと。


クロは。


そのことも、

ソラから聞いていた。


それから。


ソラ自身のことも。


ソラもかつて。


行く場所を見つけられないまま、

迷い猫となっていたこと。


そして。


やがて他の迷い猫達を取り込み、

歪み猫となって、

ミル達の前に現れたこと。


その時のことを。


ソラ自身が覚えていることも。


覚えていないこともあった。


それでも。


自分が知っている限りのことを、

ソラは昨夜。


クロへ少しずつ話していた。


クロ

「…………」


クロは、

隣にいるソラを見る。


今。


こうして普通に話しているソラも。


少し違えば。


今とは全く違うままだったのかもしれない。


そして。


それは、

自分も同じだった。


だからこそ。


今のノワ達が、

どんな毎日を送っているのか。


クロは、

もっと知りたくなっていた。


クロ

「それでさ」


「今のお前らって、

普段はどうしてるんだ?」


クロは、

ノワとミルを見る。


クロ

「人間の姿になって」


「二人で何してんだ?」


ミル

「迷い猫さんを助けてます!」


クロ

「迷い猫を?」


ミル

「はい!」


クロ

「それは昨日、

ソラから少し聞いたよ」


ミル

「そうなんですか?」


クロ

「ああ」


「俺も」


「お前らに見つけてもらえなかったら、

迷い猫になってたかもしれないって」


ミル

「……はい」


クロ

「でも」


「助けてるっていうのは、

どういうことなんだ?」


ミル

「えっとですね!」


「私達の武器は」


「迷い猫さんが近くにいると、

光って教えてくれるんです!」


クロ

「武器が?」


ノワ

「ええ」


「近づくほど、

光も強くなるの」


クロ

「へぇ……」


クロは、

少し感心したように二人を見る。


クロ

「それで」


「見つけたら助けるのか?」


ミル

「はい!」


クロ

「でも」


「迷い猫って、

襲ってくることもあるんだろ?」


ミル

「……はい」


クロ

「怖くないのか?」


ミル

「怖い時もあります」


クロ

「だったら何で……」


ミル

「だって」


ミルは、

少しだけ目を伏せる。


ミル

「迷い猫さんも」


「迷い猫になりたくて、

なったんじゃないと思うんです」


クロ

「…………」


ミル

「帰る場所が分からなくなって」


「ずっと迷ってるうちに」


「苦しくなっちゃっただけで……」


ミルは、

胸の前で小さく手を握る。


ミル

「本当は」


「普通の猫さんなんです」


クロ

「……普通の猫」


ミル

「はい」


「だから」


ミルは、

真っ直ぐクロを見る。


ミル

「助けてあげたいんです」


クロ

「…………」


クロは。


昨夜、

ソラから聞いた話を思い出す。


自分も。


ほんの少し違えば、

同じ存在になっていたかもしれない。


そして。


隣にいるソラも。


実際に迷い猫となり。


さらに、

歪み猫にまでなっていた。


そう思えば。


ミルの言葉は、

どこか他人事には聞こえなかった。


クロ

「……そっか」


ミル

「はい!」


クロは、

隣にいるノワへ視線を移した。


クロ

「ノワも?」


ノワ

「ええ」


ノワは、

隣にいるミルを見る。


ノワ

「この子を放っておけないもの」


ミル

「?」


クロ

「……なるほどな」


ノワ

「何よ」


クロ

「いや」


「ノワらしいなって思っただけ」


ノワ

「……そう」


クロの黒い尻尾が、

ゆっくりと揺れる。


少しだけ間を置いて。


ミル

「でも!」


クロ

「ん?」


ミル

「迷い猫さんがいない時は、

普通に生活してます!」


クロ

「普通に?」


ミル

「はい!」


「お買い物に行ったり!」


ノワ

「家でのんびりしたりもするわね」


ミル

「みんなでご飯も食べます!」


クロ

「へぇ」


クロは、

興味深そうに二人の話を聞く。


クロ

「買い物って」


「店にも普通に入るのか?」


ミル

「入ります!」


「みんなでスーパーに行ったりします!」


クロ

「スーパー……」


ノワ

「兄さん、知らないの?」


クロ

「名前くらいは知ってるよ」


「俺だって飼い猫だったんだから」


ノワ

「そうだったわね」


クロ

「でも」


「中に入ったことはないな」


ミル

「楽しいですよ!」


「食べ物がいっぱいあります!」


ノワ

「あんたの場合、

そこしか見てないでしょ」


ミル

「そんなことありません!」


少しだけ間を置く。


ミル

「お菓子も見てます!」


ノワ

「食べ物じゃない!」


クロ

「ハハハ!」


ナナ

「ふふっ」


その傍らでは。


ウオ太も、

楽しそうに身体を揺らしていた。


和室に、

笑い声が広がる。


クロ

「じゃあ」


「飯も人間みたいに食べてんのか?」


ノワ

「そうね」


ミル

「ナナのご飯は美味しいです!」


クロ

「おお!ナナが作ってるのか!」


ナナ

「ええ」


「まだまだ勉強中ですが」


そう言いながら。


ナナは、

ルナへ微笑むように視線を送る。


ルナも、

小さく微笑み返した。


ルナ

「みんなで一緒に食べてるわ」


クロ

「へぇ……」


クロは、

少し驚いたようにノワを見る。


クロ

「お前が人間みたいに飯食ってるところ」


「全然想像できないな」


ノワ

「兄さんだって人のこと言えないでしょ」


クロ

「俺は猫だからな」


ノワ

「私も猫よ」


クロ

「今はどう見ても人間だろ」


ノワ

「……それ、またやる?」


クロ

「やめとく」


ミル

「ミルも猫です!」


ミルは、

右手を元気よく挙げる。


ノワ

「あんたまで入ってこなくていいの」


ミル

「はい!」


クロ

「素直だなぁ」


穏やかな笑い声が、

再び和室へ響いた。


クロは、

もう一度ノワとミルを見る。


クロ

「じゃあ今は」


「二人ともナナの家で暮らしてるのか?」


ノワ

「ええ」


「私とミルは、

今はナナの家に住まわせてもらってるのよ」


「ルナも一緒に暮らしてるわ」


クロ

「そっか」


掛け軸の中で。


クロの黒い尻尾が、

ゆっくりと揺れる。


クロ

「ノワは今」


「そこが家なんだな」


ノワ

「……まあね」


クロ

「へぇ……」


クロは、

どこか嬉しそうにノワを見つめる。


自分が知らなかった、

ノワの暮らし。


迷い猫を探しに行って。


ミルの隣で戦って。


何もない時には、

みんなで出掛けて。


一緒にご飯を食べて。


家でのんびり過ごして。


自分がいなくなった後も。


ノワには。


帰る場所ができていた。


クロ

「…………」


そして。


クロが、

ぽつりと呟く。


クロ

「……見てみたいな」


ノワ

「え?」


クロ

「その家」


ノワ

「ナナの家を?」


クロ

「ああ」


クロは、

真っ直ぐノワを見る。


クロ

「今のノワが」


「どんな所で暮らしてるのか」


少しだけ間を置く。


クロ

「兄ちゃんとしては」


「やっぱり見てみたいよ」


ノワ

「……兄さん」


クロ

「ダメか?」


ノワ

「別に」


「私は構わないけど……」


ノワは、

ナナへ視線を向ける。


ナナ

「私は大丈夫よ」


クロ

「本当か?」


ナナ

「ええ」


「ぜひ見に来てください」


クロ

「ありがとう!」


ミル

「クロ!」


「ねこフードルームも見せます!」


クロ

「おお!」


「それは絶対見たい!」


ノワ

「やっぱりそこに食いつくのね……」


クロ

「だって気になるだろ!」


ミル

「ドキワクです!」


クロ

「ドキワクだな!」


ノワ

「もう好きにして……」


そう言いながらも。


ノワの表情は、

どこか嬉しそうだった。


しかし。


ノワは、

ふと掛け軸へ目を向ける。


生前と同じ。


黒猫の姿をしたクロ。


けれど。


その身体が、

本当に戻ったわけではない。


クロは今も。


魂だけの存在だった。


ノワ

「でも……」


クロ

「ん?」


ノワは、

猫神様へ視線を向ける。


ナナも、

同じことに気付いたように猫神様を見る。


ナナ

「猫神様」


猫神様

「ん?」


ナナ

「クロさんを」


「私達の家へお連れしても」


「大丈夫でしょうか?」


猫神様

「……ふむ」


猫神様は、

掛け軸の中にいるクロへ視線を向ける。


しばらく。


その姿を、

静かに見つめる。


やがて。


猫神様

「構わぬよ」


クロ

「本当ですか?」


ミル

「やったー!」


ミルが、

嬉しそうに両手を挙げる。


クロも、

ぱっと表情を明るくした。


そして。


クロ

「じゃあ」


クロは、

自分の隣へ顔を向ける。


クロ

「ソラも一緒に行こうぜ」


ソラ

「…………」


しかし。


猫神様

「いや」


クロ

「え?」


猫神様は、

静かに首を横へ振った。


猫神様

「ソラは連れて行くことができぬ」


クロ

「何でですか?」


猫神様

「実はの」


「ソラは今、

傷ついた魂を治療しておる最中なのじゃ」


クロ

「治療……」


猫神様

「うむ」


「クロの魂は、

この掛け軸の中で随分と安定しておる」


「じゃが」


猫神様の視線が、

ソラへ向く。


猫神様

「ソラはまだ」


「魂そのものの修復が終わっておらぬ」


「今のソラには」


「もうしばらく、

この掛け軸の中で休む時間が必要なのじゃ」


クロ

「…………」


クロは、

心配そうにソラを見る。


クロ

「大丈夫なのか?」


ソラ

「はい」


ソラは、

穏やかに微笑む。


ソラ

「私は大丈夫です」


クロ

「でもよ……」


ソラ

「自分の魂がまだ修復の途中であることは」


「私自身も分かっています」


クロ

「…………」


ソラ

「ですから」


ソラは、

掛け軸の外にいるミル達を見る。


ソラ

「私のことは気にしないでください」


「皆様で、

行ってきてください」


ミル

「ソラ……」


ソラ

「それに」


ソラの表情が、

ほんの少しだけ柔らかくなる。


ソラ

「帰ってきたら」


「どんな一日だったのか、

聞かせていただけたら嬉しいです」


ミル

「はい!」


ミルは、

大きく頷いた。


ミル

「いっぱいお話します!」


ソラ

「ふふっ」


「楽しみにしています」


クロ

「……分かった」


クロも、

ゆっくりと頷く。


クロ

「じゃあ」


「ちゃんと帰ってきて、

ソラにも話してやらないとな」


ソラ

「はい」


猫神様

「ほっほっほ」


猫神様は、

二匹のやり取りを穏やかに見守った。


そして。


猫神様は、

ゆっくりと話し始めた。



第二章 第三十七話 完

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