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第23話 キューちゃん、テレビ局で現場に優しい怪物になる


 テレビ局って、もっと静かな場所だと思っていた。


 いや、実際、朝の情報番組を作っている場所が静かなわけないけど。


 廊下をスタッフが行き交う。


 ケーブル、照明、モニター、機材ケース。全部が止まらず動いている。


 その真ん中に、俺。


 でかい白もふキグルミ。


 場違い感がすごい!


「キューちゃん、だいじょぶ!?」


 こよみが振り返る。今日はいつもより少しきちんとした服だ。明るい雰囲気はそのままなのに、ちゃんと『外向き』になっている。


 そういえば空き部屋にクリアケースが置かれ、服が増えていた。


 あれか!


「キュー!」


 俺はうなずいた。


 大丈夫ではある。でも落ち着かない! ものすごく落ち着かない!


「はいはい、かたくならなくてだいじょぶだってー☆」


 ルミナが先を歩きながら笑う。今日は番組には出ない。見学だけらしい。


「ここから先はキューちゃんたちの出番! ルミナは外から見てるだけだからー」


 そうだ。ここは俺とこよみで通さなきゃいけない場所だ。


 受付を済ませると、番組スタッフらしい女性が頭を下げた。


「本日はありがとうございます。ご出演はキューさんと鬼無里さんで、星宮さんは見学と伺っています」


「はい! 今日はよろしくお願いします!」


 こよみがすぐに返す。


 俺も深くお辞儀をする。


 ……深くやりすぎた!


 危うく前のケーブルに顔から突っ込みそうになって、慌てて横へずれる。


「あっ、大丈夫ですか?」


「キュー(・ω・)」


 落ち着いて返す。


 スタッフさんが固まった。


「い、今のは……?」


「『大丈夫です!』です!」


 こよみがきっぱり言った。


「たぶん!」


 たぶん付けないで!


 でも方向は合ってる!


 スタッフさんたちが笑った。


「なるほど……ありがとうございます」


 最初の張った空気が、少しだけやわらいだ。


 控室へ向かう途中、スタッフさんが足を止める。


「あ、ちょうどよかったです。本日ご一緒される、や〜ねるさんです」


 廊下の向こうから、柔らかい雰囲気の女性が歩いてきた。


 や〜ねる。


 有名Vdleで、YouMoveを活動場所にしているアイドル。


 衣装は白を基調としており、そこに映えるのは鮮やかなピンクと薄い金の髪色。


 画面越しより落ち着いている。笑顔だが、、目はちゃんとこちらを見ていた。


「はじめまして。や〜ねるでーす。よろしくね」


 や〜ねるが丁寧に頭を下げた。


「は、はじめまして! 鬼無里こよみです! 今日はよろしくお願いします!」


 こよみも慌てて頭を下げる。


 俺も続いて、今度は深くなりすぎないようにお辞儀をした。


「キュー」


 顔の横に、(・ω・) が浮かぶ。


 や〜ねるは一瞬だけ目を丸くして、それから小さく笑った。


「本当に出るんですねー。動画で見た時、編集なのかなって少し思ってました」


「編集じゃないです!」


 こよみが即答する。


「キューちゃんの気持ちが出ます!」


「気持ちが出るんですね」


「はい! たぶん!」


 また、たぶん!


 や〜ねるはくすっと笑った。


「その『たぶん』で伝わるの、かなり面白いですね」


 面白い。


 そう言われると落ち着かない。でも悪い意味ではなさそうだった。


「や〜ねるさん、動画でキューちゃんのことを取り上げてくれてましたよね!」


 こよみが少し身を乗り出す。


「あれ、すごく嬉しかったです!」


「こちらこそ。あの空気、かなり珍しいと思ったのでー」


 や〜ねるは俺とこよみを順番に見た。


「実は私がDに言ってみたんですよー朝でもいけるんじゃない?って! あはは」


「朝でも……!」


 こよみは目を輝かせていった。


「今回は、そこをちゃんと伝えられたらいいなと思っています」


「はい! よろしくね」


 よかった。


 少なくともこの人は、俺たちを変な見世物として扱うつもりではなさそうだ。


 そのあと、控室で本番の流れを確認することになった。


 スタッフさんが一枚の紙を渡してくる。


「こちら、キューさん用の流れです。大きめに書いてあります」


 こよみが受け取って、俺にも見えるように広げた。


『キューさん おじぎ』


『キューさん てをふる』


『キューさん こよみさんをみる』


『キューさん かわいいかんじで』


 ひらがな!


 なんだと思われてるんだろう!


「キュー……」


「すごい! キューちゃん専用台本だよ!」


 こよみが感動している。


 確かに、表紙に番組名と放送脚本家の名前があった。


「ちゃんと『かわいい感じで』って書いてある!」


「キュー!?」


 俺の顔は基本的に変わらないんだが!?


「では、本番の流れを確認します」


 ディレクターさんが台本を開く。


「まず司会から鬼無里さんに、普段どんな活動をされているかお聞きします。そのあとキューさんに一言……」


 そこで空気が止まる。


 そうなるよな!


 一言って、何だろうな!


「キューちゃん、ちゃんと聞いてます! 話せないところは、わたしが隣で補足します!」


 そう! 聞いてるし、やる気もある!


「ありがとうございます。では、その場面では鬼無里さんに補足をお願いする形で」


「はい!」


 こよみの返事が気持ちいい。


 再度スタジオに向かい、立ち位置確認に移る。


「ではキューさん、こちらへ」


 言われた瞬間に動いたんだけど、立った場所がカメラの抜けを少しふさいだらしい。


 スタッフさんが「あっ」と言いかけて止まる。


 やった!


 今の絶対ちょっと邪魔だった!


 俺が慌てて下がると、顔の横に (´・ω・`) が出た。


「大丈夫です!」


 こよみがすかさず言う。


「今のは『すみません』です! たぶん!」


 またたぶん!


 でも、その場で本当にしょんぼりして見えるのが最悪だった。顔文字まで完璧に合っている。


 すこしおいて、スタッフさんたちが吹き出した。


「ほんとだ……」


「伝わりますね」


「なんか、やりやすいですね」


 やりやすいのか!


 でもそこはかなり嬉しい!


 そこから空気が一気にやわらいだ。


 現場が止まると困るし、ぶつかるのも嫌だ。それだけだ。


 でも、見ていたスタッフさんが首をかしげた。


「キューさん、初めてですよね?」


「キュー?」


「いや、妙に立ち位置の抜け方が自然だなって」


 気づいてくれたか……流石だ。


「今、誰か指示しました?」


「してないです」


 ADさんが即答する。


「キューさん、自分で避けてますね」


「すごいですね。カメラ前に残りたがる方は多いんですけど、ちゃんと抜けてくれる」


 いや、元裏方なので。


 画をふさぐ大型物体は、だいたい怒られる。


「キューちゃん……!」


 こよみが胸の前で手を握る。


「『画面に映る者だけが主役ではない。番組を作るのは現場なのだ』ってことだね!」


 そんな名言風には思ってない!

 

 でもスタッフさんは感心したように笑っていた。


「……変なのに、すごくやりやすいですね」


 変なのは認めるしかないとして、その後半はかなり嬉しい。


 リハはそのまま進んで、終了。


 見学を終えたルミナが戻ってきた。


「おつかれさまー☆ いやー、よかったじゃん! ちゃんと空気やわらかくなってた!」


「ルミナちゃん! どうだった!?」


「思ったより全然いけてたよー」


 ルミナが笑う。


「キューちゃん、立ってるだけで変な説得力あるし。こよみちゃんは普通に現場向き!」


「現場向き……!」


 こよみが照れたように笑う。


 俺も、その言葉は素直にちょっと嬉しかった。


「あとねー、テレビの人が『やりやすい』って言うの、かなり大事だよ」


「キュー?」


「かわいいとか強いより、『次も呼べる』ってことだから」


 次も。


 それはそれで落ち着かない。


「つまりキューちゃん、今日たぶん『事故らないマスコットキャラ』として認識された」


「事故らないマスコット……!」


 こよみがなぜか感動した顔で繰り返す。


 マスコットじゃない!


 そもそも、存在そのものがだいぶ事故だ。


 帰り際、さっきのスタッフさんが言った。


「本番もこの感じなら大丈夫そうですね」


 それは、ありがたい。


 この現場は、俺たちを『変だから難しい』で切る場所ではなかった。


 でも、その中で俺だけは、ふと足を止めた。


 照明スタンド。


 床を這うケーブル。


 少し寄せ方の悪い機材ケース。


 何がどう、とは言えない。


 でも、ひっかかる。


「……キューさん、そこ気になります?」


 近くのスタッフさんが不思議そうに言う。


 俺はそっちを見て、それからもう一度スタンドを見る。


 答えられない。うまく言えない。


 でも、目が離れなかった。


「キュー」


 短く声を出すと、こよみがその視線を追った。


「……キューちゃん、やっぱり全体を見てるんだ。現場が番組を作る……」


 いや、そこまで格好いい話じゃない。


 ただ、嫌な予感がする時って、だいたいこういう感じなんだよな!


 ルミナの表情から、少しだけ笑みが消える。


「……本番前に、もう一回そこ見てもらった方がいいかもねー」


 スタッフさんも真面目な顔になった。


「確認しておきます」


 よかった。


 少なくとも、ここは俺の違和感を笑わずに拾ってくれる。


 俺は照明スタンドの足元をもう一度見た。


 ケーブルが一本、変な角度で引かれている。


 ダンジョンの魔物のような、何かある気配を何故か俺は感じ取っていた。


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