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ゾ=ムシ

 二ヶ月目に入ってから、礼拝行は二座になった。


 作務の時間が長くなり、修道院内にいる時間も増える。


 作務の中でも、多種族霊園での作務はとりわけ重要視された。


 草引きが疎かになり、雑草が伸び放題だったり、花が萎れていたりすると、すぐにミトが代表に呼び出され、一時間もかけて説教されるのだ。


 甲高い声と机を叩く音は寺務所にまで響き渡り、僧侶と事務員は戦々恐々とする。


 怒られたミトはその復讐を部下の僧たちにするのである。


「いい加減にしてください、私が何回言ってると思ってるんですか⁈ 何を考えて日々過ごしてるんですか、葬儀とか自分の法事ばかりやってるんじゃない! 種族問題と、お花は要注意と言ってるじゃないですか!」


 そんなわけで多種族霊園での作務に必然的にウェイトが置かれる。


 多種族霊園に作務に行くと、イッシュが作務をしている。


 イッシュは私が面接時に見かけた、やたらと幸せそうな表情で作務をする修道僧だった。


 彼は常に腰が低く、他の僧たちが嫌がる多種族霊園や火葬業務を率先して行うので、一目置かれていた。


 また、ミトもイッシュも西方教会の出身であり、そのせいか他の僧侶よりは、ミトと仲が良かった。


「おや、礼拝行はもういいんでしたっけ」


「午後が一座になったものですから……」


「そうですか。それじゃあ私は草引きしてますんで。エリアスさんは……」


「私、鳥のフン落としと、落ち葉掃除してます」


「わかりました。よろしくお願いします」


 遊歩道は「やすらぎの林」に設けられた煉瓦造りのメルヘンチックな小道だ。


 多種族霊園に修道院から歩く途中にある。


 やすらぎの林まで行く檀家は、このフェアリーの出そうな雑木林を歩み、死者が安らぎのうちに眠る墓や納骨堂を抜け出して木陰からヒョイと顔を覗かせることを夢想するのだ。


 雑木林には鳥が多いために、遊歩道は数時間も経つと鳥のフンだらけになる。それをジョウロとデッキブラシを持って掃除するのも、重要な作務だった。


 また、秋の暮れには、雑木林から今迄と段違いの落ち葉が積もり、三時間も放っておくと落ち葉が積もり山となる。


 落ち葉の堆積を僧侶交代で、箒やブロワーを使って掃除する。


 ブロワーは客のいない早朝しか使えないために、非効率極まりないが箒でポリ袋に掃き集めるのだ。


 僧侶たちは冗談で掃除地獄と言っていたが、


山岳宗教の本場、ヒスイ山の修道院には回峰行と並んで恐れられる荒行に、掃除地獄というものが実際にある。十二年籠山と言われるそれは、シャークヤ教中興の祖、サイ大師墓所清掃のことである。


 ヒスイ山の籠山修行に擬えたとえているのだが、掃除する場所がショゴスから深きものどもまでを弔う多種族霊園というのが、主たる違いであった。


 約二十分かけて鳥のフンを落としてペット事務所まで戻ると、イッシュはまだ草引きをしている。


 墓地となる地面の、細かな雑草を抜いていく。


「終わりました」


 イッシュは顔を上げ、


「他にやること無かったらドングリを拾ってください」


 と幸せそうな顔で言った。


 彼は何故、作務の時に幸せそうな表情なのか、ひょっとしたら何かの境地に達しているのかもしれない。


 ドングリ拾いとは、近くの山の鹿の餌にするべく、修道院の僧侶や事務員が拾う。


 もちろん、動物の大好きな代表による命令だが、雑木林は広く、ドングリは総量で数キロにもなった。


 ドングリを拾って給料を貰えるということに、私は新鮮な驚きを覚えた。


 拾ったドングリは、湿気っているのもあるため、修道院内に新聞紙を広げて陰干しする。


 しかし、このドングリが事件の元になることもある。


「きゃあぁー!」


 翌朝、早朝の修道院内に、事務員の女性の悲鳴が響き渡った。


 僧たちが駆けつけると、新聞紙に陰干したドングリから、蛆虫のような、謎の虫が這い出している。


 数キロものドングリというドングリからニョロニョロと這い出る妖蛆は圧巻であった。


 僧たちは慌てて蛆を箒で掃いたり、指で抓んで集めたりしている。


「んむむむむ……」


 ミトが変な声で唸った。


 虫は苦手らしい。


 取り急ぎ、ドングリを新聞紙ごと勝手口から出し、天日干しする。


 蛆は箒で塵取りに丁寧に集められ、草むらに投棄された。


 なるべくなら、修道院内では殺生しない方針なのだろう。


 後から知ったことだが、研修中の僧侶の手前ということも考えて、殺生しないフリをしていたらしい。


 普段は蛆虫殺しの薬剤を、巨大な高壁沿いの側溝に定期的に撒いているのだ。


 ドングリから這い出た蛆虫を修道院の百科事典で検索する。


 修道院内での読書は、仕事の範疇であれば許される。とはいえ、本に夢中になりミトに怒られる僧侶は後を絶たなかった。


 私は、ドングリから這い出る蛆虫を検索した。蛆虫はゾ=ムシの幼虫だった。


 自らの知識欲を満足させ、私は一息ついた。


 ふと、表で甲高い声がした。


 なにやら、代表が騒いでるらしい。


 甲高い声は、なにやら虫について言っているらしかったが、表に出るとミトが懸命に釈明している。


 どうやら、もっとドングリを日の当たるところに移せ、となったらしく、私を含めた僧侶三名が作業に当たった。


 ドングリを移したところで、


「これ、何の虫なの? 去年こんなの無かったじゃない」


 聞かれたサーノが首を捻っていた。


「ゾ=ムシの幼虫らしいです」


 と私は助け舟を出した。


 代表はこちらに向き直り、大きな目で私を見つめた。


 向き直った拍子に、豊かな胸が少し揺れる。


 私は、


「成虫が穴を開けて卵を産みつけるらしいです。幼虫はドングリを食べて成長します..親戚に人に穴を開ける種もいるようですが」


 ジルケは胸を揺らして言った。


「ふーん。じゃあ、成虫って卵産んだ後、何してんの?」


 そんなことは、もちろん私も知らない。


 また交尾でもしてるんじゃないですかね?という言葉が喉まで出かかったが、私もサーノの真似をして首を捻った。

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