「ナナ」
第五話
ミル達は家の前に立つ。
静かな夜。
古い家だけが、
暗い街の中にぽつんと建っていた。
ルナはその家を見上げる。
そして、
どこか確かめるみたいに。
ミル
「ここです!」
ノワ
「本当に変な家ね」
ミル
「でも凄い家ですよ!」
ミル
「ご飯出ますし!」
ノワ
「最初にそこなのね……」
ルナは静かに家を見る。
ルナ
「……」
ミル
「ナナもいます!」
ルナ
「え?」
ミル
「さっき呟いてたので!」
ノワ
「寝言みたいな感じだったわね」
ルナ
「そ…そう」
ほんの少しだけ、
ルナの表情が揺れる。
ミルは気付かないまま、
玄関の扉へ手をかけた。
ミル
「行きます!」
勢いよく開けようとした瞬間――
ノワ
「待ちなさいミル!」
ノワは後ろからミルへ飛びつく。
そのまま羽交い締めにした。
ミル
「離してくださいノワ〜!」
ノワ
「起こしたらどうするの!」
ミル
「大丈夫です!」
ノワ
「大丈夫じゃない!」
ミルはジタバタともがく。
白いフードがぶんぶん揺れた。
ミル
「きっと大丈夫です!」
ノワ
「その自信どこから来るのよ!」
少し離れた場所で、
ルナは困ったような顔をしていた。
静かな少女だったが、
流石に反応に困っている。
ノワはため息をつく。
ノワ
「……私が開けるわ」
ノワはミルを離す。
ミル
「むぅ……」
ノワはゆっくり扉へ手をかけた。
今度は慎重に。
音を立てないよう、
そっと開ける。
家の中は静かだった。
暖かな空気。
ほのかに残る猫缶の匂い。
どこか安心する空間。
ルナは静かに周囲を見る。
ノワ
「さっきの部屋よ」
ミル
「まだ寝てますかね?」
ミルはパタパタと足音を立てながら階段へ向かう。
ノワ
「あっ」
止めるより早い。
ミルは勢いよく駆け上がっていった。
ミル
「ナナーー!」
ノワ
「だから静かにって言ってるでしょ!」
ノワも慌てて後を追う。
ルナは少し遅れて歩いた。
静かな足取り。
だが、
その視線はどこか真剣だった。
二階。
ナナの部屋。
ベッドの上。
横たわっていた少女の指が、
わずかに動く。
ミル
「……あ!」
ミルはベッドへ身を乗り出す。
ミル
「動きました!」
ノワ
「本当?」
ノワも覗き込む。
ルナは少し離れた場所から、
静かに見ていた。
ミルは顔をぐっと近づける。
ミル
「起きそうです!」
ノワ
「大声出さないの」
ミル
「すみません!」(小声)
ミルは小声で頷きながら、
もう一度そっと顔を近づける。
ミル
「でも本当に動きました!」(小声)
その瞬間――
少女のまぶたが、
ゆっくり開く。
ぼんやりした視界。
その目の前いっぱいに、
白い髪の少女の顔が映る。
ナナ
「……っ!」
ナナ
「近い……」
ミル
「すみません!」
ミルはびっくりして、
慌てて後ろへ下がる。
バランスを崩しながら、
そのままベッドへドタッと座り込んだ。
ノワ
「ほら言ったでしょ」
ミル
「だって起きたんですよ!」
ノワ
「だからって顔近すぎ」
ミル
「心配だったんですよぉ!」
ノワは小さくため息をつく。
だが、
少しだけ安心した顔でもあった。
ナナはゆっくりと体を起こす。
まだ少し力が入らないのか、
動きはゆっくりだった。
部屋を見回す。
知らない部屋。
知らない景色。
そして、
三人を見る。
ナナ
「あなた達は……?」
ミル
「ミルです!」
ノワ
「私はノワ」
ナナは少し考える。
まるで、
記憶を探すみたいに。
ナナ
「私は……」
小さな沈黙。
ナナ
「ナナ」
ナナ
「それしか……分からない」
カチッ
壁の時計がわずかに動く。
しかし、
すぐに止まった。
時計は10時35分。
静かな部屋に、
その止まった音だけが残る。
ミルはにこっと笑った。
ミル
「大丈夫です!」
ミル
「友達になりましょう!」
ナナは少し驚いた顔をする。
ノワ
「……いきなりね」
ミル
「でも一人だと寂しいです!」
ノワ
「まぁ……それはそうだけど」
ナナは小さく目を丸くしていた。
まるで、
そんな言葉を予想していなかったみたいに。
やがて、
少しだけ柔らかく笑う。
ナナ
「……ありがとう」
その視線が、
ルナへ向く。
ナナ
「あなたは?」
ルナは一瞬だけ黙る。
ルナ(心)
「……本当に」
ルナ(心)
「覚えてないのね」
ほんの少しだけ、
寂しそうな目。
だが、
すぐに表情が戻る。
ルナは小さく息をついた。
ルナ
「……ルナよ」
少しの沈黙。
ナナはゆっくりベッドから降りる。
裸足のまま床へ立つ。
少しふらつく。
ミル
「あっ、大丈夫ですか!?」
ナナ
「平気…ありがとう…」
ナナはゆっくり窓の方へ歩く。
カーテンへ手を伸ばす。
そっと開く。
外には、
暗い空。
静かな街。
どこまでも続く異世界。
ナナ
「……」
ナナは静かに振り返る。
不安そうな瞳。
ナナ
「ここはどこ?」
静かな空気が流れる。
窓の外では、
異世界の夜が静かに広がっていた。
第五話 完




