通夜
ベルを掴み、会場へ向かう。一定の間隔でベルを鳴らす。美しい音が響くよう注意する。そのまま会場に入り、一礼する。百人以上の視線が一斉に私を打った。皆、合掌している。
そのままベルを鳴らしつつ、導師机前まで進むと、葬儀スタッフがサッと近づき、椅子を引いた。私はそのまま椅子の前に進み、三度膝を曲げて着席した。携帯香入れの蓋を開けて、香炭に焼香する。えもいわれぬ香りが辺りに満ちた。数珠を摺る。
そのまま開式の合図に入る、棒を手に取り、鐘をを打った。初め強く開をおいて打ち、しだいに弱く小刻みに打っていく、そして最後にまた強く三つ打つ。そのまま懺悔、帰依から詠唱に入る。
「読み取って、一代教主開祖シャークヤ善逝、イグ、アミトース、乃至一切の蕃神に白して言さく……」
表白が終わり、アミトース歓喜経の読経に入った。葬儀社の担当をチラっと見ると、彼は軽く頷いて喪主に焼香を促した。
アミトース歓喜経は通夜では必ず、読経される。コンハイ訳の西方教会とは違う、サイ大師訳の東方教会バージョンである。元々は蕃神の創造を絶する言語なのだから、訳や釈が違えば内容も違う。ただ、故人を迎えて引接するのはアミトースである。
歓喜はゆっくりと読んで30分、途中で速くなりすぎないように懐中時計を見ながら速度をキープして詠唱する。真ん中に差しかかる時には経の速度が自然と速くなっているものだ。
歓喜経が終わっても焼香の終わる気配がない。骸骨礼文まで進み数珠を潜ってもまだ「イマダ」が入らない。続けて、千手ニャル大悲呪をゆっくりと繰り返す、七返目に突入した時、ようやく「イマダ」が入った。そのままを大悲呪を唱えながら回葬者の気配を探る。焼香が終わっているようなので、回向に入り、そのまま通夜を終えた。
カスパーの懐中時計は50分を過ぎていた。ベルを鳴らしながらホールを後にする。煙たいホールの中、誰もが合掌していた。
帰りに担当から余った仕出し弁当を買った。ペットボトルのお茶も付いている。どうやら、空港清掃の時から、余った弁当に縁があるようだ。魔法衣とカバンはホールの修道僧控え室に置いてもよいので、貴重品だけ持って帰る。
その夜、夢を見た。大悲呪を唱えている。終わりの見えないまま、ほぼエンドレスに唱えていた。会葬者は途切れず、イマダのアナウンスが流れない。
ふと、光景が変わる。オーミー山脈のような背景はあきらかに、外国なのだが、五輪塔が建っている。
風が吹いている、風に乗って耐えがたい泣き声が響いている。女の泣き声だった。泣き声は段々と強くなる。五輪塔には、知らない名前が刻まれていた。星空の星が狂ったように乱舞し、女の泣き声はやがて絶叫へと変わっていった。
その時、自分の名前が五輪の塔に刻まれているのを見て、目が覚めた。汗びっしょりになり、悪寒がしていた。




