「おじいちゃん」
第二章 第二十一話
「おじいちゃん」
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昼過ぎ。
四人は、
猫神様の社へ続く石段を登っていた。
そのそばでは、
魚クッションがふわふわと漂っている。
先頭を歩くミルは、
両手で大事そうにピザの箱を抱えていた。
落とさないように。
ぶつけないように。
箱が傾かないように。
一段一段、
足元を確かめながら慎重に登っていく。
いつものミルなら、
真っ先に駆け上がっていきそうな石段。
けれど今日は、
やけに歩みが遅かった。
ナナ
「……」
その様子を見て、
ナナは少しだけ心配そうな顔をする。
そして。
少し前の出来事を思い出した。
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ミル
「責任を持って運びます!」
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家を出る直前。
ピザの箱を両手で受け取りながら、
ミルは真剣な顔でそう言っていた。
ナナ
「本気で気にしているのね……」
ナナは少し申し訳なさそうに、
ミルの背中を見る。
ノワ
「ああ見えて結構律儀に考える所があるだけよ」
ナナ
「ふふっ」
ナナは、
少しだけ安心したように微笑む。
ルナも、
そんな二人を見ながら静かに微笑んだ。
魚クッションは、
ナナの隣をゆっくり漂っている。
やがて。
ミルが、
石段の最後の一段を登る。
ミル
「着きました!」
箱を抱えたまま、
嬉しそうに振り返る。
その後ろには。
静かに佇む、
猫神様の社があった。
ルナ
「行きましょう」
四人は、
社へと入っていった。
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猫神様の社。
和室。
猫神様は、
いつもの場所でお茶を飲んでいた。
猫神様
「来たかの」
湯飲みを、
そっと置く。
やがて。
部屋の襖が、
ゆっくりと開いた。
ミル
「こんにちはー!」
猫神様
「おお」
猫神様は顔を上げる。
猫神様
「よく来たのう」
ノワ
「こんにちは」
ルナ
「お邪魔します」
ナナ
「こんにちは、猫神様」
猫神様
「うむうむ」
魚クッションも、
ナナの後ろからふわりと部屋へ入ってくる。
そして。
ミルはすぐに、
掛け軸へ目を向けた。
ミル
「ソラ!」
ぱっと表情を明るくする。
ミル
「来ましたよ!」
掛け軸の中では。
ソラが、
嬉しそうに身体を起こす。
尻尾も、
ゆっくりと左右に揺れていた。
ミル
「今日はですね」
「猫神様に大事なお話があるんです」
ミルは、
両手に抱えた箱を見る。
ミル
「なので」
「ちょっと待っててくださいね」
そして。
掛け軸へ、
にこっと笑いかける。
ミル
「後でいっぱいお話ししましょうね!」
ソラは、
嬉しそうに尻尾をもう一度揺らした。
そう言ってから。
ミルは改めて、
大事そうに抱えていたピザの箱へ目を落とした。
先程までの笑顔から一転。
少しだけ、
真剣な顔になる。
ノワ
「……」
その変化に気付いたノワは、
何も言わずミルを見ていた。
ミルは、
猫神様の前へ進む。
ミル
「猫神様」
猫神様
「うむ?」
ミル
「実はですね――」
そっと。
両手で箱を差し出す。
ミル
「ピザです!」
猫神様
「おお!」
猫神様の顔が、
ぱっと明るくなる。
猫神様
「これは嬉しいのう」
ミル
「ナナが作りました!」
ナナ
「ふふっ」
少し照れたように、
ナナが微笑む。
そのそばでは、
魚クッションも嬉しそうにふわりと揺れた。
猫神様
「そうかそうか」
猫神様は、
嬉しそうに箱を受け取る。
ミル
「でも……」
猫神様
「うむ?」
ミルの表情が、
少し曇った。
視線を逸らし。
ほんの少し、
言いづらそうに口を開く。
ミル
「ちょっと食べちゃいました……」
和室が、
少し静かになる。
ノワ
「ちょっとじゃないけどね」
ミル
「うっ」
ルナ
「四分の一ほどね」
ミル
「うぅっ」
ナナ
「ふふ……」
ミルの耳が、
しょんぼりと垂れる。
猫神様
「ほっほっほ」
猫神様は、
楽しそうに笑った。
ミル
「すみません……」
猫神様
「そんな事か」
ミル
「……?」
思っていた反応とは違ったのか。
ミルが、
少しだけ顔を上げる。
猫神様
「気にせんでよい」
ミル
「でも……」
猫神様
「お主らが持って来てくれたことの方が嬉しい」
ミル
「……!」
ミルの表情が、
ぱっと明るくなる。
先程まで垂れていた耳も、
すぐに元へ戻った。
ナナも、
安心したように微笑む。
魚クッションも、
その隣でふわりと揺れた。
ノワは、
小さく肩をすくめる。
和室の空気が、
再び柔らかくなっていった。
猫神様
「それに」
猫神様は、
受け取った箱へ目を落とす。
猫神様
「わし一人では食い切れん量じゃ」
ミルは明るい表情でナナの方に振り返る。
ナナもウィンクで答える。
猫神様
「気にせんでよい」
ミル
「ありがとうございます!猫神様!」
ミルのホッとした表情にナナも安心した表情になる。
猫神様
「よいよい」
猫神様は優しく笑った。
ルナはその笑顔を見つめる。
ふと。
昔の記憶が脳裏をよぎった。
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幼いルナ
「おじいちゃん!」
小さな手が、
何かを差し出す。
猫神様
「おお」
猫神様
「これは嬉しいのう」
幼いルナ
「えへへ♪」
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一瞬だった。
ルナ
「……」
小さく微笑む。
猫神様は昔から変わらない。
猫神様
「せっかくじゃ」
猫神様
「皆で食うとするかのう」
ミル
「!!」
一瞬で表情が輝く。
ミル
「いただきます!」
ノワ
「早い」
ルナ
「まだ手も洗ってないわよ」
ナナ
「ふふっ」
猫神様
「ほっほっほ」
猫神様は、
楽しそうに笑った。
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ミルとノワが手を洗いに行っている間に、
持ってきたピザはルナとナナが温めていた。
猫神様は、
残っていた三切れのうち一切れを手に取る。
残った二切れは、
四人で半分ずつ分けることにした。
皆で、
ピザを囲む。
猫神様は、
手に取ったピザをゆっくり口へ運んだ。
猫神様
「うむ」
もう一口。
ゆっくり味わってから、
満足そうに頷く。
猫神様
「これは美味いのう」
ナナ
「よかったです」
ナナの表情が、
嬉しそうに緩む。
魚クッションも、
そのそばでふわふわと揺れていた。
ミル
「ナナが作ったんですよ!」
猫神様
「ほう」
ミル
「ミルは運びました!」
少しだけ得意そうに、
胸を張る。
ノワ
「ずいぶん慎重に運んでたものね」
ミル
「はい!」
「絶対に落とさないようにしました!」
ノワ
「そこまで気にしなくても大丈夫よ」
ミル
「でも」
ミルは、
猫神様の方を見る。
ミル
「一切れ食べちゃったので……」
ノワ
「だからって、
箱まで落としたら余計大変でしょ」
ミル
「はっ!」
ノワ
「気を付けるところ、
そこじゃない気もするけどね」
ミル
「危なかったです……」
ノワ
「危なくないわよ」
猫神様
「ほっほっほ」
猫神様は、
楽しそうに笑う。
ナナも、
そんな二人を見ながら小さく笑った。
ルナも、
どこか楽しそうにその様子を見ていた。
和室には、
穏やかな空気が流れていた。
しばらくして。
皆が落ち着いた頃。
猫神様は、
湯飲みへ手を伸ばす。
一口飲み。
静かに湯飲みを置いた。
その様子を見て、
ルナが口を開く。
ルナ
「猫神様」
猫神様
「なんじゃ?」
ルナ
「今日は話があったのではありませんか?」
猫神様
「ああ」
猫神様は、
静かに頷いた。
猫神様
「そうじゃったな」
その言葉に。
ミルも、
猫神様へ顔を向ける。
ノワも姿勢を少し正した。
ナナのそばを漂っていた魚クッションも、
静かに動きを止める。
猫神様は、
四人をゆっくりと見渡した。
先程までの穏やかな空気が、
少しだけ引き締まる。
猫神様
「今日はお主らに話しておきたいことがある」
ミル
「?」
ノワ
「……」
ナナ
「話しておきたいこと?」
ルナは、
静かに猫神様を見つめた。
猫神様
「うむ」
少しの間を置いて。
猫神様は、
ゆっくりと口を開いた。
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第二章 第二十一話 完




