48 植物園内
誤字報告ありがとうございます。
大変申し訳ないのですが、しばらく更新をお休みします。
二月中の再開を予定しております。
馬車の中ではどんな会話の内容について色々考えて疲れてしまったけれど、植物園に着けば、会話の内容については問題がなかった。
なにせゲームの中の世界なのだ。元々知っている花もあれば、見たことのない花もある。色々な花が咲いていてとても楽しい。
会話には困らない。しかし。
「メロー、こちらはこの植物園でしか咲かせられないと言われている特別な種類です」
「そ、そうですか」
マリウスにエスコートされ、愛称で呼ばれると、必要以上にドキドキしてしまう。
呼び方が変わっただけだ、と自分に言い聞かせているものの、呼ばれると意識してしまい、そして意識しているのがマリウスにバレるときっと呼ばなくなってしまうと思うと、どういう態度が普通なのか分からなくなってしまった。
あまりに変な行動を取ってしまったらマリアが止めてくれると信じたい。
マリアを見ると、少し離れてついてきているけれど、一定距離は保たれている。
デートを邪魔しない侍女の完璧な位置。有能な侍女も時には問題ね。
「マリウス様はお花に詳しいのですね」
「領地内視察に行くと領民が色々教えてくれるので、覚えてしまったのです」
「そうなのですね……」
そこで思い出した。私、マリウスから紫蘭の花貰ったんだった!
死にかけたせいですっかり忘れていたけれど、「私を忘れないで」に対して「忘れない」と言われたわけなのよね。
あのやりとりがなかったかのように、馴れ馴れしくすることもなく一歩引いた関係が続いているけれど。
ちらりとマリウスを見ると、隠れる様に花の世話をしてた管理者と花の色について何か話していた。
マリウスは、何を思って紫蘭の花を贈って来たのかしら。
私はあの夜会で酔ってたせいもあり焦がれるような気持ちで「忘れないで」と言った。
それが伝わって、真摯な気持ちで紫蘭の花を贈ってくれたのならとても嬉しい。
でも……
マリウスの「聖者」ぷりを見ていると、単純に「忘れないで」と言われたから「忘れない」って送っただけのようにも思えてくる。
本人に訊いてみれば分かることだけれども……
それでどう返されてもどうしていいのか分からないかも……
考え事をしながら進んでいると、足元に女の子がしゃがみ込んでいた。ぶつかりそうになって慌てて立ち止まる。
黒髪にサファイアのような青い目をしていた。
目が合うと驚いた顔をする。
「ユアアイ!$%*+@*¥!!」
「え!?」
ものすごい早口で何かを言って立ち上がった。
「like an emerald……!」
今度は聞き取れた! 英語だ! ものすごいネイティブだ。
「さ、サンキュー……」
私の顔を見てエメラルドみたい、と言われれば簡単だ。私の目のことを言っているのだ。
「can$%$&%$**+!?」
「ご、ごめんなさい、そんなに分からないわ」
早口且つネイティブでは私の学力では聞き取れない。
キャン、とだけ聞き取れたから、話の流れ的に英語が出来るのか、みたいなことかしら。
英語なんて転生してから全く勉強してないわ……
そこで気付いた。
この世界はゲームの世界だ。日本の、ゲームだ。
シスコン、のような和製英語やサンキューのような簡単な英語は存在している。
この子のように完全な英語を使う人物というのは今まで存在しなかった。
私はぞっとして立ち竦んだ。
「What do you want?」
マリウスが私を支えながらそう彼女に言った。
「oh……$#%’*+>+*」
少女は何かを言った後、ぎこちなくおじぎをして走って行ってしまった。
「失礼、管理者と話していて気付くのが遅れました。大陸の方でしたね。何か言われましたか?」
マリウスにそう言われて理解する。
「……大陸の方でしたのね」
ゲームに出てこなかったのに関わってきているもの、それが大陸に関することだ。今まで大陸の人と関わったことがなかったから知らなくて当然だ。少し安心した。
私がこの世界で生きていく上での初見部分に当たるわけだけれども……英語、だったわね……
前世ではゆっくりなら日常会話くらいできたけれど……もうほぼ忘れてる。
カタコトなら話せるかしら。もうちょっと話してみたかったかも。
「マリウス様は英……大陸の言葉を話せるのですね。驚きましたわ」
「お恥ずかしながら、簡単な言葉しか分かりませんし、先ほどの方のように早口だとあまり聞き取れません」
「どこで言葉をお知りになったの?」
「領地に旅行者が来たことがありまして、数日間教えて頂く機会がありました」
「そうでしたの」
マリウスも分かるならなおさらさっきの彼女と話してみたい。
そう思ってもう一度見回すけれど、姿は見えなかった。
「お嬢様? なにかされたならおっしゃってください」
マリアが怖い顔で近付いて来た。
「なんでもないわ。大陸の言葉を聞いたのは初めてだったから驚いただけなの。さあ、進みましょう」
ただ会話しただけなのに悪い人扱いされては申し訳ない。
私は笑顔で道を進んだ。
「ああ、この辺りの薔薇に今回定植したものがあるのです」
「あら!」
「これは……すばらしいですね」
マリアも感嘆の声を上げた。
薔薇が咲き乱れる区画に入った。
手前が白色で段々奥に進むにつれ赤になるというグラデーションに植えられていた。
「もともと植物園にあるものと、納品したものとあわせたらこのように植えられると気付いた者がおりまして、こうなりました」
「素敵ですわ!」
今まで見た薔薇園は、様々な色が混ぜられて色鮮やかなものや、同じ色の薔薇を集めているものが多かった。
この広い区画でのグラデーションは本当に美しい。
ここから見るのも美しいけれど、真ん中に立ったらきっと……
「あら!」
「先ほどの方ですね」
真ん中付近に、先ほどの女性がいた。
しかし、こちらに気付くと走って行ってしまった。
「……怖がられてしまったかしら」
「少々心配ですね。おひとりでしょうか」
マリウスは私と別のことを心配していた。
確かに、ぱっと見ただけでも上質の服を着ていたので貴族か、貴族ではなくても裕福な生活をしている人だろう。
そうなるとひとりで来ているとは思えない。
「迷子なら言葉が通じないと不安でしょう。追いかけましょう」
せっかくの薔薇だけれども、事情が変わってしまった。
「僕が先に参りますので、ゆっくりで結構です。この先にテラスがあるのでそこで落ち合いましょう」
マリウスが私にそう言ってマリアを呼んだ。
「走っては駄目ですよ、お嬢様」
「でも緊急事態よ」
「命に係わることではございませんし、それほど緊急ではありません」
「でも気になるから急ぎましょう」
マリアを引っ張る様にして薔薇の区画を抜けると、マリウスが言った通りテラスが見えた。
「……あら」
テラスの入口でマリウスと先ほどの女性が向かい合って何かを話していた。
その横を通り過ぎようとしたカップルが、話に夢中だったのか女性にぶつかってしまい、女性はふらついた。マリウスが支える。
そのぶつかったカップルは遠目でも分かる人物だった。
「……クルジット嬢と、ジェダイト様ですね」
マリアの声は呆れていた。




