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負け確定のチュートリアル令嬢だけど、幼馴染が全部ひっくり返してくれました  作者: 石月 和花


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エピローグ

「でも良かったわ。あの時ギルの実験が成功してくれて。あれでガラス細工が壊れなかったら、きっと酷い言いがかりで賠償金を請求されていたわ。」


 アカデミーからの帰りの馬車の中で、私は査問会での出来事を振り返り、ギルバートに話しかけていた。


 今こうして私が無事にギルバートと一緒に家に帰れるのは、査問会でギルバートがやってみせたナイジェル様の保護魔法の強度を試す実験が成功したことが大きかった。


 もしあれが失敗していたら、きっと妖精の涙の一件は、私のせいになっていて、こんな風にギルバートとゆっくり帰る事なんて出来なかったに違いない。


 だから私は、固唾を飲んで見守ったあの実験の成功に、少しばかり神様が私を助けてくれたのでは無いかと思っていたのだけれども、その考えはギルバートとの会話であっさりと霧散してしまった。


「そうだね。でもあれは絶対に壊れたから大丈夫だったんだよ」

「どういう事??」


 ギルバートが不思議なことを言ったので、私は首を傾げた。

 絶対なんてどうして言い切れるのだろう?そんな疑問を彼に訊くと、ギルバートはあっさりと種明かしをしたのだった。


「ナイジェルの保護魔法は確かに強力だったと思うよ。でもね、あの実験は必ず成功するようにしてあったんだ。簡単な事だよ。実験に使ったのは僕のハンカチだ。ハンカチに保護魔法を打ち消す魔法を仕込めばいいんだからね」


 それは全く想像していなかった内容で、私は目を丸くして彼の顔を見たが、当のギルバートは、全く悪びれる様子もなく平然としていた。


「そ……そんな大それたことを?!もしバレたら貴方が罰せられるのに!なんでそんなことをしたの?!」


 そもそも、ギルバートは真面目で正義感が強い性格で、不正等は嫌いな筈だった。そんな彼からあり得ない発言を聞いて、私はだいぶ戸惑った。


 しかし、そんな私の狼狽(ろうばい)をよそにギルバートはいつも通りだった。


「なんでって、勿論ユリアを助けたかったからだよ」


 真剣な顔でそう言われてしまったら、私はそれ以上ギルバートを怒る事が出来なかった。


 だって、昨日私は『査問会で負けないように貴方の知恵を貸して!どんなことでもいいから!!』と言ってしまっていたから。


 私は昨日の自分の軽率な言動を反省し、少し俯いた。


「そんな……私のためになんて危険なことを……貴方、捕まっていたかもしれないのよ?」

「大丈夫、僕がそんなヘマをする訳ないよ。」

「でも……そんな無茶な真似、もうしないでね?」


 少し俯いたままだった私は、チラリと顔を上げギルバートの顔を見た。


「……」


 え、何この間。

 何故だかギルバートは言葉に困っている様子だった。


「……ギルバート?」


 なんで「分かった」と言えないのだろうか。私は訝しがって彼の名前を呼んだ。

 するとギルバートは、どこか申し訳なさそうに笑みを浮かべ、ゆっくりと息を吐いた。


「うーん。僕はユリアに対しては誠実で居たいから、出来ない約束はしたくないんだよね」

「それはつまり……もう無茶をしないって事が守れないと?」


 私が少し呆れて彼を問いただすと、ギルバートは否定とも肯定ともつかないような柔らかい表情で私をじっと見つめて、そっと手を包み込んだ。


「ユリア、僕は君の為だったらどんな無茶な事だってするよ。それはこれからもずっとだ。だから君の問いに、"うん"と素直に言えないんだ」


 ギルバートは甘い笑顔を私に向けて諭すようにそう言うと、ふいに私の耳元に顔を寄せて、言葉の続きを囁いた。


「でも、僕の事を心配してくれてありがとうね」


 耳元での囁きの破壊力に、私は耳まで真っ赤になって、慌てて身体をギルバートから引き離した。


「ギル!私の反応見て面白がっているでしょう?!」

「心外だなぁ。面白いだなんて思ってないよ。僕はただ、愛おしいなと思っているよ」


 ずるい。そんなことをさらりと言われてしまったら、私は何も言い返せなかった。


 私は再び真っ赤になって、彼の顔を直視できずに俯いた。真横ではギルバートがそんな私の様子を嬉しそうに見守っていた。

 

 朝と同じ二人で乗った馬車だけど、朝とは何もかもが違った。私とギルバートの関係も、馬車の中の雰囲気も。一つだけ同じなのは、ギルバートと過ごすこの時間がずっと続けば良いなと思ったこと。


「ユリア、いい加減顔を上げなよ」

「無理よ。恥ずかしいから」


 そう答えたものの私は伏目がちにギルバートをチラリとみた。彼は、愛おしそうな目で楽しそうに私の事をずっと見ていた。


 子供の時からずっと一緒に居て、全然気づかなかったけれども、私の新しい婚約者様は、どうやら私の事が大好きみたいです。

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