ヒザン村にて 3
山賊頭を俺が倒したことで、手下共にはざわめきが起き始めた。狼狽して動きに迷いが出ている。
「か、頭ぁ!」
「頭が負けるなんて!」
少数精鋭かと思ったが、山賊共はどうやら頭に頼り切ったワンマン経営だったようだ。
職業持ちだったし頼るのはわかる。ただ頼り過ぎたな。
数だけいてもすっかり戦意をなくしてしまっている。最初の勢いはどこへやら。
奴らの頼みの綱である山賊頭は俺の目の前に突っ伏したまま動かない。この様子ならしばらく回復しないだろう。
やはり『毒』の使い勝手は良い。相手によって使い分ければ殺さずに捕らえられるのは利点だ。
今回は山賊討伐依頼だし、殺してもいいんだろうが……まぁ対人戦のチュートリアルを担ってくれたんだ。生かしておいてやろう。
さて、村の状況だが……。
騒ぎを聞き付けてか、村の外に待機させていたバンディと骸骨共が勝手に参戦しているようだ。
「う、うわぁぁぁ!」
一人の山賊にバンディが噛み付いた。
足を引っ張って引きずり倒し、山賊が振り回す剣をなんなくかわしてその腕に牙を突き立てる。
痛みに山賊が叫ぶが、バンディは容赦なく顎に力を入れて、嚙みついた腕をねじってへし折った。
さすが小賢しい上に俊敏性があるだけあって、止められないとあっという間に致命傷を与えるもんだ。
武器が危険なものだと理解があるし、人と違って慈悲がない。
山賊は痛みに喘ぐが、さらにそのまま剥がされるように肉を食い千切られ、山賊は絶叫が耳をつんざいた。
可哀そうに。ご愁傷様。
バンディにやられている奴を周りの山賊が助けようとするが、骸骨共に妨害された上に、突如として巻き起こった黒い風に触れて山賊の動きが完全に止まる。
「黒き障風ダヨ!」
「なんだこの風!?」
「か、体が重てぇ……!?」
まるでスローモーションのような遅々とした動きで、一歩進むのにも時間がかかっている。
ふざけているようにも見えてしまうのは滑稽だ。
……ド馬鹿は本当に呪術士なんだな。
相手の能力を下げることに特化した職業だけあって、厄介な術を使う。
あれは『状態耐性』では防げない。『解呪』なんかの魔術系の防御や解除方法が必要だ。
本当に厄介だな……俺も食らったらまずい。あいつが味方側でよかった。
鈍重になった山賊へ、シェシェの呼び出した骸骨共が襲い掛かった。
骸骨は素手ではあるものの、武器を持った山賊に対して臆せず猛攻を仕掛ける。
黒き障風で身動きがままならず、防御もろくにできない山賊の顔面を骸骨の拳が捉えた。
一度、二度、三度、四度……絶え間ない鈍器のような拳で何度も何度も殴りつけて、山賊の顔が原型を留めなくなってもその攻撃が止まらない。
白かったはずの骸骨の拳が真っ赤に染まったのを見て、他の山賊は余計に戦意を失い、俺も大分引いた。
山賊共は敵ではあるが、少し同情する。グロくない? やめたげな? もう涙も流せないよそいつ。
バンディはといえば、そんな惨状が分かってか、自分の方には邪魔が入らないと判断したようだ。
悶える山賊の首に噛み付いて止めを刺した。
そして口元を血で濡らしながら山賊の肉に食らい付く。
犬に食われたり殴り殺されるなんて、不憫な死に様だ。本当に同情するよ。あいつらの代わりに涙出ちゃう。
まぁ散々ばら好き勝手に暴れてたんだし、自業自得な結果だけどな。
金持ちか女の子だったら助けたけど、バンディに食われてるの山賊の男だし。死のうがどうなろうが知ったこっちゃない。
女といえば。フランシスの方を確認すれば、ゴーランに守られつつ戦い方の指導を受けている。
元警備隊長がなぜ素手で半裸でパンツ一丁で戦ってるのかはさておき、おっさんはやはり強い。
複数人の山賊を余裕で蹴散らす上、しっかりフランシスに指示を出している。
あの人だけでも山賊片付けられたんじゃないか……?
いやまぁ、数の問題なんだろうけどな。強かろうが一人でカバーできる範囲は限られる。
山賊頭はエイサーだし、そっちを抑えてる間に村がやられるのは目に見えた話か。
自分の力量を踏まえた上での依頼だ。頭数が欲しかったのだろう。冷静に分析できる判断力は素晴らしい。なんであんな凄い人が半裸なのかだけが理解できない。威厳を保ってほしい。
それはさておき、今回ある程度苦戦するかと思っていたものの、蓋を開けてみると余裕の勝利ムードだ。
バンディはモンスターとしては下位から中位程度の強さと見ていい。
中型の肉食獣で頭も良いから、職業なしのノークスに限定はされるが戦闘技術のない相手なら蹴散らせるぐらいの地力がある。
骸骨共も割と使えるようだ。
アンデッドのため、多少の攻撃を受けても怯むことがないし恐怖心がそもそもない。
骸骨共がしっかり山賊を足止めしつつ、止まった敵をシェシェが魔術で弱らせたところを仕留めさせる。攻守どちらでも有用な兵士ってところか。
毒を使う俺が言えた義理ではないが、シェシェと合わさると嫌な組み合わせだな。敵に回すと面倒なことこの上ない。
おっさんがいるおかげでフランシスも上手く戦えてる。
ゴーランとかいうおっさんは、さすが警備隊長経験者と言ったところだ。
新人に教えるノウハウが身についているらしい。
フランシスをカバーしつつ、それでいて戦闘が疎かにならない。相当な実力者だ。
仲間としては優秀な連中が揃ったもんだが、傍から見たらどっちが正義かわかったもんじゃないな。
バンディにとっては山賊共はランチ。
骨共は攻撃に容赦なし。シェシェの援護もあって死屍累々だ。
ゴーランとフランシスは無難かつ的確に相手を倒していく。
だがゴーランの一撃が強すぎて、ぶん殴られた山賊は血反吐を吐いて倒れている。
力加減ってものを知らねぇのか?
俺にやられるのが一番優しい倒れ方って、どんな状況だよ。
山賊共はもう壊滅寸前だ。
リーダーが職業持ちだったからこそ、今まで上手くいっていたというところか。
「ぐ、このぉ!」
生き残りの山賊の剣を受け止める。
俺を選んだのは間違いなく正解だ。他に比べて一番生還の可能性が高いからな。運の良い奴。
ん? しかも女性じゃあないか。助けてやろっと。『麻痺毒』で……。いや待てよ。
「お姉さん、モノは相談ってやつなんですがね?」
「あ? なんだ今更!」
「素直に降参して条件を呑むなら、今生きてる奴らは助けてやるよ。命は惜しいだろ?
なんというか、こんなに惨い有様になるとは思ってなくてなぁ。この惨状で殲滅というのは可哀想になってきてよ。どうだ?」
「そ、それは……」
「あ、また一人やられた。どうする?」
「ぐぅ……わかった、降参だ! おいみんな! もう無理だ! 武器捨てて降参しよう!」
その声が村に響いて、戦闘が一旦停止される。
「全員戦闘止め! 動いた奴は俺が斬るぞ!」
僅かな静止状態を見逃さず、俺も声を張り上げた。骸骨、バンディも攻撃をやめて生き残った山賊から距離を取る。
最初は二十人くらいいたのに、今となっては意識があって無事な奴は僅かに四名ほどしか残っていない。憔悴した様子の山賊全員が武器を捨て、大人しく降伏する姿勢を見せた。
俺が一声かけて降伏した山賊を集めると、全員を座らせる。戦闘が終わったと見てゴーランが縄を持ってきたが、俺はひとまず山賊共を縛り上げるのを待たせた。
別に酷い状況だったからとか、山賊女がタイプだったから戦闘を止めたわけじゃあない。
引き渡せばなにも問題ない話ではあるのだが、どうせならもう少し旨みがほしい。
山賊というなら色々蓄えがあるんじゃないか? 報酬として少しいただいても罰は当たらないだろう。
「そこのド馬鹿から聞いたが、お前ら山賊のくせに根城が船らしいな? それがどこにあるか職務登録所でも掴めていないらしくてよ。
根城を突き止めれば追加報酬も狙えるわけで、俺の評価と報酬のために根城まで案内してくれよ。それがお前らを生かしてやる条件だ」
「わ、わかった……」
「ああ、罠に嵌めようとか裏切ろうとか思うなよ? 犬の糞になるのも、骸骨先生による拳の整形手術を受けるのは嫌だろ?」
バンディが嗤うように牙を見せつけ、骸骨らはペキペキと指の骨を鳴らして見せる。山賊共は怯えたように誠実に根城まで案内することを約束してくれた。
「というわけで、ゴーランさん。俺は根城の場所を突き止めに行くんで、村に残った山賊の捕縛はお願いします」
「おう、任された。ただな、お前さんの強さは見せてもらったし、無事に帰ってくるだろうとは思うけどな。わざわざ見に行く必要があるのか? 全員とっ捕まえて吐かせればいいだけなんだぞ。わざわざ魔獣の多い山に入るなんて危険を冒さなくてもいいんじゃないか」
「いやいや、見過ごせませんし、これも仕事の内ですから!」
我ながら嘘くさい笑顔だと思ったが、笑みを浮かべて正義漢ぶりをアピールしておく。
ゴーランが感心したような目で見てきた気がするが、気付いていない振りをして山賊へ視線を戻した。
「とはいえ、案内に四人もいらないな。二人案内に回って残りの二人はここに残れ。降伏を認めた女と、あとは……うん、来たいやつが来い」
我ながら野郎の扱いがぞんざいだが、むさ苦しいやつらはどうでもいい。
とはいえ奴らの蓄えを運ぶに当たって荷物持ちは必要だからな。力仕事が出来そうなのがもう一人欲しい。
「あたしとこいつが行くよ」
女山賊が一人を指名し、長身の男が俺に一礼してきた。
男は細長い印象がある。筋肉はあるが細身だ。荷物持ちに使えるのかこいつ?
まぁ来たいやつがって言った手前、嫌だとも言えないしな。使えれば誰でもいいか。
「よし、じゃあお前ら先導してくれ。ド馬鹿とフランシスはどうする? あ、バンディは着いてこい」
「私も行くヨ!」
「私はゴーランさんを手伝うよ。人数多いほうがいいだろうし」
「わかった。ゴーランさん、フランシスが残りますので指示してやってください」
「おう、了解だ。お前さんも気を付けてな」
フランが村に残り、俺は山賊、バンディ、ド馬鹿とついでに着いてきた骸骨共と一緒に山賊の根城へ移動する。
茂った森を進みながら、山賊共の案内に応じて獣道を突き進むと、山に通じる道に出た。
山も木々に覆われていて、非常に見通しが悪いが山賊共は慣れているのか軽快に進んでいく。
木々に薄く傷を付けているようで、それを目印にしているらしい。
「根城へは、今しばらくかかります。一日はかかりませんが、少なくとも今日中に引き返して村にもどることは難しいかと……」
細身の山賊がそんなことを言ってきた。さすがに行って帰るなんて気楽はできないか。
「わかった。お前らの根城で一泊して戻るとしよう。そうなると……ホネ……ホネコ?」
骸骨の名前を呼ぶと、すっと一体の骸骨が前に出てきて、わざわざ俺の肩に手を置き、見えるようにサムズアップしてきた。
一々自己主張の激しい……。
「あー、お前に一つ使いを頼みたいんだが……おいド馬鹿、こいつら字はかけるのか?」
「そりゃあネ! 書けるヨ! 大体は生前の知識、あるいは術者の知識を共有できるからネ」
「よし、ならフランとおっさんに今日は帰れないから明日戻るって一報送ってくれ」
ホネコは腕組みをしながら俺から離れると、振り向き気味にこちらを見ながらこめかみを三度指で叩いてみせた。
一々動作がなげぇというかわざわざ見せるな! わかったら頷くだけでいいんだよ!
なんでわざわざポージングしてんだこいつ! なんか腹立つ! そうかド馬鹿と知識共有してんだっけ? じゃああいつのせいだわ!
骸骨もといホネコを見送り、俺たちは再び山賊のアジトを目指して進み始める。
道中シェシェの腹の虫が泣き続けていたが無視をした。
長い山中を歩き続けるが、一向に魔獣の気配はない。
山賊曰く、なぜか船の周りは魔獣が近寄らないらしい。また、離れていても魔獣同士の縄張りの境目を通ると比較的安全に移動ができるそうだ。
日が落ち始めたあたりでようやく山賊のアジトにたどり着いたが……それは船と言われるような原型を留めていなかった。
てっきり木造船みたいな船を想像していたんだが……。
土に埋もれ、植物に覆われたそれは船と言われても信じられない。入口がわかるぐらいで、全体像がまったくわからないものだった。
ただ一つ言えるのは――僅かに形が垣間見えるその船は金属質で、ディザニアの魔術塔を思わす不可思議な技術で作られていることだ。
こいつは一体、なんなんだ?




