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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第一章〜ドキワクの始まり〜
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34/43

「決戦前日」

決戦前夜と言うことで、

いつもの二話分くらい書きました!

楽しんでもらえたら嬉しいです!

第三十四話




二週間後。


空気は、


少しだけ変わっていた。


神社の裏庭。


木々の間を抜ける風が、


静かに葉を揺らしている。


地面には、


無数の踏み込み跡。


繰り返し積み重ねてきた訓練の痕だった。


ミルは、


猫じゃらしを構える。


握る手に、


もう以前ほどの迷いはない。


深く息を吸う。


胸の奥で、


想いを整える。


そして――


振る。


ピンク色の光が、


真っ直ぐに伸びる。


細く、


鋭く、


ブレはない。


空気を裂くように走り、弾ける。


ミル

「……よし!」


ミルの耳がぴんっと立つ。


ノワ

「今のは悪くないわね」


少し離れた木陰。


ノワは腕を組みながら、


静かに見ていた。


ミル

「本当ですか!?」


ノワ

「調子に乗らなければね」


ミル

「乗りません!」


ミルは、


ぴしっと敬礼する。


ノワ

「そういうとこよ」


ノワは、


小さく息を吐く。


でも、


口元は少しだけ緩んでいた。


ノワ

「……まぁ、前よりはマシね」


ミル

「やった!」


ミルはその場で小さく跳ねる。


嬉しさを隠せていない。


少し離れた場所で、


ルナが静かに見ている。


糸玉を指先で転がしながら、


冷静に全体を見ていた。


ルナ

「安定してきたわね」


ミル

「はい!」


ミル

「ちゃんと当てられる気がします!」


ルナ

「当てるだけじゃ足りないわ」


ミル

「はい!ちゃんと届かせます!」


その声には、


以前より迷いが無かった。


その時――


「全員、集まるのじゃ」


猫神様の声が、


静かに響いた。


空気が、


少しだけ張り詰める。


――


神社。


静かな和室。


畳の香りが、


微かに漂っている。


壁には、


何も描かれていない掛け軸。


その近くには、


木彫りの猫の置物が静かに並んでいた。


以前と変わらない、


落ち着いた空間。


その和室に、


四人が揃う。


猫神様は、


掛け軸の近くに静かに座っている。

だが、


その表情は普段より少し真剣だった。


猫神様

「……場所が分かった」


空気が、


少しだけ変わる。


ミル

「……!」


ノワ

「ついに、ね」


ナナの指先が、


わずかに握られる。


猫神様

「空間の歪みじゃ」


猫神様

「あれほどの歪み……隠しきれるものではない」


ルナ

「特定できたのですね」


猫神様

「うむ」


猫神様

「明日、決行する」


ミル

「明日……」


その言葉が、


胸へ落ちる。


猫神様

「昼じゃ」


ノワ

「……夜は避けるのね」


猫神様

「うむ」


猫神様

「夜は力が増す」


猫神様

「あれほど歪んだ存在……夜になれば更に制御が難しくなる」


ルナ

「結界の維持が難しくなるかと」


猫神様

「うむ。昼であれば、まだ抑え込める」


ナナは、


少しだけ外を見る。


障子に刺す昼の光。


静かな空気を感じるように目を細める。


猫神様

「そして――」


一拍。


空気が静まる。


猫神様

「本来ならば、歪み猫は救えぬ」


空気が、


止まる。


ミルの手が、


わずかに止まる。


猫神様

「倒せば消える」


猫神様

「魂は砕け、散り、いずれ巡る」


猫神様

「それが本来の流れじゃ」


ミル

「……」


猫神様

「じゃが今回は違う」


猫神様

「ルナの結界があれば」


猫神様

「ソラの魂が最悪砕けても、散る前に捕らえることができる」


猫神様

「そこまで出来たなら後はワシに任せておけばよい」


ミル

「はい!」


ノワ

「既に吸収された迷い猫の魂は救えないの?」


猫神様

「残念じゃが無理じゃ」


猫神様

「理由は二つ、一つは時間が経ちすぎておる」


猫神様

「砕けたばかりであれば、やりようもあるんじゃがな」


ナナ

「…」


ナナは手を静かに口元に当てる。


猫神様

「もう一つは色んな魂が混ざり合いすぎてどれがどの魂か分からぬ」


ノワ

「それじゃソラの魂が砕けたら元も子もないじゃない!」


猫神様

「いや、そこは魂の繋がりを利用する」


ナナ

「魂の繋がり?」


猫神様はナナに視線を移す。


猫神様

「うむ。ミル、ノワ、ルナは前世でソラと姉妹じゃ」


猫神様

「魂には縁が結ばれておる親兄弟にしか分からぬ繋がりがある」


猫神様

「それを頼りに探すしかあるまいて」


猫神様

「まぁ時間は掛けられんがのう」


ルナ

「しかし条件は揃っています」


猫神様

「うむ」


猫神様

「……あとは、お主ら次第じゃ」


静かな空気。


風が、


社の奥を通り抜ける。


ナナ

「……大丈夫そう?」


ミルは、


少しだけ首を傾げる。


ミル

「はい!」


ミル

「……多分」


ミルは、


少し笑う。


でも、


その笑顔は以前より強かった。


ミル

「ちゃんと行けます!」


ノワ

「“多分”って何よ」


ミル

「でも行きます!」


ノワ

「……はいはい」


呆れたように返す。


でも、


その声は柔らかい。


ルナ

「今はそれぞれの役割を果たしましょう」


ルナ

「結界は問題無いわ」


三人は頷く。


ナナは、


ミルを見つめる。


深呼吸。


そして口を開いた。


ナナ

「……私も、逃げない」


ナナ

「ちゃんと見届ける…」


ナナ

「最後まで、一緒にいるよ!」


ミル

「……はい!」


ノワ

「背中は任せなさい」


それぞれの瞳に覚悟が映る。


ミル

「はい!」


猫神様

「よいか」


猫神様

「これは“敵に勝つ為の戦い”ではない」


猫神様

「“救済の為の戦い”じゃ」


猫神様

「誰か一人でも欠けてはならぬ」


猫神様

「よいな?」


誰も、


言葉を返さない。


ただ、


静かに頷いた。


――


夜。


静かな時間が流れている。


猫神様の家。


リビングには、


やわらかな明かりが灯っている。


窓の外では、


虫の声が小さく響いていた。


ミル達は、


それぞれ思い思いの場所に座っていた。


“普段”より静か。


でも、


嫌な静けさではない。


ナナ

「静かね」


ノワ

「静かになるのは当然でしょ」


ノワ

「明日、動くんだから」


ナナ

「ふふ」


ルナ

「無理に騒ぐ必要もないわ」


ナナ

「静かだけど様子が違う子が居るみたい」


少しの沈黙。


三人はミルを見る。


後を向いていたミルは、


ゆっくり立ち上がる。


振り返りノワの前へ歩く。


ミル

「ノワ!」


ノワ

「な、何よ」


ミル

「今日、一緒に寝ましょう!」


ノワ

「は?」


ナナが思わず吹き出しそうになる。


ミル

「いいじゃないですか!」


ミル

「久しぶりですし!」


ミル

「なんか今日、そういう気分なんです!」


ノワ

「どういう気分よ」


ミル

「ドキワク落ち着かせる気分です!」


ノワ

「意味分かんないんだけど」


ミルは、


ぐいっとノワの手を掴む。


ミル

「行きましょう!」


ノワ

「ちょ、待ちなさい!」


ミルはそのまま、


ぐいぐいと引っ張っていく。


ノワ

「聞きなさいって――!」


ミル

「大丈夫です!」


ミル

「ちゃんと寝れますから!」


ノワ

「そういう問題じゃ――!」


ミル

「ではルナとナナもおやすみなさい!」


ノワ

「ちょっと離しなさいって!」


ルナ&ナナ

「「おやすみ」」


ノワ

「あ~おやすみ二人とも!」


ミルに引っ張られて行くノワ。


やがて二人の足音が、


廊下の奥へと遠ざかっていく。


一瞬の静寂。


ミル

「よいしょ!」


ノワ

「ちょっ!ミル!」


やがて――


ノワ

「分かったから降ろしなさい!」


パタパタと鳴るミルの足音とノワの声が、


少し遅れて響いた。


ナナは、


思わずくすっと笑う。


ナナ

「ふふ……」


ナナ

「本当に仲良しだね」


ルナは、


静かにその方向を見ている。


ルナ

「……そうね」


ナナ

「見てると、なんだか安心するの」


ナナ

「二人とも自然体な感じがして」


ナナ

「ちゃんと一緒に居るっていうか」


ルナ

「……そうね」


ナナ

「ふふ」


ナナ

「いいなって思う」


ナナ

「こういう時間」


ルナ

「そうね」


ナナ

「ちょっと羨ましいくらい」


ルナ

「羨ましい?」


ナナ

「うん」


ナナ

「でもね」


ナナ

「私も、ちゃんとここに居られてるって思えるから」


ナナ

「それでいいの」


ルナは、


ほんの一瞬だけ視線を向ける。


ルナ

「……今も、そうじゃないの?」


ナナ

「うん」


ナナ

「今も、ちゃんとそうだよ」


ナナは、


やわらかく笑う。


ルナも、


ほんの少しだけ目を細めた。


ナナ

「じゃあ、そろそろ私も戻るね。おやすみ」


ルナ

「ええ、おやすみ」


ナナは、


ゆっくりと歩き出す。


後から魚クッションがナナを追いかけて泳いでいく。


少しずつ、


距離が離れていく。


ルナは、


その背中を見つめる。


わずかな沈黙。


ルナ

「……いつになったら話せるのかしらね、ナナ」


――


静かな夜。


ルナは、


その場に残っている。


ナナの背中が、


見えなくなる。


ルナ

「……」


小さく息を吐く。


ルナ

「変わらないわね」


ルナ

「何も覚えていないのに」


一瞬だけ、


目を伏せる。


ルナ

「……それでいいのだけれど」


ルナは、


ゆっくりと歩き出す。


――


外。


夜の神社。


星の煌めきと、

月明かりが石畳を照らしている。


ルナは、


一人で立っている。


気配。


猫神様

「来ると思っておったぞ」


ルナ

「……少しだけ、確認を」


猫神様

「契約のことかの」


ルナ

「……はい」


短い沈黙。


夜風が吹く。


猫神様

「問題はない」


猫神様

「今のところはな」


ルナ

「……そうですか」


ルナは、


小さく頷く。


ルナ

「ミル達にも、影響はあるのですか?」


猫神様

「直接は出ん」


猫神様

「じゃが――今後、無関係でもない」


ルナは、


少しだけ目を細める。


ルナ

「……承知しました」


猫神様

「深く考えすぎるでない」


猫神様

「今は目の前を見る時じゃ」


ルナ

「……はい」


少しの間。


猫神様は、


懐を探る。


猫神様

「ほれ」


小さな包みを差し出す。


ルナ

「?」


ルナは、


それを受け取る。


中には、


小さな飴。


ルナ

「……ちゅる飴?」


猫神様

「たまには甘いものでも食え」


猫神様

「頭ばかり使っとると固くなるぞ」


ルナはそれを見て、


そして――


ほんのわずかに、


表情が緩む。


ルナ

「……ありがとうございます」


猫神様

「うむ」


ルナは、


飴を口に入れる。


小さく転がす。


ルナ

「……甘い」


猫神様

「そうじゃの」


猫神様

「どれ、ワシも一つ」


ちゅる飴を口に入れる猫神様の横で、


ルナは静かに前を見る。


夜空。


揺れる木々。


静かな空気。


ルナ

「……必ず、連れて帰ります」


猫神様は、


何も言わない。


ただ、


穏やかに頷く。


少しの沈黙。


ルナは、


そのまま背を向ける。


猫神様

「ルナよ」


足が止まる。


猫神様

「たまには」


猫神様

「“おじいちゃん”と呼んでくれてもいいんじゃぞ?」


わずかな間。


ルナは、


振り返らない。


ルナ

「“猫神様”!」


ルナ

「失礼致します」


言葉を重ねるように、


そのまま歩き出す。


足音が、


少しずつ遠ざかる。


やがて、


完全に消える。


静かな夜。


猫神様は、


ひとり残る。


猫神様

「……まったく」


小さく笑う。


猫神様

「頑固な子じゃ」


風が、


静かに流れる。


猫神様は空を見上げる。


猫神様

「さてどうなるかの」


――


次の日。


空は雲が薄く、

風も穏やか。


四人は、

並んで歩く。


言葉は少ない。


それでも、


足並みは揃っている。


やがて、

空気が変わる。


ミル

「……」


足が止まる。


猫じゃらしの穂先が、


わずかに光る。


ノワ

「これ……」


ルナ

「間違いないわ」


ナナは、

小さく息を呑む。


そこにあるのは――


歪み。


空間そのものが、


軋んでいる。


景色が揺れる。


空気が重い。


呼吸すら、

少しだけしづらい。


ミルは、

一歩、前に出る。


猫じゃらしを握る。


ミル

「……行きます!」


風が、

静かに流れる。


第三十四話 完

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