第20話 夜明け
荒れ狂う海の只中に、突如として現れた凪の世界。
雲一つない円形の海面を、月明かりが静かに照らしている。風も波も、ここだけを避けて通っているかのようだった。
その中心にいるクラーケンの頭頂部には、絡みつくように魔石が食い込み、月の光を弾いて闇夜に鈍く輝いていた。
魔石はエネルギーの塊だった。
主に魔導具の材料として知られ、大きいほど貴重で、秘めた力も桁違いに膨れ上がる。
世に出回るのは、せいぜい拳ほどの大きさのもの。だが、クラーケンに食い込んでいるそれは、人間ほどもあった。
そして魔石は、正しく扱えなければ、扱う者にさえ牙を剥く。
クラーケンもまた、体内へ流れ込む力に呑まれ、正気を失って暴れ狂っていた。
「あれが……クラーケン。『海の神』か……」
ラックは掠れた声で呟いた。いつの間にか、喉がからからに渇いている。
クラーケンは負の感情のままに巨躯をよじり、巨大な触手を何度も海面へ叩きつけていた。そのたびに水柱が噴き上がり、少し遅れて、腹に響く轟音が船まで届く。
それはまるで、自らを傷つけているかのようにも見えた。痛みを、別の痛みで上書きしようとするかのように。
「あれを止めるったって……どうすんだよ」
ラックはジルへと問いかける。
ジルは、甲板にいる全員へ向き直った。
「あの頭頂部の魔石さえ破壊できれば、正気を取り戻せるはずだ」
凛とした、よく通る声だった。ざわついていた甲板が、それだけで静まり返る。
ジルの視線が、ローシュとミカをとらえた。
「そのためには、お前たちの力が必要になる」
次に、ラックへ。
「ラック。魔導具にはお前が一番詳しいはずだ。あの魔石……砕くには、どれほどの力が要る?」
ラックは魔石を睨んだまま、顎に手を当てて考え込む。やがて、慎重に言葉を選びながら口を開いた。
「……内側までミカの炎が伝われば、破壊できると思う」
ジルは満足げに頷いた。
作戦を組み上げるのに、時間はかからなかった。かつて騎士団長として無数の兵を率い、大きな戦も幾度となく越えてきたジルにとって、それは造作もないことだ。
それに今は、頼れる仲間が何人もいる。この仲間たちとなら、不可能などないとさえ思えた。
伝えられた作戦は、一人でも欠ければ成り立たないものだった。
まず、ローシュが弓で魔石に数本の矢を射込み、傷をつける。あれほどの魔石を砕くための、きっかけだ。
そこへ、ミカが今作り出せる最大の火球をぶつける。炎は矢が穿った傷から内部へと浸透し、魔石を内側から破壊する。
ジルとラック、船乗りたちの役目は、その二人を守り抜くこと。
幸い船は大きく、そう簡単には転覆しない。だが、作戦上どうしても、二人の射程に入るまで近づかなければならなかった。
つまり、あの触手の間合いに踏み込むということだ。
「なるほどね……あの大きな触手から守るってことか……」
ラックは、海面を何度も叩く巨大な触手に目をやり、頬を引きつらせた。
次の瞬間、自分の頬を両手でぱんっと叩く。ひりつく痛みで腹をくくり、前を見据えた。
ジルはその横顔を見て、静かに口元を緩める。
「ミカ! お前たちのことは俺たちが守る! だから、そっちは任せた!」
ラックは二人へ笑いかけ、剣を高く掲げた。ミカとローシュは力強く頷き、弓と杖を掲げて応える。
ジルの合図で、船がゆっくりと動き出す。巨大な影へ、少しずつ距離を詰めていく。船腹が水を割る音と、マストの軋みだけが、やけに大きく聞こえた。
誰もが固唾を呑んでいた。背中を、冷たい汗が一筋伝い落ちる。
クラーケンは、まだこちらに気付いていない。ただ、やみくもに暴れているだけだった。
いや、気付いていたとしても、脅威にすら感じていないと言うほうが正しいのかもしれなかった。
近づくほどに、触手が立てる波は大きくなる。うねりが船腹にぶつかるたび、足元が大きく揺れた。
「はぁっ……はぁっ……大丈夫、大丈夫……」
ミカのすぐ隣で、若い船乗りが、まるで呪文のように呟いていた。息は浅く乱れ、手すりを握る指は白くなるほど力が入っている。膝が笑っているのが、傍目にも分かった。
ミカはそっとその肩に手を置き、微笑みかける。
「……大丈夫です。頼れる仲間がいますから」
船乗りは顔を上げ、小さく頷いた。
肩に触れたミカの手もまた、小さく震えていた。いや、ミカだけではない。ラックも、ローシュも、他の船乗りたちも、誰もが恐怖に震えている。それでも、ラックもローシュもミカも、もう知っていた。
恐れることは、悪いことではないのだと。
「全部終わったら……みんなで一緒にご飯を食べましょうね」
ミカは穏やかに、そっと笑った。
月明かりを受けた真っ白な髪が淡く輝き、長く白いまつ毛が静かに揺れる。恐怖で張り詰めた甲板の中で、そこだけ時間が緩んだようだった。
若い船乗りは、天女のようなその微笑みに、思わず息を呑む。そして、胸の奥に小さな火が灯るのを感じた。
この戦いを生き残れば、ミカとご飯が食べられる。現金な願いではあったが、それは確かな希望となって、震えていた彼の足を支えた。
船は、静かに、そして確実にクラーケンのもとへと近づいていく。もう残りわずかというところで、暴れていた触手がぴたりと動きを止め、海中へするりと消えた。
再び訪れる凪。
だが、それは一瞬だった。
船のすぐ隣で、海面が爆ぜた。轟音とともに水しぶきが噴き上がり、その中から、触手の一本が船めがけて振り下ろされる。
「下がれっ! はあぁぁッッ!」
ジルの裂帛の気合いが響く。閃いた刃が、振り下ろされた触手を一太刀で両断した。断たれた触手は、しばらくのたうち回ったのち、泡となって消えていった。
「クラーケンか……海の神とは、まったくよく言ったものだな……」
ジルはそう呟き、静かに視線を上げる。
その先で、船を取り囲むように、大小さまざまな触手が海面から鎌首をもたげていた。先ほど斬り落としたはずの触手も、切り口を泡立たせながら、少しずつ再生を始めている。
「全員、ミカとローシュを守ることだけを考えろ」
ジルが剣を構える。それだけで、甲板の空気が変わった。圧倒的な存在感。ジルという存在が放つ圧は、海の神であるクラーケンにも劣らぬほどだった。
「安心しろ。船とお前たちのことは……私が守る」
ラックはその背中を見つめ、小さく笑った。
「ははっ……やっぱジルが一番化け物だわ……」
ローシュとミカも、苦笑を浮かべる。肩の強張りが、ふっと解けていくのが分かった。
そして、ついに戦いの幕が切って落とされた。
無数の触手が、それぞれ意志を持つかのように船へ絡みつき、動くものを目がけて飛びかかってくる。巻きつかれれば海へ引きずり込まれ、叩きつけられれば大怪我は免れない。
「ミカ! ローシュ! 魔石に集中しろ!」
ラックは叫びながら、二人へ伸びる触手を斬り払っていく。
頭上から振り下ろされる一撃を半身でかわし、すれ違いざまに斬り落とす。
足元を這い寄るものには踏み込んで刃を滑らせ、手すりを砕いて薙ぎ払われた一撃は、身を沈めてやり過ごした。
叩きつけられた海水が雨のように降り注ぎ、甲板は濡れて滑る。それでも、ラックの足は揺るがなかった。
毎日、あのジルに鍛えられているラックは、もはや並の騎士を凌駕し始めていた。期待に応えたい、そして選ぶ力が欲しい。
その一心で、基礎を決しておろそかにせず、素振りと足捌きを毎日欠かさず続けてきた。
その積み重ねが、今、確かな形となって、ミカとローシュを守る力になっていた。
「ミカさん! 僕は上から狙います!」
ローシュはそう言い残すと、マストへ飛びつき、軽やかに駆け上がっていく。そのすぐ足元を、触手が木肌を削って掠め過ぎていった。
頭頂部の魔石を狙い撃つには、高所が最適だ。それに、自分が離れれば、ラックが守る相手はミカ一人に絞られ、負担も減る。触手の動きは、ここまでの間にしっかり観察していた。自分の身のこなしなら、捕まる前に躱せる。
そう判断したからだった。
「ローシュ! 無理はすんなよ!」
ラックは、ミカや船乗りたちの周りに蠢く触手を斬り払いながら、声を張った。ローシュは頷き返し、誰よりも高い位置から戦場を見下ろして、隙を探る。
「くそっ……! キリがねぇ……なっ!」
ラックは勢いよく触手を斬り飛ばし、舌打ちした。断ち切られた触手は、しばらく悶えたのち、ぼこぼこと水泡を立てて再生してしまう。斬っても斬っても、数が減らない。
「もっと……もっと大きく……」
ミカは仲間を信じて目を閉じ、杖を掲げていた。その先に灯った小さな火が、少しずつ、少しずつ膨らんでいく。これまでの旅で培った技術を、一つひとつ思い出しながら。
周囲の轟音が遠のくほどの集中だった。その背中を守るように、ラックは触手を斬り続け、船乗りたちも数人で寄り集まって、必死にミカを庇っている。
「ラック。伏せろ」
その時、ジルの低い声が、ラックの耳に届いた。
考えるより先に、体が動く。ラックが腰を落とした直後、頭上を閃光のような剣筋が駆け抜けた。すぐ上まで迫っていたひときわ大きな触手が、細切れになって散っていく。
「ふぅー……あっぶねぇ。助かった、ジル」
ジルは無言で頷くと、目にも止まらぬ速さで甲板を蹴り、一足で船の先へと跳んだ。その先で、触手に襲われかけていた船乗りを救ったかと思えば、瞬きの間にはまた別の場所で剣を振るっている。
「すげぇ……俺も弟子として負けてられねぇよ……なっ!」
ラックはその圧倒的な姿に奮い立ち、さらに剣速を上げて触手を斬り払っていく。
だが、あまりの物量差に、戦況は少しずつ悪化し始めていた。
特に船乗りたちは、実戦経験もなければ、訓練も積んでいない。肩で息をし、腕が上がらなくなり始めている者もいた。彼らを庇うように動くラックたちの負担も、じわじわと増えていく。
マストの上では、ローシュが弓を引き絞り、魔石へ狙いを定めていた。
「ちっ……! 少しはおとなしくしてくださいよ……!」
だが、暴れ狂う巨体は絶えず揺れ動き、照準がなかなか定まらない。外してクラーケンに当ててしまえば、さらに暴れさせるかもしれない。指先に滲む汗を、短く息を吐いて振り払った。
「はぁ……はぁ……。おっちゃん……まだ元気いっぱいか?」
ラックは息を切らしながらも、瞳の光だけは失わず、近くの船乗りの男に発破をかける。船乗りたちの限界は、もうすぐそこまで来ていた。
「ああ……! 騎士様に比べりゃあ……元気いっぱいさ……!」
二人の視線の先には、いまだ一度も足を止めず、船の上を飛ぶように駆けるジルの姿があった。船員も、仲間も、そして船そのものまで、すべてに目を配りながら剣を振るい続けている。
そのジルの額にも、いつしか汗が流れ始めていた。瞬間移動のようだった神業の動きも、ほんのわずかに鈍り始めている。
ラックも、ジルも、剣を握る手には血が滲んでいた。それでも、触手の勢いは止まることを知らなかった。
「もっと……。よし、これなら──」
ミカの杖の先で、巨大な火球が完成へと近づいていく。
その瞬間、ミカの視界の端を、誰かが弾き飛ばされ、甲板へ倒れ込む影がよぎった。
「──ラック!」
影の正体は、ラックだった。力尽きかけた船乗りを庇って、とっさに飛び出し、横薙ぎの触手をまともに受けたのだ。体は宙を舞い、船の壁へと強く叩きつけられる。鈍い音がして、そのまま崩れ落ちた。
倒れたラックを仕留めようと、別の触手が激しくうねりながら迫る。ジルが気付いたときには、わずかに遅かった。蓄積した疲労が、反応を一拍遅らせたのだ。
「クソッ……! ラック!!」
ジルが駆け出す。だが、触手はすでに、ラックめがけて振り下ろされようとしていた。
「させないっ!」
爆音。
爆炎が弾け、触手が何本もまとめて吹き飛んだ。それは、魔石を破壊するためにミカが作り上げた火球だった。時間をかけて練り上げた炎は、ラックに迫る触手を周りのものもろとも、闇夜へ薙ぎ払っていく。
「……ラックっ! 大丈夫ですか!?」
ミカがラックへ駆け寄る。
「っ……! はぁ……はぁ……。助かったよ……ミカ」
ラックは体をふらつかせながら、剣を杖にして立ち上がった。幸い、まだ体は動く。だが、頭を強く打ったのか、額から垂れた血が、片目を濡らしていた。
「ラ、ラック……! 血がっ……!」
慌てふためくミカに、ラックは腕で乱暴に血を拭うと、その頭をぽんと優しく叩き、笑ってみせる。
「……大丈夫だ。ミカならやれる。信じてるからさ……俺も、まだ立てる」
そう言って、再び剣を構え直す。迫る触手を斬り払った。もう全員が、限界に近づいていた。
「そう……だよね。分かってる……。私も選ばなくちゃ駄目だよね……」
ミカは強い意志をその瞳に宿し、杖を握り締めて立ち上がる。そして、甲板の中央へと駆け出した。
「っ……! ミカ! ここは危険だ、下がれ!」
持ち場を離れたミカに、ジルが驚きの声を上げる。だが、ミカはジルの瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
「……ジルさん。私を──に」
剣戟と喧騒の中、ミカがジルへ何かを呟く。ジルは一瞬、目を見開いた。そして、すぐに厳しい表情を浮かべ、頷く。
「大丈夫です……。私がみんなを助けます」
ミカの力強い言葉に、ジルは小さく口元を緩めた。それから、マストの上のローシュへ向けて声を上げる。
「ローシュっ! 今から一瞬、隙を作る!」
その一言で、ローシュは理解した。暴れ狂うクラーケンの動きを、ジルが一瞬だけ止める。どうやるのかは、見当もつかない。それでも、ジルの言葉なら、疑う余地などなかった。
「……はいっ! お願いします!」
ローシュは弓を引き絞り、息を止める。自分の鼓動以外の音が、すっと遠のいていく。ただ、その一瞬を逃さぬよう、静かに待った。
「ミカ……。いいな?」
ミカが頷く。
ジルは剣を鞘へと収め、深く腰を沈めていった。まるで地に頭を垂れるような、低い低い構え。真紅の長髪が甲板に垂れ下がり静かに揺らめく。
「グランシス流剣術、三ノ太刀」
りんっと小さな鈴の音が響いた。
すべてが静寂に包まれる。跳ね上がった水しぶきさえ、空中で動きを止めた。
時が止まったような空間の中、ジルがゆっくりと、静かに剣を抜き、振り抜く。それは瞬きにも満たぬ、一瞬だった。
「月暈」
ジルが剣を鞘へ戻す。もう一度、りんっと鈴の音が鳴った、その瞬間。
斬撃が乱反射するように弾け、全方位の触手を斬り刻んだ。
「っ……! はぁ……はぁ……」
ジルは大量の汗を流し、膝をつく。船を囲んでいた触手のほとんどが微塵に刻まれ、クラーケンの動きが、一瞬だけ止まった。
そして、その隙を見逃さない者がいた。
「……ありがとうございます、ジルさん」
ローシュは小さく呟き、引き絞った弦を静かに離した。
放たれた矢は同時に二本。闇夜を切り裂きながら魔石へと飛び、二本とも正確に、深く突き刺さった。
「ミカさんっ……! 今です……!」
ローシュが声を上げる。その声に応えるように、膝をついていたジルが、剣を杖にして立ち上がった。震える腕で、ミカを抱え上げる。
「……頼んだぞ、ミカ」
「はい、必ずっ!」
ジルは渾身の力を込めて、ミカを夜空へと放り投げた。
勢いよく飛んだミカの体は、マストの高さをも超え、高く昇っていく。眼下に、傷ついた船と、仲間たちの姿が小さく見えた。
ミカは空中で、杖を構える。
「お母さん……ごめんね。約束、また破っちゃうね」
ミカは自分の魔法の力と杖の力を、撚り合わせるように込めていく。杖の力だけでは、間に合わない。そう考えたからだった。
これまでの旅で引き出せるようになった杖の力を、魔法でさらに底上げしていく。
やがて、杖の先に、煌々と輝く炎が生まれた。
船の上のラックには、それがまるで太陽のように見えた。
巨大な炎が渦を巻きながら、拳ほどの大きさへと圧縮されていく。周囲の空気が、熱で歪んで揺らめく。それほどに凝縮された火球を、ミカは魔石へと向けた。
「いけ……! ミカっ……!」
ラックの叫びに、ミカは頷き、火球を放つ。
それはもはや光線のように、一直線に夜を貫いていき、ローシュの矢に導かれるように魔石へと直撃した。
その瞬間、闇夜が昼に変わるほどの爆炎と轟音が弾けた。
「ラ、ラック……! 受け止めてください!」
落下し始めたミカが、下にいるラックへ呼びかける。
ラックは剣を鞘にしまうと、笑みを浮かべて歩き出した。
傷だらけの体を引きずるようにして、それでも迷いなく、落ちてくる場所へ。そして、ミカの勢いを殺すように、優しく抱きとめた。
「あ、ありがとう……ございます」
腕の中で、ミカが少し恥ずかしそうに礼を言う。ラックは満面の笑みで応えた。
「礼を言うのは……こっちのセリフだ。ミカ! お前最高だよ!」
自分の怪我も忘れ、作戦の成功を喜ぶように、ラックはミカを抱きしめる。ミカは顔を真っ赤にして、あわあわと慌てていた。
静かに、煙が晴れていく。
『礼を言う。人間』
その時、全員の脳内に、ノイズのような声が響いた。誰に教えられるでもなく、全員が直感する。これは、クラーケンの声だ。
『長く……苦しみに囚われていた』
ノイズ混じりでありながら、どこか荘厳さを感じさせる声だった。
もうそこに、敵意も負の感情もないことは、全員が理解していた。クラーケンの無数の触手が、水音とともに静かに海面を撫で、やがて沈んで消えていく。
『この恩、忘れはせぬ』
その声を最後に、クラーケンは泡沫のように静かに姿を消した。
あとには、砕けた魔石の欠片が、満天の星空のようにきらきらと輝き、舞っていた。
「終わった……んですよね?」
マストから降りてきたローシュが、小さく呟く。
一瞬の静寂。全員が顔を見合わせ、そして、割れんばかりの歓声が船を揺らした。
「ふっ……まったく迷惑な神様だな」
ジルは船乗りに肩を借りながら、笑みを浮かべていた。
気付けば、夜が明け始めていた。
水平線の彼方から太陽が昇り、すべてを明るく照らしていく。
朝の光を受けて、魔石の欠片が煌めき、空を彩った。傷ついた船の上では、歓喜の声がいつまでも絶えなかった。
ミカの真っ白な髪が、朝日に照らされて、なびいている。
そして、とても綺麗な顔で笑っていた。大切な仲間を守ることができた喜びに、心が満たされて、いつまでもずっと笑っていた。




