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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第一章〜ドキワクの始まり〜
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23/43

「特別授業(前半)」

第二十三話



和室。


静かな空間。


畳の香り。


障子の向こうから、

微かに風の音が聞こえている。


張り詰めた空気の中で、


猫神様は三人をゆっくりと見渡していた。


ミル。


ノワ。


ルナ。


その視線は穏やかで、


けれど、

どこか試すようでもあった。


猫神様

「特別授業とは言ったがの」


猫神様

「やることは単純じゃ」


三人は自然と姿勢を正す。


空気が変わる。


先ほどまでの“話”ではない。


ここからは、

実際に前へ進むための時間。


少しの緊張が走る。


猫神様

「それぞれ、自分の足りぬ部分を鍛える」


猫神様

「まずはミル」


猫神様の視線がミルへ向く。


ミル

「はい!」


反射的に返事をする。


猫神様

「お主はスタミナと精神統一じゃ」


ミル

「……スタミナ?」


思わず聞き返す。


猫神様

「すぐ突っ込む癖があるからの」


猫神様

「最後まで持たねば意味がない」


ミル

「……はい!」


少しだけ悔しそうに頷く。


思い当たる節がありすぎた。


勢いで飛び出して、

途中で息が切れる。


ノワに止められる。


そんな流れを、

何度も繰り返してきた。


ノワが小さくため息を吐く。


ノワ

「自覚はあるのね」


ミル

「あり…ます……」


ミルはしょんぼりする。


猫神様の視線がノワへ移る。


猫神様

「ノワ」


ノワ

「……ええ」


猫神様

「お主はひたすら精神統一じゃ」


ノワ

「…えっ…それだけ?」


少し意外そうな声。


猫神様

「それだけで十分じゃ」


猫神様

「お主は考えすぎる」


ノワ

「……」


ノワは一瞬だけミルを見る。


すぐに視線を戻す。


図星だった。


守ること。


失敗しないこと。


危険を避けること。


色々考える癖が、

ずっと抜けない。


猫神様

「迷えば」


猫神様

「刃も鈍る」


ノワは静かに目を細めた。


猫神様の視線がルナへ向く。


猫神様

「ルナ」


ルナ

「はい」


猫神様

「結界の強度を上げるんじゃ」


ルナ

「はい」


短い返答。


けれど、

その表情は真剣だった。


猫神様

「歪み猫相手では」


猫神様

「今のままでは保たぬ」


ルナは静かに頷く。


結界は、

ただ張れば良いものじゃない。


強度。


範囲。


維持。


そして、

魂へ干渉する繊細さ。


全てが必要になる。


猫神様は三人を見渡す。


猫神様

「生半可な気持ちならやめておけ」


猫神様

「これは遊びではないからの」


静かな声だった。


だからこそ、

重かった。


沈黙。


誰もすぐには言葉を出さない。


ミルはゆっくり前へ出る。


ミル

「やります」


迷いの無い声。


その瞳は、

真っ直ぐ猫神様を見ていた。


猫神様はわずかに目を細める。


猫神様

「……そうか」


猫神様

「ならば一度帰れ」


ミル&ノワ

「「えっ!?」」


少し間の抜けた声が出る。


猫神様

「準備も必要じゃろうて」


猫神様

「心も、体もの」


ノワ

「そういう意味ね」


ミル

「……あ」


勢いだけでは駄目。


ミルはその意味が、

少し分かった気がした。


ノワ

「……確かに」


ルナ

「一度整える時間は必要ね」


ミル

「……分かりました!」


猫神様

「明日」


猫神様

「また来るがよい」


三人は静かに頷いた。


――


家。


扉が開く。


ミル

「ただいまです!」


ミルはバンザイポーズを取る。


空気が一気に明るくなる。


ノワ

「……本当に元気ね」


ノワ

「ナナ今帰ったわ」


ルナは静かに中へ入る。


ルナ

「ただいま……」


ナナ

「おかえりなさい」


優しい声が迎える。


その声を聞くだけで、

少し肩の力が抜ける。


ミルは勢いよく駆け寄る。


ミル

「ナナ!」


ミル

「明日から特別授業なんです!」


ミル

「ちゃんと、強くならないといけないんですよ!」


ナナは少し驚きながら、

嬉しそうに目を細める。


ノワ

「いきなりそんな事言っても伝わらないわよ」


ノワ

「第一……今までもやってたでしょ」


ミル

「違います!」


即答だった。


ミル

「今までは……」


少しだけ言葉に詰まる。


何となくやっていた。


目の前のことに必死だった。


でも今は違う。


ちゃんと“届かせる”ために強くなる。


その意味がある。


ミル

「なんとなく、でした」


ミル

「これからはもっともっと強くならないといけないんです!」


ノワは一瞬だけミルを見る。


その表情が、

少しだけ変わる。


ノワ

「……そう」


それ以上は何も言わない。


けれど、

ちゃんと伝わっていた。


ナナは"一瞬の間"を置いて優しく微笑む。


ナナ

「いいわねぇ」


ナナ

「なんだか、楽しそう」


ミル

「楽しいです!」


ミル

「ドキワクです!」


ノワ

「はいはい」


いつものやり取り。


少しだけ、

空気が柔らかくなる。


ルナは静かに口を開く。


ルナ

「……でも」


ルナ

「軽いものではないわ」


その声で、

空気が少しだけ静まる。


ナナ

「……そうなの?」


ミルは一瞬だけ視線を落とす。


――遊びではない。


猫神様の言葉が、

頭の中に残っていた。


ミル

「……はい」


小さな返事。


でも。


すぐに顔を上げる。


ミル

「でも」


ミル

「やります」


その瞳は、

しっかり前を向いていた。


ナナは少しだけ驚き、


優しく微笑む。


ナナ

「……そっか」


ナナ

「ミルらしいわね」


ミルは少し照れたように笑う。


ノワはそんなミルを見て、

小さく息を吐いた。


少しの間、


穏やかな時間が流れる。


静かで。


暖かい時間だった。


――


翌日。


玄関。


朝の空気は少し冷たい。


ミルは靴を履きながら、


ふと後ろを振り返る。


いつもの家。


いつもの景色。


でも、


昨日とは少しだけ違って見えた。


この家を守りたい。


皆を守りたい。


そんな気持ちが、

胸の奥で静かに大きくなっていた。


ミルは小さく息を吸う。


ミル

「……行きましょう」


ノワ

「ええ」


ルナ

「準備は出来てるわ」


三人が歩き出そうとした時だった。


ナナは少しだけ間を置いて、


ゆっくりと口を開いた。


ナナ

「……ま、待って」


三人が振り返る。


ナナは一度ルナの方を見る。


少しだけ緊張したような表情。


ナナ

「ルナ」


ナナ

「今から会いに行くのは……神様、なのよね?」


ルナは静かに頷く。


ルナ

「ええ」


ルナ

「猫神様よ」


ナナは小さく息を吸う。


ほんの少しだけ、


緊張したような表情。


けれど、

逃げるような顔ではなかった。


ナナ

「……そう」


ナナは視線を三人に戻す。


ナナ

「私も…」


ナナ

「私も、一緒に行きたいの」


ミル

「……え?」


ナナ

「見てるだけじゃなくて」


ナナ

「私にも、出来ることがあるかもしれないから」


ナナ

「だから……」


ナナ

「行かせてほしいの」


その声は優しいまま。


でも、


はっきりとした意思があった。


ただ守られているだけじゃない。


自分も進みたい。


そんな想いが伝わってくる。


ミルは一瞬驚き、


すぐに笑顔になる。


ミル

「大丈夫ですよ!」


ミル

「一緒に行きましょう!」


ノワは小さく息を吐く。


ノワ

「……やっぱりね」


ミル

「え?」


ノワ

「言い出すと思ってたわ」


ナナは少し驚いたように目を瞬かせる。


−−−


ミル

「これからはもっともっと強くならないといけないんです!」


−−−


ナナの“一瞬の間“をノワは見逃さなかった。


ノワ

「止める気はないわよ」


ノワ

「ちゃんと考えて言ってるんでしょ?」


ナナは静かに頷く。


ナナ

「ええ」


ノワ

「ならいいわ」


短く、

そう言って前を向く。


ルナはナナを見つめ、


小さく頷いた。


ルナ

「……問題ないわ」


その言葉に、

ナナの表情が少しだけ柔らかくなる。


ミルは嬉しそうに笑う。


ミル

「決まりです!」


ミル

「ナナも一緒に行きましょう!」


ミルは扉に手をかける。


ミル

「行きますよ!」


扉が開く。


朝の光が差し込む。


四人は外へ出る。


新しい一歩が、


静かに始まった。


第二十三話(前半) 完

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