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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第二章〜ナナの家と愛情の形〜
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「昨日より、少しだけ」

第二章 第十九話


昨日より、少しだけ


――


翌日。


ナナの家。


一階のキッチンには、

朝の柔らかな光が差し込んでいた。


冷蔵庫の開いた扉から、

ひんやりとした空気が流れる。


ナナは中を覗き込みながら、

小さく困った様な声を漏らした。


ナナ

「あら……」


ルナ

「どうしたの?」


ナナ

「思ったより色々減ってるのよねぇ」


ルナも隣から、

冷蔵庫を覗き込む。


ルナ

「本当ね」


「そろそろ買いに行かないと駄目かも」


ナナ

「今日は何作ろうかしら」


その言葉に、

ソファーで猫じゃらしを振っていたミルが勢いよく反応する。


ミル

「お買い物です!」


ノワ

「アンタ食べ物絡むと本当に元気ね……」


ナナ

「それじゃ、

皆で行きましょうか」


ミル

「今日はいっぱい買います!」


ノワ

「猫神様からせっかく生活費もらってるんだから、

無駄遣いするわけにはいかないでしょ」


ミル

「はっ」


ミルは、

真剣な顔になる。


ミル

「ではドキワク節約です!」


ノワ

「絶対分かってないわね……」


ルナ

「普通に生活する分には問題ないわ」


「猫神様もそのつもりで渡してるから」


ミル

「つまりいっぱい食べても大丈夫です!」


ノワ

「何でそうなるのよ」


ナナ

「ふふっ」


朝のキッチンに、

小さな笑い声が広がった。


――


玄関。


出掛ける準備を終えたミル達は、

慣れた様子で集まっていた。


玄関横には、

猫用の小さな扉もある。


ミルはちらちらと、

そちらを見ている。


ミル

「今日はどっちから行きます?」


ノワ

「なんでアンタ毎回そこ通りたがるのよ」


ナナ

「普通に玄関から行くよ」


ナナが、

玄関扉へ手を掛ける。


がちゃり。


扉が開く。


次の瞬間。


向こう側には、

昼の住宅街が広がっていた。


車の音。


少し暖かな風。


昼時の匂い。


異世界とは違う、

現界の空気。


ミルの耳が、

ぴくりと動く。


しっぽも、

嬉しそうに揺れていた。


ノワ

「アンタもう慣れてるでしょ」


ミル

「でも毎回ちょっとドキワクします!」


今では、

ナナの家を拠点に。


異世界と現界を行き来する生活も、

当たり前になっている。


それでも。


扉を抜けた瞬間だけは、

少し空気が切り替わる様な。


不思議な感覚が残っていた。


ルナは、

静かに外を見る。


住宅街の一角。


そこには確かに、

ナナの家が存在している。


だが。


通り過ぎる人達は、

誰一人としてこの家へ視線を向けない。


ナナ

「……不思議よね」


ミル

「?」


ナナは、

開いた扉を少し見つめる。


ナナ

「私の家って」


「何でこんな不思議な場所にあるのかしら」


少し静かな空気が流れる。


ルナが、

ほんの少しだけ視線を逸らした。


ナナ

「普通の家じゃないのは、

分かるんだけどね」


「でも、

何でこんな風になってるのか、

分からないのよね」


ノワも、

少しだけ家を振り返る。


ノワ

「……ルナって、

前からナナと知り合いだったのよね?」


ルナ

「そうね」


ノワ

「なら何か知ってるんじゃないの?」


ルナは、

静かに家を見つめる。


ルナ

「家の事は、

始めからこうなっていたわ」


短い返答。


それ以上は、

深く語らなかった。


ミルだけは、

元気よく頷いた。


ミル

「ドキワクハウスです!」


ノワ

「アンタは全部それで済ませるわね……」


そんなやり取りをしながら、

ミル達は住宅街を歩いていく。


見慣れた塀。


道端へ置かれた植木鉢。


遠くから聞こえる車の音。


現界での日常が、

ゆっくり周囲を流れていた。


――


スーパーの近くまで来た時。


ミルの視線が、

ふと前を歩く二人へ向いた。


小さな子供。


その隣を歩く女性。


子供は、

買ったばかりらしい小さなお菓子袋を、

嬉しそうに抱えている。


「見て見て!」


女性は、

少し困った様に笑った。


「帰るまで開けちゃ駄目よ?」


子供は、

むーっと頬を膨らませる。


ミル

「……」


ミルは、

その二人をじっと見つめていた。


ノワ

「……何見てるのよ」


ミル

「親子です」


ノワ

「そうね」


ミル

「……」


昨日。


何度も話した、

お母さんという言葉。


ミルは、

その親子を興味深そうに見つめている。


その時。


子供が、

足をもつれさせた。


小さく身体が傾く。


だが。


隣の女性は、

振り向くより早く自然に手を伸ばした。


子供の身体を支え、

転ばない様に抱き寄せる。


「危ないわよ」


怒る声ではない。


子供がちゃんと立てたのを確かめるように、

その手は背中へ添えられていた。


子供は、

何事も無かったみたいに笑っている。


女性も、

少し困った様に笑った。


ミル

「……」


その様子を。


ミルは、

じっと見つめていた。


何かを考える様に。


女性の手。


子供を見る表情。


転びそうになった瞬間、

迷わず伸びた腕。


一つずつ。


確かめる様に見ている。


ノワ

「ミル?」


ミル

「……ちょっと分かりました」


ノワ

「何が?」


ミルは、

親子を見つめたまま答える。


ミル

「昨日、

ノワが言ってた事です!」


ノワ

「私が?」


ミル

「はい!」


ミルは、

ノワを見る。


ミル

「ナナがお母さんっぽいって、

言ってましたよね?」


ノワ

「……ああ」


ノワも、

前を歩く親子へ視線を向けた。


ミル

「こういう事だったんですね」


ノワ

「……」


ミル

「ちゃんと見てて」


「危ない時は助けて」


「すごく大事そうにしてます」


ルナも、

ミルの言葉を聞きながら。


静かに親子へ目を向ける。


ナナは何も言わず、

ミルの続きを待っていた。


その時。


子供が、

女性の服をちょこんっと掴む。


「……早く帰ろ?」


女性は、

少し驚いた後。


優しく笑った。


「ふふっ、そうね」


そして。


自然に、

子供の手を握る。


そのまま。


二人は、

昼の日差しの中をゆっくりと歩いていった。


ミルは、

その後ろ姿を見つめる。


そして。


ちらっと、

ナナを見る。


ナナ

「?」


ミル

「……やっぱり似てます」


ナナ

「何が?」


ミル

「ナナと、

さっきのお母さんです!」


ナナ

「私と?」


ミル

「はい!」


ミルは、

嬉しそうに頷く。


ミル

「昨日は」


「お母さんって、

ナナみたいな感じなのかなって思いましたけど」


少し考えて。


ミル

「今ので」


「ノワが言ってた事も、

少し分かりました!」


ノワ

「……そう」


ミル

「はい!」


ノワは、

そんなミルを見て。


ほんの少しだけ、

口元を緩めた。


ナナ

「じゃあ」


ナナは、

少し照れくさそうに笑う。


ナナ

「私がお母さんっぽいって、

少し思った?」


ミル

「はい!」


迷いのない返事だった。


ミル

「ナナって、

やっぱりお母さんっぽいです!」


ナナ

「……ふふっ」


ナナは、

嬉しそうに笑った。


ルナ

「よかったわね」


ナナ

「うん」


ノワ

「随分嬉しそうね」


ナナ

「嬉しいものは嬉しいの」


ノワ

「そう」


ナナ

「そう」


二人のやり取りに。


ルナが、

小さく笑う。


ミルも、

つられる様に笑った。


ナナがお母さんなのか。


それは、

また別の話。


ナナは、ナナ。


それは昨日、

ミル自身が出した答えだった。


ただ。


ノワが言っていた、

ナナの中にあるお母さんらしさ。


その意味が。


昨日より、

ほんの少しだけ分かった。


ミルは、

スーパーの入口へ向き直る。


ミル

「では!」


「お買い物です!」


ノワ

「急に戻ったわね」


ミル

「今日はいっぱい買います!」


ノワ

「だから無駄遣いは駄目だって言ってるでしょ!」


ミル

「ドキワク節約です!」


ノワ

「まだそれ言うの!?」


ナナ

「ふふっ」


ルナも、

小さく笑う。


暖かな空気のまま。


四人は、

スーパーへ入っていった。


――


しばらく後。


買い物を終えたミル達は、

袋を抱えて店を出ていた。


ミル

「チーズいっぱいです!」


ノワ

「アンタまさか……」


ミル

「今日はピザです!」


ノワ

「いつの間に決定したのよ……」


魚クッションがふよふよと嬉しそうに揺れている。


ナナ

「ふふっ」


「じゃあ今日は、

ピザに挑戦してみようかしら」


ミル

「やりました!」


ミルは、

嬉しそうに笑う。


その横で。


ルナが、

ふと足を止めた。


頭の中へ、

穏やかな声が響く。


猫神様

『ルナ』


ルナ

『……猫神様?』


猫神様

『少し時間がある時で構わん』


『また皆で来てくれんか』


ルナ

『分かりました』


猫神様

『うむ』


声は、

静かに消えた。


ルナ

「……」


ミル

「ルナ?」


ミルが、

足を止めて振り返る。


ノワとナナも、

少し先で立ち止まった。


ルナ

「猫神様から」


ノワ

「何かあったの?」


ルナ

「また時間がある時に、

皆で来てほしいみたい」


ミル

「また猫神様の所行くんですね!」


ナナ

「今度は何かしらね」


ルナ

「そこまでは言ってなかったわ」


ノワ

「急ぎじゃないなら、

帰ってから予定を決めればいいんじゃない?」


ルナ

「そうね」


ミル

「では帰りましょう!」


ミルは、

買い物袋を抱え直す。


ミル

「今日はピザです!」


ノワ

「結局そこなのね……」


ナナ

「ふふっ」


再び。


四人は、

家への道を歩き始める。


暖かな昼の風が、

静かに吹いていた。


その中で。


ミルは、

先程見かけた親子を少しだけ思い出す。


昨日より。


ほんの少しだけ。


分かった事が増えた。


ミルは、

隣を歩くナナを見る。


ナナ

「?」


ミル

「えへへ」


ナナ

「どうしたの?」


ミル

「何でもないです!」


そう言って。


ミルは、

少しだけナナのそばへ寄った。


ナナは不思議そうにしながらも、

柔らかく笑う。


そして。


四人と一匹はそのまま、

並んで歩いていった。


――


第二章 第十九話 完

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