「特別授業(後半)」
今回は特別編です!
いつもの2話分書いてます。
楽しんで下さいね!
第二十四話
――
広い空間。
猫神様の神社の敷地内。
空気は澄み切っていて、
遠くで木々の揺れる音だけが聞こえている。
張り詰めた空気の中、
ナナを除く3人はそれぞれ距離を取って立っていた。
ミル。
ノワ。
ルナ。
それぞれの課題。
それぞれの役目。
その空気を、
全員が理解していた。
猫神様
「では、始めるとするかの」
ミル
「はい!」
真っ先に返事をする。
ミルは猫じゃらしを握りしめる。
その目は、
期待と緊張で輝いていた。
猫神様
「ミル」
猫神様
「お主にはひとつ技を授ける」
ミル
「技ですか?」
猫神様
「そうじゃ。想いの力を一気に放つ技じゃ」
ミル
「おぉ!ドキワク技です!」
猫神様
「名を」
「ハート・ライド・ショット」
猫神様
「と言う」
ミル
「かっこいいです!」
ミルの目が輝く。
ノワ
「名前まであるのね」
猫神様
「編み出した本人がそう言っておる」
ノワ
「編み出した本人?」
猫神様の指導は続く。
猫神様
「取り敢えず、まずは“飛ばしてみよ”」
ミル
「飛ばす……ですか?」
猫神様
「うむ」
猫神様
「穂先に想いを集中させるのじゃ」
ミルは猫じゃらしを握り直す。
ゆっくりと、
その穂先へ意識を向ける。
呼吸。
集中。
ミル
「……」
淡いピンク色の光が、
猫じゃらしの穂先に集まり始める。
光は小さい。
けれど、
確かに“集まっている”感覚があった。
ミル
「……えい!」
振る。
その瞬間――
穂先に集束された光が、
弾けるように前へと放たれる。
空気を切るような光。
一直線に飛び、
少し先の地面へぶつかる。
ミル
「……!」
ノワ
「……飛んだわね」
ルナ
「ええ、想いが離れてるわ」
ミルは尻尾をピンと立て目を輝かせる。
ミル
「出来ました!」
猫神様
「うむ」
猫神様
「じゃが――弱い」
ミル
「えっ」
一気に固まる。
猫神様
「離したからじゃ」
ミル
「……離した?」
猫神様
「集めただけで、留めておらぬ」
猫神様
「想いを手放しておる」
ミルは穂先を見る。
ミル
「……?」
まだ感覚が分からない。
ただ撃っただけ。
そんな感覚しか無かった。
猫神様
「もう一度じゃ」
ミル
「はい!」
ミルは踏み込む。
穂先に光を集める。
さっきの感覚を思い出す。
ミル
「……えいっ!」
振る。
――だが
今度は光が散るだけで、
うまく放たれない。
ミル
「……あれ?」
小さく目を丸くする。
もう一度。
集める。
振る。
――出ない。
ミル
「え、えっ」
焦り始める。
ノワ
「さっきのは何だったのよ……」
ルナ
「集束が安定してないわね」
ミル
「もう一回です!」
何度も繰り返す。
踏み込む。
集める。
振る。
光は集まる。
けれど、
放てない。
ミル
「……出ません!」
猫神様
「焦るでない」
猫神様
「お主は“撃っておる”だけじゃ」
ミル
「……撃ってる?」
猫神様
「それでは軽い」
猫神様
「想いは、もっと近くで当てよ」
ミル
「……近く?」
猫神様
「離すな」
その言葉に、
ミルはゆっくりと目を開く。
さっきは飛ばした。
離した。
けれど――
ミルは小さく呟く。
ミル
「……離さない」
穂先に集まる光。
淡いピンク色。
今度は、
飛ばそうとしない。
そのまま――
距離を詰める。
踏み込む。
近付く。
ミル
「……えい!」
振る。
その瞬間、
穂先で圧縮された光が、
“その場で”弾ける。
空気が揺れる。
さっきよりも、
明らかに濃く、重い。
ミル
「……!」
ノワ
「……今の」
ルナ
「威力上がってるわ」
ミルは息を切らしながら笑う。
上手く説明は出来ない。
でも、
感覚だけは分かった。
ミル
「……分かりませんけど」
ミル
「なんか、近かったです」
ノワは小さく息を吐く。
ノワ
「……無茶するわね」
でも、
その声は少しだけ安心していた。
猫神様
「よし!ではこの庭を一周走って来てはひと振り」
猫神様は一周約100m程の庭を杖で指す。
猫神様
「それを繰り返してスタミナと技を鍛えよ」
ミル
「はい!」
ミルは敬礼ポーズを取り即答で返す。
ミル
「では行って来ます!」
ノワ達に見送られ、
ミルの特訓が始まった。
――
少し離れた場所。
ノワは静かに立つ。
周囲の音が遠い。
目を閉じる。
呼吸を整える。
猫神様
「ノワ」
ノワ
「……ええ」
猫神様
「分かっておるな?」
ノワ
「分かってるわよ」
ノワは小さく息を吐く。
ノワ
「……やればいいんでしょ」
目を閉じ、
呼吸を整える。
静寂。
風の音。
木々の揺れ。
ミル(遠声)
「ハートライドショットォ!」
遠くで聞こえるミルの声。
だが――
わずかに眉が動く。
ミルの気配。
ルナの気配。
ナナの存在。
気になってしまう。
ミル(遠声)
「ダメです!もう1周!」
無意識に、
周囲を警戒してしまう。
ノワ
「……集中出来ない」
猫神様
「当然じゃ」
ノワは目を開ける。
ノワ
「……は?」
猫神様
「お主は既に分かっておる」
猫神様
「じゃが、形に出来ておらぬ」
ノワは黙る。
図星だった。
守りたい。
その気持ちはある。
けれど、
どう形にすれば良いのか分からない。
猫神様
「武器を見よ」
ノワはレイピアを見る。
細く、
鋭い剣。
猫神様
「それは何じゃ?」
ノワ
「……剣よ」
猫神様
「だからじゃ」
ノワ
「……?」
猫神様
「攻撃のイメージに引っ張られておる」
ノワはゆっくり目を細める。
確かに、
剣を握れば斬ることを考える。
突くことを考える。
でも――
猫神様
「お主の想いは何じゃ?」
ノワ
「……守ることよ」
迷い無く答える。
猫神様
「ならば」
猫神様
「盾をイメージせよ」
ノワ
「……盾」
一瞬、
思考が止まる。
剣なのに。
盾。
その発想は無かった。
ノワは再び目を閉じる。
呼吸。
静寂。
今度は、
攻撃じゃない。
前へ出るためじゃない。
守る。
途切れさせない。
その感覚だけを意識する。
――今度は違う。
レイピアが、わずかに光る。
ノワ
「……!」
先端がほんの少し、
“重く”なる。
鋭さとは違う。
包み込むような感覚。
ノワ
「……これ」
猫神様
「それでよい」
ノワは静かに目を開ける。
ノワ
「……まだ、不安定ね」
猫神様
「それでよい」
最初から完璧を求める必要は無い。
猫神様の声は、
そう言っているようだった。
ノワは一瞬だけミルの方を見る。
転びそうになりながら、
また踏み込んでいる。
ミル(遠声)
「違います!次です!」
ノワは小さく息を吐き、
また前を向いた。
――
さらに離れた場所。
ルナはすでに動いていた。
空間に糸のような光が走る。
細く。
鋭く。
正確に。
ルナ
「……展開」
広い結界が張られる。
空間を覆う半透明の膜。
だが――
猫神様
「脆い」
ルナ
「ええ、その通りです」
即答だった。
ルナ自身、
理解している。
今の結界では、
歪み猫の力に耐えきれない。
ルナは手を動かす。
結界の内側に、
さらに細い糸を張る。
骨組み。
さらに、
その間を繋ぐ。
補強。
光の線が幾重にも重なる。
ルナ
「……これで」
結界の強度がわずかに上がる。
空気の安定感が変わる。
ルナ
「……まだ足りないわね」
猫神様がそっと語りかける。
猫神様
「ルナ。家と言うのは一本一本の骨組みから出来ておる」
ルナ
「はい」
猫神様
「骨組みが強ければそれだけ強度が増す」
ルナ
「やってみます」
ルナは目を閉じる。
呼吸を整える。
集中。
糸一本一本へ意識を向ける。
その瞬間、
糸の光がさらに強くなる。
ルナ
「……そういうことね」
ルナ
「密度を上げればいいのね」
ルナ
「強度と修復、両方を維持する形にする」
ただ硬くするだけじゃない。
壊れても維持する。
その発想へ辿り着く。
猫神様は静かに頷く。
猫神様
「続けよ」
猫神様
「ワシは少し離れる」
ルナは小さく頷く。
そのまま、
再び結界へ集中した。
――
ナナは、猫神様と共に、
少し離れた場所へと来ていた。
木々に囲まれた、静かな空間。
風が優しく吹いている。
ナナ
「……猫神様」
猫神様
「うむ」
ナナは少しだけ視線を落とす。
その指先は、
どこか落ち着かない。
そして――
ナナ
「……あの」
猫神様
「なにかあったかの?」
ナナは小さく息を吸う。
少しだけ緊張している。
でも、
逃げるような目ではない。
猫神様
「よい。申せ」
ナナ
「私も……力が欲しいです」
ナナ
「見ているだけじゃなくて」
ナナ
「皆と一緒に」
ナナ
「出来ることをしたいんです」
ナナは顔を上げる。
その瞳は、
真っ直ぐだった。
ナナ
「だから……」
ナナ
「力を、貸してください」
猫神様はしばらくナナを見る。
静かに。
その奥を確かめるように。
そして、
小さく頷いた。
猫神様
「…これを与えよう」
猫神様は、ひょいと何かを取り出す。
それは――
ナナ
「……あら?」
ナナ
「可愛いですねぇ」
魚の形をしたクッション。
ふわふわとしていて、
丸みのある愛嬌のある形。
どう見ても、
戦う道具には見えない。
ナナ
「……これを?」
猫神様
「そうじゃ」
猫神様
「これを使いこなしてみよ」
ナナはクッションを両手で持ち、
じっと見つめる。
柔らかい。
暖かい。
不思議と、
少し安心する感覚があった。
ナナ
「……どうすればいいのでしょう」
少し考えて、
ナナ
「……こう、でしょうか?」
両手で持ったまま、
そっと前に押してみる。
何も起きない。
ナナ
「えい」
少しだけ力を込める。
それでも――
何も起きない。
ナナ
「……違いますねぇ」
ナナは首をかしげる。
ナナ
「猫みたいに……」
少し考えて、
ナナ
「……いえ、違いますね」
ナナは小さく笑う。
少し困ったような笑み。
ナナ
「難しいですねぇ……」
猫神様
「ナナ」
ナナ
「はい?」
猫神様
「焦るでない」
猫神様
「それは、力で動かすものではないのだ」
ナナ
「……力、ではない」
猫神様
「うむ」
猫神様
「お主の中にある想いを込めるのじゃ」
ナナは魚クッションを見る。
ふわふわした感触。
優しい手触り。
そして、
少しだけ目を閉じる。
――何かを思い出そうとする。
暖かい記憶。
大切な時間。
でも、
はっきりとは分からない。
霧がかかったみたいに、
ぼやけている。
ナナ
「……」
ナナ
「……分からないです」
少し寂しそうな声。
でも。
ナナ
「でも」
ナナ
「一人は、嫌です」
その言葉だけは、
迷い無く出た。
ナナは魚クッションを、
そっと抱きしめる。
まるで、
大事なものを守るみたいに。
そのまま、
しばらく動かない。
風だけが静かに吹く。
――何も起きない。
ナナ
「……あれ?」
少しだけ寂しそうに笑う。
ナナ
「難しいですねぇ」
猫神様
「それでよい」
猫神様
「すぐに形になるものではない」
ナナはゆっくり頷く。
ナナ
「……はい」
ナナはもう一度、
魚クッションを見る。
優しく撫でる。
ナナ
「……もう少し、やってみますね」
ナナは静かに座り込み、
クッションを膝の上に乗せる。
その手は、
とても優しく触れていた。
――
時間が流れる。
ミルは何度も走っては踏み込み、
何度も想いをぶつける。
ノワは何度も集中し、
何度も自分の想いと向き合う。
ルナは何度も結界を組み直し、
より強く、
より繊細な形を模索する。
ナナもまた、
自分の心と静かに向き合っていた。
それぞれが、
それぞれの形で。
少しずつ。
確かに。
前に進んでいた。
第二十四話 完




