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 本日二話投稿しています。(二話目)

「エメラルド様!」


 突然の声に驚いて目を開ける。

 体が震えていた。

 ぽろぽろと涙がこぼれて行く。


「エメラルド様、大丈夫ですか!?」

 覗き込んできた顔に驚いて悲鳴を上げそうになった。

 大丈夫、マリアだ。泣きそうな顔をしている。


 夢だ。

 いつもの夢だ。

 自分が死んだときの夢。


 ゆっくりと息を吐く。

 このところ毎晩見ている夢だった。

 夢だから痛みはない。

 恐怖だけリアルに感じていた。


 頬を触ってももちろん血は付かない。肩もお腹も。

 今はもうエメラルドだ。ヒロと付き合っていた私はもういない。

 私はゆっくり深呼吸をする。


 いつもはマリアに起こされる前に起きるのだけど、昨日は色々あったし、疲れていたのね。


「大丈夫よマリア。おはよう」

 心配そうにベッドに乗り上げているマリアに挨拶する。

 ちゃんと笑えたかしら。いえ、マリアを見る限り失敗したみたいね。


 いつもは着替えてから部屋のソファに座って飲むお茶を、ベッドの上まで持ってきてくれた。

 まだ夢の恐怖が残っていたので、大人しく受け取って飲んだ。

 いい香り。

 ため息が出てしまった。


「今日は大陸の外交官がいらっしゃる日ですから、街はお祭り騒ぎです。お屋敷でゆっくりするように公爵様から仰せつけられております」

「昨日のことがあったばかりですものね。大人しく……読書でもしてるわ。ああでも、昨日の事件の真相が分かった教えてくれる?」

「かしこまりました」

「お父様に口止めされても教えてくれる?」

「内容によります」

 マリアは正直だった。


 今まで刺繍も趣味の一つだったけれど、銀のものが苦手になってからは控えている。読書と散歩くらいしか出来ることがない。

 ソーサーに添えられた木のスプーンが私を落ち着かせてくれる。


 朝食も木製のカトラリーで取った。

 その後、読書をすると言って本を開いたものの、私は昨日のことを考えていた。


 昨日の一連の事件のきっかけはマリウスがスリに遭うイベントだ。

 サルファーは濁して教えてくれなかったけれど、サルファーがルビーの所に駆け付けた時に居合わせた人って、ジャスパーじゃないかしら。

 ゲームでは選択肢によってはジャスパーにキスしてもらえる、好感度が急激にアップするイベントだった。


 スリ事件イベントの次のイベントはお城の夜会ファーストダンスイベントだ。

 スリのイベントをきっかけにルビーとジャスパーはどんどん仲を深めていって、とうとう夜会でファーストダンスを踊る。

 ファーストダンスは普通、自分の妻や婚約者と踊るものだ。

 それをエメラルドを差し置いてルビーと踊る。

 可哀想なエメラルド。

 私だけど。


 踊った後にいちゃいちゃするけど、ジャスパーだけ呼ばれて会場に戻った隙に、エメラルドが現れルビーにワインをかけて罵倒した後バルコニーから突き落とそうとする。

 そこにジャスパーが戻ってきて助けてもらい、そのまま家まで送ってもらう。

 全年齢対象のゲームだったからあからさまな描写はないけれど、一緒に夜を過ごしている風なのよね……

 翌朝にルビーに対して「愛しているのは君だ。必ず迎えに来る」とか言ってたはず。


 順調にイベントが行われているとなると、その夜会イベントも起こることになる。

 …………

 その夜会って、いつの夜会なのかしら。


 その夜会イベントからそう間を置かず、婚約破棄イベントが起こる。

 定番の、夜会で皆の前で婚約破棄を言い渡すイベントだ。

 イベントが必ず起こるとなると、今、父に進めて貰っている婚約破棄の手続きはうまくいかなくなるのかしら。


 もうジャスパーと結婚することはないと思っている。

 だからルビーがジャスパーと結婚しても問題はない。

 ただ、なんというか、リアルな人物としてのルビーを知ってしまうと引っかかることがある。


 あの子、王太子妃としてやっていけるのかしら。


 私は子供の頃から公爵令嬢として、且つ父親が王弟ということもあって、王族に準ずる教育を受けてきた。

 ジャスパーと婚約が続けば王太子妃の教育が始まるはずだった。

 婚約が決まった時にされた説明ではそれほど難しいものには思えなかったけれど、つい最近まで平民だったルビーにはかなり大変なのでは。


 あと気になっているのがマリウスと約束した植物園デート。

 昨日は浮かれてて気付かなかったけれど、ゲームでジェダイトを選んだルートで植物園デートのイベントがあるのよね。

 エレスチャルが前にジェダイトが夜会でルビーを膝に乗せていた、と言っていたから、ルビーはジェダイトのイベントも起こしている気配がある。


「ねえマリア。お兄様って今、公爵家の別館にいるのよね」

「さようでございます」

「……忙しいのかしら?」

「塀は終わったようなので、今日あたりから別館裏庭で穴を掘っていると思われます」

「塀? 穴?」

「裏庭に人が入れるくらいの穴を掘って、埋めて」

「また掘って埋めて掘って埋めるアレね。お父様のいつもの嫌がらせね」

「まあ、見張りがいませんから、サボろうと思えばサボれますけれど」

 確かに公爵家の別館敷地内だと侍従しかいないからサボろうと思えばサボれるわね。

 侍従は父に逆らえないけれど、ジェダイトにも逆らえない。


 ルビーがジェダイトと植物園デートしたりするかしら……


 ジェダイトとうまくいって結婚するとなると、私の義理の姉妹になるって事なのよね。

 ジェダイトは次期公爵。つまり次期公爵夫人。

 ……王太子妃よりは楽かもしれないけれど、母の忙しさを知っているとルビーにこなせるとは思えないわ。


 あの子が何の問題もなく進めるルートって、サルファーを選んだ場合の溺愛軟禁ルートだと思うけれど、実際のサルファーは全くルビーに興味がないのよね。

 エレスチャルを選んだ場合も全く文化の違う国へ行くことになるから結構苦労するだろう。これは今は選ばれることはない。エレスチャルもルビーには興味がないみたいだし。


 あと残っているのはアゲートを選んで外交について行くルート。

 確か伯爵家は大陸のことで協力している。だから外交官になったアゲートとも私の知らない所でイベントを起こしている可能性がある。

 外交官の妻。王太子妃や公爵令嬢よりは苦労しないかしら……?

 

 こういうこと、あの子、考えているのかしら。

 伯爵家を出たいだけっていうなら、もっと自分に合った道も探してみるべきでは。ちょっと心配になっている。


 色々考えていると、マリアが父に呼ばれて部屋を出て行った。

 昨日の事件の真相、分かるかしら。


 私は開いただけで全く読んでいない本をテーブルに置いて、マリアが帰ってくるのをお茶を飲んで待つことにした。



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