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目の前に跪く二人を見て、心の中で溜息を吐く。


どうして、こんな事態に陥ったのか思い返してみて再び溜息(心の中で)。




舞踏会で、殿下にエスコートされて入場。陛下のご挨拶の後、慣習どおりエスコート役の殿下と一曲。

王族が一曲踊ったら、他の招待客も踊っていいことになっているので、他の学生たちもそれぞれのパートナーと一曲、ということになる。


ベルのお相手は、一つ上の学年の男子…すみません、名前知らないです。でも、やっぱり相応に上手いから、ひょっとしたら貴族なのかも知れないと思う。お家事情はそれぞれあるだろうけど、デビュッタントは貴族の義務みたいなものだからね、よほどの事情――例えばベルの発熱とか――以外は出席することになるので、ダンスはマナーの一つとして、貴族社会には必須なのだ。


だから、言っては悪いけど、貴族と庶民ではレベルが違う。まぁ、一応学院内で教えられるから、それなりにセンスがあれば、相応の腕にはなるだろう。



それは、兎も角。


一曲踊れば、基本あとはフリーなので好きにしていいんだけど…本当にあの子、料理に一直線に向かって行ったわ。あはははは、まぁ、気持ちは分からないわけではない。王宮の料理人達は、国の内外で高評価を貰っている腕の持ち主ばかりだから。




ゲーム内では、舞踏会の開始と同時に選択肢が現れて、攻略対象の誰と話すかで、スチル画面が変わる。とはいえ、ここでの選択肢に好感度の変動は無い、しかも選んだ相手とのスチルはパラメーターによっては取れなかったりするのだ。



本当は、難易度が一番高いのが二重の意味で隠しキャラの学長なのだが、普通の状態で高いのは公式彼氏といわれているアルジェントだ。彼が公式彼氏と呼ばれる所以は、紹介された雑誌の書き下ろしに登場回数が多い、という理由だった。まぁ、確かにベルと並ぶと一番映えるキャラではある。


だからといって、彼のパラメータだけを基準にはできない。それぞれが好むパラメーターの数値が高いだけではなく、ダンスにおける運動能力と品位が高くなくては成功しない…製作者側曰く「第一の罠」的なイベントだ。




本当に良い趣味してるよ、うん。




さて。


何時までも、現実逃避してはいられません。



自分の前に跪く二人…いうまでもない、選抜クラスでも抜きん出て優秀な男子生徒。アルジェント・バーミリオンとソルディアス・レイベロス。

これが、アルジェント…アルを主人公として作られたゲームだとしたら、筆頭のライバルキャラとして現れるのが、ソルことソルディアスだ。実力も外見も家柄さえも双璧を成すほどのキャラクター。


王族に連なる公爵令嬢の前に頭を垂れる二人…見ている分には絵になるんだけどね。



どうしてこうなったか、解析してみよう。


っていうか、これを「ゲーム」ではなく「現実」と考えれば、割と単純な話なんだよね。アルの実家であるバーミリオン伯爵家は、王族至上主義で有名な家だ。その家の後継者として育てられた彼も、学内では最低限度の礼儀で抑えてはいるが、皇太子や国王も身内である兄や私に対しも腰が低い。今回の行動も、王族である私に対して、パートナーと一緒に居る間なら兎も角、離れて同性の友人と一緒という状況において、彼なりに出した結論がダンスという名目の警護のつもりなのだろう。



実に見上げた騎士道精神である。


対するソルは、ただ単にアルへの対抗心のみで動いているに過ぎない。普段は、よく出来た青年もアルジェントが絡めばただの残念なおにーちゃんになってしまう…誰だ、こんな設定にして、しかも初期のネーミングが「アーサー」と「ランスロット」って…ヒロインはギネヴィアかっての。



あ、いや「ランスロット」は別に居るけどさ。

これは製作者サイドのいい加減…もとい、深い理由があるのさ。







いかん、また現実逃避してしまった。


しかも、少し離れたところに居る兄貴も従兄殿も、どう考えても傍観者の体制に入っている…助けてくれるつもりはない、ということですね。薄情者め。



「いい加減になさいませ」


響き渡った声に周囲が静まり返る。


「お二方とも、時と場所を弁えられませ。姫君が困っていらっしゃいますでしょう」





…ああ、そうだ。


自然と口元が緩むのが分かる。


彼女は…主人公はこうい少女だった、と。





まっすぐな気性。否を、きちんと否といえる心正しき少女。だからこそ、彼女は愛されるのだ。

はっとして、思わず顔を見合わせ、お互いに目を逸らす。

そんな未だ少年と呼べる面差しの二人を見て、思わずくすり、と笑みが零れた。

そこで、我に返って真っ赤になっている親友へと目を移す。眉をハの字にして、上目遣いに自分を見遣る彼女に、これは男たちは堕ちるわ、としみじみしてしまった。






「では、姫君たちは我らが貰い受けよう」


その声に振り返り、軽く膝を折る。少年たちは顔を青くし頭を一層深くし、ベルに至っては…うーん、気の毒としか言い様がないわね。


「一曲、お相手いただけるかね?姪っ子殿」


「娘が世話になっているね。おじさんで悪いが、踊っていただけますか?」


我が伯父上と父上…この国のトップと王弟殿下。そりゃぁ、誰もが黙りますな。




「喜んで、陛下」

にっこり笑うと、その手をとる。脇に目をやると、がちがちに固まって、ロボットの様に父の手をとった親友が目に入った。


うん、頑張れ。



見せ場を取られ、悔しそうな従兄と兄ににっこりと(嫌味ったらしい)笑顔を見せて、ホールの中央へと進み出た。



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