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4.誰のお披露目?

お城の使用人達は、8月から9月にかけて大忙しだった。

例年通りでも狩猟大会の準備に追われて大忙しなのに、今年はオティーリエのお披露目も行われるので、もうお城の中はてんやわんや。

もちろん8月以前、それこそ6月頃から下準備を初めていたので、間に合わないということはない。

だけれど、途中で諸般の都合で変更が入って、それまでの準備が全て無駄になるなんて当たり前のことで。

なので、城内のバタバタはギリギリまで続いたのだった。


忙しいのは領主であるエリオットも同様。

特にオティーリエのお披露目はエリオットの主催だし、エリオット自身、全力投球で準備を進めた。

一番大変なのは招待客への招待状。

今回のオティーリエのお披露目は領内へのお披露目。

と言いつつ、狩猟大会を続けて開催するので、貴族や議員を始めとする国内外の有力な一族も招待する予定なので、実質的な社交界デビューだったりする。

このため、エリオットは多くの招待状を書く必要があって、娘のお披露目ということで手書きに拘った結果、腱鞘炎になってしまったりしていた。


それから、オティーリエも大忙しだった。

父親がお披露目で大変なので、自主的に申し出て、狩猟大会の開催全般を担当することになったから。

一番手間のかかる招待状はお披露目への招待も兼ねているおかげでオティーリエはやらずに済んだけれど、だからと言って、その準備が大変ではなくなるということではなく。

狩猟大会は今年は例年以上の規模で行うことになったので、それにあわせて準備も大変なことになっていたのだった。


 ◇ ◇ ◇


オティーリエのお披露目が行われることが正式に発表されたのは、オティーリエの誕生日である9月13日の1ヵ月前。

8月13日のことだった。

その日のオリベール王国内の夕刊では《砦に隠された妖精姫、ついに姿を現す!》などという文字が躍っていた。


「なんだか珍獣でも見つかったかのような扱いですね。」


いつものヨハンとの新聞チェックの時間。

我が事ながら、オティーリエはちょっと笑いながら、そんな感想を漏らした。


『全くもってその通りだな。』

『我が王は新聞記事に書かれた内容が真実であると仰っているだけで、オティーリエ様の新聞へのご感想について仰っているのではありませんので、その点、誤解なきようよろしくお願いします。』


ヴェディヴィアが焦った様子で割り込んできたけれど、時すでに遅し。


『アーサーがどのように思っているのか。

 よーっく。

 分かりました。』


とは言え、このような軽口を言い合えるようになったことは、オティーリエにとって嬉しいことでもあったのだけれど。

もっとも、この認識には、ただし、という言葉が付く。

アーサーは決して嘘を言わないので、軽口であったとしても、真実、そう思っているということでもあるから。


つまり、オティーリエは珍獣。


「まあ、実際、|レア物≪レアもん≫ではあるだろ?

 今まで、表向きには城から出たことなかったんだからな。」


アーサーに続いてヨハンにまでそんな風に言われて、オティーリエは笑顔を引っ込めると、ちょっと、むっとした顔をした。


「きちんと貴族年鑑の写真撮影には応じておりましたよ。」


実際、新聞記事には最新の貴族年鑑から切り出したであろうオティーリエの写真が掲載されていた。

その写真は急な成長の前に撮ったものだったので、ずいぶんと幼い。

それも、オティーリエの不満の1つだったけれど、それはもうどうしようもないこと。


「貴族年鑑なんか一般人には縁ないだろ。

 ・・・それにしても、本当にお嬢の記事ばかりだな。」


いっそ感心した様子でヨハンが言うと、オティーリエも大して怒っていたわけでもなかったので、気を取り直して応えた。


「ちょうど他に記事がなかったのかもしれませんね。」


何気なく言ったオティーリエを、ヨハンはマジマジと見つめた後、ハア、と溜息を付いた。

本当にこのお嬢様は自分のことに無頓着だ、とヨハンは思った。

しかし、この時、ヨハンは少し思い違いをしていた。


オティーリエは実際には、きちんと自分が領内で関心を持たれる存在で、立場的に領内だけでなく国内という括りでも関心を持たれる存在なのだということは認識していた。

ただ、その上で、これだけ記事になるのは行きすぎだと感じていただけ。


「まあ、いい。

 それで、お披露目が決まった感想は?」


お披露目は、貴族として大きな意味を持つ。

なので、ヨハンとしてもオティーリエがどう思っているのか、大いに興味を持っていたが、そんなことを悟らせないように、ごく自然な感じに、興味なさげなフリでオティーリエに尋ねた。


「そうですね、嬉しさ半分、緊張半分、でしょうか。

 今はまだ、嬉しさの方が勝っていますけれど、実際にお披露目が近づくと、緊張が勝るでしょうね。」

「まあ、それは仕方ないな。」


オティーリエは、少しだけ苦笑した。


「緊張の半分くらいはお父様のせいなのですけれどね。

 ここまで大々的にやるとは思いませんでした。」


領都のパレードだなんて想像だにしていなかった。

ついでに、その日の夜に国内、領内の有力者を呼んでお披露目会をするなんて思いもよらなかった。


「旦那様は、結婚式の時も領都をパレードしたらしいぞ。

 まあ、奥様の体調を慮って、中央広場で演説した後、お城までの道だけだったらしいけど。」

「つまり、今回は体調の心配がありませんから、タガが外れたということですね。」


オティーリエが呆れたように言うと、ヨハンが苦笑して頷いた。


「そうなるな。

 まあ、それだけ愛されてるってことさ。」

「それはもちろん理解しておりますけれど。

 その、少々、重たい気はしますね。」


愛が重たいと言われた男エリオットはその時、自室に持ち帰ったお披露目の企画書を読んでいたが、大きなくしゃみをしていた。


冗談めかして言ったオティーリエに、ヨハンは笑って応えた後、真剣な表情になって尋ねた。


「ところで、パレードの間、アーサーはどうするつもりだ?」


これは、軽いようできわめて重要な質問。

つまり、ティリエの正体を領民に明かすつもりなのか?という質問。

ティリエはナップザックが出来るまで、隠すこともなくリスを左肩に乗せて歩き回っていたから。


「他の装飾に紛れていただきます。」


それに、オティーリエはにっこり笑って答えた。


「なんだ、そうなのか。

 ちょっと意外だったな。

 てっきり左肩に乗せてパレードするんだと思ってたよ。」


本当に意外そうにヨハンが言うと、オティーリエは笑顔のまま答えた。


「そうですね。

 最初はそう考えていたのですけれど、少し思うところがあって止めておくことにしました。」

「思うところ?」

「それについては秘密です。」


ヨハンがちょっと首を傾げて質問すると、オティーリエは楽しそうに人差し指を口に当てて、言えません、というポーズをした。


「ふうん?

 まあ、いっか。」


『私もヨハンと同意見だ。

 どうして気が変わった?』

『ヨハンに秘密にしましたので、アーサーにも秘密です。』

『ふむ?

 では、間接的な質問をさせてもらおう。

 いつ、気が変わった?』


ヨハンは秘密だ、と言ったところで見逃してくれたけれど、アーサーは見逃してくれないらしい。


『さすがアーサー、鋭いですね。

 先日、オリベスク駅でフィア、セリア、ノシェと別れた時です。』

『ふむ。

 了解した。』


「ところで、お気付きでないようですので指摘させていただきますね。

 侯爵令嬢のお披露目ということは、ヨハンもお披露目ですよ。」

「・・・は?」


珍しく、ヨハンが動きを止めた。

ヨハンは頭が理解を拒否しているらしく、何を言ってるんだこのお嬢様は?と、その顔が言っている。


「ですから、侯爵令嬢の付き人と騎士もお披露目されるということです。

 パレードでは、使用人の先頭を歩くことになりますので、覚悟をしておいて下さいね。」

「・・・なるほど、言われてみればその通りだな。

 なんだよ、誰も言ってくれなかったぞ。」

「ヨハンはしっかりしていますから、言わなくても分かっていると思われているのではないでしょうか。」


ちょっと気の抜けた顔をしているヨハンに、オティーリエはそう笑いかけた。

と、いうわけで、オティーリエのみでなく、関係者もお披露目になります。

ちなみに、当然、ルカもお披露目なのですが、ヨハンと同じパターンの会話になりますので、ルカとの会話は全カットしました。

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