告別式、そして火葬場
顔を洗い、簡易魔法服を着て、急いで魔導車に乗って、ノイシュタットを目指す。渋滞にイライラしながら斎場に着いた。
告別式の人数は昨日ほど多くなく、そして昨日より落ち着いた雰囲気の中で行われた。入場してわかった、何か、苦しみと悲しみの核が抜けたような雰囲気である。もう、飛んでいったのだろうな、と思った。
式中に初七日を勤修するとアナウンスが入り、式が始まった。
礼拝、懺悔、聖水加持、霊供などを終えて授戒に入る。
「それ、教主開祖シャークヤ、出世成道して衆生を教化し引導し玉うに、若し伝を生ずる者有れば、必ず戒を授けたまう……」
授戒の聖句を詠唱する。
「ここに、善男子、俗名、グー・サトー、宿縁ここに発して蛇人の生を受け、機縁催してイグの教えを聞く。之によって、髪を剃りてシャークヤの門弟に列なり弟子となる……」
詠唱を終えると、この時、剃刀を故人の頭髪に当てるのだが、先輩側の何人かは本物の剃刀を用意していた。私は刀印を代わりにしていた。
髪を切るフリをして、その後、法名を授く。
「善男子あきらかに聞け 此の魔法名は汝が号なり。まさに受くべし、魔法名 グーターラー、之を授く」
魔法名授与の後にアコ文を読み上げる。「アコ文!」時代がかった気合いで読むと、時々クスクス笑う会葬者もいる。
そもそもアコ文とはアコ引導文とも言い、アコは古代語でたいまつの意味である。元々は茶里に付す時、遺体を焼く薪に火を点ずる、その際に導師が引導の句を授けたものが起源である。
「つらつらと惟るに、星海は茫漠として浮雲の風に従うがごとし……」
引導の句をつらつらと読み上げ、ある段階でまた、時代がかった気合いを入れて言う。
「諦聴せよ! 諦聴せよ! 期する所は一得、永不失の魔法戒、頼む所は大神イグの大慈悲なりと!」
その後、イグ呪を唱えた後、ナムアミトースで締めくくる。
読み上げたアコ文を元の封書に戻して、棺桶の上に置く。その時、たいまつを意識して腕を伸ばして置くようにしている。
読経に入る前に、少し待つ。すると、打ち合わせ通りに葬儀社が焼香のアナウンスを入れる。アナウンスが終わると共に、読経が始まるのだ。だいたい、告別式ではナコト写本ハイパーボリア段をゆっくり読む。そのまま骸骨礼文、千手ニャル大悲呪を読み、式中初七日に突入した。
式が終わりベルを鳴らして退室すると、急いで修道僧控え室まで戻り、着替える。魔法衣を掴んでお花入れに間に合うように、高速で着替えるのだ。先に、我が魔導者にカバンを積んでおく。ホールに戻るとお花入れが終わろうとしていた。式場の花は綺麗に刈り取られ、打首にあった人たちのようだ。故人の胸元にはアコ文が浄土への通行許可証のように置かれている。棺の蓋を家族と葬儀担当が被せるのに合わせてベルを鳴らす。
「それでは皆さま、故人さまのご冥福のため、お手合わせ合掌をお願いします。ナムアミトース。ナムアミトース。ナムアミトース。」
ベルを三回鳴らして、合掌する。会葬者がばらけ、喪主が葬送車に乗り込むのを横目に魔導車までダッシュする。
オストフェルト火葬場まで霊柩魔導車の真後ろに引っ付いて運転しなければならない。車、導師、遺族の列である。最近の葬送車はわかりにくいため、途中、葬送列とわからずに割り込んでくる不届き者も多い。なるべく、割り込みさせずに、火葬場まで付いて行くのだ。
オストフェルト火葬場ではなるべく入り口に近いところに車を停めて、先に着いているご遺族の元までベルを持ってダッシュする。汗をかいてきたのを悟られないように身なりを整えた。火葬炉前までベルを鳴らしながら進み、かしこまる。炉の扉がしまる時がクライマックスである。昔、感情が昂り、狂乱して棺に取りすがり火葬炉に入る勢いのご遺族もいて、火葬場の職員が落ち着かせる事態となった。
炉前勤行を始める。神格が高いと身体だけ復活して炉の扉を触手で突き破るものがいるから、注意が必要だ。そういった場合は王立軍が対処する。
まず、遺族に、お経が始まったらご焼香ください、と伝える。そしてベルを鳴らし、おもむろに蕃ニャル神経をゆっくりと読み、まだ焼香の列が続いていたら骸骨礼文をゆっくり読むのだ。
最後に、ゆっくりと振り返って、それでは何か質問等ございましたら何でも、修道院のほうにご連絡ください、と言ってその場を辞した。
火葬場では咳き込む人が多く、疫病の感染者かと思われた。ゲートでは光の照射を行って、ウィルス除去をしている。
国立魔法感染症研究所から漏洩してメディアで報道されたウィルス画像は、千手神の化身の一つ「吠えるもの」にそっくりだった。とはいえ、ナノサイズの群体なのは信じられなかったが。私は、あのニュースからこの疫病禍に、ある仮説を立てていた。
フツが調査しに来た、トゥコ・リューに貸与された、輝くトラペゾヘドロン…それこそが原因なのではないか?誤った扱いをしていたら、千手ニャルとて怒るに違いない。トラペゾヘドロンは千手神の化身である「さまようもの」を召喚できるアーティファクトだ。しかるべき者が、しかるべき手順で扱わなければ…祟りがあるのではないか?




