↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第一章〜ドキワクの始まり〜
PR
39/88

「幸せの形」

第三十九話



私は、

葵と一緒に朝を迎えるのが好きでした。


目を開けると、

すぐ近くに葵の寝顔があります。


あたたかな布団の中。


静かな寝息。


その時間が、

とても安心できたんです。


けれど、

私もやっぱり朝はお腹がすくので、


葵のほっぺたに前足を乗せたり、

顔を覗き込んだりして、

葵が目覚めるのを待っていました。


葵は時々、

くすぐったそうに眉を動かします。


そして、

その日もやっと葵は目を開けました。


葵

「……ソラ、おはよ」


まだ眠そうな声でした。


私はつい嬉しくなって、

その頬へ顔を擦り寄せました。


葵

「わっ、冷たっ」


葵は笑いながら、

私を抱きしめます。


そのぬくもりが、

私は大好きでした。


朝は少しだけ忙しい時間で、

お父さんは先に仕事へ行き、

お母さんも慌ただしく支度をしています。


葵も制服へ着替えながら、

私へ何度も話しかけてきました。


葵

「お父さんも、お母さんも今日もお仕事なんだぁ」


ランドセルを背負いながら、

少しだけ寂しそうに言います。


でもすぐに私を抱き上げて、

額をこつんと合わせました。


葵

「でも今は、ソラがいるから全然さみしくないよ」


私は嬉しくて、

小さく鳴きました。


ソラ

「ニャー」


葵

「えへへ」


葵は笑って、

私の頭を撫でます。


やがて出発の時間になります。


葵

「いってきます!」


元気な声と一緒に、

扉が閉まりました。


私はいつもの窓辺へ飛び乗ります。


そこから、

葵が角を曲がって見えなくなるまで見送るのが、


毎日の日課でした。


見えなくなったあとも、

しばらくその場所を眺めてしまいます。


また夕方になれば帰ってきてくれるのに。


私は日を追うごとに、

葵と離れている時間が少しずつ寂しくなっていました。


葵が出かけた後の家は静かでした。


でもあの足音を待つ時間も、

私は嫌いじゃなかったんです。


「ただいま」って笑ってくれる、

葵の顔を見るのが大好きでしたから。


やがて――


待ちわびた足音が聞こえてきました。


私はその音に、

誰よりも早く気が付きました。


ぱたぱたと、

聞き慣れた軽い音。


私は窓から飛び降り、

玄関へ全力で走ります。


扉が開く。


葵

「ただいまー!ソラー!」


私はその足へ飛びつきました。


葵

「きゃっ」


「ソラ、おかえりしてくれるの?」


嬉しそうな笑い声でした。


ランドセルも下ろさないまま、

葵は私を抱き上げます。


葵

「寂しかったでしょう?もう大丈夫だよ」


その一言を聞くたび、

胸の奥があたたかくなったんです。


帰宅後の時間も、

私は好きでした。


机へ向かった葵が、

ノートを開きます。


私はその上へ乗りました。


葵

「もー、ソラぁ」


困ったように笑いながら、

私をそっと横へ移します。


困り顔の葵を横目に、

私はまたノートへ乗ります。


時には鉛筆を前足でつつき、

消しゴムを転がしました。


葵

「それじゃ宿題できないよ?」


そう言いながら、

葵はずっと笑っていたんです。


しばらくして、

葵は鉛筆を置き、

私を膝の上へ乗せました。


葵は部屋の壁に貼られた、

「ステ魔女こてり!」のポスターを指さします。


それはお休みの日の朝になると、

葵がいつも夢中になって見ていた番組でした。


私はその時間になると、

葵の隣で丸くなりながら、

きらきら光る画面を一緒に眺めていたんです。


葵の目は、

画面の中のこてりちゃんみたいに、

きらきら輝いていました。


葵

「ねえ、ソラ」


「私ね、こてりちゃんみたいに」


「強くて優しい魔女になりたいんだー!」


「悪い人をこらしめて」


「困ってる人を助けるんだよ!」


「もちろんソラのことも守ってあげるね!」


私は嬉しくなって、

その腕へ顔を擦り寄せました。


葵はくすぐったそうに笑います。


葵は胸を張って笑いました。


葵

「かっこいいでしょ?」


葵が願うことなら、

いつか叶ってほしい。


私はそう思いました。


夜になると、

お母さんとお父さんが帰って来ます。


ご飯の匂い。


明るい声。


あたたかな灯り。


私は葵の膝の上で丸くなりました。


そのぬくもりの中にいると、

世界には怖いものなんて無い気がしたんです。


葵

「ソラ、あったかい」


指先が、

何度も背中を撫でてくれます。


そのたびに、

眠くなってしまいました。


こんな毎日が、

ずっと続くと思っていました。


何も変わらず、


明日も、


明後日も、


その先も。


疑う理由なんて、

どこにも無かったんです。


――第三十九話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。