47 植物園へ
お読みいただきありがとうございます。
現在プロット見直し中の為、次回の更新は通常だと20日ですが、もしかしたら25日になるかもしれません。
なるべく20日に更新できるようにがんばりますが、25日になったらすみません。
マリウスと植物園に行く日になった。
「エメラルド様、本当にその服でよろしいのですか」
マリアは眉を寄せて私の服を見た。
私はドレスではなくワンピースを着ていた。
先日教会に行った時に着ていたものよりシンプルで、レースも模様もない無地の白いワンピースだった。
スカート丈は長く足首までのAラインで、靴もヒールの低いものを履いている。
腕はまだ吊っているので同じ生地のケープを羽織る。
「これでいいの。目立つの嫌だし。それに……」
このワンピースを選んだのには理由がある。
植物園デートはルビーとジェダイトのイベントだ。
そのイベントではルビーは赤いバラのようなドレスを着て行くのだ。
今まで何度かドレスが被っているし、今までの経験からして植物園でばったり会う可能性もある。もうドレスが一緒というのは嫌だ。
それに、おしゃれするのは恥ずかしさと……罪悪感がある。
「ねえマリア。やっぱり浮気になるのじゃないかしら」
「婚約破棄は内々とはいえ決まっていますし、向こうはクルジット嬢と教会デートしていました。それになにより公爵の許可が下りてます」
マリアは非常に落ち着いていた。
今日は私に同行してくれる。ドミノから逃げられてちょっと嬉しいのを私は知っている。
「それに、コントルシー様は私のことをどう思っていて誘ってくれたのかしら。サルファーが聞いてくれるって言ってたけど、今日はサルファーが来る前に出掛けてしまうのよね」
「気になりますか?」
「気になって当然……あら、その顔、知ってるのね」
「今のところはエメラルド様次第、と申し上げておきます」
「それってつまり、恋愛要素がなく誘っているってことね?」
「さあ、どうでしょう」
なにやら意味深な答えだ。
今まで会話をあまりしたことがない私をマリウスが突然好きになるとは思えない。
人の為に何かをするのが家訓、とでも言いそうなコントルシー家だ。
単純に私をご機嫌にさせるためだけのお出かけかもしれない。
「実は子供の頃会ってて……とかいうテンプレがあればいいけど、それはないわね」
「はい?」
「なんでもないわ」
そもそも私は主人公のライバルポジション。ルビーだったら子供の頃会っていて忘れていた彼的なものはあるかもしれないけれどね。
マリウスが私に近付く利点って何かしら。公爵家への縁?
でもすでに父と取引した過去があるのよね。今さら私からの縁はいらないはずだ。
「エメラルド様、今日は楽しむことだけお考え下さい」
マリアはそう言うけれども、簡単なことではない。
植物園は公爵家の屋敷から馬車で行くことになる。
平民より貴族が行くような植物園なので園内の警備は万全のはずだけれども、前回の事もあり護衛は五人も付くことになっている。
絶対目立ってしまうけれど、園内に入ったら少し離れてくれるらしい。
デートの様で、皆に見られている散歩といったところだろうか。
メイドが迎えが来たことを知らせに来たので、マリアと部屋を出る。
玄関ホールにいたのはマリウスと、父だった……
「お、お父様……」
そうだった。今日はサルファーへの嫌がらせをするために家にいるんだった。
マリウスと何を話しているのだろうと不安になりながら近付く。
「エメラルド。護衛がいるとはいえ羽目を外しすぎないようにな。それではマリウス君、また」
父はそう言ってこちらの返事を待たずに去って行った。
マリウス、何もされてないかしら、とマリウスを見ると笑顔で挨拶をされた。
「こんにちは、エメラルド様。今日もお美しいですね。隣に並べるとは光栄です。今日は一日楽しみましょう」
優しい笑顔だった。ああああ、やっぱり好きだなぁ。
馬車はマリウスが乗ってきたもので行くことになった。
公爵家の馬車と違って紋章のない馬車だ。それほど広くない馬車の中に三人で乗り込み護衛は全員馬で付き添う形だ。
三人。マリアは私を奥に座らせ、隣に座る。
そうすると自然とマリウスが目の前に座った。そう、なるわよね。
膝が付くほど近くはないけれども、すぐそこにマリウスの膝がある。
今さらながらマリウスと出掛けるということに緊張してしまっていた。
「コントルシー様、父には何もされていませんか?」
とりあえず一番の心配事を聞いておく。
「ご挨拶されただけですよ。ああでも、辺境伯殿からドミノの話は聞いております」
「!! その……」
「この前からエメラルド様が私に対してご心配されている理由が分かりました」
「普段は、普通の、父ですの。たまに、そうたまにちょっとお茶目になるだけで!」
慌てる私とは反対にマリウスに微笑むだけだった。
こんな感じで植物園までの一時間持つのかしら。
私は助けを求めてマリアを見るけれど、マリアはにっこりと笑うだけだった。
「実はエメラルド様にお願いがあるのですが」
「は、はい」
「植物園でコントルシーと呼ぶと管理者の方々が気を使ってしまうと思うのです」
確かに、薔薇の花を五十株も納品したということは、植物園からしたら大事な取引先だ。
マリウスはコントルシーの嫡男。気を遣うだろう。
「ですので、私のことはマリウスとお呼びください」
「!!」
思わずマリウスを見つめてしまった。
マリウス……と、呼ぶ……
「………………マ……」
だめだ、緊張する! 名前を呼ぶだけなのに!
「それではエメラルド様のことも砕いてお呼びいただいた方がよろしいのでは?」
マリアが横からにこにこと告げる。
「わ、私も!?」
「エメラルド様、と呼ばれたらまずクライマシー家のエメラルド様のことを一番に思い浮かべるものです。せっかく平民のような服装なのにバレますよ」
「そ、そうかしら」
エメラルドと呼ばれないとなるとミドルネームのブライト、かしら。
王家からいただいた名前だけれども、書類にサインをする以外では使ったことがない。
前世の世界では親しい人が呼ぶというものだったけれど、このゲームの世界では違う。
「メローとお呼びいただいたらよろしいのでは」
マリアが平然と言う。
「! それは」
「そういえば辺境伯殿がそう呼んでいましたね」
私とマリアの会話をただ聞いていてマリウスがそこでそう言った。
メローは私の愛称だけれども実は呼ぶ人はそれほどいない。
母とジェダイト、サルファーくらいだ。子供の頃は父もそう呼んでいたけど、いつからかエメラルドと呼ぶようになった。あとはジャスパー?
「私もメローとお呼びしてもよろしいですか」
うわああああ! なるほど! なるほど!? 何が!? いえ、落ち着いて私。名前を呼ばれただけよ。
「では私も、ま、ま……」
だめだ、顔が熱い! マリウスの顔を見られなくなって目を伏せる。
「マリウス……と、呼ばせていただき、ます」
「ええ、今日はよろしくお願いいたします」
マリアから生温かい視線を感じるけれども無視した。
こんなんで私、一日乗り越えられるのかしら。
それから植物園までは、あたりさわりのない会話を時々するだけで、会話が弾むということもなかった。
なんだか、軽い気持ちで出かけることを了承したことを後悔し始めていた。




