土中の妖蛆
その一方で、そこに暮らす者たちもいた。
住民は一見して、私と同じ蛇人たちだったが。
感情を削ぎ落とされた自動人形のように振る舞っていた。
奇妙なことに見かける人見かける人の、顔がわからなくなっているのである。
目や鼻などのパーツは分かるのに、いざ、顔全体を見ると識別ができない。
衣服や装飾品のの特徴だけ見れば。住人には見知ったもの達もいた。
奇妙な魔法で、皆、顔を失っているようだった。
誰かと決定が不可能な、判別できぬ顔。彼らは話しかけても、物を言わぬ。私は今、彼らの服装や手足、動きの癖で誰かと分別しているに過ぎない。
クラウス。
カトリやフワル、キッシュ、ガトー、ヨシ…
フツはいなかった。音声ファイルを残して、逃亡したのだろう。
ミトとガオもいない。
住民が何をするかと言えば、この地下世界の物質を使い化石を造るのだ。
作業内容はさておき、土木作業に近い。
家ほどの土を盛り、中をくり抜き、地上から送られてくる死体を埋める。
記憶を辿れは、ドーム型に土を盛って穴を開けた粗末な墓だ。
しかし、肉眼で見ると、紛れもなくしっかりとした複雑な寺廟に見える。
それはこの地下世界の特殊な「土」に、それぞれの記憶が反映して「そう見えている」だけだ。
土木作業は過酷を極めた。
土の中には、1メートル近い長さの、針金のような頭の妖蛆がいる。死体の肉を好んで食べるが、生者をも襲う。皮膚の下に潜り込むのだが、それをえんえんとズルズルと何十匹も引っ張りだして、壁に叩き付けて、踵で潰し、殺していた。
そこで、ふと気づいたのだが、例の長い針金のような皮膚下の蛆虫は、かつて魔導書で読んだ、地獄に住むという妖蛆であるまいか。
1メートルくらいの、針金のような妖蛆。頭は黒く、皮膚の下に潜りこんでいるのだが、自分から引っ張りだしてはいけない、途中で千切れてしまうのだ。
壁に傷口を向けると、妖蛆が、自ら壁を攻撃しにズルズルと出てきて壁を威嚇するので、それをとらえて引きずり出すのだ。あとは、踵で押し潰せばよい。
踵を噛まれないように注意が必要だ。
傷口は、勝手に再生した。都市全体に回復魔法でもかかっているのではあるまいか。
このような過労働はとうてい了承できるものではない。二次元化して逃げ出したいが、債権を肩代わりされているので如何ともしがたい。
地上に出れても、法的に負けている。裁判で負けたら、こんどは刑務所行きだ。
刑務所には魔法を無効化する特殊な術がかかっているのだ。まだ、この地下寺院のほうに脱出のチャンスがあるだろう。
クラウスやフワルたちも、また私と同じく拉致されて来たのだと推測できた。
話しかけても答えられないような状態なので、確認しようがないが。
それにしても、何かが変だ。
本当に、本人達なのだろうか?




