19
シルビアは宣言通り、あたしに話しかけるようになった。朝は何を食べたのか、授業は分かったのか。普通に話しているだけだったが、友達はあたしとシルビアが二人になると、何処かへ行ってしまう。
それに皇女様とは話したくないのかと、疑問を持っていたが、よくよく考えたらあたしは初期に牽制するように小っ恥ずかしいことを叫んだのを思い出した。多分、気を遣われている。
あの時は現実と夢の境界線がうまく引けて無くて、何してもいいと思っていたのだ。それは今も変わらないけど。物凄いバーチャル体験をしてると思って毎日を過ごしているが、どうなんだろうか。
そんなこんなで放課後。少しだけ友達と話して保健室に向かうと、シルビアは既にいた。
「お待ちしていました。下着姿でいいので、服を脱いで横になってください」
「保健室を借りれたの?」
「怪我人があんまりいないみたいです。だから時々保健室を閉めてる日があるくらいで。軽い怪我なら治療魔術で治してしまうからでしょうね」
「へ〜」
なら、保健室の存在意義が無くないか。そう思ってしまってはいけないか。
「黒魔術の勉強をしてきたので、少しは術式が読めるようになったと思うんですが……」
「はいはい。脱ぎますよ……」
とはいえ、同級生の前であたしだけ下着姿になるのもなんか恥ずかしいけどなあ。マッサージ屋とかならギリ許せるけど、シルビアはスタイルもいいし、あたしの身体と比べたらなあ。
「なんですか?」
「なんでも」
靴下、ベスト、スカート、シャツ、インナー。出来るだけ素早く脱いでベッドに横になる。
「これでいいの?」
「はい」
すると彼女は懐から眼鏡を取り出した。
「眼鏡なんて普段から着けてたっけ?」
「ああ、これをつければ触れなくても呪いが見られるんです。呪いが浮かびあがると少し熱いでしょう? それに、魔術を使わなくてこちらも便利なんです」
「そう……」
会話を交わすと、それから話を振られることは無かった。ぶつぶつと何かを呟きながら術式を解こうとする彼女は真剣そのもの。あたしが何かを言う隙は無かった。
ただ、その視線が熱い。
全部見えているだろう術式に目を向けていると思うのだが、それでもこっちからしたら身体を見られている、という感覚でしかない。それをまじまじと。気にするなという話だが、気になるし、耐えられない。こんなにも裸をじっくりと見られることなんて無いだろうから。
「ねえ、呪い浮かばせることって出来ないの?」
「え?」
「あたしから見たら、なんか、恥ずかしくてさ。じっと裸を見られてるみたいで」
「った、確かにそう見られてもおかしくは無いですね! 善処します」
「ありがと〜助かる」
「失礼します。」
そう言うと彼女は私の身体に馬乗りになって、身体を触りだした。すると触りだしたところから熱くなる。熱いと言ってもカイロを乗せられている気分で、特に不快ではない。
ただ、少しくすぐったい。
「んっ……」
「熱いですか?」
「いや、くすぐったくて」
脇腹を優しく他人に撫でられたことなんてないから、どうも感触に慣れてなさすぎる。シルビアはあたしの言いつけを守ってベタベタと体を触るし、少し後悔した。
「その……言いにくいのですが、」
「どうした?」
「少し、下着をずらしてもいいですか?」
「え、なんで?」
「その、そこに隠れた文字があるんです。それを読みたくて」
「……ッやだ。最早ヌードモデルじゃん。見れる文字から何とか推測できないの?」
「なんてことを言うんですか! 出来るとは思いますけど、背中を見せてもらうことは可能ですか?」
「いいけど……」
シルビアにどいてもらって、背中を見せる。唸りながら、足も所望していたので、足も見せる。
「はい……確認したい文字がなかったので、少し見せてもらっても?」
「えー、シルビアも下着になるなら良いけど」
「分かりました。脱ぎますね」
「は?」
なんの抵抗もしないじゃん!
スカートを脱ぎ、ベストを脱ぎ、シャツを脱ぎかけたところで、何故か扉の音がした。
何故って、そりゃあ人が入ってきたわけで。
「せんせぇ〜アルコール貸してくださ──」
そして、勢いよく扉が閉まった。
そこにいたのは、全裸の下着姿でベッドにいる女と、シャツを脱ぎかけた半裸の女(皇女)だ。逃げるのも無理はない。今頃、これから何をするんだろうと良からぬ想像をしているだろう。
「な、何故扉が開くんですか!?」
「鍵かけてなかったや」
「もう! 今かけました!」
「よかった、あたしが脱ぐ前で」
「脱がせはしませんって。ちょっと覗くくらいです」
「覗くって、そっちの方が犯罪臭するし脱がせてもいいよ。お風呂にも入れたんでしょ? だからほら、脱いで」
「はあ……もう……」
顕になった体は、雪のような白い肌だった。芸術作品みたいに引き締まった綺麗な身体。薄く浮かぶ筋肉。そして胸元のホクロ。全てが完璧なバランスで存在している、二次元から出てきたみたいな、何ともすごい。
「ま、まじまじと見ないでください」
「スタイル良すぎでしょ」
「運動は欠かさずしていますから。貴方の身体も悪くないと思いますよ」
「ほんと? ありがとう、嬉しい」
「それで、私が脱がせたほうがいいですか? それとも、自分で脱ぎますか?」
「あー……」
「見たらすぐに戻すので、私が脱がせてもいいですか?」
「うん。それが良いかも」
言葉の通り、ブラのホックを外して三秒程度眺め、またショーツを下ろして前と後ろを三秒程度眺めて、戻してくれた。
まあ、あたしからしたらその三秒でさえも長くて、顔から火が出るほど恥ずかしいものだったが。
そんなあたしの顔を、じっと見つめてくる。
「シルビア?」
「すみません。少し考え事を」
「そっか……。どう、何かヒントになった?」
「無かったんですよね」
「何が?」
「爆弾や、自爆の文言です。その言葉を中心に調べてきたので、呪いについては何も分かりませんでした。助詞や副助詞、大雑把に調べていた単語から、何か縛るようなものだと分かったのですが」
「縛る……?」
縛る、あたしと約束を縛る的な? 約束を守らなかったら死ぬとか、そういう感じだろうか。裏切ったら殺す、みたいなことは言われていたし、そういう呪いなんだろう。裏切りのラインが分からないが。
「何か、心当たりはありますか?」
「無いかな、あたしが何も知らない呪いっぽいかも。そもそも呪いの存在とか分かんなかったし」
「そうですか……。単語をメモ書きして帰ってもいいですか? 調べたいので」
「どうぞ〜」
シルビアはあたしの身体を見て、ノートにメモをとる行為を行った。時折、文字の形を確かめるように顔を近付けながら。その姿を見て、やっぱりヌードデッサンみたいだなあと、少し複雑な気分になってしまった。
あたしの呪いがどうだろうと、とりあえず、今を謳歌する。それだけだ。




