「光の軌跡」
第八話
四人は夜の街へ飛び出した。
ミルの手の中で、
猫じゃらしは淡く光り続けている。
外の街は静かだった。
風の音だけが聞こえる。
ナナは自分の手をぎゅっと握っていた。
ノワ
「ミル、無茶だけはしないでよ」
ミル
「だ、大丈夫です!」
ミル
「無茶震いしてるだけです!」
ノワは小さくため息を吐く。
ノワ
「大丈夫かしら」
ルナは周囲を見渡し、
小さく呟く。
ルナ
「近いわ」
ミル
「え?」
ルナ
「すぐそこにいる」
猫じゃらしの光が、
少しだけ強くなる。
ミル
「ドキワクします!」(小声)
ノワ
「今それ言う?」(小声)
その時――
路地の奥。
暗闇の中で、
赤い目が光った。
ナナ
「……!」
次の瞬間、
黒い影が飛び出した。
ミル
「きゃっ!」
それは、
猫の形をした黒い魔物だった。
歪んだ体。
赤く光る目。
その姿は猫なのに、
どこか泣いているようにも見えた。
迷い猫は、
地面を滑るように走る。
速い。
ミル
「えいっ!」
ミルは猫じゃらしを振る。
シュッ
しかし、
迷い猫は横に跳んだ。
空振り。
ノワ
「速い!」
迷い猫は壁を蹴る。
屋根へ跳ぶ。
そして、
上から襲い掛かった。
ミル
「きゃっ!」
ミルは慌てて振る。
しかし、
また空振り。
迷い猫は、
地面、
壁、
屋根を自由に駆け回る。
猫のように。
いや、
猫以上に。
ノワ
「ミル!落ち着いて!」
迷い猫が低く唸る。
赤い目が光る。
次の瞬間、
一気に距離を詰めた。
ドンッ!!
ミル
「きゃあっ!」
体当たり。
ミルの体が宙に浮く。
そのまま、
地面を転がった。
猫じゃらしが、
手から離れる。
カラン
少し先へ転がる。
ノワ
「ミル!!」
ノワは迷わず駆け出した。
迷い猫が唸る。
追撃に入る。
ルナ
「……!」
ルナは腕を振る。
シュッ
毛糸が飛ぶ。
迷い猫の体に巻き付いた。
ギリッ
拘束。
迷い猫が激しく暴れる。
ルナ
「ぐっ……長くは持たないわ!」
その横を、
ノワが走り抜ける。
ノワ
「ミルッ!」
ノワはミルの肩を掴む。
ノワ
「大丈夫!?」
ミル
「……っ」
呼吸が乱れている。
ミルは少しだけ顔を上げた。
ミル
「ノワ……」
ミル
「大丈夫です……」
ミル
「まだ大丈夫です……」
ノワ
「……!」
ノワは何か言いかけて、
言葉を止めた。
その目には、
うっすら涙が浮かんでいた。
ミルの視線が動く。
少し先。
猫じゃらし。
ミルはゆっくり手を伸ばす。
握る。
そして、
立ち上がった。
迷い猫が唸る。
糸を引きちぎろうとしている。
ナナ
「……」
ナナは暴れる迷い猫を見つめ、
胸元で手を握りしめた。
そして、
ミルを見る。
ナナ
「その子……」
ナナ
「怖いんじゃないかな」
ミル
「……」
ナナ
「ずっと一人だったんだよ」
ナナ
「不安だったんだよ」
ナナ
「だから」
ナナ
「こんなに怒ってるんだよ」
迷い猫が唸る。
ミルの手が震える。
ナナ
「でも」
ナナ
「本当は」
ナナ
「帰りたいんだよ」
ナナ
「きっと」
ミルの目にも涙が浮かぶ。
でも、
こぼさない。
ミルは猫じゃらしを握り直した。
ミル
「……」
ミルは一度、
目を閉じる。
でも、
ナナの言葉を聞き、
ミルは目を開いた。
迷い猫を真っ直ぐ見る。
そして――
ミル
「絶対」
ミルは一歩踏み出す。
震えていた手が、
止まる。
猫じゃらしを強く握る。
ミル
「助けてあげるっ!!」
その瞬間――
猫じゃらしが、
強く光った。
白い光。
その奥から、
ピンク色の光が溢れ出す。
やがて、
その光は猫じゃらしの穂先へと集まっていく。
一点に。
ルナ
「……!」
ルナ
「想いの力……」
ノワ
「ミル……」
迷い猫が、
糸を引きちぎる。
ルナ
「ぐっ……ミル!来るわ!」
迷い猫が飛びかかった。
ミルは踏み込む。
もう迷いは無い。
ただ助けたい、
その一心で。
猫じゃらしを振る。
シュッ――
空を切る。
その軌跡に、
光が残る。
白とピンクの光。
夜空に描かれる、
優しい光の線。
その光が、
迷い猫を包んだ。
迷い猫
「……」
赤い目が揺れる。
暴れていた体が、
少しずつ静かになっていく。
ミルは、
もう一度、
猫じゃらしを振る。
光の軌跡が重なる。
優しく。
包み込むように。
迷い猫の体が、
ふわりと光る。
黒い影が、
崩れていく。
その瞬間――
小さな猫の姿が、
一瞬だけ現れた。
穏やかな顔。
そして、
光の粒になって、
夜空へ昇っていく。
ナナ
「……」
ノワ
「……終わったのね」
ルナは静かに見ている。
最後の光が、
空へ消えた。
静かな街。
ミルは空を見上げる。
ミル
「あの子はちゃんと帰れましたでしょうか?」
ノワ
「ええ……きっと」
静かな風が吹く。
ミルは猫じゃらしを握る。
ミル
「……よかったです」
ミル
「ナナ……」
ミル
「ちゃんと助けられました……」
小さく、
笑った。
その瞬間――
ふらっ
ミルの体が揺れる。
ドサッ
ノワ
「ミルッ!?」
ナナ
「え!?」
ルナ
「……想いの力を使いすぎたのね」
ノワはミルを抱き起こす。
ミルは静かに眠っている。
ナナ
「想いの力……?」
ルナ
「大丈夫」
ルナ
「ただの限界よ」
ノワ
「……まったく」
ノワは小さく息を吐いた。
ノワ
「無茶するんだから」
ナナは、
眠っているミルを見る。
ナナ
「……」
ナナ
「でも」
ナナ
「すごい子だね」
ルナは空を見上げる。
ルナ(心)
「……この子で良かった」
「本当に」
ミルの手の中で、
猫じゃらしの光は静かに消えていった。
けれど、
穂先には、
ピンク色の光だけが、
小さく残っていた。
心地よい風が吹く。
第八話 完




