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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第二章〜ナナの家と愛情の形〜
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55/86

「閉じ込める檻」

第二章 第十二話


閉じ込める檻


――


巨大な歪み猫が、

ゆっくりと前へ出る。


ずしん――


地面が揺れる。


ミル

「行きます!」


ミルは地面を蹴った。


猫じゃらしを強く握る。


穂先に、

ピンク色の光が宿る。


そのまま一直線に飛び込む。


ミル

「はぁっ!」


猫じゃらしが、

巨大な黒い身体へ叩き込まれる。


ぼこっ――


鈍い感触。


普通の歪み猫なら、

浄化の光が広がる。


だが。


今回は違った。


黒い身体が、

ゆっくりと揺れるだけ。


ミル

「……っ!?」


手応えがおかしい。


柔らかい。


なのに、

沈み込む様な重さがある。


ノワ

「ミル!」


ノワも地面を蹴る。


手にしたレーザーポインターから、

黄色い光が細い剣の様に伸びる。


ノワ

「邪魔よ!」


光剣を構え、

黒い身体へ鋭く突き込む。


だが。


刺さった感触が無い。


黒い歪みが、

ぐにゃりと揺れるだけだった。


ノワ

「なにこれ……!」


次の瞬間。


ぐにゃり――


突き込まれた場所が、

ゆっくりと元へ戻っていく。


ナナ

「戻ってる……!?」


ルナ

「普通じゃないわ!」


ナナの横で、

魚クッションが銀色の光を帯びる。


その時。


猫じゃらしも、

強い光を帯びていた。


近い。


反応が強い。


まるで、

迷い猫がすぐ目の前に居るみたいに。


ノワのレーザーポインター。


ルナの毛糸。


ナナの魚クッション。


どれも強く反応している。


歪み猫の黒い身体のお腹辺り。


いくつもの赤い光が、

歪み猫の大きな身体で揺らめく様に浮かび上がる。


ミル

「……っ」


ミルの表情が強張る。


ルナ

「……」


ルナは歪み猫を見つめる。


この距離なら、

強く反応するのは当然。


だが。


目の前にいるのは、

歪み猫だけ。


けれども迷い猫の姿は、

どこにも見えない。


巨大な歪み猫は、

静かなまま動かない。


そして。


ゆっくりと前足を持ち上げる。


ミル

「……っ」


嫌な予感。


次の瞬間。


どろり――


黒い歪みが歪み猫の前足から零れ落ち、

地面へ広がって行く。


ノワ

「下がって!」


四人は咄嗟に飛び退く。


だが。


ぐにゃり――


地面が歪む。


それに触れた部分そのものが捻じ曲がった。


ミル

「きゃっ!?」


足元が崩れる。


まるで空間ごと、

沈み込んでいく様な感覚。


ナナ

「ミル!」


魚クッションが、

銀色に強く光る。


ナナ

「お願いっ!」


次の瞬間。


空間を伝って瞬時に移動してきた魚クッションに、

ミルの身体が一瞬で後方へ引き戻された。


ミル

「わわっ!」


ぼこり――


さっきまでミルが居た場所を、

黒い歪みが包み込む。


ミル

「ありがとうございます!」


魚クッションが嬉しそうに揺れる。


ふと視線を戻すと地面が、

大きく抉れていた。


ミル

「……っ!」


ミルの頬を、

冷や汗が流れる。


今のをまともに受けていたら、

そのまま飲み込まれていた。


だが。


歪み猫は、

追撃して来ない。


ただ静かに、

四人を見ている。


ノワ

「……何なのよ」


ノワは光剣を構え直す。


だが、

違和感が消えない。


殺そうとして来ない。


まるで。


逃がさない様に、

動いている。


その時。


ぐにゃり――


今度は、

四人の周囲。


黒い歪みが、

ゆっくりと広がり始めた。


ナナ

「囲まれてる……?」


魚クッションが、

警戒する様に銀色の光を揺らす。


ルナ

「……違う」


ルナは、

周囲へ広がっていく歪みを見る。


そして、

巨大な歪み猫へ視線を戻す。


ルナの表情が、

少しずつ強張っていく。


ルナ

「これ……」


「閉じ込めようとしてる」


黒い歪みが、

ゆっくりと四人を囲んでいく。


逃げ道が、

少しずつ消えていく様だった。


ミル

「ノワ!……まずいですよ!」


ノワ

「分かってるわよ……!」


ノワは光剣を構えたまま、

周囲へ視線を走らせる。


近い。


武器の反応は、

どれも強いまま。


だが。


目の前に居るのは、

巨大な歪み猫一匹だけ。


それなのに。


未だに迷い猫の姿は、

どこにも見えない。


ルナ

「……」


ルナは歪み猫を見つめる。


その時。


黒い身体の奥。


いくつもの赤いな光が、

再び揺らめいた。


そして。


その奥で。


猫の様な影が、

苦しそうに蠢いた。


ミル

「……っ!」


ミルの表情が強張る。


ノワ

「今……中に」


ナナ

「迷い猫……?」


静かな声。


ルナは、

歪み猫から視線を外さない。


強く反応する武器。


どこにも見当たらない迷い猫。


歪み猫の中で蠢く、

猫の様な影。


そして。


逃がさない様に、

四人を囲んでいく動き。


ルナ

「……そういう事」


小さな声。


ミル

「ルナ?」


ルナ

「この歪み猫……」


「迷い猫を閉じ込めてる」


空気が止まる。


ミル

「……閉じ込めてる?」


ルナ

「普通の歪み猫なら」


「魂は崩れて混ざる」


「でもこれは違う」


「中に残したまま……」


ルナの表情が、

さらに険しくなる。


ルナ

「身体の中に閉じ込めてる」


ミル

「助けないと……!」


ミルは猫じゃらしを握る。


穂先に、

再びピンク色の光が宿る。


だが。


ルナ

「駄目」


即座に止める。


ミル

「でも!」


ルナ

「今は無理」


ルナは歪み猫を睨む。


ルナ

「まだ何も分かってない」


「この状態で無理に浄化したら」


「閉じ込められてる迷い猫に、

どんな影響が出るか分からない」


ミル

「……っ」


ミルは悔しそうに歯を食いしばる。


ノワ

「つまり」


「今は迂闊に手を出せないって事ね」


ルナ

「……ええ」


静かな肯定。


その時。


ぐにゃり――


四人の周囲を囲む歪みが、

さらに狭まった。


ナナ

「来るわ!」


魚クッションが、

警戒する様に銀色の光を強める。


巨大な歪み猫が、

再び前足を持ち上げる。


ミル

「……っ!」


ルナ

「撤退する!」


ミル

「えっ!?」


ルナ

「今は情報が足りないっ!」


強い声だった。


ミルは一瞬、

歪み猫の中で蠢く猫の影へ視線を向ける。


苦しそうに蠢く、

猫の影。


猫じゃらしを握る手に、

力が入る。


助けたい。


今すぐにでも、

助けに行きたい。


だが。


『この状態で無理に浄化したら』


『閉じ込められてる迷い猫に、

どんな影響が出るか分からない』


さっきのルナの言葉が、

頭をよぎる。


ミルは悔しそうに、

歯を食いしばる。


そして。


ミル

「……分かりました!」


ルナ

「行くわよ!」


次の瞬間。


どろり――


黒い歪みが、

一気に四人へ迫る。


ミル

「っ!」


四人は一斉に地面を蹴る。


魚クッションも、

ナナの横を素早く飛ぶ。


その直後。


ドゴォッ――!!


黒い歪みが、

さっきまで四人が居た場所を飲み込んだ。


地面が崩れる。


建物の壁まで、

歪みに呑まれて消えていく。


ミル

「なっ……!?」


ノワ

「冗談でしょ……!」


ルナ

「走って!」


四人は、

夜の街を駆け出す。


魚クッションも、

ナナの横を飛びながら後を追う。


背後。


巨大な歪み猫は、

追って来ない。


ただ静かに。


遠ざかっていく四人を、

その場から見つめていた。


黒い身体の奥。


いくつもの赤い光が、

ゆっくりと揺れる。


そして。


そのさらに奥で。


閉じ込められた猫の影が、

苦しそうに蠢いていた。


――


第二章 第十二話 完

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