「それぞれの日常(後半)」
第十三話
屋根の上。
ルナは街を見下ろしている。
その視線の先にある空き地。
ミルとノワが居る。
ミル
「ノワ!こうやって猫じゃらしは振るんですよ!」
ノワ
「ミル!そんなに振り回したら危な、、、」
パシッ
ミル
「あてッ!」
ノワ
「百発百中ね」
ルナは静かに見ている。
ルナ(心)
「フフ、、元気ね」
毛糸玉を取り出す。
ルナは糸を軽く引く。
ミル(遠声)
「当たりました!」
シュッ
糸が空中に円を描く。
紫の光。
ノワ(遠声)
「自分に当ててどうするのよ」
ドーム状の結界が張られる。
結界の中。
空気が少し静かになる。
ルナはフードを外す。
その瞬間――
ルナは猫の姿に戻る。
サバトラ猫。
ルナはそのまま座る。
夜風。
ルナ
「……やっぱりこの姿が一番感覚が冴えるわね」
少し目を細める。
ルナ
「……戦えないけど」
ルナはしばらく夜の街を見降ろしている。
やがてルナは立ち上がる。
フードを被る。
次の瞬間。
ルナは人間の姿に戻っていた。
ルナは毛糸を弾く。
パチッ
結界がほどける。
ミル(遠声)
「ドキワクです!」
ノワ(遠声)
「ドキワクで片付けない!」
ルナ
「さて」
ルナ
「巡回の時間ね」
−−−
夜。
家。
キッチン。
鍋から湯気が立ち上っている。
ナナは鍋をかき混ぜていた。
ミル
「いい匂いです!」
ノワ
「シチューね」
ナナ
「今日は少し寒いでしょう?」
ナナ
「体が温まるものにしたの」
ミルは鍋を覗き込む。
ミル
「ドキワクシチューです!」
ノワ
「そんな言葉無いわよ」
ナナ
「ミル、パンお願い」
ミル
「任せてください!」
ミルはパンを並べ始める。
ノワは皿を並べている。
ナナは二人の様子を見て、
少し微笑む。
ナナ
「仲良しね」
ミル
「はい!」
ミル
「仲良しです!」
ノワ
「!」
ノワは少しだけ後ろを向く。
その尻尾がふわりと揺れた。
ミルが鍋を見ている横で、
ナナはその様子を見て
優しく微笑む。
ミル
「ナナ」
ナナ
「なあに?」
ミル
「迷い猫って」
ミル
「怖いですか?」
ノワ
「急にどうしたの」
ミル
「初めて見た迷い猫は泣いてるように見えたんです」
ナナは少し考える。
ナナ
「怖い子もいるわね」
少し間。
ナナ
「でもね」
ナナ
「本当はみんな」
ナナ
「寂しいだけよ」
ミル
「寂しい?」
ミルは少し首をかしげる。
ナナ
「ええ」
ナナは少しだけ、
悲しそうに微笑む。
ナナ
「ルナから聞いたわ」
ナナ
「迷い猫達のこと」
ナナ
「みんな辛い過去を持っているって」
ミル
「はい。ミルも聞きました」
ナナ
「この世界に来て尚」
ナナ
「生前の苦しみと」
ナナ
「今も一人で戦っているんだもの」
ナナの表情が
少しだけ真剣になる。
ナナ
「そんな子達を」
ナナ
「一人のまま魔物にさせたくないわ」
ナナ
「私は、自分が何者なのかも」
ナナ
「今だに思い出せないけど」
ナナ
「一人、いや一匹でも多くの魂を救いたい」
少しの間。
ナナ
「ミルはどうしたい?」
ミル
「助けたいです!」
ナナ
「私もそう」
ナナ
「助けたいわ」
ナナ
「出来れば私も」
ナナ
「一緒に戦って救いたい」
ナナ
「でも」
ナナ
「私は戦えないでしょう?」
ナナは少しだけ肩をすくめる。
ナナ
「だから」
ナナ
「私はミル達を信じてる」
ナナ
「この先も出逢う魂たちが」
ナナ
「救われることを」
ミルは目を輝かせる。
ミル
「任せてください!」
ミル
「いっぱい助けます!」
ノワ
「簡単に言うわね」
ナナ
「ふふ」
ナナ
「お願いね」
ナナ
「小さなヒーローさん」
ミルは目を輝かせる。
ミル
「ドキワクヒーローです!」
ノワ
「ヒーローなら少しは落ち着きなさい!」
ナナは窓の外を見る。
夜空。
静かな星。
ナナ(心)
「大丈夫」
「ミル達なら」
その時――
ナナの表情がわずかに変わる。
ナナ
「……え?」
ミル
「どうしました?」
ナナは、
ゆっくりと窓の外を見る。
夜の街。
ナナ
「今……」
ノワ
「?」
ナナ
「ううん」
ナナは小さく首を振る。
ナナ
「気のせいかしら」
ミル
「?」
ナナはもう一度夜空を見上げる。
ナナ(心)
「今のは……」
しばらくの沈黙。
しかし
それ以上何も言わなかった。
−−−
夜。
住宅街の外れ。
静かな路地。
街灯の光が、
ぼんやりと地面を照らしている。
その闇の中に
黒い影が立っていた。
獣のような姿。
全長三メートルほど。
黒い身体。
その表面に
赤い光の模様が、
ゆっくりと浮かび上がっている。
ドクン
ドクン
まるで鼓動のように脈打つ。
獣はゆっくりと顔を上げた。
赤い目。
その視線が、
夜の街を見渡す。
低い呼吸が、
静かな路地に漏れる。
ゴォ……
その牙がわずかに覗く。
「……ユル……」
低い声。
「……サナ……」
赤い模様が、
ゆっくりと光る。
「……イ」
しばらくの沈黙。
その目の奥に
憎しみがゆっくりと燃え上がる。
「……ユルサナイ」
獣はゆっくりと歩き出す。
重い足音。
ドン
ドン
その影が街灯の下を通る。
黒い身体に赤い模様が浮かび上がる。
夜の街は
まだその存在を知らない。
だが
確実にそれは
目を覚ましていた。
第十三話 完




