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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第二章〜ナナの家と愛情の形〜
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「魂とは」

第二章 第二十二話


魂とは


━━━━━━━━━━━━━━━


和室の空気が、

少しだけ引き締まった。


先程まで広がっていた、

ピザの香ばしい匂いと笑い声。


その名残は、

まだ部屋の中に残っている。


けれど。


猫神様の表情は、

先程までとは少し違っていた。


穏やかなまま。


どこか静かで、

真剣なものへと変わっている。


その空気を感じ取ったのか。


ミル達も、

自然と猫神様へ視線を向けた。


ナナのそばでは。


魚クッションも、

静かにふわふわと漂っている。


猫神様は、

湯飲みをそっと置いた。


猫神様

「さて」


「改めてという形になるんじゃが」


猫神様は、

四人をゆっくりと見渡す。


猫神様

「お主らに、

頼みたい事があるんじゃ」


ミル

「頼みたい事ですか?」


猫神様

「うむ」


猫神様は、

ゆっくりと頷く。


猫神様

「猫の魂達を助ける手伝いをしてほしい」


ミル

「猫の魂?」


ノワ

「……魂?」


ナナも、

不思議そうに猫神様を見る。


ルナだけは。


何も言わず、

静かに猫神様を見つめていた。


猫神様

「うむ」


「そのためにはまず」


「猫の魂について、

知ってもらわねばならん」


ミル

「おおー……」


猫神様

「少し長い話になるが」


「聞いてくれるかのう」


ミル

「はい!」


ノワ

「聞くわ」


猫神様

「うむ」


猫神様は、

二人の返事に静かに頷いた。


そして。


少しだけ間を置く。


猫神様

「まず一つ」


「お主らは猫の魂について、

どれだけ知っているかの」


ナナ

「猫の魂についてですか?」


ノワ

「幽霊……とか?」


ミル

「キラキラしてます!」


ノワ

「見た目の話じゃないでしょ」


ミル

「違うんです?」


ノワ

「多分ね」


猫神様

「ほっほっほ」


猫神様は、

楽しそうに笑う。


猫神様

「お主らに猫の魂とは言ったがのう」


「魂そのものに、

種族は存在せん」


ミル

「?」


ノワ

「存在しない?」


猫神様

「うむ」


猫神様は、

指を一つ立てる。


猫神様

「猫の魂」


「人間の魂」


「犬の魂」


「鳥の魂」


「そういった区別は、

本来無いんじゃ」


ミル

「……?」


ミルは、

ますます不思議そうに首を傾げる。


猫神様

「種族を決めるのは魂ではない」


「器じゃ」


ミル

「器?」


猫神様

「身体の事じゃな」


「猫の器へ入れば猫になる」


「人間の器へ入れば人間になる」


「犬の器へ入れば犬になる」


ノワ

「なるほどね」


「魂じゃなくて、

身体で決まるって事ね」


猫神様

「その通りじゃ」


猫神様は、

満足そうに頷いた。


ミル

「じゃあ」


ミルは、

自分の手を見る。


人間の姿をした、

自分の手。


ぱっと開いて。


ぎゅっと握る。


もう一度、

ぱっと開く。


ミル

「今のミルは人間ですか?」


ノワ

「猫でしょ」


即答だった。


ミル

「でも手が人間です」


ノワ

「フードの力でしょ」


ミル

「なるほど!」


ノワ

「納得するの早いわね」


猫神様

「ほっほっほ」


猫神様は、

楽しそうに目を細める。


猫神様

「今のお主らは、

少し特殊じゃがの」


「本来は、

器によって種族が決まる」


そして。


猫神様は、

話を続ける。


猫神様

「魂は器へ入ると」


「少しずつ、

その器へ馴染んでいく」


ミル

「馴染む?」


猫神様

「うむ」


「猫の器に入れば」


「魂は猫の在り方へ寄っていく」


「人間の器に入れば」


「人間の在り方へ寄っていく」


ナナ

「……」


ナナは、

少し考えるように視線を落とす。


そして。


ナナ

「だから」


「一度その器に馴染んだ魂は、

同じ種族へ引かれやすくなるんですね」


猫神様

「うむ」


「絶対ではないがの」


猫神様

「猫として生き、

猫の器に馴染んだ魂は」


「次の生でも、

再び猫の器へ引かれやすくなる」


ミル

「ミル達もですか?」


猫神様

「そうじゃな」


ミルの耳が、

ぴくりと動く。


ミル

「おおー!」


ノワ

「アンタ、

嬉しそうね」


ミル

「また猫になれるかもしれません!」


ノワ

「アンタらしいわ」


ミル

「ノワもですよ!」


ノワ

「私も?」


ミル

「はい!」


「また猫になったら、

一緒に遊べます!」


ノワ

「……」


ほんの少しだけ。


ノワの表情が、

柔らかくなる。


ノワ

「そうね」


ミル

「はい!」


和室に、

小さな笑いが広がる。


ナナも、

ふふっと口元を緩めた。


ルナも、

静かに微笑んでいる。


猫神様も、

楽しそうに目を細めていた。


そして。


猫神様

「さて」


その一言で。


和らいでいた空気が、

少しずつ静かになっていく。


猫神様

「ここからが、

今日の話で大事な部分じゃ」


ミル達も、

自然と姿勢を正した。


猫神様

「魂は器へ入る事で安定する」


「逆に言えば」


「器を失った魂は、

非常に不安定なんじゃ」


ノワ

「不安定?」


猫神様

「うむ」


「魂だけの存在は」


「周囲からの影響を、

とても受けやすくなる」


猫神様は、

ゆっくりと言葉を続ける。


猫神様

「他者の想い」


「悲しみ」


「憎しみ」


「強い記憶」


「そして、

その魂を取り巻く環境」


「そういった様々なものにな」


和室が、

静かになる。


先程までとは違い。


誰も、

言葉を挟まなかった。


ミルは、

そっと自分の胸元に手を当てる。


魂。


それは。


今まで何度も、

当たり前のように聞いてきた言葉だった。


けれど。


こうして猫神様の口から聞くと。


それがどれほど不安定で。


どれほど周囲から影響を受けるものなのか。


少しずつ、

分かってくる。


猫神様

「そして」


「帰る場所を失った魂は」


「器を持たぬまま、

彷徨う事になる」


ミル

「……」


猫神様

「その間も」


「魂は周囲から、

様々な影響を受け続ける」


「そうして長く彷徨ううちに」


猫神様は、

少しだけ目を伏せる。


猫神様

「魂の中にある悲しみや苦しみ」


「怒りや恐れ」


「そういった負の感情が、

少しずつ大きくなっていく」


ノワ

「……」


ナナ

「……」


猫神様

「そして」


「その感情が、

魂自身では抱えきれぬほど膨れ上がれば」


一瞬。


言葉を止める。


猫神様

「やがて魂は」


「その感情に、

飲み込まれてしまう」


和室に、

静かな空気が流れる。


猫神様

「そうなった魂が」


「迷い猫となるんじゃ」


ミル

「……迷い猫」


ミルは、

小さく呟いた。


これまで何度も、

目にしてきた存在。


襲い掛かってきた迷い猫。


苦しそうに鳴いていた迷い猫。


そして。


自分達が、

浄化してきた迷い猫達。


ミル

「じゃあ……」


猫神様

「うむ」


猫神様は、

ミルが何を聞こうとしたのか察したように頷く。


猫神様

「お主らが出会ってきた迷い猫達も」


「元を辿れば、

一つの魂じゃ」


ミル

「……」


猫神様

「初めから、

迷い猫じゃったわけではない」


「器を失い」


「帰る場所を見失い」


「長く彷徨ううちに」


「自らの感情に、

飲み込まれてしまった」


猫神様

「そういう魂達なんじゃ」


ミルの視線が、

ゆっくりと掛け軸へ向かう。


そこには。


猫の姿をしたソラがいる。


ミル

「ソラも……」


小さな声だった。


猫神様

「……うむ」


猫神様は、

静かに頷いた。


猫神様

「ソラもまた」


「始まりは、

器を失った一つの魂じゃった」


ミル

「……」


ノワも、

何も言わない。


ナナは、

静かにソラを見つめる。


ルナもまた。


掛け軸の中にいるソラへ、

そっと視線を向けていた。


少しの沈黙。


やがて。


猫神様が、

静かに口を開く。


猫神様

「迷い猫は、

確かに危険な存在じゃ」


「負の感情に飲まれ」


「自分自身すら、

見失っておる者もおる」


猫神様

「じゃが」


猫神様は、

ミル達を見る。


猫神様

「元を辿れば」


「お主らと何も変わらぬ、

一つの魂じゃ」


ミル

「……」


猫神様

「それを、

忘れてはならん」


ミルは。


しばらく、

何も言わなかった。


そして。


胸元に置いていた手を、

ぎゅっと握る。


猫神様

「だからこそ」


「お主らに頼みたい」


猫神様

「猫の魂達を助ける手伝いをしてほしいんじゃ」


ミル

「はい!」


すぐに返事が返ってきた。


迷いのない。


真っ直ぐな声だった。


ノワ

「まだ話の途中でしょ」


ミル

「でも助けたいです!」


ノワ

「それは分かるけど」


ノワは、

小さく息を吐く。


けれど。


その表情は、

少し柔らかかった。


ノワ

「……私も反対はしないわ」


ナナ

「私も」


ナナは、

静かに頷く。


ナナ

「知らない事は、

まだ多いけれど」


「助けられるなら、

手伝いたいわ」


魚クッションも、

ナナの隣で小さく上下に揺れた。


まるで。


自分も同じだと、

言っているかのように。


その時。


ミルが、

ふとルナを見る。


ミル

「……あれ?」


ルナ

「?」


ミル

「もしかして」


少し考えて。


ミル

「ルナが今まで、

猫神様のお手伝いでしてたことって……」


ルナ

「……ええ」


ルナは、

静かに頷いた。


ルナ

「こういうことよ」


ミル

「おおー……」


ミルは、

少し驚いたようにルナを見る。


ノワ

「そういうことだったのね」


ナナ

「だからルナは、

迷い猫のことも知ってたのね」


ルナ

「ええ」


「今までは、

私が猫神様のお手伝いをしてた」


そして。


ルナは、

三人を見る。


ルナ

「でもこれからは、

みんなでやることになるわね」


ミル

「はい!」


ミルは、

嬉しそうに頷く。


ミル

「ルナと一緒です!」


ルナ

「ええ」


ルナは、

少しだけ嬉しそうに微笑んだ。


猫神様も、

そんな四人を穏やかに見つめていた。


そして。


猫神様

「じゃが」


「まだ話は終わりではない」


ミル

「?」


猫神様

「魂がどう生まれ変わるのか」


「なぜ帰る場所を失う魂が生まれるのか」


「そして」


猫神様は、

ゆっくりとミル達を見渡した。


猫神様

「お主らが実際に何をするのか」


「そこまで話しておかねばならん」


ミル

「分かりました!」


ノワ

「今度は最後まで聞かないとね」


ミル

「……っ……はい!」


ノワ

「何よ今の間は!」


ナナ

「ふふっ」


ルナも、

小さく笑う。


少しだけ。


和室の空気が、

柔らかくなった。


けれど。


猫神様の瞳は、

静かなままだった。


猫神様

「では次に」


「魂の行き先について、

話すとしようかのう」


ミル達は、

猫神様へ視線を戻す。


魂とは何か。


迷い猫とは何か。


そして。


魂は、

どこへ向かうのか。


まだ知らない事は多い。


ミル達は。


その続きを聞くため、

静かに猫神様を見つめていた。


━━━━━━━━━━━━━━━


第二章 第二十二話 完

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