シェイプシフト
喉が乾いた。
迷ってどれくらいたっただろう。半日は歩いた気がする。
あの赤い液体を飲んでいない。ルーシュが欠乏している。
水…
本物の水が欲しかった。
まるで餓鬼のような飢渇。
ふと、目の前に別れ道が見えた。
今までに無かったことだが、石碑が立っている。
刻まれているのは…竜?
私の脳裏に、カスパーから聞いたオツベルの話しが浮かんで消えた。
石碑を一日中押していた、頭のおかしい男の話し。
まさか…
私は、石碑を押してみた。
カチリ、と音がなった。
聞き覚えのある音だった。
モルディギアン神像の前でよく聞いた音だ。
ふいに、獰猛な気配が、私の顔を叩いた。
恐ろしい速さで、巨大な、筒状の廊下に満ちるほどの大きさの蛇が私の前を塞いだ。
目の前に絶叫する竜が威嚇していた。顔が人である。
何故か、その顔は認識できた。
ジルケにそっくりなのだが、身体は大蛇のそれであった。その口か太い牙が生えている。
もの凄い叫び声と、威嚇を目にしつつ、彼女が、本当にジルケなのか推し量っていた…これが夢ならば、覚めてほしいと願いながら。
ジルケの巨大な口蓋が目の前に迫り、腐臭と血の匂いが、身体を覆った。
終わりを予感し、
「あ…」
と私は漏らしていた。
巨竜は止まった。
そして、驚くべきことが起こった、みるみるうちにシェイプシフトが起こっていた。
巨竜は姿を変えつつあった。
人型となると、誰だか分かった。
その裸体を露わにした、ジルケ。白蛇のような肌、スタイルのよさを隠そうともしない。
彼女はあどけなく、笑った。
そのまま、彼女は私を手招きすると、石碑を押した。
廊下の壁が変形して、奇妙なドアが現れた。ドアが開くと、奇妙な彫刻が壁に刻まれた広大な部屋がそこにあった。
天井には血飛沫のような紋様があるが、蓮の華にも見えた。
部屋には、赤い紅蓮華が咲き乱れ、ジャスミンのような濃厚な香りが漂っている。
ジルケは部屋に入っていく。
白蛇が蛇行するかのような彼女の美しい後姿を見て、呆然として我を忘れた。
くるりとこちらを向いた。妖しげな赤い光に照らされた彼女は蠱惑的な風情を醸し出していた。傲慢な中にも幼さを備えた美しい顔でこちらに微笑む。
そのまま、豊かな胸はみるみるうちに鋼の板のようになり、両脚の間にも明らかに異変が生じ、若い女の容貌から初老の男の顔になるまで、すべては刹那の出来事だった。
ジルケは、トゥコに変身していた。
私は、げんなりした。このシェイプシフトは変成男子とも言われるが、実際に見ると妙な衝撃がある。
そんな私を気にせずそのまま、トゥコは話し始めた。




