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6.王家の到着

オティーリエのお披露目が行われる1週間前の午後。

まだお披露目当日ではないというのに、ホルトノムルの城内は異常なまでの緊張感に包まれていた。

それもそのはず。

今から王家を出迎えるから。

ホルトノムル侯爵領で行われる狩猟大会に王家が参加するのは毎年恒例のことで、今年も例外ではない。


王家は王都から、専用機でやってくる。

その発着場は、もちろん一般向けの空港ではなくてお城の滑走路。

領主一族の駐機場とは別の、貴賓向けの駐機場に入ってもらう。


現在、その貴賓向けの駐機場には、オティーリエがエリオットを迎えた時と同じように近衛騎士団の騎士や使用人達が並んでいた。

エリオットを迎えた時と違うのは、さらに騎士達の後ろに軍楽隊が控えていて、王家に歓迎のための演奏も行う。


そして、その先頭にはエリオットとオティーリエが並んで立った。

アーサーはさすがに王家のお出迎えの時に肩に乗せるわけにはいかないので、ブレスレットになってもらってオティーリエが身に着けている。


その歓迎の列の前に、一機の大型旅客機が滑り込んで来た。

胴体にはアイリスの花と、それを丸く囲むように上に冠、下から横にかけて草と蔓が描かれた紋章が描かれている。

オリベール王国王家の紋章。

王家を乗せた旅客機が、今、ホルトノムル侯爵領に到着したのだった。


 ◇ ◇ ◇


旅客機が歓迎の列の前に停まると、乗降口の前にタラップ車が移動した。

それから、旅客機の搭乗口が開く。


それに合わせて、エリオットはボウ・アンド・スクレーブ、オティーリエはカーテシーの姿勢を取る。


「捧げ、銃!

 国家演奏!」


ライリーの号令で、近衛隊も捧げ銃の姿勢になり、軍楽隊が国家を演奏し出した。

使用人達も深く礼の姿勢を取る。


その歓迎の列の前に、国王アルバート・ネイサン・ブレイク・ヒル・オリベールが搭乗口に姿を現した。

そのままタラップを降りてくると、タラップの下で旅客機の搭乗口を見上げて待つ。

次に搭乗口に姿を現したのは、王妃カレン・ロートリンデ・オリベール。

タラップの上から、懐かしそうに周囲を見回した後、ゆっくりとタラップを降りてくる。

タラップを降りた先で、アルバートが芝居がかった仕種で礼をしながら右手を差し出す。

カレンがその手に左手を乗せると、アルバートは頭を上げて、カレンをエスコートしながらエリオットとオティーリエの前に歩いてきた。


そうしている間に、王太子 セオドア・アレクサンデル・アルバート・ロートリンデ・オリベール、第二王子ジェームス・アレクサンデル・アルバート・ロートリンデ・オリベールが順番に搭乗口に姿を現すとタラップを降りて、アルバートの隣にセオドアが、カレンの隣にジェームスが並んだ。

王家が全員揃ったところで、エリオットが挨拶の口上を述べた。


「王国をあまねく照らす太陽と月にご挨拶申し上げます。

 本日はご拝謁の栄誉を賜り、誠に恐悦至極にございます。

 我がホルトノムル侯爵領にようこそお越し下さいました。

 王城と比較すべくもございませんが、本領にご滞在の期間、どうぞ穏やかなお心持ちでお過ごし下さい。」

「丁寧な挨拶、痛み入る。

 今回は1ヵ月と長期だが、世話になる。」

「もったいないお言葉にございます。

 誠心誠意、お仕えさせていただきます。」

「うむ。」


アルバートが重々しく頷くと、次の瞬間。

エリオットが姿勢は変えずに顔だけ上げて、ニッと笑った。

アルバートもそれに笑い返すと、エリオットは姿勢を普段の姿勢に戻した。

それから、アルバートとエリオット。

どちらともなく右腕を上げると、がっと下腕を交差させる。


アルバートとエリオットはもともと旧知の仲。

その縁は、まだエリオットがジュニアスクールに通っていたような年齢の時に、アルバートがカレンを手中に収めるべく、まずはその弟であるエリオットに話しかけたことに端を発し、それ以来、二人は立場を越えて友誼を結んでいた。


そんな二人の横では、カレンがパッとオティーリエに駆け寄って、ぎゅっと抱きしめた。

もちろん、オティーリエもカーテシーを止めて、そんなカレンを軽く抱きしめ返す。


「オティーリエちゃん、今年もよろしくね。」

「お帰りなさいませ、伯母様。

 どうぞ、ごゆっくりご滞在下さいませ。」


それから、カレンはオティーリエの両肩に手を置いて、身体を引き離した。


「それにしても、ずいぶん背が伸びたわね。

 もう立派なレディーね。」


と、言いながら、カレンはちらっと背後の息子二人を見た。

その視線につられて、オティーリエも二人を見る。


セオドアは2ヵ月前に会っているためか、特に驚いた様子もなくオティーリエを優しい眼差しで見つめている。

ジェームスはどこか興味深そうにオティーリエを見つめていた。


「ごきげんよう、オティーリエ。

 母上の仰る通りだね。

 私もオティーリエとの付き合い方を考えないといけないかな?」

「ごきげんよう、オティーリエ。

 兄上、そもそもオティーリエはお披露目するんだから、今までのように妹扱いしちゃダメだよ。」

「っと。

 なるほど、ジェームスの言う通りだね。」


王子二人の会話に、オティーリエが笑みを浮かべたまま割り込んだ。


「ご機嫌麗しゅう、セオドア殿下、ジェームス殿下。

 それで、お従兄(にい)様方、そんな急に扱い方を変えられては戸惑ってしまいます。

 今まで通りでお願いいたしますわ。」

「そうかい?」

「なら、今まで通りにしよう。」

「こらこらお前達、まずはこっちに挨拶させなさい。」


エリオットが笑いながらカレン達4人に言った。

順番としては、まずエリオットが国王に挨拶した後、王妃、王太子、第二王子に挨拶して、オティーリエはその後に挨拶するべき。

それをすっ飛ばして王妃、王太子、第二王子がオティーリエに話しかけに行っているのだから、形式も何もあったものではない。


「お兄様はアルバートと友好を深めていらっしゃるではないですか。

 でしたら、お二人の邪魔はしないで、こちらはオティーリエちゃんと友好を深めるべきでしょう?」


カレンがエリオットにそう言い返す。

これも、毎年の光景。


騎士達と使用人達の前で王家とホルトノムル侯爵家はひとしきりじゃれ合った後、その間を抜けて、お城の迎賓館へと向かった。

王家の方々の到着でした。

王妃にとっては里帰りでもあります。

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