ヒザン村にて 5
あらかた蓄えを運ばせると、思っていた以上の量が集まった。
てっきり金銭や宝石でも溜め込んでるもんだと思っていたが……。
山賊共は家具やら服やら、なんでもかんでも手当たり次第に奪っていたらしい。
盗品が並べられていくのを眺めていると、段々と廃品回収をしている気分になってくる。
こんな統一感のないもんでごった返すことになるとは思いもよらなかった。
うーん、さすがに家具類……テーブルやら椅子やらは持っていくには重すぎる。
多少重い物もあるだろうとは思っていたが、まさか金品以外のものまで出てくるとは。
なんというか予定が狂ったというか予定外のもんが次々と出てきたというか……。
ひょろ長山賊は往復して疲れたたのか、荒い呼吸を繰り返して隅に腰掛けている。
見た目に反して体力はあるようだ。よくもまぁこんだけのもんを一人で運べたもんだ。
そうさせたのは俺だけどな。
「これで全部か?」
「は、はい……」
さて、どうするか。と言っても重量のあるものはこの人数で持っていくのは無理だ。
持ち運びできるもんだけこっちで運ぶに留めるしかない。
「さぁて、俺の取り分と村の人たちに返す分を選別しないとなぁ」
「うーわ、悪い顔してるヨ。いい? ホネミ、ホネリーヌ。ああいう大人になっちゃ駄目ヨ」
まだなにか食いながら、世間話をするおば様のように骨と寄り添いド馬鹿が俺を見ながらひそひそと何事か話し込んでいる。
陰口って当人の目の前でするもんだっけ? しねぇだろ。
この野郎、いつか縛り上げて身動き出来なくしてから目の前で極上の肉でもドカ食いしてやるから覚悟しておけよ。
まぁ、四分の一程度の金銭を頂戴しておくとしよう。
他のものは返すのだから、これは取り返した分の駄賃だ。
俺はちゃんと山賊を捕らえた上で、さらに盗まれたものを持ち主に返そうってんだから報酬として貰っても誰も文句はあるまい。
うはははは! 一気に懐があったかくなったぜ!
俺の座る椅子の横で寝そべってるバンディが冷めた視線を送っている気がするが気のせいだ。
気のせいってことにしよう。
さて、後は明日残ったものをヒザン村に持って行かないとな。
そうなりゃ山賊女とひょろ長山賊ともお別れだ。
……待てよ。思えばここにある目は俺とド馬鹿だけ。
盗品と同じく、こいつらをどうするかは俺ら次第だな。
山賊の頭と大半の連中は捕まってる。こいつら二人がいなくても大した話にはならない。
アジトまで行ったところで反抗にあったので止む無く戦闘、これを討伐した。
筋書きは雑だがおっさんは納得してくれるだろう。
現実が違ったとしても、だ。
「おい、山賊共。明日、村に戻ったらお前らも仲良くお仲間と牢屋にぶち込まれる。
それとも死刑宣告からの縛り首にでも遭うのかもしれないな。
どっちにしてもろくなことにはならねぇ」
「そ、そりゃあ、まぁ……」
山賊二人は苦々しい顔をしている。自分たちの末路が容易に想像できるのだろう。
「ろくなことにはならねぇが、それはお前らがこのまま村に戻った場合、そうなるよなって話。
だがもしお前らが戻らないでここで死んじまったのなら、そりゃどうしようもないよな。
死体をこんな山の中から持って帰るなんて土台無理な話。
仮に死んだか疑ったところで確かめようもない。そう思わないか?」
「……あんた、なにが言いたいのよ?」
「提案だよ。お前らここで死んだってことにして、このまま俺に雇われる気はないか?」
「どういうことだ?」
ひょろ長と山賊女が目を丸くしており、話を飲み込めずにいる。
「実は俺はとある理由からこの国に来たんだが……。
ちょっと探したいものがあってな。そいつを探すのを手伝ってもらいたい」
人造体としてこき使われたくないからここに来たなんて説明してもわからんだろうし。
詳細を伏せたほうが俺が普通の人間じゃない感が出て奴らも深掘りしづらいだろう。
「探したいものってのは……?」
「秘宝と言ってもいい代物だ。最悪探索中に殺されるかもしれないくらいのな。
ただまぁ、そんな危険はあるが俺からお前らに与える見返りは――自由だ。
本来捕まって人生の最期を迎えるお前らに、大手を振って歩ける自由をくれてやる。
仲間と一緒に捕まって処刑、あるいは一生暗い牢獄に閉じ込められたいってんなら無理強いはしない。
お前らにとっちゃ悪い話じゃないと思うがどうだ?」
山賊共は両名共に目を白黒させている。
俺からの申し出を脳みそで処理しかねているようだ。
正直、こいつらは信頼に欠ける。
所詮は山賊、自由を得たならさっさと俺から離れて逃げ出したっておかしくない。
だが使えるものは使う。
手駒として使えるなら、駒はいくつあってもいいからな。
こいつら自身、罪人には違いないのだから下手なことは出来ないだろう。
さて、こいつらに提案した依頼自体は生活基盤が整ってから自分で行動に移そうと思っていた。
それの所在が分かれば俺が先手を打てるかもしれない。
少なくとも魔術王国に取り返されることは避けられる可能性が出てくる。
ジヴァ帝国に奪われたという、黒の叡智。
そいつが帝国のどこに保管されているのか、所在を突き止めておきたい。
正直その機能については憶測でしか考えられないが、魔術王国自体がきな臭い以上ろくなものではないだろう。
恐らく人造体にとって重要な役割を持つであろうそいつを魔術王国側に取り返された場合、人造体である俺にとって不都合なことが絶対に起きる予感がある。
それだけはなんとしても避けねばならない。
ならばどうするか。情報という武器を用意する必要がある。
すなわち、黒の叡智がどこにあってどう管理されているのか。
そしてその場所を魔術王国が知っているような動きがあるのか。
そう言った敵情を知れる体制を作っておきたい。
欲を言えば、もし奪える状態なら俺の手元に置いておきたいところだが……しかし今はまだ駄目だ。
まったく受け入れられる準備が足りていない。
奪うどころか俺が黒の叡智について探っている、という情報自体存在してはいけない段階だ。
余計な情報を敵に与えて得はない。
水面下で静かに動いて、美味しい餌だけ食える立ち位置にいるのが理想だろう。
理想を現実にする最上の一手は、己ではなく他力に頼るということ。
俺という存在を隠しつつ、まるで関わりのない人間が黒の叡智を探るという状況を作りたかった。
しかし物が物だけあって、殺されても文句は言えない代物。頼める相手などいるわけもない。
だから自分でやるしかないと思っていたんだ。
言い方は悪いが――この件はいざという時に切り捨てられる人間に頼むのがもっとも好ましかった。
だからこそ、山賊共に出会ったのは僥倖だ。
都合の良い駒が目の前にいる。
「どうする? なに、村に戻るのは明日だ。一夜じっくり考えるといいぜ」
椅子に深く腰掛けながら山賊共に目を向ければ、両名共に悩んでいる様子だった。
これは、いい感触だな。
悩むということは選択肢が捨てきれていない証拠。
仲間を裏切るという罪悪感と、自由という誘惑は天秤の上で釣り合っている。
「俺はお前らを買ってるんだ。
女、お前は戦闘を即座に中断する判断力を持ってる。
あの戦闘中、感情によらない冷静な状況判断を行って仲間の戦闘を中断させたろ?
誰にでも出来ることじゃない。視野の広さと決断の早さには目を見張った。
俺に言われたとはいえ、それを鵜呑みにせず戦況をよく理解していないと出ない判断だ。
お前のその分析力と冷静さを見込んだ上で、この提案をしているんだぜ」
「えっ……」
山賊女の目が少し煌めいた。気持ちがこっちに傾いたな。
単純な褒め言葉なら反発するやつもいるだろうが、能力の評価をされて反発する奴は少ない。
それにこいつは評価通りに冷静だ。
移動から船に着いてから、俺に歯向かう意思がない。
力の差をはっきり理解している。挑んでも勝てないと分かっている以上、本当に賢明な奴だ。
それに仲間をやられている割には平静だ。
俺に付いたほうが利があると判断している節がある以上、山賊間の仲間意識自体薄かったのかもしれないな。
「男の方、お前はこの船の中で俺を仲間と不意打ちで殺そうとしてきたろ。
俺はあれが気に入ってお前にも提案しているんだ。
音で合図まで決めている辺り、お前の用意周到さと冷徹さには舌を巻いた。
その才覚を見込んだ上での話だ。お前の仲間を殺した俺が言うのはなんだが、お前は殺すには惜しい」
「返り討ちにはあったが、殺そうとした相手だってのに、俺を雇いたいってのか……?」
情に訴えかけるのも大切だ。
特に自分はどうあっても助けてもらえない、それほどのことをした相手からそのやらかしを評価されたなら、気持ちはどういう形でも揺らぐ。
こいつは敵が来たって合図まで決めてるぐらい用意周到だが利で動く男じゃない。
理性のほうが強いタイプなら、そもそも才無しで俺に奇襲なんて無意味だと悟るだろう。
だがこいつは俺を殺しにかかった。
そこから判断するにこいつは本質的に感情による行動が主なのだろう。
だから心を揺らすほうが細々とした説明より効果がありそうだと踏んだが……。
思ったより揺らいでいるな。
「……一夜も考えるまでもないね。あたしはあんた――いや、ダリオだっけ? ダリオさんに付いていくことにするよ」
山賊女があっさり俺の提案を飲んだ。
さすが、冷静に事を進めてくれる。話が早くて助かるってもんだ。
「お、お前そんなあっさり……」
「考えてもみなよ。村に戻ったら頭と一緒に牢屋暮らしさ。それもすぐ処刑されちまうだろうね。
そりゃあ頭には良い思いもさせてもらったけどさ。
それでも死んじまったらそこで終わりじゃない。あたしはまだ死にたくないよ」
「確かに、死にたくはないけど……死ぬと決まったわけじゃないだろ」
「馬鹿だね。散々ばら村を襲ったあたしらがただで済むわけないだろ!?
竜の国じゃ罪人は縛り首どころか飛竜を含んだ魔獣の餌にされるなんて話も聞いたことがある。
あんたが骨ごと食われたいってんなら頭たちと一緒に噂が本当か確かめに行くんだね」
「そ、それは……」
さすが調教者が盛んな国だ。魔獣に食われるなんて最期はごめんだね。
そう言いつつ魔犬の頭を撫でる。
「わ、わかった。本当に俺たちを助けてくれるんですよね、ダリオさん!」
「ああ、任せろ。今この瞬間から俺たちは仲間だ。よろしく頼むぜ?」
俺がほくそ笑むのを見て、食事を終えたド馬鹿がぼそりと呟いた。
「悪魔ダヨー。悪魔の囁きに、哀れな人の子が捕まったヨー」
骸骨共共がわざとらしく身をくねくねと動かし頬骨に手を当てて怯えたような素振りを見せる。
鬱陶しい。すり潰してカルシウムパウダーにしてやろうか。
その上でド馬鹿の飯に振りかけてやる。
なんにせよ、やれることが増えそうだ。




