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独立

「今後、我が修道院ではヴァルーシア社の葬儀を受けません」


 ジルケの言い放った一言に、まるで爆薬を積んだ車が突っ込んできて、フュルステンブルク修道院の硝子窓がほとんどすべて吹き飛んだような気がした。修道院にいた者は皆、同時に息を呑んだ。


 修道院が混乱すると、あらゆる情報の真偽がわからなくなる。むしろ、すべてが偽りの噂だと考えたほうが正しいのかもしれない、と思っていた。


しかし、それが現実化した。


 修道院の経営をめぐり、ジルケとトゥコが争っていたのだ。親子の争いに、修道院にいる全ての人の生活が、一人残らず巻き込まれつつあった。


 クラウス、ザウヤ、カトリは目を白黒させ、ある者は床に倒れそうになり、またある者は壁に拳を強く打ちつけた。その場にたまたま居合わせた修道僧、事務方の者、下働きの女たちまで、今後どうするのか、小鳥のようにさえずり始めた。


 かくして、シャークヤ修道院はヴァルーシア社から独立することになった。


 疫病のため、どこの国営火葬炉も休むことなく稼働していた。我々は呼ばれ、炉前の勤行をしていた。家族たちの泣き声は途切れることなく、修道僧たちの読経も絶えることはなかった。我々は炉前勤行のため、火葬場へ出かけた。


 ヴァルーシア社の葬祭館以外の斎場でも、少ないながら葬儀はあった。


 後の仕事は相変わらずだった。塵籠のごみを集め、厠を掃除し、修道院内を清掃し、遺骨を細かく砕く。


 疫病の流行によって臨時休院となっているような、がらんと寂しい修道院で、我々はただ見回りをする日々を送った。


 給金は三分の一になった。


 何よりも借金が払えない。私は再び自転車操業に陥った。


甲社から借りて、乙社に払う。


乙社から借りて、丙社に払う。


丙社から借りて…悪無限。


 もはや、空虚な、埋めようもない穴が財布と心に開いていた。そこから耐えがたい寂寥の風が吹き込み、我が生命を凍らせていくのだった。


 いや、もしかしたらジルケとトゥコは仲直りしているかもしれない。


 そう考えて無理に前向きになってみたり、かと思えば、絶望の底へ沈んだりした。心の浮き沈みが激しくなった。


 汗を掻いて飛び起きると、冷たい闇を見つめて心を落ち着かせた。


 フュルステンブルク修道院に出勤すると、閑散とした侘しい雰囲気が漂っている。


 名も知らぬの虫どもの鳴く声が、その無常な雰囲気をいっそう助長していた。


 疫病のせいで、多種族霊園への参拝者も少ない。千手ニャル神の祟りのせいか。


 季節は冬だった。


 「安らぎの林」の木々は葉をすべて落とし、裸になった枝を空へ伸ばしている。まるで骸骨の腕が、寒々とした空を抱こうとしているかのようだった。


 ジルケの宣言を聞いて、事務方の者の半分が辞めた。


 ガオが寺務所で事務処理をしてくれている。現在、事務方の者を募集しているらしいが、応募は少ないとのことだった。


 私は毎日、家の祭壇に向かって勤行していた。


 祭壇といっても、棚を改造した粗末なものだ。


 そこには千手ニャル神が本尊として安置されていた。実家から預かったものだった。


 その無貌の顔が、宇宙の本質を突いているようで、気に入って拝んでいた。


 本尊は、これでいい。


 古い経典には、ニャルの姿形はアミトースの本質は違いがない、と記されている。


 トゥコやジルケの部下としては、懺悔、滅罪しなければならない。


 私は仕事から帰ると水浴びをし、身を清めてから、イグ涅槃経、蕃ニャル神経をあげ、アミトース根本呪、蓮華の書の詩句までを読誦し、シャークヤ修道院の罪を懺悔して眠った。


 毎朝、多種族合祀墓に参った。


 毎朝、煙を上げる線香の束があった。


 誰かがお参りに来ているのだろう。


 毎日、紅い花が花筒に供えられていた。冬の墓場に咲く、唯一の彩りだった。


 人のいない、暗い修道院での勤務は退屈だった。


 しかし、不思議なことに時間を感じさせなかった。


 三ヶ月は、あっという間に過ぎた。


 日々、暗い心で魔導端末の画面を弄る。


 そしてこの三ヶ月、十一月から一月にかけて、極端に寒い日々が続いた。


 何度か雪が降り、修道院の出入り口の雪掻きを手伝った。


 温水をひたすら汲み、雪へかけていく。溶けかかった雪を木製の雪押しで側溝まで押しやるのだ。


 雪は、貧しくなる一方の修道僧たちの怨念のようにも見えた。


 寒く、暗い日々が続いた。


 王都全域で魔力供給が不足しているため、照明も節約されていた。街灯さえ十分に灯らず、街全体が暗い。疫病は経済的な病でもあった。


 まるで、トンネルをひたすら進んでいるようだった。


 突拍子もないことを考えては、一瞬だけ明るくなる。


 しかし、それが不可能だと思い至ると、また鬱状態に沈んだ。


 魔導端末を弄りながら、疫病の治療にあたる者たちよ、どうか無事であれ、と念じてみる。


 だが、届いてくるのは、新たな感染者が増えたという知らせばかりだった。


 葬儀はついにゼロとなり、法事の歩合も廃止された。


 給金は控除されると十万デナリを下回った。


甲社から借りて、乙社に払う。


乙社から借りて、丙社に払う。


丙社から借りて、丁社に払う。


丁社から借りて、戊社に払う。


戊社から借りて、己社に払う。


己社から…


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