「ドキワクピザ作り」
第二章 第二話
ドキワクピザ作り
――
一階のリビング。
昼過ぎ。
ミル
「ただいまです!」
勢いよく飛び込んでくる。
袋を抱えたまま、その場でくるっと一回転する。
ミル
「ピザ作ります!」
ノワ
「だから落ち着きなさいって言ってるでしょ」
ナナはくすっと笑う。
ナナ
「ふふっ」
「その前に――」
ナナはやさしく手を叩く。
ナナ
「手、洗いましょうか」
ミル
「……!」
「そうでした!」
ノワ
「外歩いてきたんだから当たり前でしょ」
ミル
「行きます!」
ぱたぱたと洗面所へ走っていく。
ノワ
「走るなっての……」
猫神様
「ほっほっほ」
「元気いっぱいじゃのう」
ナナ
「ふふっ」
「今日ずっとあんな感じでしたね」
魚クッションも、
嬉しそうにミルの後を追うように、
ふわりと洗面所の方へ飛んでいく。
ノワ
「あれ、魚クッションもついて行っちゃったわね」
ナナ
「きっと気になるのよ」
ルナはそんな様子を見ながら、
小さく息をつく。
ルナ
「……賑やかね」
猫神様は穏やかに頷いた。
猫神様
「それでよい」
――
しばらくして。
テーブルの上に、買ってきた材料が並べられる。
食パン。
チーズ。
ウィンナー。
ピーマン。
ピザソース。
ミル
「揃いました!」
ノワ
「まぁ、それっぽいわね」
ナナ
「いい感じね」
ルナ
「……似てるものにはなるわ」
ミル
「やったです!」
ナナ
「じゃあ、並べてみましょうか」
ミル
「はい!」
ミルは真剣な顔で、パンの上へ一つひとつ材料を丁寧に置いていく。
だが、置き方はどこかずれている。
ノワ
「ちょっとミル!」
「何してるの?」
ミル
「はい!」
「ルナが“乗せる”って言ってました!」
ルナ
「……言ったけど」
ナナはくすっと笑う。
ミルはさらに、ピザソースの容器を手に取る。
ミル
「これも乗せます!」
ノワ
「待ちなさい」
ぽんっ。
容器ごと置いた。
一瞬の沈黙。
ミル
「……あれ?」
袋から取り出されていないパンの上に、
これまた封の開いていないチーズ。
ピーマンやソースの容器が積まれている。
ミルはそれをじっと見つめる。
ミル
「……これ」
「食べられませんね」
ノワ
「今気付いたの!?」
ナナ
「ふふっ」
ナナ
「そうね」
「これは蓋を開けて使うのよ」
ミル
「なるほどです!」
ミルはピザソースを手に取り、蓋を開ける。
勢いよく頷く。
そして――
再びパンの上に置いた。
ぽんっ。
ノワ
「何で戻すのよ!!」
ミル
「え?」
ミルはきょとんとする。
ミル
「開けましたよ?」
ノワ
「あんたねぇ……」
ノワは頭を抱える。
ナナ
「アハハ」
「それはもう外しておきましょうか」
ミル
「……あっ」
「こ……これは確かに邪魔です!」
ノワ
「最初からよ!!」
ルナ
「……応用が大事」
ミル
「応用……!」
「難しいです」
ノワ
「あとミル」
「ピーマン丸ごと食べる気だったの?」
ミル
「食べないんですか?」
ナナ
「カットして使いましょうね」
ノワ
「ナナ……」
ノワはナナをじっと見る。
ノワ
「あんた、こうなるの分かってて黙ってたんじゃないでしょうね」
ナナ
「な、なんのことでしょう?」
ナナの目が泳ぐ。
その横で、ルナは後ろを向いていた。
その肩が、わずかに揺れていた。
――
下準備を終えたところで、ルナが静かに口を開く。
ルナ
「……あとは焼くだけ」
一通りの準備を終え、ミルは完成前のパンをじっと見つめる。
ミル
「焼きます!」
慎重にトースターへ盛り付けたパンを入れる。
――
トースターの中で、
じわじわとチーズが溶けていく。
その様子を、
ミルは前のめりになって見つめていた。
静かな時間が流れる。
やがて、
ふわりと香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がる。
ミルは小さく鼻をひくつかせる。
ミル
「いい匂いです!」
ナナ
「ふふっ」
ミルの後ろ。
猫神様は窓の外へ静かに目を向けた。
猫神様
「……やけに静かじゃの」
ルナも同じように外を見る。
ルナ
「……はい」
「昨日の夜も、迷い猫は一匹も見かけませんでした」
猫神様
「……そうか」
ルナ
「少なすぎます」
ミル
「え?」
ルナ
「……いいえ」
チーン。
トースターのベルが鳴る。
ミル
「できました!」
ノワ
「ミル! 熱いから気を付けて」
ミル
「はい!」
慎重に取り出し、嬉しそうに掲げる。
ミル
「ピザです!」
「猫神様から食べて下さい!」
猫神様
「よいのか?」
ミル
「はい!」
猫神様は出来立てのピザを手に取る。
ふわりと湯気が立ち上り、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
猫神様
「では遠慮なく頂くとするかの」
猫神様は少しだけ息を吹きかけてから、ゆっくりと一口頬張る。
「……ふぉっ、ふぉっ」
少し熱そうに息を漏らしながら、しばらく味わうように噛みしめる。
やがて静かに飲み込んだ。
ミルは期待に満ちた目で猫神様を見つめていた。
その横では、
魚クッションも猫神様の手元をじっと見つめながら、
ふよふよと浮かんでいる。
ミル
「どうですか!?」
猫神様はゆっくりと頷く。
猫神様
「うむ」
「よう出来とる」
ミル
「ほんとですか!」
猫神様
「上出来じゃな」
ミル
「やったです!」
猫神様は目を細め、穏やかに微笑んだ。
――
ナナ
「じゃあ、私たちもいただきましょうか」
一同
「「いただきます!」」
出来立てのピザから、
ふわりと湯気が立ち上る。
香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がっていた。
魚クッションは、
テーブルの周りを嬉しそうにふわふわ漂っている。
ミルは待ちきれない様子で、
大きく口を開けてかぶりつく。
ミル
「あふっ!」
「はふっ……はふっ……!」
熱そうに口を動かしながらも、
嬉しそうに頬張っている。
ノワは少しだけ冷ましてから、思い切って一口。
ノワ
「……あちっ!」
それでも構わず、ゆっくりと噛みしめる。
すると、チーズのコクと香ばしさが口いっぱいに広がった。
ノワ
「……うわっ! これ美味しいじゃない!」
「悪くないわね」
その横では、ルナが静かに息を吹きかけながら、ゆっくりと熱を冷ましていた。
十分に冷めたことを確かめると、ようやく一口。
ルナ
「……そうね」
「美味しいわ」
その様子を見ていたナナも、そっと一口運ぶ。
ナナ
「あふっ!」
思わず肩をすくめ、慌てて口元へ手を添える。
ナナ
「……あふっ」
その声に反応するように、
魚クッションが心配そうに、
ナナの顔の前までふわりと近付いた。
ノワ
「ナナ、猫舌だったの?」
ナナは少し照れたように微笑む。
ナナ
「ふふっ」
「熱いものは苦手みたい」
ルナはそんなナナを見て、ふっと微笑む。
ルナ
「……一番猫らしいわね」
ナナ
「もう、ルナったら」
魚クッションを優しく撫でながら、
今度はしっかり冷ましてからもう一口食べる。
ナナ
「……うん」
「優しい味ね」
魚クッションも、
嬉しそうに小さく上下へ揺れた。
ミル
「大絶賛の味です!」
「これ……」
「ミル達が作ったんですよね」
ナナ
「ええ」
ミル
「ドキワクです!」
その時。
猫神様
「……うむ」
「世の中にはもっと大きいピザもあるんじゃぞ」
ミル
「えええ!?」
「大きいピザ作りたいです!」
ノワ
「また増やすの……?」
ナナ
「いいと思うわ」
「次はもっと上手に作りましょう」
ミル
「はい!」
「次は完璧です!」
ノワ
「今回はだいぶ危なかったからね」
ルナ
「……少なくとも容器は乗せないように」
そう言うルナの口元が、ほんの少しだけ吊り上がっていた。
ミル
「覚えました!」
ナナはくすっと笑う。
猫神様はそんな四人を静かに見つめていた。
ナナの隣では、
魚クッションもゆらゆらと身体を揺らしている。
どこか、やわらかな空気がリビングを包んでいた。
――
静かなリビング。
食器の触れ合う音だけが静かに響いている。
ルナは猫神様へ静かに視線を向ける。
ルナ
「猫神様……昨夜から明らかに迷い猫が減っています」
猫神様
「うむ」
「異様な減り方じゃ」
ルナ
「……はい」
猫神様
「何かあれば、すぐに知らせるのじゃ」
ルナ
「はい」
猫神様
「まぁ」
「今はよいじゃろ」
猫神様は部屋を見渡す。
楽しそうに笑うミル達。
その光景を見つめながら、静かに目を細めた。
猫神様
「守ってやらねばの」
ルナは静かに頷いた。
第二章 第二話 完




