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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第二章〜ナナの家と愛情の形〜
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「閉じ込められた魂」

第二章 第八話


閉じ込められた魂


――


異世界。


夜。


静かな帰り道。


ミル達は、

ほとんど喋らないまま歩いていた。


空気が重い。


さっき見た光景が、

まだ頭から離れなかった。


迷い猫。


無数の影。


そして、

歪みの中へ引きずり込まれる姿。


ミルは猫じゃらしを握る。


その手には、

まだ少し力が入っていた。


ノワ

「……」


ノワも周囲を警戒している。


レーザーポインターは、

まだ手放していなかった。


ナナは、

不安そうに魚クッションを抱えている。


魚クッションも落ち着かないのか、

小さくふよふよと揺れていた。


先頭を歩くルナだけが、

静かに前を見ている。


やがて。


石段が見えた。


その先。


静かな猫神様の社。


猫神様は、

まるで待っていたかのように立っていた。


猫神様

「……戻ったか」


ルナ

「はい」


短いやり取り。


だが、

ルナの表情を見た瞬間、

猫神様の目が少しだけ細くなる。


猫神様

「……何かあったかの」


ミル達は顔を見合わせる。


誰もすぐには答えなかった。


あの光景を、

どう言葉にすればいいのか分からない。


ミル

「……迷い猫が」


「連れて行かれちゃいました」


静かな声だった。


猫神様

「……何?」


空気が変わる。


ルナ

「詳しくは中でお話します」


猫神様は、

しばらく黙っていた。


やがて、

ゆっくりと頷く。


猫神様

「……来るのじゃ」


ミル達は、

社の中へ入っていった。


――


掛け軸の部屋。


小さな灯りが、

静かに揺れている。


掛け軸の向こうでは、

ソラがこちらを見ていた。


ミル達が部屋へ入ってくると、

ソラの耳がぴくっと動く。


ソラ

「ニャッ!」


ミル

「ソラ!」


ミルは嬉しそうに掛け軸へ近付く。


ミル

「まだ起きてたんですね!」


ソラ

「ニャー!」


ミル

「ただいまです!」


ノワ

「ここ私達の家じゃないでしょ」


ミル

「でも戻ってきました!」


ノワ

「ほぼ家みたいになってきたわね」


ナナは小さく笑う。


ナナ

「ふふっ」


魚クッションも、

ソラへ挨拶するように小さく上下へ揺れる。


ソラ

「ニャッ」


ルナも掛け軸へ目を向ける。


ルナ

「ただいま、ソラ」


ソラ

「ニャー」


猫神様は、

そんな様子を静かに見守っていた。


やがて、

ルナの表情が真剣なものへ戻る。


ルナ

「……猫神様」


猫神様

「うむ」


ミル達も、

猫神様の前へ座る。


魚クッションは、

ナナの傍で静かに浮かんでいた。


掛け軸の向こうでは、

ソラもこちらを見ている。


空気が少しずつ変わる。


やがて、

ルナが口を開く。


ルナ

「猫神様」


「歪み猫を確認致しました」


猫神様

「……」


掛け軸の向こうで、

ソラの耳がぴくっと動く。


ルナ

「ですが」


「普通の歪み猫とは違いました」


ノワ

「……あれ、“捕食”って感じじゃなかったのよ」


ノワは少し嫌そうに眉を寄せる。


ノワ

「もっとこう……」


「閉じ込めてる感じ」


ナナ

「閉じ込める……?」


ミル

「いっぱい影が伸びてました」


「逃がさないみたいに……」


猫神様は静かに目を閉じる。


部屋の空気が、

さらに重くなった。


ノワ

「しかも」


「武器の反応が異常だった」


「歪みは一つだったのに」


「“気配”だけが多すぎる」


ナナは魚クッションをぎゅっと抱える。


魚クッションも、

不安そうに小さく揺れていた。


ミル

「でも!」


ミルは顔を上げる。


ミル

「まだ助けられます!」


ノワ

「ミル」


ミル

「だって」


「まだ居ました」


「消えてませんでした」


真っ直ぐな声。


迷いは無い。


さっき助けられなかった。


それでも、

ミルは諦めていなかった。


猫神様は、

静かにミルを見る。


そして、

ゆっくり杖へ手を置いた。


コツン――


小さな音。


猫神様

「……本来なら」


「歪み猫へ取り込まれた魂は」


「もっと崩れ、完全に取り込まれる」


静かな声。


部屋が静まり返る。


ルナ

「……」


その時。


ふと、

ミルのセリフが頭をよぎる。


『同じ生地なのに、具材で全然違う味になるんです!』


『色んな具材が生き生きしていて、一つの形になっているのはもはや芸術ですよノワ!』


ルナ(心)

「ピザは色んなものが一つに……」


ノワ

「ルナ?」


ルナ

「……待って」


空気が止まる。


ルナ

「……もしかして」


ルナはゆっくり顔を上げる。


ルナ

「魂が……砕けてない?」


猫神様の目が、

わずかに細くなる。


ノワ

「……え?」


ルナ

「普通の歪み猫なら」


「もっと混ざる」


「でも今回は違う」


「形を保ったまま閉じ込められてるなら武器が複数反応したことも説明が付く……」


猫神様

「……有り得るの」


静かな声。


部屋の空気が変わる。


ナナ

「じゃあ……」


「まだ助けられるって事?」


猫神様

「分からん」


即答だった。


猫神様

「じゃが」


「少なくとも、今までの歪み猫とは違う」


静かな空気が流れる。


ミル

「?」


ミルだけが、

まだ話についていけていない。


ミル

「……ドキワクです?」


ノワ

「違うわよ」


小さなツッコミだけが、

静かな部屋へ響いた。


――


静かな空気が流れる。


誰もすぐには喋らなかった。


猫神様も、

何かを考えるように目を閉じている。


掛け軸の向こうでは、

ソラも静かにこちらを見ていた。


ミルは猫じゃらしを握る。


その表情には、

まだ強い意志が残っていた。


ミル

「……助けます」


小さな声。


だが、

強い声だった。


ノワ

「ミル」


ミル

「次は見つけます」


「絶対」


迷いは無い。


さっきは間に合わなかった。


でも、

今度は違う。


そんな想いが、

その声には込められていた。


ナナは、

少しだけ心配そうにミルを見る。


ナナ

「……無理しちゃだめよ?」


ミル

「はい!」


元気よく返事をする。


だが、

猫じゃらしを握る手には、

しっかりと力が入っていた。


ルナは、

そんなミルを静かに見ている。


猫神様

「皆……今日は泊まっていくと良い」


「もう遅いからの」


ノワ

「……ええ」


ナナ

「ありがとうございます」


ミル

「ドキワクお泊まりです!」


さっきまでの真剣な表情から一転し、

ミルの顔がぱっと明るくなる。


ノワ

「切り替え早すぎでしょ……」


ミル達は立ち上がる。


静かな猫神様の社。


外からは、

夜の風の音だけが聞こえていた。


ミル

「猫神様!」


「ありがとうございます!」


猫神様

「うむ」


ノワ

「……お邪魔します」


ナナ

「ありがとうございます」


魚クッションも、

ナナの隣で小さく上下へ揺れる。


ルナも小さく頭を下げる。


ルナ

「お世話になります」


ミルはふと、

掛け軸の向こうへ目を向ける。


ソラもこちらを見ていた。


ミル

「ソラ!」


「ちょっと待っててください!」


「後でそっちに行きますね!」


ソラ

「ニャッ!」


ミル

「行って来ます!」


ミルはそう言うと、

ぱたぱたと部屋を出ていく。


ノワ

「ちょっとミル!」


ノワも慌てて後を追う。


ナナ

「あらあら」


魚クッションは、

走っていく二人を見送るようにふわりと揺れた。


少しだけ、

空気が和らぐ。


その時。


猫神様

「……ルナ」


ルナ

「はい」


ルナが振り返る。


猫神様

「少し話がある」


一瞬だけ、

空気が止まる。


ルナの表情が、

わずかに真剣になる。


ルナ

「……分かりました」


ナナは猫神様とルナを見て、

静かに会釈する。


ナナ

「では、先に失礼するわね」


ルナ

「ええ」


ナナは魚クッションと共に、

静かに部屋を後にする。


部屋に残ったのは、

猫神様とルナ。


そして、

掛け軸の向こうにいるソラ。


ソラは二人の様子を、

静かに見つめていた。


猫神様の社の灯りが、

ゆっくりと揺れていた。


――


第二章 第八話 完

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