第4話 負けられない戦い
「それではフランソワさん、貴女の訴えを述べて下さい」
副会長のバーゼル様が査問会を取り仕切る。
彼に促されたフランソワさんは、待ってましたと言わんばかりに跳ねる様に一歩前に出て、力強く証言を始めた。
「はい。あれは先週のダンスパーティーでの事でした。私は何もしてないのにユリア様にワインを浴びせられたんです!!」
彼女の目には力がこもっていて、全くもって怯えや動揺がない。自分の発言に揺るぎない自信を持っているのが伝わってきた。
この場にいる人間で彼女が嘘を言っていると思う者は居ないだろう。それ程までに堂々としていたのだ。
しかし、我が家の命運がかかっているのだからこちらも負けていられない。
フランソワさんの証言に私はキッパリと反論をした。
「いいえ、私はそんな事をしていませんわ」
彼女に負けじと、私も堂々と証言する。すると、向こうも反論を返す。
「ひどい!こちらにはちゃんと証拠が残ってますわ。これが、その時のドレスですわ!!」
私の反論に被せる勢いでフランソワさんは、直ぐに異を唱えて前面に派手なワイン染みのあるドレスを提出してきた。
彼女の表情はどこか勝ち誇ったかのように見えたが、しかし、私だって手は打ってある。
「それについては、こちらも証拠を提出いたします」
私は侍女に指示をして、その時着ていたドレスを持って来させた。
色々と試したけどシミを抜き取る事ができなくて捨てる直前だったドレスを、ギリギリの所で回収出来たのは本当に運が良かった。このドレスが無かったら、きっとフランソワさんに言いくるめられていたと思うから。
(ゲームでは、汚れたドレスはこの査問のキーアイテム。証拠品として突き付ける事で相手の動揺を誘い傍聴人ポイントを稼ぎ、一気にヒロインが有利になる仕様――。キーアイテムが私にも使えるかは分からないけれども、試す価値はあるはず!)
私は、自分で用意したアイテム「汚れたドレス」を手に、反撃を試みた。
「見ての通り、私のドレスの背面にワインの染みが残っております。ワインを持っていたのはフランソワ嬢で、私のドレスの背面が汚れている。これは私がワインをかけられた事になる証明になりませんか?」
私がドレスを証拠として提出した事に、フランソワさんは明らかに動揺していた。それもそのはず、ユリアはチュートリアル令嬢なので証拠品を出して反証だなんてゲームではしないから。
「嘘……なんで??」
そんな声を思わず漏らしてしまう程に、彼女は動揺していた。
(この慌てぶり、やっぱりフランソワさんもゲームの記憶があるのね……)
ゲームの記憶がある。つまり、この後のユリアの状況も知ってるはずなのに、酷い難癖でユリアを断罪しようとしている彼女に、畏怖を感じた。
「フランソワ嬢、今のユリア嬢の発言に意見はあるかい?」
査問会を取り仕切るバーゼル様が、発言の途切れたフランソワさんに問いかける。
すると彼女はハッとして、慌てて場を取り繕った。
「それは……そう、私がユリア様の後ろを通った時に、ユリア様が後ろに下がってきて、それでぶつかったのよ。わざとだわ!!」
それはなんとも苦しい言い分だったが、今のところフランソワさんの言い分が嘘か本当か判断出来る状況証拠は出てきていない。
このままではフランソワさんの主張が間違っていると完全に潰せない。私は次の一手を必死に考えた。
そんな時、隣のギルバートがスッと手を上げたのだった。
「すみません。ユリアに代わって僕に言わせてください。」
そう断りを入れて承認を得ると、私に代わってギルバートが反論を始めた。
「それでは、この二つのドレスのシミの範囲をご覧ください。かなり広範囲ですよね」
「それがなにか?」
「おかしいと思いませんか?普通ワイングラスに注がれる量ではここまで広範囲に広がりません。不思議に思った僕は当日の給仕役に聞き取りをしてきました。珍しい注文だから、彼もよく覚えていて、ピンク髪の令嬢にグラスに並々と満杯に注いでくれと頼まれて従ったと言っていましたよ」
盲点だったが、状況証拠は既にここにあったのだ。ギルバートの言う通り私たちのドレスに残っているシミの範囲は広範囲すぎた。
「そ、それは……物凄くワインが飲みたかったのよ!何もおかしい事じゃないでしょう?!」
「そうですね、下品な行為ですけど、問題はないですね」
一旦肯定しておいて、ギルバートは突き放す。
「しかし、そんな並々と注がれたワイングラスを持って歩き回るのが非常識です。今回はたまたま大半をご自身で被られたから良いものを、他の参加者に迷惑をかける可能性が大いにあった。貴女が反省すべきです」
ギルバートの正論に、フランソワさんは遂に黙った。……一瞬だけ。
「と……とにかく!私は被害者で責められるべきはユリア様よ!!見てこのドレスをもう着られた物じゃないわ!!」
段々と言い訳が苦しくなってきたフランソワさんは、ギルバートからの指摘を全部棚上げして、強引に自分が被害者であると主張を強めた。
「フランソワ嬢は弁償をお望みなんですか?」
「弁償ですって?このドレスはお婆様やお母様から受け継いだ我が家に代々伝わる由緒あるドレスなのよ!値段なんてつけられないわ!!そんな大切なドレスを、私は汚されてしまったのよ!酷いわ!!」
「なるほど。ドレスの弁償は望まれてないと。では、貴女は何が望みなんですか?」
「えっ?」
ギルバートの問いにフランソワさんはまたしても言い淀んだ。それもそうだろう、だって恐らく彼女はイベントを攻略したいだけであって、私が悪者認定されればそれで良いのだ。だから、この議論の具体的な落とし所など何も考えていなかったんだと察した。
「それは……えっと……ユリア様に謝って貰いたくて……?」
「謝る?何を??ユリアは1ミリも悪くないのに??」
「だから……そう、ユリア様にぶつかった事でドレスが台無しになりましたわ!それを謝ってください!!」
今この場で考えついたであろう要求を、フランソワさんは必死で訴えた。そんな彼女をギルバートは冷たい目で一瞥した。
「しかし、貴女自身が立ち止まって友人と談笑していたユリアの背中にぶつかっていって、貴女が手に持っていたシャンパンをご自分で被ったのでしょう?ユリアに非は無いと思うけど」
「そんな、邪魔な場所に立っていらした方が悪いわ!」
「ダンスフロアを避けて友人と固まって談笑するなんて、ごく当たり前の光景。貴女の方がよそ見をしていたのが悪いのでは?」
「私、よそ見なんてしてません!!」
「よそ見をしていないのに、なんでユリアにぶつかるんだ。つまり、故意ですか?」
ギルバートの反論は止まることを知らなかった。フランソワ嬢も、よくもまあ次から次へと屁理屈を述べられるなぁと思ったけども、何を言っても即座にギルバートが論破するので彼女はどんどん追い詰められている様だった。
「あと、言っておきますがユリアが着ていたドレスは値段が付いてますからね。ワインをかけた君が、弁償するのが筋じゃないかな」
「そんな……ひ……酷いですわ!!」
遂に、フランソワさんは泣き出してしまった……いや、私の位置からなら彼女の目に涙が出ていないのが見えている。つまりこれは嘘泣きだ。
それにしても凄い演技力。傍聴の生徒たちは簡単に騙されてしまっている。場の雰囲気がフランソワさんに同情を寄せる方に傾きかけていた。
しかし、ギルバートにはそんな涙は通用しなかった。彼は真顔でスッと手を上げて、殿下に進言をしたのだった。
「……生徒会長。査問の申請者であるフランソワ嬢は、感情が昂って泣いています。このままでは冷静な話し合いは難しいと思いますので今日の査問会はこれで中止にした方が良いのではないでしょうか?」
「そうだな。こうも感情的に泣いていては冷静な答弁ができるとは思えないし、妥当な判断だな」
生徒会長は場の雰囲気に流されるような人ではなかった。ギルバートの意見に賛同して、査問会の中止を宣言しようとしたその時――
「ちょっ……ちょっと待ってください!!大丈夫です!もう泣き止みましたから!!」
フランソワさんは、慌てて涙を引っ込めた。……まぁ、元から出てなかったんだけどね。
「フランソワ嬢、もう大丈夫なのか?」
「はい、もう大丈夫です!」
「そうか。それでは査問を続けるけど、今までの話を聞く限り、私は君の方に問題があったと思うよ。なので、ユリア嬢から賠償を求められたら君はキチンと対応するように」
「は?」
王太子殿下の言葉に、フランソワさんは目を点にしてなんとも間の抜けた声を出していた。とても王族に対して許される態度ではなかった。
流石に彼女のこの言動には会場の生徒たちがざわついたので、フランソワさん自身もすぐに気づいて、狼狽えながら頭を下げなおした。
「あ、いえ……承知いたしました……」
深く頭を下げるフランソワさんの表情は見えなかったが、スカートの裾を持つ手が小刻みに震えているのが分かった。
会場のざわめきが収まると、進行役のバーゼル様は査問を進めた。
「殿下のお言葉も頂いたことですし、それでは次の議題に移ります、フランソワさん。次の訴えをどうぞ」
顔を上げたフランソワさんは物凄く不服そうな顔をしていたけど、これ以上ドレスの件を掘り下げるのは得策ではないと悟ったのか、切り替えて次の訴えを始めた。
「はい、あれは一昨日の魔法薬の実習の時でした。私は分からない事があったので隣にいたユリア様に質問をしようと声をかけたのですがずっと無視されてしまいまして……終いには話しかけるなと強い口調で拒絶されましたわ。その所為で私は大事な魔法薬の授業の単位を取る事が出来ませんでした……ユリア様が妨害なさったからです!!」
改めて聞くと、ヒロインの言っていることは随分と無茶苦茶で荒唐無稽だった。
しかし、ゲームの世界だとこれがまかり通ったのだったから油断ならない。
彼女のペースに巻き込まれない様に、私は冷静に反論をした。
「私は妨害などしておりません。自分の作業に集中していただけです」
「酷いですわ!私が困って声をかけてるのに助けないなんて、ユリア様は自分本位ですわ」
そっちの方が余程自分本位ではないか。そう思ったが、口に出すのはグッと我慢した。
しかし、それが良くなかった。
「確かに、この学園の理念の一つが助け合いだ。困ってる人を助けなかったのは良くないな」
まさか、王太子殿下がフランソワさんの主張に賛同したのだ。
殿下の言ってることは、確かに正論だった。だから私は咄嗟に何も言えなくて、反論に窮してしまった。
すると、横から声が上がる。
「しかし殿下、こちらをご覧ください」
またしても私に代わって、ギルバートが声を上げてくれたのだ。
彼は私の魔法薬学のレポートを証拠として差し出し、話を続けた。
「作業していたのは、正しい手順通りに作らないと失敗する魔力回復薬の作成です。魔力回復薬はここに書いてある通り、材料を全て合わせた状態で、右回りに47回、30秒数えた後左回りに52回かき混ぜ、更に12秒数えた後、右回りと左回りの往復を21回する必要があります。この作業中に話しかけられて応対出来る人が居ますか?!」
講堂内が静まり返る。
それはそうでしょう。だってこの実験は一年生の必修なので、ここにいる多くの生徒はこの実験の難しさを身をもって経験しているのだ。実験中に話しかけられて自分の実験が失敗したら堪ったものじゃない。それは殆どの生徒が抱く感情だった。
先ほどとは一変し、私に同情が寄せられる講堂の中で、ギルバートは追い打ちをかける。
「そもそも、人に聞かないで作業した結果が落第ならば、それが貴女の実力でしょう?正当な評価です。貴女は先生方が決めた評価にケチをつけるのですか?」
「そ……そんなことは……」
「それに、教室にはユリア以外も居たでしょう?何故貴女は他の人に聞こうとしなかったのですか?他の人も教えてくれなかったのですか?貴女は友人がいないのですか?」
ギルバートの容赦ない言葉で、ヒロインは今にも本当に泣きそうだった。
「話を聞く限り、こちらもユリア嬢に非はなさそうだな。フランソワ嬢は人に頼らずにもっと勉学に励むように」
「……はい」
二つ目の訴えも無事に却下されて、私はホッと胸を撫で下ろしていた。
最後は妖精の涙だけども、これについては本当に心当たりがない。
(……確かゲームでは、ナイジェル様が妖精の涙を持ち出して、フランソワに渡して擬似プロポーズをしているところにユリアが出くわして、激昂して叩き割ったんだったっけ)
ゲームの展開自体に突っ込みたいことはあるが、一旦置いておいて、現実の私にはそのような出来事は起こっていないし、似たような事も起こっていない。
だから一体全体私は何を訴えられるのか、全く以て予想がつかなかったが、それは思いもよらない方法だった。
「私、ナイジェル様からお借りした妖精の涙を大事にハンカチに包んで居たんです。でも、そのハンカチをうっかり落としてしまって……そうしたら、ユリア様があろうことか私のハンカチを踏みつけて、妖精の涙を壊してしまったのです!!だからユリア様は妖精の涙を弁償しないといけません!!」
(な、なんですってっ?!!)
フランソワさんの証言に私は声を出しそうになったのをぐっと堪えて、心の中で叫んだ。
無茶苦茶過ぎる。
どこから突っ込んで良いのか分からず、私は思わず眩暈がして少し後ろによろけてしまった。
すぐにギルバートが私の背中をそっと受け止めてくれたので転倒は免れたが、あまりの無茶苦茶な展開に体の力が抜けてしまって、私は暫く彼に寄りかかっていた。すると、頭の上から声がかけられたのだった。
「……もう、最初から僕が反論しても良いかな?」
背中越しに彼を見上げると、ギルバートは物凄く怖い顔でフランソワ様を睨んでいた。
いや、彼自身は相変わらず貴公子の笑みを浮かべて居るのだが、幼馴染だから分かるのだ。ギルバートは相当怒っていた。
私はあまりの剣幕にコクリと頷いた。
私の了承を得ると、ギルバートは私を離して一歩前に出た。完全に臨戦態勢だった。
「そもそも、ユリアが踏んで壊れたと言う証拠が無いでしょう?貴女がハンカチを床に落とした時に壊れたのでは?」
「それは有り得ませんわ!妖精の涙は壊れやすいので、保護魔法がかけられていますから。落下くらいでは壊れませんわ」
「保護魔法を掛けたのは誰ですか?」
「……俺だが……」
手を上げたのは、完全に場の空気になっていたナイジェル様だった。そういえば居たんだった。
ナイジェル様の申告に、ギルバートは形の良い眉を顰めて切れ味鋭く切り込んでいく。
「失礼ですが、ナイジェル殿はその……魔法学の成績があまりよろしく無いですよね?その、保護魔法が不完全だったのでは無いですか?」
「な……何を言うか?!無礼だろう?!貴重品を扱う稼業ゆえ、保護魔法の習得は我が家では最優先事項。俺は10歳でマスターしたんだぞ!!」
「まぁ口ではなんとでも言えます。僕は客観的事実から、疑問点を述べたまでです。だって、ナイジェル殿のアカデミーでの成績では説得力がありませんし。でも、もしここで、貴方の保護魔法の強度を証明できれば何も言うことはありません」
「いいだろう!見せてやる!!」
今のは誰が見てもギルバートの挑発だったが、ナイジェル様はいとも簡単に話に乗ってしまった。私はギルバートの事をよく知っているから、彼が絶対に何か仕掛けているのだと察しながらやり取りを見守った。
「妖精の涙の実物を用意するのは難しいので代わりにガラス細工を使います。ナイジェル殿、これに保護魔法を掛けてみてください」
ギルバートに言われた通り、ナイジェル様は手渡されたガラス人形に保護魔法をかけた。そしてギルバートはナイジェル様からそのガラス人形を受け取ると、自分のハンカチでそれを包んで、そしてフランソワさんの証言のように、ポケットから取り出して、ハンカチを床に落とした。
――パキッ
一同が見守る静寂の中で、何かが壊れた音がハッキリと聞こえた。
「う、嘘だ!これくらいの衝撃で壊れるはずがない!!」
「目の前で起こったことを否定するのですか?」
鋭く、冷たく、ギルバートはナイジェル様を蔑み、そして会場全体に聞こえるように、大きな声で言い放った。
「これで分かったでしょう?妖精の涙を壊した張本人はハンカチを落としたフランソワ嬢、貴女だ。ユリアは何も悪く無い!」
ギルバートの宣言によって、会場内はしんと静まり返った。……一部を除いて。
「まっ、待ってくれ!それじゃあ誰が妖精の涙を弁償するんだ?!」
「……フランソワ嬢では?壊したのは彼女でしょう?」
「嘘……嘘よ!こんな展開あり得ないわ!!大体、貴方なんなのよ?!こんなキャラ居なかったわ!!!」
ナイジェル様とフランソワさんは二人仲良く取り乱していた。そんな二人を、ギルバートはうんざりしたような顔であしらう。
「貴方たちが何を言っているのか分からないですが……そもそも、王家に献上予定の品物を人に貸すというのがおかしい。普通はありえない。そんな不敬な行動を殿下はお許しになるのですか?」
「いや……それは……」
ナイジェル様は顔面を蒼白にして、今になって事の重大さに気づいたようだった。
そう、本来なら王家に献上予定の品物を勝手に持ち出して人に貸すだなんて不敬もいいところなのだ。きっとバレなければ良いと考えていたのだろうけども、今こうして、王太子殿下の居る前で全て明るみになっている。
これがゲームの影響力のせいならば、ナイジェル様に少しは同情するけども、彼の場合、おそらくは自業自得なのだろう。
ざわめく会場を、王太子殿下の声が制する
「今までの答弁を振り返って、生徒会としては、ユリア嬢は何も悪くないと判断する。ナイジェルの妖精の涙の取り扱いについては、ここでは手に余る。サイラス家の責任問題になるだろうから、しかるべき場所で改めて査問会が開かれることになる。心しておくように」
王太子殿下の一声で、この査問会は終結した。
「た……助かった……」
ユリアは断罪されなかった。この現実に私は心の底から安堵して、思わず情けない声を漏らしていた。
そんな私とは対照的に、フランソワさんは絶望的な顔をしていた。
「そ……そんな……。嘘でしょう?チュートリアルで負けるなんて……」
フランソワさんはその場に膝から崩れ落ち、放心してしまった。
そして、放心している人がもう1人。
ナイジェル様は横でくずれ落ちているフランソワさんを助け起こす事もしないで青い顔で突っ立っていた。
私はそんな二人をチラリと眺めると、すぐに目線を外した。
彼女たちに悩まされる事は、もうなくなったのだ。
私は横に立つギルバートに心からの笑顔を向けた。
「ありがとうギル!貴方のおかげで私は救われたわ!!」
本当ならギルバートに抱きつきたいくらい嬉しくて、彼に心から感謝をしていたけど、こんな人前では出来ないので、私はギルバートの両手を握ると大きく上下に振って、この気持ちを全身で彼に伝えた。
しかし、ギルバートから返ってきたのは予想外の言葉だった。
「うん。でもねユリア、まだ終わりじゃないんだ」
「えっ……?」
「僕の本番は、むしろこれからなんだよね」
そう言うとギルバートは、改めてこの場の最高責任者である王太子殿下の方を向いて、新たな査問を申請したのだった。




