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ドキワク猫の冒険  作者: NOBU
第一章〜ドキワクの始まり〜
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21/43

「猫神様(前半)」

第二十一話



異世界。


静かな空間。


風も音もない。


空気は澄み切っていて、

耳が痛くなるほど静かだった。


ただ、

この世のものではない空気だけが、

そこに広がっている。


石の階段。


古く長い階段。


その先に、

神社が静かに佇んでいた。


ミル

「……なんか」


ミルは思わず立ち止まる。


青い瞳が、

神社を真っ直ぐ見つめていた。


ミル

「すごいです」


ノワ

「……何がよ」


ミル

「分かりません」


ミル

「でも、すごいです」


言葉に出来ない。


けれど、

空気だけで分かる。


ここは、

普通の場所じゃない。


ルナ

「……そうね」


ルナは静かに前を見る。


その声も、

どこか静かだった。


三人は階段を上がる。


一段。


また一段。


石を踏む音だけが響く。


進むほどに、

空気が変わっていく。


重いわけじゃない。


苦しいわけでもない。


けれど、

身体の奥まで見透かされるような感覚があった。


ノワ

「……妙ね」


ノワ

「気配が無さすぎる」


ルナ

「ここはそういう場所よ」


ルナの言葉に、

ノワは小さく目を細めた。


――


境内。


三人は足を止める。


静かだった。


木々も。


空気も。


まるで、

時間そのものが止まっているみたいだった。


ミル

「……あれ?」


ノワ

「居ないじゃない」


ルナ

「……」


その時。


ノワの目がわずかに動く。


空気の揺れ。


ほんの僅かな違和感。


ノワ

「……後ろ!」


ノワは反射的にミルを庇うように動く。


ミル

「え?」


振り返る。


そこに居た。


いつの間にか。


気配も無く。


音も無く。


まるで、

最初からそこに居たかのように。


白装束。


小柄な体。


獣の姿。


杖を持った存在。


猫神様だった。


ミル

「……!」


ノワ

「……っ」


猫神様

「……来たかの」


その声は穏やかだった。


けれど、

空気が震えるような重みがあった。


ルナ

「お呼びにより参りました」


ミル

「……猫神様」


猫神様の目が、

ゆっくりとミルへ向く。


猫神様

「ほう」


猫神様

「この子がそうか」


ミル

「は、はい!」


ミル

「ミルです!」


猫神様

「うむ」


猫神様

「元気じゃの」


ミル

「はい!」


ノワはまだ警戒している。


わずかに肩へ力が入っていた。


猫神様

「安心せい」


猫神様

「取って食ったりはせん」


ノワ

「……そういう問題じゃない」


猫神様は小さく笑う。


ノワは一歩下がり、

ミルの横に立った。


それでも、

すぐ動ける位置は崩さない。


ルナ

「それで」


ルナは静かに切り出す。


ルナ

「歪み猫の件で」


その言葉と同時に、

空気が少し沈んだ。


猫神様

「うむ」


猫神様は杖を軽くつく。


コツン


乾いた音が、

静かな境内へ広がる。


猫神様

「見たのじゃな」


ミル

「……はい」


ミルの表情が変わる。


あの時の光景。


黒い巨体。


苦しそうな声。


消えない。


ミル

「苦しんでました」


猫神様

「……じゃろうな」


猫神様の声は静かだった。


まるで、

最初から全て知っているように。


猫神様

「助けるつもりかの?」


ミル

「助けます」


迷いは無かった。


即答だった。


猫神様

「簡単ではないぞ?」


ミル

「分かってます」


猫神様

「……そうかの?」


猫神様

「本当に、分かっておるかの?」


ミル

「……」


ミルは言葉を失う。


猫神様

「“助ける”というのはの」


猫神様

「綺麗事なものだけではない」


その声は、

優しくもあり、

厳しくもあった。


ミルは黙って聞いている。


猫神様

「それでも、行くかの?」


静かな問いだった。


試すようでもあり。


確認するようでもある。


ミルはゆっくり顔を上げる。


ミル

「……はい」


その瞳は、

震えていなかった。


猫神様はしばらくミルを見る。


静かに。


真っ直ぐに。


猫神様

「……そうか」


猫神様

「ならば」


猫神様はくるりと背を向ける。


白い装束が静かに揺れた。


猫神様

「長くなりそうじゃ」


ミル

「……え?」


猫神様

「中で話そうかの」


猫神様は歩き出す。


猫神様

「ついて来るといい」


三人はその背中を追う。


――


夜。


家。


静かな時間。


昼間の賑やかさが嘘みたいに、

家の中は静かだった。


ナナは部屋の中に居た。


窓の外では、

夜風が木々を揺らしている。


ナナ

「今日は、静かですね」


ナナは小さく微笑む。


どこか寂しそうで、

でも優しい笑みだった。


ナナ

「今日も……書いておきましょうか」


ナナは机へ座る。


紙を手に取り、

ペンを持つ。


少し考えてから、

静かに書き始めた。


小話

ナナの日記⑦


私はナナ。


今日は、七回目の日記です。


少しだけ、特別な気がしています。


自分の名前と同じ「ナナ」だからでしょうか。


なんだか、ほっこりした気がします。


こうして少しずつ書いていると、

日記を書くことにも慣れてきました。


今日は家の中で一人、


ゆっくりしていました。


最近はミルとノワとルナが外に出ることも増えて、

帰りが夜になる日もあります。


こんな日は、

少し不安になります。


皆が居る時はそんなふうには思わないんだけどね。


昨日もミルは、


相変わらず元気で、


部屋の中にあるおもちゃを見つけては、

楽しそうに遊んでいました。


「これ、すごいです!」


「動きます!」


「ドキワクしてきました!」


ノワは呆れたようにため息をつきながらも、

いつもちゃんと近くで見ています。


ミルが転びそうになると、

さりげなく支えていました。


ミルもとても嬉しそうです。


本当に仲の良い姉妹を見ているようで、


少しだけ羨ましくも思います。


私は、

その様子を少し離れたところから見ていました。


こういう時間が、

とても好きです。


静かで、

少し賑やかで、

優しい時間です。


そして、


ルナが、

この家は記憶を失う前から私の家だと教えてくれました。


だから私は、

家の中を少し見て回りました。


まだ知らない場所があるような気がして、

気になっていたからです。


私が使っている部屋には、

古い時計があります。


壁に掛かっていて、

静かに動いています。


カチ、カチ、と。


ゆっくり音が鳴っています。


でも、

その時計には「七」がありません。


その場所だけ、

ぽっかりと空いています。


少し不思議です。


どうして無いんでしょうか。


それから、

もう一つ気になっていることがあります。


この家には、

開かない扉があります。


何度か開けてみようとしたのですが、

開きませんでした。


鍵がかかっているみたいです。


だから私は、

掃除をしながら、

こっそり鍵を探しています。


少しだけ、

楽しいです。


これは、

私の小さな冒険です。


まだ見つかっていませんが、

いつか見つかる気がしています。


もし開いたら、

何があるんでしょうか。


ミルのように言うと、


ドキワクします。


でも、

怖くはありません。


きっと、

鍵を掛けるほど大事なものがあるのでしょう。


最後に。


ミルとノワとルナのことを書いておきます。


三人がこの家に居る時は、


とても賑やかで、


見ているだけで、

なんだか嬉しくなります。


でも、


三人が外に出ている時間は、


静かすぎて、


少しだけ、

不安になります。


だからこそ、


こうして一緒に過ごす時間が、


とても大切に感じます。


まだ何も思い出せない私でも、


ここに居ていいと思えます。


それが、

とても嬉しいです。


だから。


これからも、

ちゃんと覚えていたいです。


この時間を。


この気持ちを。


今日は、

少しだけ特別な日記でした。


ナナより。


――


猫神様に導かれ、


三人は建物の中へ入る。


古い木の廊下。


歩くたび、

床が静かに鳴る。


襖が開かれる。


そこは、

和室だった。


広い一室。


畳の香り。


静かな空気。


長方形の木製の机。


静かに置かれている。


壁には掛け軸。


そして、

その横には


立派な木彫りの猫。


今にも動き出しそうなほど、

精巧だった。


ミル

「……すごいです」


ミルは目を輝かせる。


ノワ

「……落ち着くわね」


ルナは何も言わず、

静かに周囲を見ている。


三人は座る。


猫神様は向かいに腰を下ろした。


ノワの視線が動く。


掛け軸へ向く。


ノワ

「……何も描かれてない?」


猫神様

「今はの」


猫神様

「また形取る日もあるかも知れんが」


猫神様

「今はそれよりも歪み猫じゃ」


その瞬間。


空気が変わる。


静かだった部屋が、

少しだけ重くなる。


猫神様

「浄化とはな」


猫神様

「苦しみから解き放つことじゃ」


ミル

「……」


猫神様

「じゃが」


猫神様

「それが全てではない」


ノワ

「……どういう意味?」


猫神様

「まだ知らぬ方が良いこともある」


猫神様

「じゃが」


猫神様

「いずれ知ることになる」


ルナは静かに目を細める。


何かを理解しているような。


まだ聞かない方が良いと、

そう分かっているような表情だった。


ミルは猫神様を見る。


ミル

「……それでも」


ミル

「助けます」


猫神様はゆっくりと目を細めた。


猫神様

「……よい」


静かな空気が流れる。


誰も喋らない。


ただ、

遠くで風の音だけが聞こえていた。


猫神様はゆっくりと口を開いた。


第二十一話 完

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