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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第一章〜ドキワクの始まり〜
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「真実の輪郭」

第三十話




昼。


柔らかな光が窓から差し込んでいる。


猫神様の社の一室。


本棚とガラス製の机。


向かい合わせに置かれたソファ。


静かな空気の中、


ノワはベッドで身体を起こしていた。


ミルのまぶたが、


ゆっくりと開く。


ぼんやりとした視界。


少し遅れて、


意識が追いつく。


ミル

「……ん……」


身体を起こそうとして、


止まる。


――横。


ノワが既に起きていて、


こちらを見ている。


金色の瞳。


ちゃんと開いている。


ミル

「……ノワ?」


ノワ

「……やっと起きたのね」


少しだけ呆れたように。


でも、


その声は柔らかい。


ノワ

「おはよう寝坊助さん」


一瞬。


時間が止まる。


ミル

「……」


ミルの目が、


大きく開く。


耳がぴくっと動く。


次の瞬間――


ミル

「ノワ!!」


勢いよく抱きつく。


ノワ

「ちょっ……!」


バランスを崩しかけるが、


そのまま受け止める。


ミルの腕に、


強く力が入る。


離したくないみたいに。


ミル

「よかった……!」


ミル

「よかったです……!」


声が震える。


涙まで滲んでいる。


ノワ

「……大げさね」


そう言いながらも、


振りほどかない。


むしろ少しだけ、


安心したように息を吐く。


ノワ

「生きてるわよ」


ミル

「……ほんとに……」


ノワ

「ほんとに」


ナナ

「……よかったぁ」


少し離れた場所で、


ナナがほっと息をつく。


胸の前で手を合わせるようにして、


優しく微笑む。


ナナ

「ちゃんと繋がってたね」


ミルとナナは泣きながら、


優しく笑う。


ミル

「……はい」

ミル

「…はい!」


ミルは、


ノワを離さないまま、


小さく頷く。


ノワの服をぎゅっと掴んでいた。


その手は、


なかなか離れなかった。


――


足音。


静かな廊下を歩く音。


空気が変わる。


猫神様とルナが、


静かに入ってくる。


猫神様

「……目が覚めたようじゃの」


ルナ

「早かったわね」


ノワ

「……思ったより遅かったくらいよ」


少しだけ身体を起こしながら答える。


ノワ

「でもありがとう。助かったわルナ」


ノワは視線をナナへ向ける。


ノワ

「それとナナも」


ルナ、ナナ

「「ええ」」


ルナは静かに頷き、


ナナは柔らかく笑う。


猫神様

「無理はするでないぞ」


ノワ

「言われなくても分かってるわよ」


いつもの調子。


それだけで、


ミルは少し安心する。


ミル

「でも猫神様がいなかったらノワとはもう……私……」


声が詰まる。


溢れそうになる涙を堪えるミル。


ルナ

「猫神様が居なければ私たち全員死んでいたわ」


ルナは静かに言う。


冗談ではない。


事実だった。


ナナ

「そうね……恐らく皆……」


ナナも小さく頷く。


あの圧。


あの力。


思い出すだけで、


身体が少し震えた。


ノワ

「……」


ノワはゆっくりと猫神様を見る。


少しだけ視線を逸らしながら。


ノワ

「その…ありがとう…ございます」


猫神様

「構わん頼まれておるからの」


ノワ

「頼まれた?誰に?」


猫神様

「……」


ほんの少しだけ、


猫神様は黙る。


その目が静かに細められる。


猫神様

「そろそろ話さねばなるまいて」


空気が少し変わる。


ミルは、


まだノワの服を掴んだまま。


ナナは、


その様子を静かに見ている。


ルナ

「……話せる?」


ノワ

「ええ」


少しだけ表情を引き締める。


ノワ

「ちょうど、聞きたいこともあるし」


空気が、


少し変わる。


柔らかな空気が、


静かに張り詰めていく。


――


ノワ

「……あれ」


ノワ

「前に戦った時と、違うわよね」


ノワは静かに猫神様を見る。


あの時の感覚を思い出すように。


ノワ

「強さも」


ノワ

「動きも」


ノワ

「明らかにおかしい」


ノワ

「昼に戦った時とは別物だった」


ナナ

「……」


少し考えるように、


言葉を選ぶ。


ナナ

「近づいた時……」


ナナ

「一瞬動けなかったわ」


ナナ

「……怖かった」


魚クッションを抱く手に、


少しだけ力が入る。


猫神様

「当然じゃ」


猫神様

「昼は太陽の光によって浄化される」


猫神様

「迷い猫などは」


猫神様

「強い光の下では存在を維持する事すら難しい」


ナナ

「……だから夜に……」


猫神様

「うむ」


猫神様

「じゃが歪み猫は違う」


猫神様

「他の迷い猫を取り込み」


猫神様

「ひとつの存在として確立されておる」


ノワ

「……」


猫神様

「故に昼間は影へ潜れぬ」


猫神様

「太陽の光で弱体化しながらも」


猫神様

「現実側へ存在し続ける」


ナナ

「……そんな……」


猫神様

「そして夜は逆じゃ」


猫神様

「歪みが増幅される事で」


猫神様

「再び影へ潜る事が可能になる」


ルナ

「……特にあれは別格だった」


ルナ

「あれは“普通の歪み猫”ですらない」


猫神様

「……その通りじゃ」


猫神様は、


静かに頷く。


猫神様

「あれは“歪み猫”の中でも」


猫神様

「より深く歪んだ存在じゃ」


ミル

「……」


ミルは小さく息を飲む。


猫神様

「そして――」


猫神様

「もう一つ」


猫神様

「話しておかねばならぬ事がある」


ノワ

「さっき言いかけた件ね」


猫神様

「うむ」


空気が、


わずかに変わる。


静けさの質が変わる。


猫神様

「お主たちのことじゃ」


ミル

「……私たち?」


猫神様

「そうじゃ」


猫神様

「ミル」


猫神様

「ノワ」


猫神様

「ルナ」


猫神様

「お主らはな」


猫神様

「……」


ほんの少しだけ間を置く。


猫神様

「前世で姉妹じゃった」


――静寂。


空気が止まる。


ミル

「……え?」


ノワ

「……は?」


ルナ

「……」


ルナは、


何も言わない。


ただ、


静かに猫神様を見る。


既に知っている者の目だった。


猫神様

「母猫がおった」


猫神様

「優しい猫じゃ」


猫神様

「娘たちの幸せを願っておった」


その声は、


どこか懐かしそうだった。


ミルの表情が、


わずかに揺れる。


胸の奥がざわつく。


猫神様

「その願いは」


猫神様

「ワシの元へ届いた」


猫神様

「じゃからワシは」


猫神様

「出来る範囲で」


猫神様

「願いを叶えとる最中じゃよ」


静かな声。


でも、


確かな重みがあった。


ノワ

「……」


ミル

「……姉妹……」


ミルの視線が、


ノワとルナへ向く。


ミル

「……私たちが……?」


ノワも言葉を失っている。


ルナは、


静かに目を伏せる。


ナナ

「……」


ナナは何も言わず、


皆の様子を見ていた。


猫神様

「そして――」


空気が張り詰める。


猫神様

「あの歪み猫」


猫神様

「実はお主らの姉妹の一匹じゃ」


ミルの目が、


大きく開く。


ノワも息を止める。


猫神様

「名は――」


猫神様

「ソラじゃ」


――沈黙。


ミル

「……ソラ……?」


知らない名前。


それでも胸の奥がざわついた。


――


ミル

「……じゃあ…その…」


ミル

「ソラは……」


ミル

「助けられないんですか……?」


震える声。


猫神様

「……やり方は変わらぬ」


ミル

「……え?」


猫神様

「既にお主らが知っておる方法じゃ」


猫神様

「ルナの結界で閉じ込め」


猫神様

「その中で歪みを剥がす」


ルナ

「……」


静かに頷く。


猫神様

「それしかない」


ミルの目に、


わずかに光が戻る。


だが――


猫神様

「じゃが」


空気が引き締まる。


猫神様

「難易度が違う」


猫神様

「ひとつの魂ではない」


猫神様

「全てに届かせねばならぬ」


ルナ

「……中途半端では届かない」


猫神様

「うむ」


猫神様

「少しでも誤れば」


猫神様

「魂は散る」


猫神様

「戻らん」


ナナ

「……」


部屋が静かになる。


猫神様

「そして」


猫神様

「歪み猫は」


猫神様

「浄化すれば消える」


ミル

「……っ」


猫神様

「……ソラの魂がどうなるかも」


猫神様

「正直、分かってはおらぬのじゃ」


静寂。


猫神様

「じゃが」


猫神様

「今ある方法はこれしかない」


――


ノワ

「……一つ聞くわ」


ノワ

「なんであんたがやらないの?」


猫神様

「出来ぬ」


即答だった。


猫神様

「ワシの力は強すぎる」


猫神様

「生命エネルギーを使う」


猫神様

「寿命も削る」


ナナ

「……え……」


猫神様

「時間と共に戻るがの」


猫神様

「連続では使えぬ」


猫神様

「そしてそれはルナの結界に干渉し」


猫神様

「壊す可能性がある」


ルナは静かに目を伏せる。


猫神様

「さらに」


猫神様

「そのまま浄化してしまう」


猫神様

「魂ごとな」


沈黙。


猫神様

「ルナの結界は違う」


猫神様

「魂を扱うには」


猫神様

「ワシより繊細じゃ」


ルナ

「……」


猫神様

「じゃから」


猫神様

「これは――」


猫神様

「お主らにしか出来ぬ」


――


ミルは、


俯く。


怖い。


失敗したら、


本当に終わる。


震えている。


それでも――


ミル

「……やります」


小さな声。


でも、


はっきりしていた。


ミル

「助けます」


ミル

「ソラも」


ミル

「……みんなも」


ノワは、


一歩前に出る。


ノワ

「私も行くわ」


ミル

「!」


ノワ

「ミルはまた突っ込むでしょ?」


ノワ

「その為に私が横に居るのよ」


少しだけ笑う。


ミル

「…ノワ」


ナナ

「……繋ぐよ」


ナナ

「ちゃんと」


ナナ

「全部、繋ぐ」


魚クッションをそっと抱く。


ルナ

「結界は任せて」


ミル

「……ルナ…ナナ」


ミルの目に、


少しだけ力が戻る。


猫神様は、


静かに目を細める。


猫神様

「……よい」


猫神様

「ならば進め」


猫神様

「救うと決めたのなら」


猫神様

「最後まで貫け」


静かな声。


だが、


確かな覚悟を問う声だった。


四人は、


静かに頷いた。



第三十話 完

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