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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第二章〜ナナの家と愛情の形〜
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56/86

「観測者」

第二章 第十三話


観測者


――


異世界。


夜。


四人は街を走っていた。


静まり返った道へ、

四人の足音が激しく響く。


ミル

「はぁっ……はぁっ……!」


ノワ

「急ぐわよ!」


ミル

「はいっ!」


背後。


あの巨大な歪み猫は、

追って来ない。


ミル

「……っ」


走りながら、

ミルは一度だけ後ろを振り返る。


暗い街。


静かな路地。


何も居ない。


そのまま走り続けるうちに、

武器の光が少しずつ弱まっていく。


ルナの毛糸の光が、

ゆっくりと収まっていく。


ノワのレーザーポインターの光も、

次第に弱まっていく。


そして静かに消えた。


ナナ

「反応は?」


ルナ

「……消えたわ」


ノワ

「なら……撒けたのね?」


ルナ

「分からない」


静かな返事。


それでも、

ひとまず反応は消えた。


四人はようやく足を緩める。


ミル

「はぁ……はぁ……」


ミルは膝へ手をつき、

大きく息を吐く。


ノワも呼吸を整えながら、

額の汗を拭った。


ナナも小さく息を吐く。


その横で、

魚クッションがふわりと浮かんでいた。


ルナも一度息を整えると、

静かに後ろを振り返る。


暗闇。


何も見えない。


ノワ

「……何か嫌な感じね」


ナナ

「ええ」


追われている訳じゃない。


襲われている訳でもない。


なのに。


嫌な空気だけが、

ずっと残っていた。


ルナ

「急ぎましょう」


ノワ

「……ええ」


四人は再び走り出す。


静かな異世界の夜へ、

足音だけが響いていった。


――


猫神様の領域。


四人は、

ようやく足を止めていた。


ミル

「……はぁ……」


ミルはその場に座り込む。


ノワも壁へ背中を預け、

小さく息を吐いた。


ノワ

「疲れた……」


ナナ

「流石に普通じゃなかったわね」


魚クッションも、

ナナに呼応する様にぐったりと浮かんでいる。


だが。


ルナだけは、

ずっと考え込んでいた。


毛糸を見つめたまま、

黙っている。


ミル

「……ルナ?」


ルナ

「……」


返事が遅い。


その時。


猫神様

「戻ったかの」


静かな声。


猫神様が、

ゆっくりと姿を見せる。


だが。


いつもの軽い雰囲気は薄かった。


猫神様

「……随分厄介そうじゃの」


ルナ

「あれは普通の歪み猫じゃありませんでした」


即答だった。


猫神様の表情が、

少し変わる。


ルナ

「歪み猫の範疇を超えています」


「こちらの浄化が効いてる感じがしません」


「それに……」


ルナは少し黙る。


思い出す様に、

静かに目を伏せた。


ルナ

「歪み猫の中に迷い猫が居ました」


空気が止まる。


猫神様

「……何じゃと?」


ミル

「家ぐらい大きな身体でした!」


ノワ

「何匹も閉じ込められてるみたいだったわ」


ナナ

「前の時とは全然違ったね」


静かな空気。


猫神様も黙り込む。


ルナ

「……あれは普通じゃありません」


小さな声。


重い言葉だった。


ミルは猫じゃらしを見つめる。


そして猫神様に視線を移す。


ミル

「……どうしたら助けられますか」


静かな声だった。


助けたい。


でも、

ただ浄化すれば良い訳じゃない。


ミルもそれを理解していた。


猫神様

「……うむ」


猫神様は少し考えるように頷いた。


ルナ

「……」


ルナも静かに猫神様を見ていた。


その時。


猫神様の表情が、

わずかに険しくなる。


何かを思い出した様に、

静かに目を細める。


そして。


猫神様

「……ついて参れ」


それ以上は何も言わず、

歩き出す。


ミル達は顔を見合わせる。


そして、

猫神様の後を追った。


――


静かな廊下を歩く。


重い空気のまま、

誰もあまり喋らない。


その先。


掛け軸の置かれた部屋へ辿り着く。


猫神様

「ソラよ……入るぞ」


障子が開かれる。


部屋に入って右手側。


静かに掛けられた掛け軸。


その中で。


ソラがこちらを見ていた。


猫神様

「さて…」


猫神様はゆっくりと掛け軸の方へ歩く。


ソラ

「にゃ?にゃ?(猫神様?……何かあったんですか?)」


耳がぴくっと動く。


少し遅れてミル達が部屋に入って来る。


その後ろを少し遅れて、

魚クッションが宙を泳ぐ様に入って来た。


ミル

「ソっ!」


ソラに駆け寄ろうとしたミルを後からノワが静かに静止する。


ノワはミルへ静かにする様に人差し指を口元で構える。


ノワ

「ちょっとだけ待ちなさい」


「何かあるのかも」


ミル

「はい!」


元気なミルの声。


ミルはすぐに自分で気が付いて先のノワと同じポーズを取る。


ミル(小声)

「しーです!」


ノワ(小声)

「あんたよッ!」


ナナ

「ふふ」


ソラがその様子を見ていると、

ミルがソラに気が付いて小さく手を振った。


ソラの尻尾が優しく揺れる。


猫神様

「少し聞きたい事があっての」


猫神様は、

掛け軸の前へ座る。


ソラも静かに座り直した。


猫神様

「さっきミル達が、

例の歪み猫と遭遇しての」


ソラ

「にゃっ……?(ミル姉様達が……?)」


ソラの耳が、

不安そうに動く。


猫神様

「心配せんでもよい」


「皆、無事じゃ」


ソラ

「……にゃぁ(……良かったです)」


そのやり取りを、

ミルは不思議そうに見ていた。


ノワも、

猫神様とソラを交互に見る。


ナナも少し首を傾げている。


ルナだけは、

何も気にする様子がない。


猫神様

「それでじゃ」


「少しお主に確認したい事がある」


ソラ

「にゃ?(なんでしょうか?)」


猫神様

「うむ」


ミル

「……?」


ミルの耳が、

ぴくっと動く。


少しの静寂。


最初に口を開いたのは、

ノワだった。


ノワ

「……ちょっと待って!」


猫神様

「なんじゃ?」


ノワは、

掛け軸の中のソラを見る。


そして、

猫神様を見る。


ノワ

「今……ソラと会話してるの?」


猫神様

「しておるぞ?」


ノワ

「やっぱり!?」


ナナ

「えっ?」


ナナも驚いた様に、

猫神様を見る。


ナナ

「ソラの言葉が分かるんですか?」


猫神様

「ワシは猫神じゃぞ?」


「猫の言葉くらい分かるわい」


ミル

「えええっ!?」


ミルが勢いよく、

猫神様へ詰め寄る。


ミル

「猫神様!」


「ソラとお話できるんですか!?」


猫神様

「今そう言ったじゃろ」


ミル

「ずるいです!」


猫神様

「ずるい?」


ミルは、

すぐに掛け軸へ向き直る。


ミル

「ソラ!」


ソラ

「にゃ?(ミル姉様?)」


ミル

「今なんて言ったんですか!?」


ソラ

「にゃ、にゃぁ……っ(おっ……落ち着いて下さい)」


ミル

「ハッ!」


「猫神様!」


「今のは!?」


猫神様

「落ち着いて下さいと言っておる」


ミル

「ソラとお話できてます!」


ノワ

「猫神様を挟んでるけどね」


ナナは驚きながらも、

くすっと笑う。


ナナ

「そんな事もできたんですね」


ミル

「羨ましいです……!」


ミルは掛け軸の前で、

心底羨ましそうに猫神様を見る。


ソラ

「にゃぁ……(私もお話出来たら良いのですが……)」


猫神様

「ソラもお主達と話せたら良いと言っておるぞ」


ミル

「ソラ〜!」


ソラ

「にゃっ!?」


ミルは嬉しそうに、

掛け軸へ顔を擦り寄せる。


ノワ

「近い近い」


少しだけ、

空気が和らぐ。


その時。


ノワはふと、

隣にいるルナを見る。


ルナだけは、

最初から全く驚いていなかった。


ノワ

「……ルナ」


ルナ

「何?」


ノワ

「あんた知ってたわね?」


ルナ

「ええ」


ノワ

「先に教えなさいよ!」


ルナ

「聞かれなかったから」


ノワ

「そういう問題!?」


ミル

「ルナもずるいです!」


ルナ

「私?」


「私も鳴き声にしか聞こえてないわよ?」


ミル

「それなら仕方ないですね」


ノワ

「ミルらしいわね」


ナナ

「ふふっ」


猫神様も、

小さく笑う。


猫神様

「ほっほっほ」


ほんの少しだけ和らいだ空気。


だが。


猫神様は、

改めてソラへ向き直る。


その表情が、

静かに真剣なものへ戻った。


猫神様

「さて」


「本題じゃ」


「わしが前にソラへ聞いておった話じゃ」


「今回現れた歪み猫は」


「妙に考えて動いている感じがすると」


ソラの耳が、

ぴくっと揺れる。


だが。


その後ろで。


ミルが、

すっと猫じゃらしを取り出した。


ノワ

「ちょっと」


ミル

「ソラ〜」


ふりふり。


ソラの耳が、

ぴくっと動く。


尻尾がゆらりと揺れる。


ソラ

「にゃっ……!(……っ!)」


前足が、

ぴこっと動く。


猫神様

「聞いとるかの?」


ソラ

「にゃ、にゃぅ……っ(き、聞いてます……っ)」


だが。


猫じゃらしが揺れる度、

前足がちょいちょいと出る。


ミル

「反応してます!」


ノワ

「当たり前でしょ!」


さらにふりふり。


ソラ

「みゃっ……!(ミル姉様っ……!)」


今度は完全にじゃれ始める。


前足ぱたぱた。


尻尾ぶわっ。


ソラ

「にゃぅぅ〜っ(ミル姉様今はちょっと……っ)」


ミル

「ソラかわいいです!」


ノワ

「完全に遊んでるわね……」


ナナ

「ふふ」


少しだけ、

空気が和らぐ。


だが。


猫神様の表情は、

真剣なままだった。


猫神様

「誘導する様に動いたり」


「囲う様に動いたり」


「逃げ道を塞ぐ様な動きをするそうなんじゃ」


ソラ

「にゃぅ……(前にも話した通り考え難いです)」


前足ぱしっ。


ソラ

「にゃぁ……(あれ程の負の感情を押し退けて考えて行動するとは思えません)」


猫神様

「やはりそうか」


猫神様の反応を見て、

ノワの表情が変わる。


ルナも静かに目を細めた。


ソラ

「……みゃぅ(……あと)」


今度は、

少し動きが止まる。


ソラは小さく耳を伏せた。


静かな空気。


ミルも猫じゃらしを止める。


ソラの前足も、

尻尾も止まった。


ソラ

「……にゃ(……一回だけ)」


猫神様の表情が変わる。


ソラ

「にゃぁ……(目の前に現れたんです)」


空気が静まる。


ソラ

「にゃぅ……(姿はよく見えなかったんですが……)」


「みゃぁ……(ミル姉様達と似た感じの……)」


「にゃ……(黒いフードを被っている人……)」


「にゃぅ……(歪みの中から出てきて……)」


「にゃぁ……(ずっと私を見てたんです……)」


掛け軸の中で、

ソラの耳が小さく伏せられる。


ソラ

「みゃぅ……(凄く怖かった……)」


静かな声。


ミルは、

猫じゃらしを握ったままソラを見つめる。


ノワとナナには、

ソラの鳴き声しか聞こえていない。


だが。


猫神様の表情が、

明らかに変わっていた。


猫神様

「……黒いフードを被った存在を見たそうじゃ」


その瞬間。


ノワの表情が変わった。


ノワ

「……待って」


空気が止まる。


ノワ

「黒いフードって……」


ノワは少し考える。


記憶を辿る様に、

ゆっくりと目を伏せた。


ノワ

「私も一回だけ見た」


ミル

「えっ!?」


ノワ

「ほんの一瞬よ」


「路地の奥に居た」


「でも次の瞬間には消えてた」


静かな空気。


ルナの目が細くなる。


猫神様も黙ったまま、

静かに考え込んでいた。


ノワ

「その時は」


「見間違いかと思ってたけど……」


ノワはゆっくりと顔を上げる。


ノワ

「……本当に裏で誰か動いてそうね」


ルナ

「……やっぱり」


ルナは静かに、

毛糸を握る。


そして。


もう一度、

ソラへ視線を向けた。


掛け軸の中。


不安そうにこちらを見るソラ。


ルナ

「……仮に」


「檻猫と呼びましょう」


ミル

「檻猫?」


ルナ

「ええ」


「迷い猫を身体の中へ閉じ込めていたから」


ミル

「……檻猫」


ミルは小さく呟く。


ルナは静かに目を伏せる。


ルナ

「……あの檻猫だけじゃないと思う」


ノワ

「どういう事?」


ルナ

「ソラが見た黒いフード」


「ノワも同じ様な存在を見てる」


「それに」


ルナは、

先程の巨大な檻猫を思い返す。


誘導する様な動き。


逃げ道を塞ぎ、

こちらを閉じ込めようとした動き。


そして。


身体の中へ閉じ込められていた、

いくつもの迷い猫。


ルナ

「……あれが自然に生まれたものだとは思えない」


静かな声。


ルナ

「間違いなく」


「あの檻猫を動かしてる存在が居るわ」


空気が変わる。


ミル達も、

静まり返る。


掛け軸の中。


ソラも不安そうに、

耳を伏せていた。


猫神様は何も言わない。


ただ。


険しい表情で、

静かに目を細めていた。


誰かが見ている。


そして。


その何者かは、

ずっと前から動いていたのかもしれない。


静かな猫神様の社に、

重い沈黙が流れていた。


――


第二章 第十三話 完

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