ヒザン村にて 2
一斉に山賊達が村へと襲い掛かる。
山賊は20人ほど。
正直、山賊がどれだけいれば多いのかは分からんが、襲う側の数としては少ないと思う。
だがゴーランとかいう半裸のおっさんが言うには、職業持ちは人外だ。
能力が使えるかそうでないかの違いは恐ろしく大きいらしい。
まぁ、そりゃあそうだ。
素人と専門職が同じことをして、どっちの技術が上かなんて考えるまでもない。
石ころ投げるのと、魔法――いや兵器に置き換えてもいい。
銃火器使って攻めてくるのが職業持ち、石ころ投げるのがノークス。
それぐらいの差があるのだろう。
「本当に山賊だったんダネ! 騙すなんて酷いヨ!」
山賊の頭らしい男がシェシェの声に反応する。
そしてシェシェを見つけた瞬間、山賊の頭の額に青筋が浮かんだ。
「テ、テメェ! おい野郎共! 一旦こっちに戻ってこい!」
散開していた山賊達が、頭の元へと戻ってくる。
なんだ? シェシェを見た途端に様子が変わったぞ。
かなりの職業を持っているし、脅威と思っている――なら理想なんだが。
このド馬鹿のことだ。そんな理想通りなことが起こるわけがない。
「散々ばら人の食料食い荒らしやがって!
終いの果てには急に消えやがったネズミ女! ぶっ殺してやる!」
「えぇ!? 食べていいって言ったヨ!」
「言ってねぇ! テメェが勝手にそう解釈したんだろうが!
俺らは食えるもんなら食ってみろって言ったんだよ!
勝手に着いてきて勝手に人の根城に住み着きやがって!」
ああ、やっぱりそういう……。
「勝手に住み着いたなんて人聞き悪いヨ! 部屋を借りただけダヨ!」
「借りただぁ!? ネズミみたいに船内に隠れて暮らしてたくせになにが借りただ!
借りた気でいるなら金の一つも置いていきやがれ!
テメェが俺達に置いてったのは食べ残しと空の食糧庫だけだろうが!」
俺やフランシス、終いにはおっさんにまで白い目で見られるシェシェ。
彼女はゆっくりと山賊の頭から目を逸らした。
「不可抗力です。お腹減ると、どうしようもないんで。ええ」
淡々とした口調でそう言い返したシェシェ。
こいつやっぱり駄目だ。駄目なやつだ。
なんか山賊に同情すら湧いてきた。
「ここで会えるなんて運が良いぜ。野郎共! 嬲り殺しだ!」
山賊共が威勢よく賛同の声を上げる。
よっぽど腹に据えかねる問題だったらしい。
一斉に襲い掛かってくる山賊共。
俺は片手剣を抜き放ち、襲い掛かってきた男の剣をかわし、すれ違いざまにわき腹を斬りつけた。
おまけ付きで。
「野郎!」
男が振り向きかけた瞬間、足をもつれさせてその場に倒れる。
そしてそのまま地面に寝るしか出来なくなっていた。
微かに体を震わせ、痙攣している。
剣を振り、付いた血を払う。
今回は『毒』より、『麻痺毒』を使用してみた。
『猛毒』は耐性次第で毒を受けた時に気付きやすい。
体調不良に近い感覚、あとは痛みが出始めるからな。
即死しない程度の耐性があるだけで、解毒薬を飲む時間ができるから対処しやすいのが弱点だ。
だが『麻痺毒』は逆に耐性があるほど気付けない。
痛みがないから、毒を喰らったと気付いた時には痺れてうまく動けなくなる。
突然自分の動きの鈍れば動揺するだろう。
HPの存在しない『アイアンブラッド』において、その隙は致命的だ。
『アイアンブラッド』では職業持ちは大抵、能力『状態耐性』を持っている。
というか持ってないと話にならない。状態異常は無視できないからな。
なのでこいつらも耐性があると踏んで『麻痺毒』を使ってみたが……。
毒に対する耐性がまるでないな。こいつはノークスって奴だろう。
それでも毒だと気付いたのか、勢いがあった山賊共は俺に対して躊躇するように距離を取った。
迂闊に攻めれないと思ったのだろう。
頭は悪くない。まぁ、馬鹿みたいに突っ込むような連中が山賊なんてやってられんか。
「下がれお前ら! こいつは合格者だ!」
山賊の頭が前に出てきた。
今ので俺が職業持ちだと分かったらしい。
さすがに馬鹿ではないようだ。
体格は大柄、防具は鉄製か? 武器は両手斧。
技術で攻めてくるタイプには見えない。なら力攻めだろう。
大斧を振るって、山賊頭が一撃入れてきた。
俺はそれを下がってかわすが、そのまま大斧を突き出してくる。
『回避』。
動きが遅くなった瞬間、斧の脇に避けて剣を突き出す。
だが山賊頭もまた、不自然なほどの速度で俺の剣を避け、距離を空けてきた。
「あぶねぇじゃねぇか」
こいつも『回避』持ちだな。
ということは能力『俊敏』を持っている。
『俊敏』を持っているなら、それに付随する技能、『跳躍』、『疾走』も持っているってことだ。
厄介な話だ。さてどう攻めるかな。
俺が踏み込むと、山賊頭は斧を振るって横に薙いできた。
前に出した足を止めて後ろに飛び、斧が届かない距離で剣を構える。
だが山賊頭は攻め手を止める。そもそも今のは当てる気がなかったらしい。牽制だな。
さすがに振り回されるとリーチの差が分かる。どうやって片手剣の間合いに持ち込むか。
「へっ、さすがに素人じゃねぇな。いいだろう、本気で相手をしてやるぜ! 『筋力強化』!」
元々筋肉質だった山賊頭の筋肉がより隆起する。
鎧の留め具がはじけて、筋肉の塊と化した上半身が露になった。
その体からは赤いオーラが沸き立ち、山賊頭は勝利を確信したように笑う。
あれは確か能力『身体強化』に付随した技能だったはず。
ならあいつの職業は戦士か?
狂戦士にしちゃ戦い方がお上品だしな。ま、どちらにせよ前衛職であるのに間違いはない。
わかったにせよ前衛職は出来れば相手にしたくないが……。
「オラァァア!」
山賊頭が大斧を振りかぶって突進してくると、先ほどよりも速く、強烈な一撃が叩き込まれる。
『回避』でそれを避けるが、地面深くまでめり込んだ一撃で砂煙が起こった。
煙の中で山賊頭は斧の刃を引き抜いて、振りかぶるような体勢を取り始めていたのが見えた。
返しが速い。そのまま薙ぎ払ってくるが、『跳躍』で後方に飛んで避けた。
さすがに前衛職。探索索敵盗みが仕事のか弱い盗賊が真っ向勝負するもんじゃねぇ。
だが動きは目で捉えられる。避けきれないものではない。
問題は、どうやって攻めるかだ。
敵も『回避』持ち、なら敵の『回避』を殺す立ち回りが必要だ。
単純に、技能を発動出来ないタイミングを見計らうしかない。
不意打ちか、技能使用直後か、相手のミスを待つか。
やりようはいくつかあるが、こいつには一つ隠し玉を使っておくか。
これは盗賊の数少ない特権。分かっていても防ぎきれない見える不意打ちだ。
「ハッ! どうやら攻め手がねぇみたいだな!」
山賊頭が巨体を揺らし、斧を振りかぶりながら突進してきた。
俺目掛けて斧を振り回し、家に当たれば家を容易に破壊し、地面に当たれば地面ごと抉ってくる。
動きは単調だが、有り余るほどの力は脅威でしかない。
返しの速さは人のそれではないわけで、まともに受ければ致命傷。
『筋力強化』の身体強化を前に、俺が攻撃できる隙は……。
斧の縦振りをかわし、前に出る。
山賊頭はそのまま斧を横に振るが、俺は高跳びの要領で両手斧の柄を飛び越えた。
「なにぃ!?」
『麻痺毒』を付与して、さらに『速突』!
飛びながらの一撃。しかしそれはやはり『回避』で避けられた。
予想通りだ。
例の技能も併用して使ってみたが、山賊頭は気付いていない。
山賊頭は安堵の溜め息を吐いた。
「お前、気に入ったぜ! 逃げつつしっかり俺の攻撃の隙を狙ってたわけだ。
逃げるだけしか能がねぇ腰抜けじゃない。どうだ、俺と組まねぇか?」
「あんたが職務案内所以上の金を出すなら考えてやるよ」
「金次第ってか? ハハハハハ! ますます気に入ったぜ。
だがなぁ、大口叩くなら勝てる相手かどうか見極める必要があるぜ?
生意気な奴は嫌われちまうからなぁ」
「勝てる相手かどうか?
さてね。今のを避けきれたと思ってる奴に負ける気はしねぇけどな?」
俺の持つ剣の先が赤く染まっている。剣を伝うそれは、決して多いわけではない。
真新しい少量の血を見て、山賊頭は目を見開いた。
「なに!?」
そして頭は自分の太ももが切れていることに気が付いた。痛みに気付くのが遅いんだよ。
「馬鹿な、どうやった!?」
「さぁ? もう一回やってやろうか?」
「調子に乗るんじゃねぇ!」
山賊頭は激高し、大斧を大きく振りかぶって薙ぎ払ってくる。
それを下がってかわすと、風圧が一気に全身を押し上げてきた。
山賊頭は勢いそのまま、靴を地面に刷り込ませながら体を回転させ、こちらに狙いを澄まして斧を振り下ろしてくる。
その動きは見えていた。『回避』でこれをかわすが、凄まじい一撃が地面に沈み込んでいく。
止まったと思えば、減り込んだ斧を地面ごと力ずくで俺の方へ振り上げ、攻め手を緩めようとしない。
巨大な武器の一撃は確かに恐ろしい。だがでかい武器ってのはそれゆえに動きが単調だ。
動き方で予測が出来る。
俺は剣を構え、息を整えるために一度攻撃を止めた山賊頭へ攻撃を仕掛けた。
「しつけぇ野郎だ……」
息を切らした山賊頭の体から、赤いオーラが消えかかっているのがわかった。
身体強化には時間制限がある。無限にパワーアップできるヒーローはいねぇ。
狙うならここだ!
斬りかかると、山賊頭は斧を構え、俺の一撃を避けるのではなく受け止めるつもりだ。
剣を持った右腕を振りかぶり、上段から斬り下ろす一撃。
山賊頭は確かに俺の剣を斧で受け止めた。片手剣の一撃だ。大斧振り回す奴には軽いだろう。
脅威も感じていなかったはずだ。怖いのは俺の使う毒だけ。触れなければ問題ない。
そう思ってただろう。
余裕で防げると思っていたはずだ。
その剣が、消えさえしなければ。
「な――!?」
山賊頭が驚く声より先に、俺が奴の足元に向けて突いた剣が山賊頭の足を貫いた。
そして即座に引き抜き、距離を取って離れる。
「ぐ、ぐああああああ!? なんでだ!? なんで剣が下から!? ありえねぇ!?」
「さぁて、なんでだろうなぁ?」
「テ、テメェの技能か……?」
山賊頭が傷付いた足で立とうとするが、今の一撃が効いたようだ。
斧を握る手が震え、膝を着いたまま立ち上がることが出来ない。
「『麻痺毒』が効いてきたみたいだな」
「ぐっ、テメェ、一体なんの職業持ちだ!?」
「ここだけの話、俺は盗賊だ」
「舐めるなよ? 盗賊に『毒』の能力が与えられることはねぇ!
テメェ、一体――本当の職業はなんだ!?」
「さて、なんだろうな? 余計なことは言わないのが俺の信条なんだよ。
俺は弱いからな。強い奴に情報を与えて、負け筋を作りたくない」
「抜かせ、テメェ……。戦士と真っ向勝負して勝ってる盗賊のどこが弱い?」
「弱いんだよ。弱くなくちゃいけない。
そうでないと、相手は油断しない。驕らない。
勝つ上で一番楽な方法を教えてやろうか? 取るに足らないと思わせることだ。
雑魚を相手にしている自分には余裕があると錯覚させることだ。
その余裕を失った瞬間、誰しも殺せる隙になる。お前にもあったろ? そんな隙がさ」
俺は自分の右腕を上げる。
すると山賊頭が眉を寄せ、信じられないものを見たような顔になった。
今、俺の右腕は二本ある。上げた腕と、下げた腕。
どちらも独立して動くもんだから、化け物でも見たような顔だ。
盗賊の技能、その名も『偽手』。
本来は盗賊が他人から盗む時、腕の動きを見られないようにするためのものだ。
腕の幻を作る技能と言ってもいい。
これは自分の持っているものも投影する。
剣を持った腕を振り上げた瞬間、その腕を『偽手』に変える。
本当の腕は消えて見えているわけだから、気付けるわけがない。
受け止めれば、幻だから敵の武具をすり抜ける。
だから普通に受け止められると一発でばれるし、幻だから攻撃できるわけでもない。
正直『アイアンブラッド』では敵モンスターには全く使えなかった。
騙せたところで決定打にならないし、牽制にもならなかった。
だが『回避』を中心に使う奴……つまり対人戦では効果的に使える。
回避殺しの技能として、これは非常に使い勝手が良い。
見えてるものは避けれても、見えない一撃は避けようがないからなぁ。
さて、ここまで見せてやったわけだが。
意味が伝わってるだろうか。
お前に情報を与えても脅威性はなにもない、という意味のつもりなんだが。
「最後に、周りの空気を楽しんどけよ。次に起きたら牢屋だろうから」
「ま、待っ――」
『麻痺毒』を付与した追加の斬撃。
さらに麻痺して意識も飛ぶだろう。
さて、他の奴らもどうにかするとしようか。




