「守る想い」
第十話
夕方。
西日のやわらかな光が窓から差し込んでいる。
ミルは椅子に座りながら、
猫じゃらしを見つめていた。
ミル
「……」
ミル
「ナナ……私……」
ナナ
「まだ無理しちゃダメだよ!」
ミル
「大丈夫です!」
ミル
「もう元気ですよ!」
ナナ
「昨日倒れたばっかりだよ?」
ミル
「それは……」
ミルは少し気不味そうに視線を逸らす。
ミル
「ドキワクしすぎました」
ナナ
「理由になってないよ」
その時――
リビングの扉が開く。
ノワ
「ただいま」
ルナ
「戻ったわ」
ミル
「ノワ!」
ミル
「ルナ!」
ミル
「おかえりなさい!」
椅子から腰を上げたミルが声をかける。
ノワ
「もう大丈夫なの?」
ミル
「ドキワク待機してました!」
ミルは元気に敬礼をする。
ノワ
「何よそれ」
ルナはミルの手の猫じゃらしを見る。
ルナ
「……光が残ってる」
ミル
「はい!」
猫じゃらしが微かにピンク色の光を放っている。
ミル
「まだ少しだけ……」
ルナ
「想いの余韻よ」
ナナ
「余韻?」
ミル
「想いの力です!」
ミルは猫じゃらしを掲げ、得意げに言う。
一同
「……」
ノワ
「それ」
ノワ
「どういう仕組みなの?」
ルナ
「この世界には」
ルナ
「想いを形にする力がある」
ナナ
「想い?」
ルナ
「そう」
ルナは腕を上げる。
ルナ
「例えば……」
シュッ
毛糸が空中に伸びる。
ナナ
「えっ……」
毛糸が輪を描く。
ミル
「出ました!」
ノワ
「それも武器?」
ルナ
「これは技」
ルナ
「想いの創造」
毛糸がほどけ、
ルナの手元に戻る。
ルナ
「想いが強ければ強いほど」
ルナ
「現象になる」
ルナ
「武器や」
ルナ
「技になることもある」
ルナは猫じゃらしを指さす。
ルナ
「武器はただの媒体にすぎない」
ルナ
「それでも普通は何年も修行しないと扱えない」
ノワ
「……」
ミル
「すごいです!」
ミルは椅子から降りた。
ミル
「では今からミルは更に特訓ですね!」
ミルのキラキラした目を見て、
ノワは小さくため息をつく。
そして椅子に腰を下ろす。
ノワ
「病み上がりが何言ってるのよ」
ミル
「でも!」
ミル
「迷い猫さんがいたら――」
ノワ
「ダメ」
ミル
「えー」
ミルは頬を膨らませる。
ナナは少し笑う。
ナナ
「元気になったね」
その時――
ノワのポケットの中で、
小さな光が揺れる。
レーザーポインター。
ノワは気付く。
ミル
「ナナもそう思いますよね?」
光が少し強くなっている。
ノワはちらっとルナを見る。
ルナも気付いていた。
二人の視線が合う。
ノワ(小声)
「これって……」
ナナ
「まぁまぁ今日はゆっくりしましょう?」
ルナ(小声)
「近くにいるわね」
ミル
「えー」
ノワ
「ちょっと出かけてくるから」
ノワが立ち上がる。
ミル
「ノワ、どうしたんですか?」
ノワ
「ルナがミルを休ませろって言ってるのよ」
ルナ
「!」
ルナ
「そ、そうね」
ルナ
「あなたは病み上がりだもの」
ノワ
「そういうことだから」
ノワ
「ナナ、悪いけどあとよろしくね」
ナナ
「え?」
ミル
「……?」
ノワとルナは、
そのまま外へ出ていく。
ミル
「……ノワ?」
――
夜の路地。
静かな街。
レーザーポインターの光が少し強くなる。
ノワ
「光が強くなったわ」
ルナ
「近い」
その瞬間――
闇の中で赤い目が光る。
迷い猫。
低く唸る。
ノワ
「!」
迷い猫が飛びかかる。
ノワはとっさにレーザーポインターを向ける。
光。
迷い猫の動きがわずかに鈍る。
しかし、
止まりはしない。
ノワ
「ちょっと……!」
ノワ
「やっぱりただのライトじゃない!」
ノワ
「だったら最初からそう言いなさいよ!」
迷い猫の爪が迫る。
ノワ
「くっ!」
ノワは横に跳ぶ。
すかさず光を迷い猫に向けるノワ。
迷い猫
「グウゥ」
しかし少し怯む位で戦いにならない。
また迷い猫が踏み込んで来る。
ノワは怯みながらも突っ込んでくる迷い猫の爪をギリギリで回避し、
距離を空けるように飛び退く。
ノワ
「……この武器!」
地面を滑る。
ノワ
「……弱すぎる!」
ルナの毛糸が飛ぶ。
シュッ
迷い猫の体に巻き付く。
一瞬動きが止まる。
ルナ
「今よ!」
ノワはレーザーポインターを向ける。
光。
しかし、
迷い猫はまだ動く。
ノワ
「ミルは……」
ノワ
「こんなので戦ってたの?」
ノワ
「……ハァ……ハァ」
ノワは歯を食いしばる。
ノワ
「ミルは」
ノワ
「もっと怖かったはずよ」
ノワ
「それでも」
ノワ
「前に出た」
~回想~
ルナ
「想いが強ければ強いほど」
ルナ
「現象になる」
ルナ
「武器や」
ルナ
「技になることもある」
~回想終了~
ノワ
「……なるほどね」
肩で息をするノワは小さく息を吐く。
迷い猫が拘束を解き、距離をとる。
次の瞬間――
地面を蹴った。
速い。
ノワ
「っ……!」
ノワは横へ跳ぶ。
だが、
避けきれない。
鋭い爪が、
頬をかすめた。
ノワ
「……!」
赤い線が走る。
ルナ
「ノワ!」
ノワ
「平気よ……!」
そう言い返しながら、
足はわずかに震えていた。
迷い猫は低く唸り、
再び距離を取る。
ノワは荒い息を整えながら、
頬に触れる。
指先に、
血がついた。
ノワ
「……ほんとに嫌になるわね」
ノワはレーザーポインターを握り直す。
ノワ
「ミルは……」
ノワ
「こんなの相手にしてたの?」
一瞬だけ、
昼間のミルの笑顔が浮かぶ。
――
ミル
「ドキワク待機してました!」
ビシッと敬礼ポーズを笑顔で取るミル。
――
ノワ
「……まったく」
ノワ
「無茶ばっかりするんだから」
ノワは迷い猫を見据える。
ノワ
「残念ながら私にこの子達を救いたいって気持ちは無いのよ……」
ノワ
「でもね……」
ノワ
「そんな私でも……」
レーザーポインターを握り締める。
ノワ
「守りたいって想うこの気持ちを…」
レーザーポインターの光が強くなる。
ノワ
「…教えたのはあんただからねっ!」
ノワ
「……ミルッ!!」
ノワが構えたその瞬間――
光が変わる。
黄色い細い光が、
一本の剣の形になる。
レイピア。
ルナ
「!」
ルナ
「……エンチャント」
ノワはレイピアを静かに構える。
迷い猫が飛びかかる。
ノワ
「……あなた」
ノワの視線が迷い猫を捉える。
ノワ
「近づきすぎよ」
黄色い閃光が走る。
――
家の中。
ミルの手の中。
淡いピンク色に光る猫じゃらし。
ミルは、ふと外を見る。
ミル
「……?」
ミル
「ノワ、私なんだかドキワクします!」
第十話 完




