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7.準備完了

そして迎えた9月13日。

オティーリエの誕生日であり、領民へのお披露目の日。

その晴れやかな出来事に、お城も朝からどこか浮ついた雰囲気を纏っていた。


そんな雰囲気の中、オティーリエは朝早くに起きて、アーサーと一緒に軽い朝食を摂ると、ロザリーに用意してもらったお披露目用のドレスに着替えた。

それから、お化粧に髪のセット。

侍女達に手伝ってもらって、入念に準備を整える。


入念に、と言っても、化粧はほぼナチュラルメイク。

髪の毛も編み込んだりしない。

顔がよく見えるように耳の前の髪の毛を後ろでまとめてハーフアップにしたていどで、後は後ろに流すことになった。


本当のところは、ガーデンパーティーの時に、オティーリエと侍女の間でお披露目の時は自由にメイクしていいと約束していたので、侍女達は気合いを入れて、ここぞとばかりにオティーリエを磨き上げた。

メイクも何度もやり直し、髪型も何種類も試してみた。

そんな、2時間におよぶ試行錯誤の結果が、このナチュラルメイクなのだった。

でも、こうなってしまったのは、とにかくお嬢様の素が魅力的なのだから仕方がない、と侍女達は変な納得の仕方をしていた。


オティーリエの準備が出来たところで、リズが部屋から出て行くと、ノックした後にヨハンが入って来た。

ヨハンも、今日は特別。

髪を整え、お仕着せもパリッと新品を着て、舞台俳優もかくやと思うほどに印象的かつ魅力的だ。

そんなヨハンがパレードではオティーリエの車に続いて使用人の列の先頭を歩くのだから、オティーリエと共に注目を集めることだろう。


そのヨハンは部屋に入って来ると扉の横に下がり、扉を開けた状態にしたまま礼をした。

部屋の中にいる侍女達も礼の姿勢を取る。

それに半拍遅れてエリオットが入って来た。

オティーリエがドレッサーから立ち上がって扉の方を向いたのはその時。


「おお、さすがはオト。

 この世のものとは思えない美しさではないか?」


入って来るなり、感動したように両腕を広げて、そんなことを言うエリオット。

心からそう思っているようだ。

その証拠に、顔には満面の笑みが浮かんでいる。


エリオットが部屋の中に入ってオティーリエに話しかけたので、使用人達も顔を上げた。

ヨハンも。


その、ヨハンの目に飛び込んできたオティーリエの姿は。


どこまでも清らかで、どこまでも愛らしく。

そして。

圧倒的なまでの誇りと気品に満ち溢れていた。


そのオティーリエに、ヨハンの頭の中には、女神、という言葉しか出てこなかった。

いつもの憎まれ口は鳴りを潜め、語彙力を全て失ったかのように。

一度、その姿を目にしてしまうと、逸らすことも困難だった。


「ありがとう存じます、お父様。

 お父様こそ、とても素敵ですわ。

 間違いなく、オリベール王国一の伊達男ですわね。」


にっこり微笑んでオティーリエがエリオットの賛辞に応えながら、エリオットに近寄った。

エリオットがオティーリエをエスコートするために左腕を上げると、その左腕にオティーリエは右手を添わせる。


エリオットは黒いシルクハットを被り、白いYシャツの上に黒のスーツ、それからオティーリエに合わせて複雑な模様の入った緑のネクタイ。

それから、その上に黒いコートを着ている。

今日の主役はオティーリエなので、全身黒で統一して、あくまで脇役だということを服装で強調している。


「おっと。

 世界一とは言ってくれないのか?」

「その言葉を言う資格があるのは、お一方だけですもの。」


誰、とは言わなかった。

なぜなら、すでに亡くなっている人だから。


「確かに。

 失言だったな。

 では、行こうか。」

「はい、お父様。」


こうして、オティーリエはエリオットにエスコートされて、自室を後にした。


 ◇ ◇ ◇


オティーリエが部屋を出ると、そこには敬礼をして、オティーリエが出て来るのを待っていたルカがいた。

今日はルカにとっても、侯爵令嬢の騎士としてのお披露目となる。

演説の時にはエリオット、オティーリエと共に演台に上がってオティーリエの背後に控えることになるし、パレードでは騎士達の先頭を歩くことになっている。

そのためか、ルカは珍しく緊張の面持ちでいた。


今日のルカは騎士としての正装をしている。

それも第一~第五および近衛の各騎士団とは異なる、侯爵令嬢の騎士としての装い。

少々、服にルカが着られている印象はあるものの、それでも騎士として凛とした佇まいをしていた。


オティーリエはそんなルカに微笑みかけながら前を通り抜ける。

オティーリエが通り抜けた後、ルカは敬礼の手を下ろして、オティーリエの後ろを歩き出した。

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