「繋がりの先」
第三十三話
庭。
やわらかい風が、
静かに流れている。
昼の光は暖かく、
干されたフードが、
ゆらゆらと揺れていた。
白。
黒。
グレー。
並んだ布が、
空の下で静かに揺れている。
その前に、
ナナとルナが立っていた。
風に髪を揺らしながら、
二人は静かに空を見上げている。
魚クッションが、
さっきまでフードが入っていた籠の上で、
日向ぼっこしている。
足音。
砂利を踏む音が、
ゆっくり近づく。
ナナ
「……!」
振り返る。
ミルとノワが、
並んで戻ってくる。
さっきまでより、
二人の距離は近かった。
ナナ
「おかえりなさい」
柔らかな声。
ミル
「……ただいまです!」
少しだけ、
嬉しそうに笑う。
その笑顔を見て、
ナナの表情も少し緩む。
ノワ
「……戻ったわ」
ルナは、
静かに二人を見る。
視線だけで、
空気の変化を確かめるように。
ナナ
「……ふふ」
ナナ
「なんだか、いい顔してるね」
ミル
「え?」
ノワ
「……別に」
ナナ
「ううん、さっきよりずっといい」
ミルは、
少しだけ照れる。
ミル
「……えへへ」
ノワは横で小さく息を吐く。
でも、
否定はしなかった。
ナナ
「ちょうど良かった」
ナナ
「今、干し終わったところ」
ミル
「わぁ……!」
並んだフードを見る。
風に揺れる、
自分たちの居場所。
ミル
「すごい……!」
ノワ
「……抜かりないわね」
ルナ
「当然よ」
ナナ
「すぐ使えるようにね」
ミル
「……ありがとうございます!」
ミルは嬉しそうにフードを見上げる。
白いフードが風に揺れ、
耳がぴこぴこと動いているようにも見えた。
風が、
四人の間を通り抜ける。
風に揺れた自身のフードが、
そっと肩を叩く。
その感触に、
ミルは少しだけ目を細めた。
ミルが、
ふと視線を落とす。
少しだけ迷うように。
ミル
「……あの」
ノワ
「何」
ミル
「私たちって……姉妹なんですよね」
ナナ
「……え?」
干されたフードを見ていたナナが少し、
驚いたように目を見開く。
ナナ
「そうなの?」
ノワ
「違うわよナナ」
すかさずノワがツッコむ。
ノワ
「私とミルとルナの話」
ナナ
「あぁ……そうよね」
ナナが少し恥ずかしそうに笑う。
その横顔を、
ルナが静かに見ていた。
ナナ
「なんだか、不思議な話ね」
ミル
「ですよね」
ミルの表情がやわらぐ。
風が髪を揺らす。
ミル
「でも」
ミル
「嬉しいです」
ミル
「ノワやルナと姉妹なんて」
ノワとルナへ順にミルは視線を配る。
ノワ
「そ、そうね」
ノワは少し視線を逸らす。
ほんの少しだけ耳が赤い。
ノワ
「まぁ……悪くないんじゃない」
ぶっきらぼうな言い方。
でも、
声は柔らかかった。
ナナは、
やさしく微笑む。
ナナ
「うん」
ナナ
「いい話だと思う」
ルナ
「……そうね」
短い返事。
でも、
ルナもどこか穏やかだった。
ナナは、
空を見上げる。
流れる雲。
揺れるフード。
ナナ
「本当に夢みたいな話ね」
少しの沈黙。
風が、
やわらかく流れる。
ナナを見ていたミルの視線が、
少しだけ遠くなる。
何かを思い出すように。
ミル
「……そういえば」
ノワ
「今度は何?」
ミル
「ソラとの戦いで」
ミル
「ソラの記憶?が流れてきたんですけど」
ミル
「変なものを?見たんです」
ノワ
「なんか歯の奥に詰まった言い方するわね」
ナナ
「変なものって?」
ミル
「はい」
ミル
「その中に」
ミル
「……私がいました」
ノワ
「は?」
ミル
「猫じゃなくて」
ミル
「人間で」
ミル
「耳も尻尾もなくて」
ミル
「でも顔は……私で」
少し考えるように、
首を傾げる。
ミル
「なのに、変にしっくり来るというか」
そのまま上を向いて瞳を閉じ考える。
ミル
「うーん」
ルナは、
何も言わずに聞いている。
ただ静かに、
ミルの言葉を待っていた。
ミル
「なんなんだろうって」
答えは出なかった。
ナナ
「ミルはソラの記憶がそもそも見えたの?」
ミル
「はい!」
ルナ
「迷い猫達の浄化の際に生前の記憶などが見える時があるのよ」
ナナ
「そうなのね」
ミル
「何故私が居たのか、そもそも私なのか分かんないんですけど」
ノワがため息をつく。
ノワ
「まぁ……分かんないなら」
ノワ
「確かめるしかないでしょ」
ミル
「……!」
その言葉に、
ミルの表情が少し明るくなる。
ノワ
「やる事は決まってるしね」
ミル
「はい!」
ルナ
「ソラを救うことで」
ルナ
「見えてくるものもあるでしょうしね」
ミル
「そうですね!」
ミルは、
ぱっと顔を上げる。
さっきまでの迷いが、
少しずつ薄れていく。
ミル
「それなら余計に助けないとですね!」
ノワ
「助ける理由増えてるじゃない」
少しだけ呆れた声。
でも、
どこか柔らかい。
ミル
「いいじゃないですか!」
ミル
「ドキワクしてきました!」
ノワ
「そういう問題?」
ナナは思わず笑う。
ルナも小さく目を細める。
ルナ
「結界は任せて」
ナナ
「ひとりじゃないよ」
ミル
「はい!」
ミルは、
しっかり頷く。
その隣に、
ノワがいる。
少し後ろにルナ。
そして、
ナナ。
ミル
「……行きます!」
風が、
静かに流れる。
揺れるフード。
重なる想い。
ミルは、
一歩、踏み出した。
第三十三話 完




