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サモン・タイム!~勇者と七人の道連れを添えて~  作者: 鰐鯨
なにがどうして異世界生活
14/23

新天地


 俺は今日、地獄のような空の旅を体験した。

 やっと揺れが収まった頃、一度どこかにぶつかるような衝撃を受ける。

 それを最後に、一切の動きを感じなくなった。


「はーい! 長い時間、お疲れ様でございました!

最悪で不快な空の旅はいかがでしたでしょうか!?

気分が落ち着いた頃に外に出てください!

ヴームエンデ、ヴームエンデに到着でございますよ!」


 エルヴァーダに乗る男の無駄なほどデカイ声が響く。

 輸送船内部は死屍累々だ。


 みんな安全帯に身を任せ、顔を青くしながらぐったりしている。

 本当に最悪なツアーだった。

 フランシスもぐったりと――。


「ふわぁぁ、良く寝た」


 ほら言ってるだろ、良く寝――良く寝た!?

 嘘だろ、あの揺れの中で寝てたのか!?

 図太いというか、どういう神経してるんだ。


 フランシスが安全帯を外し、大きく体を伸ばしてから出入口に向かっていく。

 彼女が鍵を開けて扉を開くと、光が差した。


「おや! もう動けるのですか?

無理なさらなくても大丈夫ですよ?」


「いえ、全然大丈夫です。

強いて言うなら寝てたので、体が固くなっちゃったくらいで」


「寝てた!? ハッハッハァ!

なんと! あの不快で二度と乗りたくないと評判の!

エルヴァーダの空の旅で寝ていたとおっしゃる!

これはとんだ大物を連れてきてしまいましたねぇ!」


 さすがに輸送の男も驚いたらしい。

 ていうか評判最悪なこと知ってるなら、もっと良くしようと思え!


「わぁ! 凄い! これは凄いよ!

みんなどうしたの? 早くおいでよ!」


 返事をするものがいない。出来ないというのが正しいか。

 だが女性の誘いを断るのはよろしくない。


「今行く!」


 まだ正直気持ち悪いんだが……。

 ふらつく足を無理矢理前に向かせて、気合いで出入口に向かう。


 輸送船の外に出ると、急に明るみに出たせいか眩しく感じる。

 目を細めながら、周囲を見回すと、そこは先程の海岸とはまるで景色が違った。


 整備された道の上に移送船が置かれており、目線の先には町がある。

 背後には海があり、ここを渡ってきたのだろう。


 町は賑やかで活気に溢れている。

 港町のようなものだろう。俺達は今、港にいるんだ。


 まず正面、町中は商店が無数に並んでいる。

 見える範囲だが商店毎に旗を立てており、それぞれ模様が違うようだ。

 屋号のようなものだろうか。


 他にも建物はあるが、造りは石というかは土だろうか?

 粗雑ながらも、壁に幕のような布が飾られており、彩りがあるせいか貧相には見えない。

 恐らく住民の家だろうか? お洒落なことだ。


 町中は人通りが多くて、たくさんの人が行き交っている。

 多くの人が布を体に巻いただけのような、大雑把かつゆったりとした服装だ。

 ディザニアはもっと肌に密着する服装が多かった。


 俺達同様に皮鎧を着けたり、ディザニアに近しい服装の人も見受けられるが、数はそう多くない。

 国によって主流となる衣服が違うというのも面白いな。


 フランシスは感激しているのか、うち震えている。


「す、す、凄いよ。私、ディザニアから出たんだ。

ここがヴームエンデなんだね!

今日から私、ここで暮らすんだよダリオ!」


 フランシスが俺の腕を掴んで小刻みに動かしてくる。

 余程嬉しいのだろう。


「お熱いそこのお二人さん!」


 輸送の男に呼ばれて振り返ると、上から袋が落ちてきたので受け止める。

 金属が擦れるような音、そして僅かに手に感じる重量。


 手触り、重さ、音。硬貨だ。

 金の匂いがする。間違いない。


「金か?」


「ご明察! お金がなくてはやっていけませんからね!

輸送料1000クルスはすでにいただいております!

そちらは餞別! 全て銅竜貨です。

お一人500クルス分、銅竜貨10枚お取り下さい」


 1000クルスもらっている? フランシス達が払ったのか?

 何も聞いちゃいないが……。

 そりゃあタダで運ぶわけないよな。

 フランシスに、その辺りのことは後で聞いてみよう。


 それにしても、向こう(ディザニア)の村民30日……いや場合によれば60日分の金をくれるのか。

 銅竜貨ってことは、上には銀と金がありそうだな。

 1枚50クルス分。

 金を使っていないから、高いのか低いのかいまいちピンとこないが。


「ここまで運んでくれた上に金までくれるのか?」


「我が国ヴームエンデでは、自由な意思を尊重します。

自ら国を捨て、新天地を目指すその覚悟……。

素晴ら! しい! と、言わざるを得ません。

是非とも我が国にて、その才気と気概を活かしていただきたい。

これはそのための投資とお考えください」


「……気前が良いことで」


「ハッハッハァ! それだけではございません!

仕事の斡旋もお任せください!

輸送の不快適さ、そして輸送後の面倒を見ることに関しては自信がございます!」


 どうにも胡散臭い。そんなことして、こいつになんのメリットがある?

 なにか変な企みがありそうだ。勘繰りすぎか?


「よろしくお願いします!」


「うーん、お嬢さん! 実に良い返事です!」


 フランシスは疑っていないのか、素直に好意を受けいれている。

 この場合、純粋と言うべきか騙されやすいと思うべきか。


「……仕事まで紹介してもらえるのはありがたいんだがな。

色々話を振られる前に、あんたの船でくたばってる連中をどうにかしないと」


「いえいえ、恐らく今日は無理でしょう。

大体、運んだ人達は一日動けませんから!

あなた達は実にたくましい! よくぞ動けました!

ですので、先にあなた方に諸々ご紹介しても?」


 自覚しているのに、あの運び方を良くしようとは思わないんだな。


「紹介って、なんの紹介ですか?」


「もちろん! 仕事先、宿泊先の紹介ですとも!」


 なぜどうしてと思うことはあるが、確かに金を稼ぐ術は必要だ。

 こいつの虫の良い話、聞いてみる価値はあるかも……。

 そもそもフランシス一人で行かせるのは不安だし、ここは一緒に行こう。


 輸送の男はエルヴァーダの背から飛び降り、俺達の前に下りてきた。

 結構な高さがあったというのに、男は平然と立ち上がる。

 容易に着地出来るなら、『跳躍ハイジャンプ』でも使ったか?


 こいつ、見たままに調教者テイマーだろう。

 職業能力ジョブアビリティの中に『俊敏』はないはず。

 なら複数職業(ジョブ)を持っているのか、能力アビリティ付きのアイテムを持っているのか。


 フランシスの言葉を借りるなら、エイサーって奴だ。

 ただの輸送業者には思えねぇな。

 何者だこいつ?


「さあ! 行きましょう! 町に繰り出しましょう!」


 無駄に高いテンションのまま、男に促されるまま、俺とフランシスは町の中へ進んでいった。


「そういえば、ここはなんていう町なんです?」


「ここはウロヴラという町になります。

我が国(ヴームエンデ)の中でも、大きな町ですよ!」


 男は慣れたように人を避け、すいすいと奥へ進んでいく。

 俺も着いていけてはいるが、フランシスが完全に人込みに捕まっている。

 さすがに見かねて、フランシスの手を掴んで助けてやった。


「大丈夫か、フラン」


「い、いやぁ、人が多いねぇ」


 すっかり目を回しているようだ。

 あの酷い空の旅では平然としてたクセに、人酔いはするんだな。


 そうしてどうにか男の後を追うと、男はある建物の前で待っていた。


 他の建物よりも大きく、正面の壁に下げられた布にはエルヴァーダと思わしき絵が縫われている。

 なにか特別な施設のように思えた。


「ここは?」


「あらゆる仕事を用意している素敵施設です!

全てのヴームエンデ国民は、ここ職務登録所(ホロス)にて仕事の登録をする必要があるのです。

農業の手伝いから魔獣の討伐まで、その内容は千差万別!」


 いわゆるギルドみたいなもんか。

 ディザニアじゃあろくに町を見れなかったからなあ。

 そういう施設もあったのか。


「わ、私らみたいな村民でも仕事を選べるんですか?」


「もちろんですとも。

それに、あなたはもう村民ではありません。

まずは中で、ヴームエンデの国民である証を貰いに行きましょうか」


「証?」


「はい。我が国では、この国でこんな仕事をしてる誰さんです、というような身分証を作る必要があるんですよ。

自由は尊重されるものですが、だからと言って勝手にやられては困りますのでね。

人の管理と把握のために発行してるものとなっております。

まあ、詳しいことは中で! さあどうぞ!」


 案内された建物に入ると、内部は非常に清潔感ある空間だった。

 外は土壁のようで見てくれが良くなかったが、内部は石なのかと思うほど造りが違う。


 入って正面に受付があり、受付カウンターは木製だ。

 それぞれ一番から五番までの受付番号がカウンターに付いている。


 待合スペースもあって、同じく木製の長椅子が用意され、順番を待っているらしい人の姿も見受けられる。


 ふと左側の壁を見れば、番号によって受付ける仕事内容が違うことが書かれた看板が掛かっている。


 一番と二番は商業や生産など、非戦闘の仕事内容を紹介しているようだ。

 三番と四番は魔獣討伐などの戦闘系の仕事を紹介する受付らしい。


 五番は身分証作成や、他の受付で請け負った仕事の報告窓口であり、報酬の受け取り場所になっている。


 俺達はまず、五番に行く必要があるらしい。

 輸送の男にも五番カウンターに行くよう指示されたため、俺とフランシスは五番受付へ進む。


 カウンターの前に立つと、受付嬢に一礼された。

 受付嬢は黒髪で、目の色が青い。深緑の制服を着ている。


 ふと受付全体を眺めてみれば、受付嬢は全員同じ顔だ。

 黒髪であり、制服も共通している。目の色だけ違う。


 表情のない女は好みじゃない。

 とはいえ、同じ顔が並んでるとやはり気になるな。

 五つ子? あるいは人造体?

 こちらにもそういう技術があるのか?


「いらっしゃいませ。

本日はどのようなご用件でしょうか」


「ハァーイ! 本日は新しい人を連れてきたのです!

身分証を作りたいので、お願いします!」


「承りました。ではこちらに記入を」


 受付嬢がカウンターに下から用紙を取り出した。

 少し日焼けしたような色の紙だ。

 さらにインクとペンも渡される。


 名前、出身国、年齢の記入欄。

 そして仕事はどんなことをやりたいか、あるいはなにが出来るか。


 書くところはこれだけの、非常に簡単なものだ。


 名前はダリオ。出身はディザニアにしとこう。

 年齢……元の自分が何歳か分からんしなぁ。

 ダリオは何歳だ? 見た目的には十代から二十代だよな。

 二十歳にしとくか。


 仕事ねぇ。生産業や商業的な仕事は経験がない。

 いや、あるのかもしれないが覚えていないからな。


 身体的に強化されてるし、技能スキルも使える。

 今の自分を活かさない手はない。


 選べるなら、戦争に参加とかそういう仕事だけ避ければいい。

 魔獣討伐などの仕事を希望する、と。


 フランシスはまだ悩んでいるらしい。

 先に受付に用紙を返すと、受付嬢はそれに目を通し、頷く。


「この内容にお間違いはありませんね?」


「ああ、はい。大丈夫です」


 受付嬢がカウンターの下から銅色のカードを取り出す。

 そして俺の書いた紙を右手に、カードを左手に持つ。


「内容は受理されました」


 用紙の上に小さな魔方陣が出ると、そこから文字が伸びてカードへと入っていく。

 一瞬の出来事で、文字が全て入ると魔方陣も消えた。


 そうして、俺はそのカードを手渡される。

 手触りは金属質で硬い。


「こちら、あなた様の身分証となります。

紛失されませんようお気をつけください」


 見れば、カードには先程記入した内容が入っている。

 さっきの魔方陣は、複製する魔術かなにかだったらしい。

 カードの裏にはエルヴァーダらしい竜の絵が付いている。

 これが身分証になるのか。


「記載された内容については、あくまで基本情報です。

必ずしも身分証に記載したことに準じる必要はございません。

基本的には受けたいものをなんでも請け負うことができます。

なお仕事のご相談の際、受付にて必ず身分証を提示してください。

身分証がない場合、一切のお仕事を紹介出来ない決まりとなっています。

紛失した場合はこちら五番窓口へ。

労働報酬をお渡しするのもこちらになりますので。

また、受付は番号によって相談窓口が変わります。

詳しくは看板に記載しておりますので、そちらを確認お願いします」


 さっき見たやつだな。

 淡々と説明されたが、これがないと仕事が出来ないわけだ。

 この国で仕事する人間、つまり国民である証のようなもの。


 大事そうな割にはすぐ作れた。

 これ持ってると国から出れないとかないだろうな?


 フランシスはまだ書くのに手間取っている。

 どうやら字を書くのが苦手らしい。

 俺は付与された知識のおかげで苦労ないが、フランシスは文字を覚えるのにどれだけ苦労したんだろう。


 ともあれ、これで金を稼ぐための準備は出来た。

 新たな生活の始まりだ。

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