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サモン・タイム!~勇者と七人の道連れを添えて~  作者: 鰐鯨
なにがどうして異世界生活
12/23

死人の旅路 2


 山羊車に揺られてしばらくすると、やがて海岸線にたどり着いた。

 森が切れ、砂浜と海が見える。夜の海はひどく不気味だ。


 御者として山羊の手綱を引いていた護衛の男が周囲を見回し、山羊車を停止させる。


「ここでしばらく待つぞ。外に出てもいいが、あまり遠くにはいかないでくれ」


「なにを待つんですか?」


「ああ、迎えがくるんですよ。朝日が昇る頃には来るはずだ」


 船でも待つのか? 密航船に乗り込むことになりそうだ。


 乗客達は各々、安堵した表情を浮かべている。

 気を抜くのはまだ早い気がするんだが……まあ、人の考えに突っ込んでも仕方ないか。


 山羊車の荷台から降り、砂浜まで歩きながら体を伸ばす。

 海辺だけあって風は少し強めだな。

 ただ磯の臭いはしない。

 俺の覚えている海とはなにか違うのだろう。


 しかし、あの犬といい海といい、地球に似ている世界だ。


 ここはパラレルワールドみたいなものなのか?

 それとも偶然似てるだけの世界?

 元の世界はどこにあるんだろうか。


 さすがに世界を渡る、なんて力は俺にはない。

 魔術塔ゼノアはやはりとんでもない代物だ。

 この世界、他に異世界へ渡る手段はあるのか?


 ないなら魔術塔ゼノアをどうにか使わせないと。

 だがディザニアに留まれば、恐らく帰れなくなる。

 王様は俺達を手放さない。

 そもそも王様が提示した報酬が富と名誉だ。

 思いっきりこの世界に留める気満々じゃねぇか。


 リューミナやジンカイはその時点で気付いたのかもなぁ。


「あの、ダリオさん!」


 荷台から、フランシスが駆け寄ってきた。

 うーん、身長が高いのと短髪がやや男っぽさを感じさせるが、その活発そうな雰囲気がたまらない。

 かっこ可愛い系美人だ。エイローズとはまた違う魅力だな。

 なんでこんな良い女を戦わせてんだ、荷台の奴らは。


「フランシスさん」


「フランでいいですよ。すいません、ちょっと聞きたいことが」


「なんです?」


「その、腰のもの……」


 ああ、外套がなくなったから普通に見えるか。

 今更隠すものでもない。


 後ろ腰に差していた銃を取り出した。

 俺の銃は拳銃タイプで、威力と飛距離はないが取り回しが良い。

 魔力を溜め込むバッテリーがあって、それをエネルギー源に魔力の塊を弾丸として打ち出す構造……だったかな。

 ゲーム内じゃ構造なんて考えたことなかった。武器説明を暇な時に眺めた程度だ。


 戦闘において、中距離で活躍してくれる。

 俺が剣しか持ってないと思って、不用意に距離を取った奴の頭を何度ぶち抜いたことか。


「これがなにか?」


 そういえば、こっちに銃はあるのか?

 不用意に見せるべきじゃなかったかな。


「あの、詮索はしないほうがいいのかと思ったのですが。

ダリオさんは、ジヴァ帝国の人なんですか?」


「……なぜそう思うんです?」


「あ、いえ、銃といえばジヴァ帝国が有名なので」


 銃があるらしい。しかもジヴァ帝国が積極的に使っているようだ。


「まぁ、この国とジヴァの境い目らへんが故郷ですかね。

物心ついた頃には王都の近くで暮らしていましたが」


 極めて適当に嘘を吐く。

 王国兵ならともかく、異世界人なんて言ったら俺の頭が疑われるからな。


「国境に住んでた方でしたか。この国では珍しいものを持ってますねぇ」


「確かに、ディザニアでは全然見かけませんでしたね」


「国王がそういった武器を嫌っているそうですよ。

魔術こそが至高と考える方のようですから……」


 王様の前で銃を見せなくてよかった! 見せていたら機嫌を損ねただろう。


「ああ、そうだ。別に敬語なんていいですよ。

俺も気軽に話せると助かるのですが」


「え? そ、そうです、か? じゃあ、遠慮なく……。

いやね? 助けてもらった手前、なんかかしこまっちゃって。

身なりも良いし、どこかのお偉いさんかと思ったの」


「俺なんて、たかが知れるさ。職業ジョブだってしょうもないし」


「……ええと、ごめん、なにがしょうもないって? 今なんて言ったの?」


 そういえば、魔素を使える人は魔術言語というものを扱えるとか。


 職業ジョブって言葉がそれになってる?

 マヤちゃん曰く。魔術言語は俺は脳内で、自分の世界の言語に変換されているって言ってたな。

 言葉として自分が使っても、相手には魔術言語として聞こえてるのか?


 いや、フランシスの反応を見るにそうなんだろう。

 耳が悪いようには見えない。


「ええと、まあしがない剣士でしかないよって話さ」


「ふぅん? ねぇ、ダリオってもしかして、合格者エイサーだったりするの?」


「エイサー?」


「魔導会で合格した人なのかって話さ」


 魔導会。なんか覚えがある言葉だぞ。

 そうだ。こっちでは魔素を扱える証明として、魔導会とやらで試験を受けて合格しないといけないとか。

 合格すると職業ジョブを名乗るのを認められて、初めて魔素――能力アビリティが使えるって話だ。


 『アイアンブラッド』だと自分自身の体力が消耗したが、こちらでは能力アビリティの使用に魔力を使っている節がある。

 魔素の集合が魔力。

 つまり魔素を扱えない人間は技能スキルが使えない。

 能力アビリティ自体持ってないんじゃないのか?


 なら、魔術言語が分からないフランシスは一切能力(アビリティ)を使えない?

 能力アビリティなしであの犬と戦ってたのか。


 王国兵や近衛兵には話が通じてたから、普通通じない言葉だと気付かなかった。

 あいつら、その辺はさすがエリートってわけだ。


「厳密に言うと違うんだが、そのエイサーみたいなもんだな。職業ジョブ盗賊シーフ銃士ガンナーだ」


「やっぱり!? 合格者エイサーなんじゃないかって思ったんだ!

聞いたことない変な言葉使うし、あんなに強かったし! 憧れるよ!」


 フランシスが興奮気味に顔が近づけてくる。

 このまま抱きしめてやりたい。

 いや、そうじゃない。


「近い、近いよフランシス」


 言われて気付いたのか、慌ててフランシスが離れる。

 少し照れた様子で謝ってきた。


「いやあ、ごめんごめん。

でも、本当に凄いよ。魔導会の試験、超難しいっていうしさ」


「褒めすぎだって。

フランは試験を受けたことがあるのか?」


「まさか。村民が試験受けるなんて無理だよ。

まず本が買えないからね。勉強のしようがない。

才無し(ノークス)のままさ」


 ノークスってなんだ? 職業ジョブじゃなさそうだが。

 さっき合格がどうのって言ってたし、合格してない人のことだろうか。


「護衛してたから、てっきりそのエイサーかと思ってたが」


「いやぁ、情けない話なんだけどね。

私ら才無し(ノークス)だから、戦える人がいなくてさ。

みんなで剣で戦ってみて、強かった人がとりあえず護衛役に回ったんだ。

その結果がアレ。やっぱり、村民がやって上手くはいかないね」


 自嘲するように笑うフランシス。

 戦う力を持っていない奴らが、それでも国を出ようとするほど困窮しているんだな。


 村民に護衛を雇う金なんかない。

 だから自分達で、という考えだったんだろうが、危うく死ぬところだ。


「随分無理なことしてたんだな。

でも、これからはそんなことしなくてもいいんだろ?」


「そうだね。やっと苦しい生活とおさらばだ。

でも、私は剣を捨てないよ!

折角高い金払って買ったんだ。どうせならこいつを活かしたい。

いつかは魔導会に行って、ダリオみたいに合格者エイサーになりたいんだ」


 フランシスの目がきらめいている。

 夢を持った女は素敵だ。

 美しさ三割、いや十割増しだ。


 与えられた知識には入ってなかったが、魔導会ってのは世界中にあるのか?

 いや、フランシスが言うなら他の国にもあるんだろう。

 多分、教会的なものなのか?

 あ、国といえば。


「そういえば、聞いてなかったな。

フラン達はどこに行くつもりなんだ?」


「ヴームエンデだよ」


 ヴームエンデ。与えられた知識があふれ出す。

 ディザニアとは内海を挟んで大陸の北部を治める国で、別名を竜の国。

 今は東のフォーン王国と南のジヴァ帝国、二つの国を相手にして戦争中のようだ。

 調教者テイマー技術に優れ、他国では決して扱えないエルヴァーダを飼い慣らす国。

 らしい。


 ……エルヴァーダ? なんだそりゃ。

 生き物だろうが、言葉だけだとまったく分からん。

 国を二つ相手にしてるって大丈夫なのか?


「おーい! 戻ってきてくれぇ!」


 護衛の男の声だ。なにか慌てたような言い方だった。


 フランシスと一緒に山羊車に戻る。

 何事かと思えば、さっきの黒い犬が森の方から歩いてくるのが見えた。

 群れではなく、一匹だけだ。もしかしてさっき逃げた奴か?


魔犬ハウンディって、こんなにしつこい魔獣なのか!?」


 護衛の男が震える剣先を黒犬に向けながら、必死に山羊車を守ろうとしている。

 あの犬、ハウンディっていうのか。


 フランシスが斬りかかろうとするのを手で制する。

 俺が前に出ると、黒犬は一瞬怯えたように数歩下がった。

 唸ってはいないし、さっきと違って牙を剝き出しにするわけでもない。


 なんか変だな。


 しゃがんでみると、犬は静かに俺の様子を窺っている。

 手を叩いてこっちに来るよう手招きしてみると、黒犬は恐る恐る近づいてきた。


 そして俺の前に来ると、突然横になり、お腹を見せてくる。


 動物が腹を見せる時。それは愛でてとか可愛がって、って意味じゃない。

 完全な降伏宣言だ。

 あなたには敵いません。煮るなり焼くなり好きにしてって意味だ。

 多分。


 お腹を撫でてやる。毛並みはまあ、野生動物だけあってゴワゴワしている。

 梳かしてやれば手触りは良くなるんじゃないか?

 ふむ、ちゃんと()()な。こいつはオスだ。


 さて、なんでこいつ、急にこんな行動取ってきた?

 考えられるとすれば……。


「この生き物って、人に懐きやすいのか?」


「いやいや。獲物を死ぬまで追い回す、質の悪い追跡者さ。

人に懐くなんて話、聞いたことないよ」


 『アイアンブラッド』なら、モンスターは調教者テイマーにしか従わない。

 こっちでも同じなのか?

 いやぁ、同じならこの犬の反応はあり得ないだろ。


 この犬、群れで戦ってたし頭は良いはずだ。

 わざわざ仲間を殺した男の前に戻ってくる理由。

 こいつ、俺についてくるのが一番得だと判断したのか?


 逃げただけあって、中々どうして賢明な奴だ。

 気に入った。

 どうせ長い旅になりそうだし、一匹くらい付き添いがいてもいいかもな。


「ついてきたいなら勝手にしろ。

ただし、勝手に人を襲ったり、ましてやこの俺に牙向こうものなら……。

わかるか? わかるな?」


 魔犬ハウンディは体を起こし、従うように這いつくばった。

 こちらの言葉が分かってるのかどうかは分からん。

 ただ、俺に従う姿勢は示してきた。


「犬じゃあ味気ねぇよな。名前つけてやろう」


「えっ、ダリオ! これ連れていくの!?」


「ペットがいてもいいかなって。

あっ、その迎えってのは動物連れていけないのか?」


「いや、それは大丈夫だよ。大山羊ピーフも連れてくからね。

でも人を襲う魔獣を飼うなんて、正気とは思えないんだけど……」


「安心しろ。誰か襲おうとしたら、俺が責任もって処理するから」


 魔犬ハウンディが怯えたように身を縮める。

 俺の殺意を察知する能力には長けてるみたいだな。


「名前は……そうだな。ハウンディってのがこいつの種族名だろ。

うーん、山羊車を襲った犬、群れ。集団? 集団で襲ってくる。奪う。

ああ、俺の職業ジョブ盗賊シーフだし、それに近い名前をやろう。

バンディってのはどうだ? バンディットから取った」


 黒犬は小首を傾げた。ピンときてないか?

 ガウディールにしようか悩んだんだが、こっちにするべきだったかな。


「バンディ」


 名前を呼んで頭を撫でてやると、自分がそう呼ばれていることが分かったのか一吠えした。

 尻尾を振って、俺の手に自分から頭を擦り付けてくる。


 媚びてやがる。こんな早く懐きゃしないだろ。

 本当に頭良いというか、小賢しいというのか。


 乗客が恐々としながら俺達を窺っている。

 この犬、本来はかなり恐がられてる存在なんだな。

 まあ、俺といる間は大丈夫だ。俺といる間は。


 これは目を離せないな。俺が乗客の方へ行かないよう、バンディと戯れて時間を潰す。

 しばらくして、朝日が昇ってきた。

 夜明けだ。海が光を反射して、鏡面のように輝いている。


 迎えとやらはいつ頃来るんだ?


「グゥゥゥ……」


 バンディがなにかに怯えたように俺の後ろに回る。

 こいつ、主人を盾にしやがって……。

 大山羊もなにかに警戒して、角を振り落ち着きをなくして手綱を振りほどこうとしている。

 護衛の男や乗客がそれを必死に宥めていた。


 動物が反応している。なにか来るのか?

 でも船なんてなにも……ん?


 水平線になにか見える。鳥か?

 いや、でかい。でかいぞ。なんだあれは?


 『鷹の目(ホークアイ)』を使おうと思ったが、使う必要性はなかった。

 鳥のようなものは、まばたきする間にこちらへ迫ってきているからだ。


 その巨体は金に近い鱗に覆われていた。

 山羊車を軽く超える体躯、爬虫類のようでいて、前脚は鳥のように翼になっている。

 翼には翼膜が張り、目の前で広げられると視界を全て覆うほど大きい。

 

 鼻先に短い角が、頭には後頭部に向かって伸びる角が二本生えている。

 相手を見据える瞳は、視線だけで射殺すような恐怖を孕んでいた。

 口には鋭い牙が、足には獲物を抉るかぎ爪が。

 長い尾は二股に裂けており、棘が生えそろっている。


 その生物を、俺達の世界で知らない人間はほとんどいないだろう。

 ドラゴン――飛竜ワイバーンだ。


「こ、これがエルヴァーダ……」

「すっげぇ……」


 そんな声がする。エルヴァーダってのはドラゴンのことだったのか。

 ドラゴンを唯一使役できる国、それがヴームエンデ。


 エルヴァーダは巨大なコンテナのようなものを運んでいる。

 上部に取り付けられた取っ手を掴んでおり、器用にそのコンテナを砂浜に置いた。

 よく見ると、エルヴァーダにはサドルのようなものが付いている。


「どうも! お客人達! お待たせいたしました!」


 男の声だ。エルヴァーダの背から、一人の男が顔を覗かせた。

 布を顔に巻いており、ゴーグルのようなものを装着している。

 素肌を一切晒さない服装で、怪しいとしかいいようがない。


「この度は、我がヴームエンデが誇るエルヴァーダ輸送をご利用いただきありがとうございます!

さあ! 乗客の皆様、この輸送船に乗り込んでください!」


 輸送『船』? 船には見えないが……。

 なるほど、これがフランシス達が待っていた、他国へ行くための手段か。


 輸送船とやらの両開きの扉を開けると、輸送の男の声が聞こえる。


「中に入ったら、馬車を固定できるものがありますので! 固定を! してください!

全員入ったら、出入口の鍵をお閉めくださいね! 放り出されないようためにも!

皆様も、内部の安全帯をしっかりお付けください! 出来たら大声で出来たと! 仰って! ください!」


 声がでけぇ。一応、コンテナ……いや、輸送船の天井部には通気口があるようだ。

 内部はまぁ、安全帯やら馬車を固定するようのものが無数にある粗雑な造りだ。

 おおよそ人を運ぶような造りに見えないんだが……。


 乗客達で馬車を中に積み込み、床に作られた器具で車輪や荷台を固定している。


「と、とりあえず大山羊ピーフも安全帯ってので固定したけど……?」


 固定っていうか、安全帯でぐるぐる巻きにされてるようにしか見えないが。

 フランシス、不器用か?


 壁に取り付けられた安全帯。俺の世界だとシートベルトみたいなものだな。

 バンディも固定してやった。少し苦しそうだ。

 安全帯は一見短めだが、収縮性があるおかげで問題なく使える。素材はなんだ?


「この帯を、この金具に結べばいいのか?」

「こうかな?」

「おお、結構締め付けられるな」


 俺も安全帯を腰に取り付ける。

 帯の金具がフック状で、それを壁についてる半円系の金具に引っ掛けるだけ。

 金具以外にも、手の高さに掴むような取っ手が付いてる。

 シンプルなんだが、これらのおかげで体をしっかり固定できた。


 ただ、なんでこんなに固定するような器具が付いてるんだ……?


 待てよ。これってつまりエルヴァーダに運ばれるんだよな?

 輸送船が、ドラゴンの足で掴まれて飛んでいく?

 あれ、つまり、安全帯がこんなにがっちりしてるのって――。


「準備できました!!」


 護衛の男が叫ぶ。

 ちょっと待て! 待て待て! 心の準備がまだできてない!


「ハッハッハァ! 了解です! さぁ! ここからヴームエンデまで半日ほどかかります!

()()()空の旅を、どうぞ心ゆくまで!」


 輸送船が大きく揺れる。

 エルヴァーダに揺られ風で揺られ、絶叫マシンと化した内部が阿鼻叫喚に溢れたのは、言うまでもない。

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