道中にて
宿に泊まって翌日、俺とフランシスは買い物をしていた。
さすがに、これから先は剣と銃だけじゃどうにもならんからな。
フランシスが旅に必要なものを見繕ってくれたので助かった。
身をくるめる程度の外套、水筒代わりの皮袋。水も入れてもらった。
火打ち石、パンとチーズらしき食料を少し。干し肉も少々。
あとは調理鍋、ものを入れるための袋。
占めて銅竜貨3枚と石竜貨2枚。
外套を纏うのは、なんか安心するな。
前のものに比べれば、布地の雑さを感じるが。
まぁ、贅沢なことは思わないでおこう。
フランシスは犬に破かれた服を買ったので、もう少しかかったようだ。
「長旅なら帽子と杖も欲しいけど、村まではそこまで遠くないみたいだからとりあえずいいよね。
目的の村まで、歩いて一日程度だってさ」
フランシスが買い物ついでに、目的地の村の位置まで聞いてきた。
徒歩でその程度なら、走れば半日かからなそうだ。
まぁ、俺が『疾走』を使った場合なんだが。
フランシスに合わせるなら一日見ておいていいだろう。
「じゃあ早速出るとするか」
「そうだね。あの子も連れて行くんでしょ? 迎えに行かなきゃ」
バンディはさすがに宿屋内に入れなかったので、港で待機させといた。
まぁ、モンスターと一緒に泊まれる宿屋なんて早々あるもんじゃないだろう。
港に行くと、エルヴァーダとあの男がいた。
熱心に移送船に乗ってきた村民になんとか教団の教えを説いている。
信者の獲得には成功したのかね。
バンディはその様子を眺めつつ、港に寝そべって待っていた。
呼んでやると、のそりと体を起こして俺の元へと駆け寄ってくる。
市場で買った干し肉をくれてやると、喜んで食べ始めた。
こいつに荷物括り付けたらいいかもしれないな。
荷物持ち出来そうな体格はしてるし。
バンディを連れ出し、町の外へ向かう。
よほどこの犬は嫌われ者なのか、町の人が頻りに気にする様子が見られた。
まぁ討伐依頼に加わるほどだ。よっぽど面倒な犬なんだろう。
さて、仕事内容だが。
ヒザン村とかいうところで、山賊が来るのを待って撃退することだったな。
根城は押さえる必要なし、と。
少数と言っていたが、どの程度の規模なんだか。
「ねぇダリオ」
「どうした?」
「道中でいいんだけど、剣の使い方教えてくれない?」
「それはいいが、稽古をつけてる時間はないぞ。
口で言われたって身につかないと思うが……」
「それでも知らないよりはいいと思うんだ」
確かにそれはそうだ。
とはいえ、一朝一夕で上手くなる技術はない。
フランシスは戦闘経験がないせいか、少し山賊を甘くみている気がする。
昨日はあの男の話から逃れるためとはいえ、俺の仕事に乗っかってきた。
多分深く考えてはないだろう。
俺と一緒なのが駄目だったな。
山羊車の人間と一緒なら、受けようなんて思わなかったろうに。
やめる気もなさそうだ。
連れていくのは、まぁいいとして。
フランシスと話してる感じ、俺に頼り切る性格じゃない。
自分も頑張ろうと思ってるはずだ。
戦闘でも奥に引っ込んでるとは思えない。
黒犬との戦闘を見ていた感じ、フランシスは慌てて突っ込んでいった感じだった。
技術がないのを勢いでどうにかしようとしている節がある。
山賊相手にしたら、無謀に突っ込んでいきそうだ。
現状のまま放置したら絶対死ぬだろう。
俺も守るような能力はないしなぁ。
どうにかしなければ。どうすればいい?
体格は良い方だし、農業をしていたなら筋力はあるはずだ。
剣も片手で扱える長さだな……。
「フラン、ちょっとバンディと町の入り口で待っててくれよ」
「えっ、うん。わかった」
バンディにも言い聞かせておく。
彼女を傷付けようものならその毛皮剥ぐからな。
圧を感じたのか、バンディが伏せて理解したことを示した。
利口なやつだ。
俺は二人を置いて町中を歩いていく。
人混みを掻き分けていくと、ある建物に入った。
さっきフランシスと買い物してたときに見つけてたんだ。
中には、武器や鎧が並んでいる。
お目当ての武具屋だな。
「いらっしゃい!」
スキンヘッドで筋骨粒々のおっさんがカウンターにいる。
こういう店って、ああいうむさ苦しいのが絵になるよな。
右の壁側に剣や槍など武器が。
中央から左は防具が飾られている。
左手側を眺めると、お目当てのものがあった。
円形の盾だ。
鉄製、木製、皮製のものがある。
側によって実際に触れてみる。
鉄は言わずもがな。
木製も丈夫で、そう簡単には壊れなさそうだ。
ただし、どちらも重い。
皮製のものは若干指が沈む程度の弾力があるが、分厚く軽い。
モンスターの素材で出来ていそうだな。
値段は、鉄の盾は銅竜貨20枚。
木の盾は銅竜貨10枚。皮の盾は銅竜貨5枚だ。
選択肢は一つだな。
「皮の盾をくれ」
「毎度!」
金を支払い、盾を持って店を出る。
円形のショートシールドで、上腕を隠す程度の大きさだ。
剣の使い方は知らなくても、盾の使い方は分かるだろう。
まぁこれも技術はいるだろうが、剣よりは咄嗟のことに対応できるはずだ。
町の出入り口まで戻り、フランシスと合流した。
町の周りは外壁に囲まれていて、その壁は年期が入っている。
フランシスは盾を見て目を丸くした。
「ダリオは盾も使うんだね?」
「違う、これはフランのだ」
「え、私に買ってきたの!? 高かったでしょ?」
「ないよりはあった方が良いかと思ってな。
金は気にしないでくれ」
どうせ、金の供給源は町中にごまんといるんだからな。
一人二人盗まれても気付きゃしねぇだろ。
「そう? あ、ありがとね!
この分は必ずどこかで埋め合わせるから!」
フランシスが満面の笑みを見せる。
どこか少女のような、無邪気な笑顔だ。
可愛い。可愛い!
早速盾を受け取り、フランシスが左腕に装備する。
重量の懸念はあったが、軽量だったのもあって余裕そうだ。
「な、なんだか冒険者って感じ。
私、今ひょっとしてかっこいいんじゃない?」
「かっこいいと思うぞ」
フランシスの目が輝いている。
少年のような少女のような。純粋な奴だ。
もう良かったねって撫でてやりたい。
「さて、そろそろ行こうか」
「うん、うん! 今の私ならなんでも出来そうだよ」
「頼むから敵中に突っ込まないでくれよ?」
談笑しつつ、俺とフランシスはウロヴラを後にする。
外壁の外は森林で、見える範囲に山々も見えた。
自然豊かな土地だな。
無数の鳥の声や獣の声が飛び交い、視界の端で時折小動物が動いている。
動物も多いようだ。
植物も見慣れないものが多い。
毒々しいものから美しいものまで多様だ。
バンディは動くものに反応している。
追いかけたいのか尻尾を振って、頻りに追う素振りを見せては思い出したように戻ってきた。
こいつも楽しそうでなによりだ。
そういやこいつ、犬の割には全然吠えないな。
後ろ腰に銃と仕舞っておいた地図を取り出す。初めての土地でも使えるのは便利だな。
周辺はひたすら山と森林だ。
フランシスが聞いてきた話だと、村は道なりに進んで、分かれ道を右手にってことだが。
方向的に南になるのかな?
「ダリオ、それ高い地図じゃない?
本当に色々持ってるねえ」
「これは人からもらったんだ。
まぁ、ちょっとしたツテがあってさ」
感心するフランシス。
段々フランシスの中の俺が、得体の知れない凄い奴になってきてる気がする。
地図といえば。パーシヴァルの奴、生きてるかなぁ。
向こうじゃ俺は死んでることになってんだろうか。
あれこれ考えつつ、道なりに突き進む。
途中でフランシスに剣の握り方や足さばきなどを分かる範囲で教える。
案の定、頭から煙を吹いていた。
分かれ道まで来た段階で、日が高い位置から傾き始めていた。
この調子だと野宿を挟むかもな。
一度休憩を挟み、さらに先へ進む。
地図上で村の位置が確認できた頃には、夕日が差すような時間になっていた。
もう少しで村に着けるが、夜の道を進むのはリスクが高い。
この辺で野宿しようか。
まぁ、しようかと言っても初野宿になるんだが。
この辺はフランシス頼りになるな。
「明日、日が高くなる前には着けるだろ。
今日はこの辺で休もう」
「うん、分かった」
俺が野宿経験がないことを話すと、フランシスはかなり驚いたようだった。
彼女は森や山などに入ったり、王都や町へ物を売り買いしに行く過程でよく野宿していたらしい。
通りで色々手慣れていたわけだ。
フランシスと組んでなかったら、難儀したことだろう。
いい出会いに巡り合えて感謝だな。
フランシスに教わり、寝床を決める。
また、周辺を掃除してたき火用の場所を作った。
そこに落ち木を集め、火打ち石で火を付ける。
周りに燃え広がらないよう気を付けんとな。
携帯した食料を食べつつ、夜が更ける空を眺める。
バンディに干し肉をやり、水も分けてやった。
フランシスはうまそうに固いパンもチーズを食べている。
そんなに味は良くないと思うんだが。
「贅沢だなぁ。こんなに食べれるなんて!」
言葉に詰まった。
そうだな、フランシスは村民だ。
毎日食うに困る環境で育ったんだもんな。
恵まれたところにいたんだな、俺は。
パンを齧り、味気ない味を噛み締める。
うん、やっぱりまずい。
肉を食べ終わり、寛いでいたバンディが突然耳を立てながら体を起こした。
牙を剥き、唸り声を上げる。
フランシスは驚いたのか、食べていたものを詰まらせて胸を叩く。
近くになにかいるのか?
『生命感知』、『聞き耳』を使用。
間近の鼓動音はフランシスとバンディ。
森の各地からも聞こえるが、近付いてくる音がある。
一つの鼓動音だ。
『アイアンブラッド』とは違い、何度か使ってみると音に違いがあるのが分かってきた。
小さなものは鼓動音が速く小さい。
大きいものは鼓動音そのものが響くようにでかい。
これはよく聞いた感じの音。人程度の大きさだ。
山賊? だが一人分しか感じられない。
村の下見に出た斥候だろうか。
技能解除。
もう使わなくても、草を掻き分ける音が聞こえる。
剣に手をかけ、フランシスに静かにするよう促す。
バンディの体に手を置いて、飛び出さないよう制した。
森の中からなにが出るのか。
火で照らされた森の中から、ゆらりと影が出てきた。
白金の長い髪、翡翠の瞳の女だ。
背丈は俺より頭半分低いくらいか。褐色の肌で、体つきは情欲を掻き立てる。
赤いブラトップに、オレンジ色のダブルスリットの入ったスカートと踊り子のような衣装だ。
ちゃんと靴も履いているし、割と汚れがある。
その辺から来たような感じじゃないな。
「誰だ?」
女は不敵に笑んだ。
目の色も相まって、蠱惑的な雰囲気がある。
なんだ? いい女だがフランシスとはまるで違う。
人間なのか? もしかしてモンスターだったり……。
女が手を伸ばしてくる。その手が届きはしないが身構えた。
魔術師? この動きはなんだ? 技能なのか?
なにをする気だ? 目的は? どうして森の中から?
一気に思考が巡る。それを遮るように女が口を開いた。
「……し」
死!? 死ねと言ったのか? やはり敵――!?
「ご飯……お腹減って、死にそうダヨ……」
女はそう言い残し、そのまま前のめりに倒れ込んだ。
「…………はぁ?」
言葉を溜めた結果、それしか出てこなかった。
疑問符が出たままだが、ひとまず分かったことがある。
こいつ、駄目な奴だ。




