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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第二章〜ナナの家と愛情の形〜
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「託された願い」

第二章 第二十六話


託された願い


━━━━━━━━━━━━━━━


魂の鈴を手に、

ミルは改めて掛け軸の中のソラへ向き直った。


ミル

「ソラ!」


「これで、

いっぱいお話できますね!」


ソラは、

嬉しそうに微笑む。


ソラ

『そうですね、ミル姉様』


ミル

「み、みる……ねえ……さま?」


ミルは、

姉様と呼ばれた事に衝撃を受けていた。


頭の中で、

「ミル姉様」という言葉がぐるぐる回っている。


ミル

「わぁ〜……」


ミルは口を少し開け、

蕩けた顔をしている。


ノワ

「ちょっと! ミル?」


「大丈夫?」


ノワは、

ミルの肩を少し揺する。


ミル

「はっ!」


「大丈夫です! 起きてます!」


ノワ

「今、意識飛んでたわよ!?」


ミル

「ノワ! それより!」


ミルは、

ソラの方へ向き直る。


ミルの嬉しさが、

一気に込み上げる。


目をキラキラさせたミルは止まらない。


ミル

「ソラ! 元気でしたか!」


「寂しくなかったですか!」


「毎日何をしてたんですか!」


次々と質問を投げ掛けるミルに、

他の三人と一柱と一匹は少し呆然としていた。


ミル

「あ、あと!」


「今食べたいものって何ですか!」


「それからー」


呆けていたノワが、

はっと我に返る。


ノワ

「ちょ、ちょっとミル!」


「一気に聞き過ぎよ!」


ミル

「あっ!」


「ご、ごめんなさい!」


ソラは、

くすりと微笑んだ。


ソラ

『ふふっ』


『大丈夫ですよ』


和室へ、

穏やかな空気が流れる。


ミルは、

照れ笑いを浮かべる。


ミル

「えへへ……」


「でも」


「ずっとお話ししたかったんですよ!」


ソラは、

嬉しそうに微笑む。


ソラ

『私もです』


その時。


ミルは何かを思い出したように、

右手の甲を口元へそっと添えた。


少し身を乗り出し、

興味津々な様子で尋ねる。


ミル

「ちなみに……」


「猫神様って、

一日にお茶何杯くらい飲んでるんです?」


ノワ

「……」


「何で今それ聞くのよ」


ミル

「いや!」


「猫神様、

いつもお茶飲んでるじゃないですか!」


「気になったんですよ!」


ソラは、

何事もないように答える。


ソラ

『平均すると、

この部屋では一日七杯ぐらいですね』


和室が、

静まり返る。


ノワ

「いや」


「答えるんかい!」


猫神様

「ほっほっほ」


「そこまで見られておったとはのう」


ソラは、

少し照れたように微笑む。


ソラ

『猫神様のことは、

毎日見ていましたので』


ミル

「すごいです!」


「ソラ、

よく覚えてますね!」


ソラは、

少し照れながら微笑む。


ソラ

『ありがとうございます』


ノワは、

優しくソラを見つめる。


ノワ

「それで?」


「実際はどうだったの?」


「元気に過ごせてたの?」


ソラは、

静かに頷いた。


ソラ

『はい! ノワ姉様』


『元気に過ごしていました』


『もちろん、

少しだけ寂しい時もありましたけど』


『姉様達やナナさんが、

何度も会いに来てくださいましたから……』


ミルは、

ほっと胸を撫で下ろす。


ミル

「良かったです……」


ナナも、

優しく微笑む。


その隣では、

魚クッションが静かに浮かんでいる。


ナナ

「私もね」


「会いに来るたびに、

ソラが喜んでくれてたらいいなって思ってたの」


ソラは、

嬉しそうに頷く。


ソラ

『はい』


『とても嬉しかったです』


ルナも、

静かに微笑む。


ルナ

「ちゃんと届いていたのね」


ソラは、

もう一度頷いた。


ソラ

『はい、ルナ姉様』


『姉様達やナナさんが来てくださるたびに』


『今日はどんなお話が聞けるのかなって、

いつも楽しみにしていたんです』


『その間は、

ミル姉様から頂いた鈴を鳴らしたり』


『お昼寝をしたり』


『のんびり過ごしていました』


ミルの目が、

ぱっと輝く。


━━━━━━━━━━━━━━━


ミル

「ソラー!」


ミルは、

しゃがみ込む。


ミル

「今日はこれ持って来ました!」


鈴を見せる。


━━━━━━━━━━━━━━━


ミル

「ソラ!

遊んでくれてたんですね!」


ソラは、

優しく微笑む。


ソラ

『はい』


『私の大切な宝物です』


ナナも、

小さく微笑む。


ナナ

「ミル、

良かったわね!」


ミルも、

嬉しそうに笑った。


ミル

「えへへ!」


「嬉しいです!」


和室へ、

穏やかな時間が流れる。


その中で。


ソラだけは、

何度も四人を見つめていた。


嬉しそうに微笑んでは、

少しだけ寂しそうに目を伏せる。


その表情を、

ノワは見逃さなかった。


ノワ

「……ソラ」


「何か話したそうな顔してるわね」


ソラは、

少しだけ目を見開く。


自分の様子に気付かれていたことが、

少しだけ恥ずかしかった。


やがて、

静かに視線を伏せる。


少しだけ勇気を出すように、

再び四人を見つめた。


ソラ

『……実は』


『皆様に、

お願いしたいことがあるんです』


その一言だけを伝えると、

ソラは静かに俯いた。


その先の言葉が、

どうしても出てこない。


和室は、

静まり返っていた。


突然言葉を失ったソラを、

ミル達は心配そうに見つめている。


ナナの隣で浮かぶ魚クッションも、

どこか心配するように小さく揺れていた。


猫神様も静かに目を閉じ、

ソラの言葉を待っている。


誰も急かさない。


誰も口を挟まない。


ソラは、

小さく首を振る。


伝えなければ。


そう思うほど、

胸の奥にある想いは、

言葉になってくれない。


歪み猫となり、

ミル達を傷付け、

苦しめてしまった自分が。


本当に、

こんなお願いをしてもいいのだろうか。


あの日、

ミル達はソラを救った。


その事実は、

今も変わらない。


だからこそ、

胸の奥に残る後悔だけは、

どうしても消えてくれなかった。


その想いが、

何度も言葉を押し戻していく。


もし、

自分の言葉で、

皆を傷付け、

悲しませてしまったら。


もし、

あの時の事で怒らせてしまったら。


いや、

怒って怒鳴りつけてくれた方が、

どれだけ楽だろうか。


恐らくミル達は、

ソラを責めたりはしないだろう。


ソラも、

それを分かっていた。


それ故のもどかしさや、

心苦しさをソラは感じていた。


ソラ(心)

『なんて醜い心でしょうか……』


『やはり私が言うのは、

違うのでしょうね……』


ソラは、

話す事をやめようともした。


ソラ(心)

『……でもっ』


どうしても伝えたい。


伝えなければならない想いがある。


けれど――


言葉にならない。


ソラ

『……っ』


ソラは怯えるように、

小さく肩を竦めた。


その時だった。


ミル

「大丈夫ですよ、ソラ」


優しく、

やわらかな声だった。


ソラは、

小さく目を見開く。


ソラ(心)

『ミル姉様?』


ソラは思わず、

ミルを見つめた。


ミルはいつもと変わらない、

優しい笑顔を向けている。


ミル

「ゆっくりでいいので」


「話してくださいね」


ソラは、

静かに頷いた。


胸の奥を締め付けていた重苦しさが、

まるで嘘だったかのように、

すっと消えていく。


そして、

ゆっくりと顔を上げる。


ソラ

『私は……』


『歪み猫でした』


和室の空気が、

少しだけ重くなる。


それでも、

誰も目を逸らさなかった。


ソラ

『あの時の私は』


『自分の意思では……』


『止まることが出来ませんでした』


『苦しくても』


『悲しくても』


『止まりたくても』


『身体は勝手に動いてしまうんです』


ソラは、

少し視線を落とす。


ソラ

『迷い猫達も……』


『きっと同じなんです』


『本当は助けてほしいのに』


『誰にも届かないまま』


『苦しみ続けている魂が』


『たくさん居ると思います』


静かな時間が流れる。


ソラは、

四人を真っ直ぐ見つめた。


ソラ

『だから……』


ソラは視線を上げ、

皆を見つめる。


ソラ

『どうか』


『迷い猫になる前に』


『魂達を見つけてあげてください』


『そして』


『保護してあげてください』


ソラの声が、

少しだけ震える。


ソラ

『私は……』


『誰にも』


『あんな思いをしてほしくありません』


『私と同じような苦しみを』


『もう誰にも味わってほしくないんです』


ソラ

『どうか……』


『お願いします』


ソラは、

深く頭を下げた。


和室は、

静まり返る。


その願いを、

誰もが静かに聞いていた。


最初に口を開いたのは、

ミルだった。


ミル

「ソラ……」


「何を言ってるんですか?」


ソラは頭を下げたまま、

肩を小さく震わせ、

その目をぎゅっと閉じていた。


やはり。


自分がお願いするようなことでは、

なかったのかもしれない。


しかし。


ミル

「そんなの」


「お願いされるまでもありません!」


ソラは驚いたように、

はっと顔を上げる。


ミルは真っ直ぐ、

ソラを見つめていた。


ミル

「ソラ!

そのお願い」


「ミル達に任せてください!」


ソラの瞳から、

小さな光の雫が零れ落ちる。


その先には、

いつものミルの優しい笑顔があった。


ノワも小さく息をつき、

どこか呆れたように微笑む。


ノワ

「まったく」


「そんなの」


「最初から決まってるでしょ」


ルナも、

静かに頷く。


ルナ

「ソラが教えてくれたから」


「私達は迷わず動けます」


ナナも、

優しく微笑む。


ナナ

「ソラは何も出来てないなんて思わないで」


「ソラの想いは」


「私達が繋ぐわ」


ソラは、

四人を見つめた。


先程まで胸の中を埋め尽くしていた不安が、

少しずつほどけていく。


ソラ

『姉様……』


一度、

ナナへ視線を向ける。


ソラ

『ナナさん……』


『ありがとうございます……』


その時。


猫神様が、

静かに目を開いた。


四人の姿を見つめた後、

穏やかな眼差しをソラへ向ける。


猫神様

「わしが申すまでもあるまい」


「その想いは」


「姉達がしっかり受け止めておるじゃろ」


ソラは、

瞳に光の雫を浮かべたまま、

猫神様を見つめる。


猫神様

「あとは」


「姉達を信じて待つのじゃ」


ソラは、

小さく目を見開いた。


待つ。


今の自分にも出来ることを、

猫神様は確かに示してくれた。


ソラは、

ゆっくりと頷く。


ソラ

『……はい』


猫神様は、

優しく目を細める。


猫神様

「そして、ソラ」


「お主のその想い」


「決して忘れるでないぞ」


ソラは、

静かに猫神様を見つめる。


猫神様

「想いと言うのはどんな状況でも」


「また他の想いへと繋がってゆく」


「想いとは全ての起点、全ての原動力じゃ」


「そして……巡るものじゃ」


「大事にするのじゃぞ」


ソラは自分の胸元へ、

そっと前足を添えた。


ソラ

『……はい』


『大切にします』


猫神様は、

満足そうに頷いた。


そして、

ゆっくりとミル達へ視線を向ける。


猫神様

「ミル」


「ノワ」


「ルナ」


「ナナ」


名前を呼ばれた四人は、

真っ直ぐ猫神様を見る。


猫神様は一人ひとりの顔を、

静かに見つめた。


いつもの穏やかな笑みはない。


そこには、

苦しむ魂を想う、

一匹の猫が居た。


猫神様は、

頭を下げた。


ルナ

「ね、猫神様っ!」


ルナは反射的に、

少し前へ身を乗り出す。


猫神様

「ルナ!」


強い声だった。


ルナの動きが、

ぴたりと止まる。


「……」


短い沈黙の後。


猫神様

「……よい」


ルナ

「……っ!」


猫神様

「わしが頭を下げる事なぞ、

今尚苦しんでおる魂達に比べれば、

何だというのか」


ルナ

「……っ!」


猫神様

「改めてお願いじゃ」


「わしはのう……」


「苦しみ続ける魂を」


「一匹たりとも増やしたくはないんじゃ」


「どうか……」


「ソラの想いを……」


「……」


「繋いでやってくれ……」


静かな和室に、

猫神様の願いだけが響いた。


ミルは、

力強く頷く。


ミル

「はい!」


「必ず助けます!」


ノワ

「任せなさい」


ルナ

「必ず保護します」


ナナ

「ソラの想いも」


「私達が繋いでみせます」


猫神様は、

静かに目を閉じた。


その表情は、

どこか安堵しているようにも見えた。



第二章 第二十六話 完

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