「初めての連携」
第二十話
リビングには暖かな灯りが点いていた。
テーブルの上には、
ナナが用意した晩ご飯。
湯気と一緒に、
優しい匂いが部屋へ広がっている。
リビングの扉が開く。
ナナ
「おかえりなさい」
ミル
「ドキワク帰宅です!」
ミルは元気よく飛び込んでくる。
そのまま両手を上げ、
バンザイのポーズ。
白いフードまでぴょこっと揺れた。
ノワとルナが、
少し遅れて入ってくる。
ルナ
「戻ったわ」
ノワ
「ただいま……疲れた」
ルナ
「当然でしょ」
ミル
「ナナ!」
ミル
「ちゃんと出来るようになりました!」
ルナ
「……一応ね」
ミル
「一応じゃないです!」
ミル
「ちゃんと当てられました!」
ルナ
「“当てた”だけでしょ」
ミル
「……」
一瞬止まる。
悔しそうに口を尖らせる。
だがすぐに顔を上げた。
ミル
「でも」
ミル
「届いてました」
ルナ
「……そうね」
ルナは少しだけ頷く。
ルナ
「そこは認める」
ミル
「やりました!」
ミルは嬉しそうに猫じゃらしを握る。
ナナ
「ふふ」
ナナ
「すごいのねぇ」
ミル
「はい!」
ミル
「次はちゃんと助けます!」
ナナの表情が、
少しだけ柔らかくなる。
だがその瞳には心配も残っていた。
ナナ
「……そっか」
ナナ
「でもね」
ミル
「?」
ミルは視線を上げる。
ナナ
「無理はしなくていいのよ」
ミル
「……」
ナナ
「私は帰ってきてくれるのが」
ナナ
「一番…嬉しい」
静かな声だった。
ミルは少し俯く。
ミル
「はい……」
猫じゃらしを握る手に、
少し力が入る。
ミル
「……でも」
ミル
「苦しんでるのに」
ミル
「助けないのは嫌です」
部屋の空気が静かになる。
誰もすぐには言葉を返さなかった。
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ノワ
「……ミル」
ノワはゆっくり口を開く。
少しだけ真剣な声。
ノワ
「助けるのはいい」
ノワ
「でも」
ノワ
「あなたがやられたら意味ないでしょ」
ミル
「……」
ノワ
「それじゃ守れないのよ」
ノワ
「誰も」
ノワは、
少しだけ強く拳を握った。
ミルはその横顔を見る。
ルナ
「その通り」
ルナ
「助けたいなら」
ルナ
「生き残ることを優先しなさい」
ミル
「……」
ルナ
「あなたはまだ」
ルナ
「無理が効く段階じゃない」
ルナ
「……一人で戦ってる訳じゃないんだから」
ミルはゆっくり頷く。
ミル
「……はい」
小さい返事。
でもちゃんと届く声だった。
ナナはそっと目を細める。
ナナ
「全部、繋がってるのよ。ミル」
ナナ
「あなたが帰ってくることで、繋がる明日もあるの」
ナナ
「だからちゃんと帰ってきてね」
ルナ
「ナナには心配かけられないものね」
ノワ
「ええ」
ミル
「はい!」
静かな空気。
だけど、
少しだけ暖かかった。
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夜。
二階。
窓の前。
ミルは静かに外を見ていた。
暗い異世界。
遠くの街は静まり返っている。
ミル
「……」
猫じゃらしを握る。
ミル
「……助けたいです」
ミル
「でも」
ミル
「生き残らなきゃだめです」
小さな声。
自分へ言い聞かせるみたいに。
その後ろから、
静かに足音が近づく。
ノワ
「そうよ」
ミル
「……ノワ」
ノワ
「命あってのものだからね」
ミル
「……はい」
ノワ
「だから」
ノワは少しだけ間を置く。
言葉を選ぶみたいに。
ノワ
「絶対生きて」
ミル
「……!」
ミルは振り返る。
ノワは少し視線を逸らした。
ノワ
「でも私が居る時は」
ノワ
「ミルにしか出来ないことに集中しなさい」
ノワ
「背中は私が守るから」
ミル
「ノワァ……!」
ミルの目が一気に輝く。
キラキラした眼差し。
ノワは気まずそうに顔を逸らした。
ノワ
「……守るから」
小さな声。
でも、
確かな言葉だった。
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朝。
玄関。
ナナ
「みんな、気を付けてね」
ミル
「いってきます!」
ノワ
「……いってくる」
ルナ
「行くわよ」
扉が開く。
朝の光が差し込む。
三人は外へ出た。
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昼。
空き地。
少し開けた場所。
風が砂を揺らしている。
ミルとノワ、
そしてルナが向かい合っていた。
それぞれの手には、
新聞紙で出来たミルお手製の剣。
――ミル剣。
軽い。
だが握る手にはちゃんと意識が乗っていた。
ルナは静かに構える。
ルナ
「始めるわよ」
次の瞬間。
ルナが踏み込む。
一瞬で距離が詰まった。
砂が弾ける。
ミル
「速っ……!」
反応が遅れる。
慌てて振る。
空を切る。
ルナのミル剣が振られる。
――パシッ
ミルの肩へ当たる。
ミル
「っ……!」
軽いはずの一撃。
だが確かに“当てられた”感覚が残る。
ルナ
「見てから動いて」
ミル
「見てます!」
ルナ
「見えてない」
即答。
次の瞬間。
ルナの踏み込みが深くなる。
一直線にミルへ向かう。
ノワ
「ミル、下がって!」
ノワが動く。
ミルの前へ滑り込む。
ミル剣を振る。
――カツン
ミル剣同士がぶつかる。
完全には止めきれない。
ルナのミル剣が、
わずかに抜ける。
ミル
「っ……!」
ギリギリで避ける。
足がもつれる。
体勢が崩れる。
ノワ
「だから言ったでしょ!」
ミル
「まだいけます!」
ルナが追撃する。
速い。
角度が変わる。
読みきれない。
ノワ
「来る!」
ノワが前へ出る。
ルナの正面へ。
ミル剣を構える。
視線を合わせる。
ルナ
「甘い」
ルナの足運びが変わる。
滑るように軌道がズレる。
そのままミルへ。
ミル
「……っ!」
迷う。
守るか。
振るか。
振る。
――スカッ
空振り。
ノワ
「今じゃない!」
ミル
「でも今しか……!」
ノワ
「違う!」
ルナが止まる。
距離を取る。
風が抜ける。
ルナ
「……バラバラね」
静かな声。
重く刺さる。
ミル
「……」
ノワ
「……」
ルナ
「全部やろうとしてる」
ルナ
「だから全部遅れる」
ミルはミル剣をぎゅっと握る。
ルナ
「役割を決めなさい」
ルナ
「今ここで」
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一瞬の静寂。
風だけが吹く。
ルナ
「もう一度」
ルナが踏み込む。
砂が舞う。
ミル
「……!」
今度は振らない。
足を引く。
体をずらす。
避ける。
位置を取る。
ルナ
「そう」
攻撃が来る。
角度が鋭い。
ノワ
「ミル、後ろ!」
ノワが前へ出る。
ミル剣を構える。
ルナと正面でぶつかる。
――カンッ
ミル剣同士がぶつかる。
押される。
だが、
退かない。
ミル
「……」
ミルは止まる。
見る。
呼吸を整える。
ノワ
「来なさい!」
ノワが踏み込む。
わざと前へ。
ルナを引き付ける。
ルナの視線が、
ノワへ向いた。
ミル
「……」
ミルの目が変わる。
ミル
「……任せます!」
地面を蹴る。
一直線。
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ノワ
「任された!」
---
ノワが前へ出る。
ミル剣を合わせる。
――カッ
受ける。
押される。
歯を食いしばる。
ノワ
「通さない……!」
ルナ
「……いいわ」
ミル
「……今!」
振る。
ミル剣が一直線に伸びる。
――パシッ
ルナの肩へ当たる。
ルナの動きが止まった。
ルナ
「……それよ」
ミル
「……!」
ノワ
「……遅いけど、悪くない」
ルナが再び動く。
今度はさらに速い。
ミル
「見えてます!」
ルナ
「なら外さないで」
ノワ
「左!」
ミル
「はい!」
三人の動きが繋がる。
一瞬のズレが減る。
タイミングが合う。
ミル剣の音。
足音。
呼吸。
全部が少しずつ重なっていく。
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夕方。
赤く染まる空。
三人は動きを止めた。
ミル
「……はぁ……」
肩で息をする。
ノワ
「……まだ荒いわね」
ルナ
「でも」
ルナ
「形にはなった」
その時。
ルナの動きが止まる。
ルナ
「……」
ほんの少しだけ、
視線が遠くなる。
――ルナ。
頭の中へ響く声。
猫神様
「ルナ」
ルナ(心)
「……猫神様?」
猫神様
「歪み猫の件じゃ」
短い言葉。
だが空気が変わる。
猫神様
「近く……ミル達を連れて来れるか?」
ルナ(心)
「……分かりました」
猫神様
「待っておる」
声が消える。
---
ミル
「ルナ?」
ノワ
「どうしたの」
ルナは二人を見る。
少しだけ真剣な目。
ルナ
「……予定変更よ」
ミル
「え?」
ルナ
「猫神様が呼んでる」
ノワ
「…猫…神様?」
ミル
「猫神様!」
ルナ
「詳しい話は向こうで」
ルナ
「行くわよ」
ミル
「……はい!」
ノワ
「……行けば分かるのね」
ルナ
「ええ」
三人は走り出す。
夕焼けの中。
その先へ。
第二十話 完




