「異常個体」
第二章 第十一話
異常個体
――
異世界。
夜。
四人は静かな街を、
歩いていた。
それぞれの武器は、
時折淡い光を帯びている。
だが。
姿は見えない。
ミル
「……居ますよね?」
ルナ
「反応はある」
静かな返事。
ノワは周囲を警戒していた。
建物の隙間や、
暗い路地へ視線を向ける。
ノワ
「こんなに反応してるのに」
「全然見つからないんだけど……」
ナナ
「迷い猫も全然居ないわねぇ」
魚クッションが、
不安そうにナナの近くを漂っている。
ミル
「前はもっと居ましたよね」
ルナ
「……そうね」
小さな声。
ミル達も少し黙る。
静かな夜。
遠くで風が吹く。
だが、
その静けさが逆に不気味だった。
ミル
「……」
ミルは猫じゃらしを握る。
嫌な感じだけが、
ずっと消えない。
その時。
ルナの毛糸が、
一瞬だけ強く光った。
ルナ
「……っ」
続けて、
ノワのレーザーポインターも光を強める。
ミル
「近い……!」
四人が身構える。
だが。
何も現れない。
静寂。
ノワ
「……何?」
近い。
反応は明らかに強い。
なのに、
姿だけが見えない。
ノワは小さく眉を寄せる。
そして、
周囲を見回しながら小さく呟いた。
ノワ
「……何かおかしくない?」
――
静かな夜道。
四人は警戒したまま、
ゆっくりと進んでいた。
武器の反応は消えない。
むしろ、
少しずつ強くなっている。
だが。
姿だけが見えなかった。
ミル
「……変です」
ノワ
「ええ」
ノワはレーザーポインターを握る。
嫌な汗が、
じわりと滲む。
ルナ
「止まって」
四人の足が止まる。
静寂。
その時。
ミルの猫じゃらしの穂先が、
一瞬だけ強く光った。
ミル
「っ!」
全員が振り返る。
だが。
何も居ない。
ノワ
「……また?」
ナナ
「反応だけ……」
魚クッションが、
落ち着かない様にナナの周りを揺れている。
静かな空気。
その時。
ぞわっ――
ミル
「……!」
背筋が冷える。
視線。
誰かに見られている様な感覚。
ノワも小さく眉を寄せる。
ノワ
「……何なのよ」
今度は反対側。
ノワのレーザーポインターが、
淡く光を強める。
ルナの毛糸も、
小さく揺れながら光を帯びる。
ナナ
「また……?」
ミル達は周囲を見回す。
だが。
やはり何も居ない。
静かな夜。
遠くの闇だけが、
じっとこちらを見ている様だった。
ルナの表情が、
少しだけ強張る。
そして。
ルナ
「……見られてるわ」
「下がって」
静かな声。
四人は背中を合わせる様に、
周囲を警戒する。
空気が重い。
静かすぎる。
その時。
ぐにゃり――
遠くの空間が歪んだ。
ミル
「……!」
歪みは、
ゆっくりと広がっていく。
まるで空間そのものが、
溶けている様だった。
その時レーザーポインターが、
強く光る。
ノワ
「来る……!」
同時に。
ミルの猫じゃらし。
ルナの毛糸。
ナナの魚クッション。
全てが、
強い光を帯びる。
次の瞬間。
ずしん――
重い音。
歪みの中から、
巨大な何かが現れた。
ミル達の前へ、
ゆっくりと姿を見せる。
六トントラック程はある、
巨大な黒い塊。
四足。
だが。
猫には見え切らない。
輪郭は崩れ続け、
身体の端から黒い歪みが零れ落ちている。
まるで、
無理矢理猫の形を保っている様だった。
ミル
「……っ」
ミルは思わず息を呑む。
見上げる程大きい。
路地を塞ぐ様に現れたその異形は、
ただ存在しているだけで異様な圧迫感を放っていた。
ナナ
「これが……」
光る魚クッションが、
ナナを守る様に前へ出る。
その時。
黒い身体の奥。
赤い光が揺れた。
一つではない。
何重にも。
ノワ
「……っ」
ノワの表情が強張る。
レーザーポインターは、
依然として光を放っている。
ミル
「反応が……!」
ルナも目を細める。
毛糸が、
不安定に光を揺らしていた。
一匹。
目の前に居るのは、
一匹だけ。
なのに。
武器の反応だけが異常だった。
まるで、
大量の迷い猫に囲まれているみたいに。
その時。
黒い身体の内側で、
何かが蠢いた。
赤い目。
猫の様な影。
それが浮かんでは、
すぐ歪みの中へ沈んでいく。
ミル
「……中に」
ミルの声が、
僅かに震える。
あの夜。
歪みの中へ引きずり込まれた迷い猫。
その姿が、
一瞬だけ頭をよぎる。
歪み猫は動かない。
ただ静かに、
ミル達を見ていた。
歪み猫の身体の奥。
いくつもの赤い光が、
ゆっくりと揺れる。
誰も動けない。
静かな睨み合い。
次の瞬間。
巨大な歪み猫が、
一歩踏み出した。
ずしん――
地面が揺れる。
ミル
「……来ます!」
四人が一斉に身構える。
歪み猫の赤い目が、
静かに細められた。
――
第二章 第十一話 完




