合格、採用
初めてシャークヤ修道院本院の門を潜った時のことを、今さらのように覚えている。フュルステンブルク駅からバスで三十分ほど揺られ、目標のバス停で降りる。そこから五分ほど歩くと、殺風景な国道や畑の中に、古代の東方の城のような建物が建っていた。
しかしそれも、一見、豪華だが、三秒ほどで、あれ、これは金メッキだ、と見るもののほとんどが了解するようなものである。同じようなものを、何処かで見たことがある、と思ったが、後に遊園地のアトラクションに似ているんだと気づき、妙に納得した。遊園地の建物も、お城は精巧に造られているようで経年劣化がない、レプリカと数秒でわかる。
すぐに正門の両脇には緑色の旗が風にたなびき、シャークヤ修道院本院と主張していた。正門を潜ると、これもまたド派手な噴水が目に入る。青々とした空色の床があたかも青空を反射しているような噴水で、噴水の真ん中には美しい神像が鎮座していた。球体が泡立ったような像容…神はウボ=サスラヴァティであった。
噴水と、お城の向こう側には墓石がズラッと並んでいて、二百メートルほど続いた墓石の向こう側には、巨大な立ち上がった蛇…イグ神が霊園内を睥睨していた。ちゃんとした霊園ではあるようだが、お城のレプリカとピカピカの噴水のせいで、あたかも新興宗教の本拠地ですよ、といった風情である。これは、やばい…と私はひとりごちた。
ドアから中に入ると、若い女性の事務が出迎えてくれた。寺務所の中から、禿頭がちらりと見え、修道僧が机に向かっているのが見える。貼りついたような笑顔を浮かべ、「こんにちはぁ」と声をかけてきた女性に、「面接のお約束をしましたエリアスですが…」というと、硝子の壁で仕切られた部屋に案内された。
当時の私は非常識だったのだが、後から来られる人事の方が座りやすいように、硝子扉から遠いほうの上座に座ってしまっていた。そのままに座って待っていると、恰幅の良い、福福とした雰囲気のある禿頭の男と、中肉中背の、髪の毛があれば一昔前のホストのような女受けしそうな僧侶が、ガラス部屋にやってきた。
太った男がクラウス・シェーファー、中肉中背の男はミトと名乗った。ミトがクラウスに妙にへりくだっているのを見ると、クラウスのほうが立場が上のようだ。クラウスは人事担当ではなく修道院長の立場であるようだった。ひとしきり挨拶をした後、志望動機や、やる気、現在の職業のことを聞かれる。ミトのほうは私が現在、清掃業ということに食いついているようだった。
クラウスは、二重顎を震わせ話しを始めた。「私の修行時代、日が暮れた後に、師に落ち葉の掃除をしろ、と言われました。日が暮れているのであたりが見えません。そこで私は考えた末に、しゃがんで、落ち葉一枚一枚拾っていきました。立っていると見えなくても、しゃがんでみると見えるものがある。これから、あなたがこの修道院で修行を始めるとして、そのような発想力と、根気を持つことが必要です。」
クラウスの話し方は実に明瞭で不思議な雰囲気があった。ガラス部屋の雰囲気が清浄になったような印象があり、私はこの怪しい修道院への不安を一瞬だけ忘れた。さすが、修道院長と呼ばれるだけはある。私は、前を向いて「わかりました、がんばります。」と答えた。その後、クラウスが「とりあえず修行してみます?」と言うので、お願いします、と答えた。
不思議なことに一発採用を頂いたのだが、じゃあ案内して、とクラウスに言われてミトが修道院内を案内することになった。「修道院内が広いのでホコリが溜まるんですよ」まだ若い外見に似合わず嗄れた老僧のような声でミトは言った。除塵はヴァルトハーフェン天空港でやっております、と言うと、それは頼もしい、とおだててきた。ミトは飄々とした気取らない雰囲気だった。
二階に上がると左側に千体神と案内が掲示されていて、金ピカの神像がズラリと並んでいる。金ピカの神像の先には巨大な壁画があり、開祖シャークヤが悪魔の誘惑に耐えている、というものだった。修道院内の金ピカな雰囲気に圧倒されていたが、ふとカスパーの「ヴァルーシア社は金メッキだからよ」という言葉が脳裏に浮かんだ。
右手に部屋が見えて、本堂と金色の看板がぶら下がっているのが見えた。年配の僧侶が祈祷していた。ミトと私の気配に気づいたのか、チラッとこちらに目をやった。ミトは丁寧に礼をして通り過ぎたが、「あの先生はもう七十歳なんですよ」と、この修道院が定年が無いということを強調した。
さらに奥に、先ほどの本堂の数倍の広さの、大本堂があった。大本堂の奥には、人間と同じ大きさの金色のイグ神が鎮座している。本尊の真上の天井はくり抜かれ大きな色硝子が嵌め込まれた天窓になっており、光背に天窓からの光りが当たり、煌びやかである。内陣の左側には大きな鐘があり、右側には木製の打楽器のようなものがある。
真ん中には前卓があった。左右全く対象に燭台、華瓶が置いてあり、華瓶には花が生けてある。真ん中には盤の上には鈴が煌びやかな光を放っていた。その周りには三つの魔法具が、三角に組んである。両脇には六器が並んでいて、ハーブの葉の数を整えたものが水の上に浮かんでいる。六器の左側には聖水器の上の扇子のような紙飾り、その下の穴に短く細い魔法の杖が突っ込んである。
外陣には椅子が百席ほど整然と並べられていて、席側から見ると天窓からの太陽光と、内陣の両脇の硝子天蓋が燦然と煌めき、中央のイグ神像を照らし出していた。




