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「歪みの脅威」

第十七話



ミルは再び踏み出す。


ノワ

「やめなさいって!!」


ノワの声が響く。


だが、


ミルは止まらない。


ノワ

「ミル!」


歪み猫の奥。


苦しそうに揺れるその姿が、


頭から離れなかった。


その瞬間。


ぐにゃり――


空間が大きく歪む。


景色が揺れた。


地面。


壁。


空気。


全てが、


一瞬だけ別の位置へ滑ったような感覚。


ノワ

「……っ!?」


位置が読めない。


そこに居る。


だが、


そこに居ない。


一瞬前の場所でも、


今見えている位置でもない。


“重なっている”。


歪み猫の前脚が振られる。


ノワ

「ミル!!」


ノワは反射的に踏み込む。


ミルの腕を掴み、


強引に引き寄せた。


黒いフードが少し翻る。


間一髪。


だが――


避けきれない。


歪み猫の爪が、


ノワの肩を浅く掠めた。


ノワ

「ぐっ……!」


鈍い衝撃。


肩に重い痛みが走る。


ノワの体勢が、


わずかに崩れた。


ミル

「ノワ!」


ノワ

「平気!」


即答。


だが、


視線は歪み猫から外さない。


ノワ

「……下がりなさい」


ミル

「でも――」


ノワ

「いいから!」


歪み猫が揺れる。


次の瞬間、


一気に距離が詰まった。


ミル

「……っ!」


猫じゃらしが光る。


ピンク色の光が、


夜の空間を照らした。


ノワ

「来る!!」


ノワは地面を蹴る。


ポケットから取り出したレーザーポインター。


黄色い光が一直線に走った。


鋭い軌跡。


確かに当たった。


――はずだった。


ノワ

「……っ!?」


歪み猫の体が、


ぐにゃりとズレる。


当たった感触が無い。


その瞬間。


別の位置から前脚が振り下ろされる。


ノワ

「チッ――!」


無理矢理体を捻る。


完全には避けきれない。


鈍い衝撃。


ノワ

「ぐっ……!」


ミル

「ノワ!!」


ミルが飛び込む。


ノワの前へ出る。


猫じゃらしを振る。


ピンクの光が弾けた。


歪み猫へぶつかる。


ぐらり――


歪み猫の動きが、


一瞬だけ止まる。


それでも、


完全には止まらない。


重い。


押し返される。


ミル

「っ……!」


足が滑る。


それでも、


ミルは踏ん張る。


ノワ

「ミル離れなさい!!」


ミル

「離れません!!」


ミル

「助けます!!」


さらに力を込める。


猫じゃらしの穂先。


ピンク色の光が、


さらに強く輝く。


だが――


歪み猫の体が大きくズレる。


ミル

「……っ!」


攻撃が空を切る。


その隙。


歪み猫が踏み込む。


近い。


間に合わない。


ノワ

「ミル!!」


その瞬間。


――横から紫色の線が走った。


糸のような光。


空間を裂くように一直線に伸びる。


歪み猫へ巻き付く。


歪み猫の動きが止まった。


正確には、


“止められた”。


空間のズレごと、


縫い止めるように。


ミル

「……え?」


ノワ

「……今の」


静かな声。


ルナ

「……やっぱり居たわね」


振り返る。


路地の入口。


ルナが立っていた。


灰色のフード。


紫色の光を帯びた糸が、


指先から伸びている。


その目は、


まっすぐ歪み猫を見据えていた。


ルナ

「それ以上近づかないで」


ルナはゆっくり歩く。


落ち着いた足取り。


だが、


視線は一切逸らさない。


ルナ

「それ」


ルナ

「普通の迷い猫じゃない」


ミル

「……でも」


ミル

「苦しんでます」


ルナ

「分かってる!」


即答だった。


ルナ

「だからこそ」


ルナ

「今のままじゃ無理よ!」


糸に力を込めながらルナは答える。


歪み猫の体が、


糸の中で揺れる。


だが、


完全には動けない。


空間そのものを、


糸で押さえ込んでいる。


ルナ

「一度引くわよ!」


ノワ

「……賛成」


ミル

「……」


ミルは歪み猫を見る。


苦しそうに揺れるその姿。


悲鳴のような唸り声。


ミル

「やっぱり放っておけません!」


ミルが猫じゃらしを構える。


ノワ

「ミル!」


一瞬の間。


ルナ

「良いわよ」


静かな声。


ルナ

「その子の魂が砕け散っても良いのならそうしなさい」


ミル

「え?」


ノワ

「…」


ルナ

「本当に助けたいなら、今は引きなさい」


ミル

「……」


拳を握る。


悔しそうに唇を噛む。


それでも、


ミルはゆっくり猫じゃらしを下ろした。


ミル

「……分かりました」


ルナ

「いい子ね」


ルナは軽く頷く。


ルナ

「行くわよ!」


ルナ

「合わせて!」


ノワ

「ええ!」


ミル

「はい!」


その瞬間。


糸が解ける。


歪み猫の体が、


一気にズレる。


ぐにゃり――


空気が歪む。


だが、


ミル達はすでに動いていた。


三人はその場を離れる。


足音だけが、


静かな夜へ消えていく。


歪み猫だけが、


その場に残った。


揺れ続ける。


歪み続ける。


そして――


ゆっくりと、


こちらを“見ていた”。


第十七話 完

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