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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第二章〜ナナの家と愛情の形〜
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61/87

「役割より大事なもの」

第二章 第十八話


役割より大事なもの


――


ナナは、

ミルから向けられた視線に気付き。


少し不思議そうに、

首を傾げた。


先程までノワやルナと話していた時とは違い。


ミルは何も言わず、

じっとナナを見つめている。


その表情は、

何かを確かめる様でもあり。


頭の中で、

一つずつ何かを繋ぎ合わせている様でもあった。


ナナは急かす事なく、

そんなミルの言葉を待つ。


ナナ

「どうしたの?」


ミル

「……」


ミルは答えない。


ただ、

ナナの姿をじーっと見つめている。


ナナ

「ミル?」


ミル

「……ナナ」


ナナ

「うん」


ミル

「ご飯作ります」


ナナ

「……え?」


ミル

「お掃除もします」


ナナ

「う、うん」


ミル

「ミルが何かしてたら、

ちゃんと見てます」


ナナ

「……」


ミル

「危ない時は止めます」


「困った時は助けてくれます」


一つ。


また一つ。


ミルは、

思い浮かんだものを口にしていく。


ミル

「それに」


少し考えて。


ミル

「失敗しても」


「またやってみたらいいって、

言ってくれます」


ナナ

「……」


そばにいたルナは、

静かに二人を見つめていた。


ノワも何も言わない。


ミルが何を考えているのか。


何となく、

分かり始めていた。


ミル

「一緒にご飯食べて」


「一緒に遊んで」


「いっぱいお話して」


そして、

ミルはもう一度ナナを見る。


ミル

「いつも一緒にいてくれます」


ナナ

「……うん」


ミル

「さっきノワが」


「ナナはお母さんみたいって、

言ってました」


ノワ

「……ええ」


ミル

「だから」


少しだけ間を置く。


ミル

「お母さんって」


「ナナみたいな感じなんですね」


ナナ

「……」


その言葉に、

ナナは一瞬何も返せなかった。


ルナも少し驚いた様に、

ミルを見つめる。


そして、

どこか納得した様に小さく笑った。


ルナ

「……そう感じたのね」


ミル

「はい」


ミルの声には、

寂しさも悲しさも無かった。


ただ、

今まで自分にはよく分からなかったものを。


自分の知っている、

大切な誰かに重ねて。


少しだけ分かった。


そんな、

どこか嬉しそうな声だった。


ナナ

「……そっか」


ナナは、

柔らかく笑う。


その目は、

優しく細められていた。


ナナ

「じゃあ」


ミル

「?」


ナナは、

ミルの前まで歩いていく。


そして、

少しだけ屈んでミルと目線を合わせた。


ナナ

「私がミルのママになってあげようか?」


ミル

「……ママ?」


ナナ

「そう」


ノワ

「随分すんなり名乗り出たわね」


ナナ

「だって、

さっきママがいいって言ったじゃない」


ルナ

「まだ言ってたのね……」


ナナ

「大事なところよ」


ルナ

「そう……」


ルナは、

少し呆れた様に笑った。


ナナは、

改めてミルへ向き直る。


ナナ

「ご飯も作るし」


「困った時は助けるし」


「やってみたい事があったら、

一緒にやってみる」


そして、

少しだけ声を柔らかくする。


ナナ

「失敗した時だって、

ちゃんとそばにいるわ」


ミル

「……」


ナナ

「どう?」


少しだけ、

冗談っぽい声だった。


けれど、

そこに込められた気持ちは冗談ではなかった。


ナナは、

母親を知らないミルを可哀想だと思ったわけではない。


足りない何かを、

自分が埋めてあげなければと思ったわけでもない。


ただ、

これからも。


ミルが笑っている時は、

一緒に笑いたい。


何かに挑戦するなら、

そばで見ていたい。


失敗したなら、

また立ち上がるところまで一緒にいたい。


それだけだった。


ミル

「……」


ミルは、

目の前のナナをじっと見つめる。


そして、

少し考えた。


ミル

「……うーん」


ナナ

「えっ」


ノワ

「悩むの?」


ミル

「難しいです」


ナナ

「ダメだったかな?」


ミル

「大事な事です!」


ナナ

「そ、そうね」


ミルは腕を組み。


むむむ。


と考える。


ナナはその答えをほんの少し、

緊張気味に待った。


ノワもルナも、

口を挟まずミルを見守っている。


その近くでは、

魚クッションもふわふわと浮かびながら。


どこか一緒になって、

答えを待っている様だった。


やがて。


ミル

「……でも」


ナナ

「?」


ミルは、

顔を上げる。


ミル

「ナナは」


「ナナです」


ナナ

「……え?」


ミル

「ママじゃなくても」


「ナナはナナです」


ナナ

「……」


ミル

「ご飯作ってくれて」


「一緒に遊んで」


「ミルの事、

いっぱい見てくれて」


少しだけ、

ミルの表情が柔らかくなる。


ミル

「それで」


「ミルの大事なナナです」


ナナ

「……」


部屋が、

ほんの一瞬静かになった。


ナナは、

何も言わずミルを見つめている。


ミル

「だから」


ミルは、

ナナを見つめる。


ミル

「ナナでいいです!」


ナナ

「……」


その言葉を聞いて、

ナナはゆっくり笑った。


ナナ

「……そっか」


一瞬の間。


ミル

「……」


ミルが、

大きく首を横に振りながら、


ミル

「違いますっ!」


ナナ

「……えっ?」


ナナが、

少し驚いた様にミルを見る。


ミルは、

もう一度真っ直ぐナナを見つめた。


そして。


今度は、

迷わず笑った。


ミル

「ミルは、

ナナがいいんです!」


ナナ

「……っ!」


一瞬。


ナナの目が、

大きくなる。


言葉が、

出てこなかった。


たった一文字。


それだけなのに。


その言葉に込められた意味は、

まるで違っていた。


ナナでいい。


そうじゃない。


ミルが言いたかったのは。


ナナがいい。


誰かの代わりでも。


何かの役目でもなく。


目の前にいる、

ナナだから。


ミルにとって、

大切なのだ。


ナナ

「……もう」


ナナは、

困った様に笑った。


けれど、

その表情はどこか嬉しそうだった。


ナナは、

ミルの頭へそっと手を伸ばす。


優しく、

ゆっくりと撫でる。


ナナ

「そんな事言われたら」


「ママより嬉しいじゃない」


ミル

「そうなんです?」


ナナ

「そうなの」


ミル

「えへへ」


ナナ

「ふふっ」


二人は、

顔を見合わせて笑う。


その様子を見ながら、

ノワもほんの少しだけ笑っていた。


ルナも二人を見つめながら、

静かに口元を緩める。


ルナ

「……よかったわね、ナナ」


ナナ

「うん」


ナナは、

ミルの頭を撫でたまま嬉しそうに頷いた。


家族。


お母さん。


ママ。


大切な人。


誰かと誰かの間には、

いろんな呼び方がある。


けれど、

名前を付けなければ大切に出来ないわけではない。


何と呼ぶのかより。


誰と一緒にいたいのか。


誰と笑いたいのか。


誰の事を、

大切にしたいのか。


ミルにとっては、

そちらの方がずっと大切だった。


その時。


すいーっ。


魚クッションが、

ミルとナナの間へ入ってきた。


ミル

「……?」


ナナ

「どうしたの?」


魚クッションは、

二人の前で止まると。


ふわふわ。


ゆらゆら。


まるで、

自分の事も忘れるなと主張している様だった。


ミル

「……」


ミルは、

魚クッションを見つめる。


そして、

ぱっと笑った。


ミル

「もちろんです!」


魚クッションへ、

そっと手を伸ばす。


ミル

「あなたも大事です!」


魚クッションが。


ぽよんっ。


嬉しそうに跳ねた。


ノワ

「……クッションまで家族なのね」


ミル

「当たり前です!」


ノワ

「即答なのね」


ミル

「はい!」


ナナ

「ふふっ」


ルナ

「ミルらしいわね」


ミル

「そうです?」


ルナ

「ええ」


ルナは、

穏やかに笑った。


ルナ

「とても」


ミル

「えへへ」


穏やかな笑い声が、

リビングへ広がっていく。


ミルには、

お母さんがどんなものなのか。


まだ全部は、

分からない。


きっと、

これから知る事もたくさんある。


それでも。


今、

一つだけはっきり分かる事があった。


目の前にいるナナが、

ミルにとってとても大切な存在だという事。


お母さんでも。


ママでもなく。


ナナ。


誰かの代わりだからではない。


何かの役割があるからでもない。


ナナだから。


大切だった。


ミル

「ナナ!」


ナナ

「なに?」


ミル

「これからも、

よろしくお願いします!」


ナナ

「……ふふっ」


ナナは、

ミルの頭へ置いた手をもう一度優しく動かした。


ナナ

「こちらこそ」


「よろしくね、ミル」


ミル

「はい!」


その返事は、

いつものミルらしく。


明るく。


真っ直ぐに。


リビングへ響いた。


そして。


その声は、

閉じられた扉の向こうにも静かに届いていた。


廊下。


リビングの扉のそばに、

猫神様が静かに立っていた。


中へ入るでもなく。


声を掛けるでもなく。


ただ、

扉越しに聞こえてくる四人の声に耳を傾けていた。


猫神様

「……」


リビングから、

楽しそうな笑い声が聞こえる。


猫神様は、

その声を聞きながら優しく目を細めた。


その表情には、

穏やかな笑みが浮かんでいた。


やがて。


猫神様は何も言わず、

静かにその場を離れていく。


その背中の向こうで。


四人と一匹の笑い声は、

いつまでも暖かな社の中へ響いていた。


――


第二章 第十八話 完

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