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 教会に戻るとマリアが泣いて抱きついて来た。

 服はあちこち汚れているが怪我をした様子はない。それだけでもほっとした。


 こんなに取り乱すマリアは初めて見た。泣きながら何か言っているけれど聞き取れないくらいだ。

 マリアとも付き合いの長いサルファーも目を丸くしていた。


 私が連れ去られたことは重く見られ、城下町も見回りの騎士ばかりだった。

 教会にも騎士が多くいた。シスターも神父も心配してくれたけれど、むしろ迷惑をかけて申し訳ない。

 公爵家から別の馬車で迎えが来ていた。ふと気付く。


「乗っていた馬車の御者の方は無事ですの?」

 城下町に来たのは私、マリア、サルファーと護衛四人。そのことしか頭になく、御者のことをすっかり忘れていた。ふたつの馬車で来たからふたりいるはずだ。

 忘れていたことに気付いて血の気が引く。


「俺の方の馬車の御者は無傷、お前の方の御者はちょっと殴られて痣作っただけだ。心配ねーよ」

 誘拐犯は私を馬車から連れ出したらさっさと逃げていった為、大怪我をした者はいなかったようだ。

「あと、ルビーさんは無事ですの?」

「あの女は無傷で無事。ちょっと離れた騎士の詰め所にいる。今の所別件扱いだが」


 ルビーの悲鳴を聞いて駆け付けたサルファーが見たのは、男たちと乱闘するルビーだったそうだ。

 やや押され気味だったものの男たちに応戦するルビーには驚いたとのこと。

 サルファー以外にも声を聞きつけて来た人がいて、協力して男たちを縛り上げ、ルビーと共に詰め所に送った。

 そして私を追いかけてみれば誘拐されていたという顛末だったらしい。


「俺も肝が冷えたし……公爵にも謝んねーとな。俺が付いていくからって外出許可出たんだし」

 サルファーは悔しそうだ。

「私からもお父様にお話ししますわ。皆無事ですし、お出かけは楽しかったもの。普段は襲われることなんてないんですもの、予想外の事ですわ」

 そう言うと頭をポンポンと優しく叩かれた。気休めにしかならなかったかしら。


 ルビーを襲った男たちと誘拐犯が繋がっているかは分からない。

 分かったら報告してくれるという事だったので、私は公爵家に帰ることにした。

 今度はひとつの馬車に私とマリアとサルファーが乗り、護衛は馬で付いていくことになった。


 ずっと付き添ってくれていたマリウスが見送ってくれた。

「コントルシー様、今日はありがとうございます」

「ゆっくり休んでください」

 優しく微笑まれれば、それだけで癒される。


 馬車のドアが閉まり走り出しても、しばらく窓の外から見送ってくれているマリウスを見ていた。

 手を振りたい気分だわ…! でもちょっと馴れ馴れしいわよね。

 マリウスの姿が見えなくなってから座り直すと、サルファーとマリアが私を見ていた。

 しまった、あまりにもあからさまだったわ! 

 顔が赤くなるのが分かる。思わず両手で隠した。


「デートに誘われて良かったな!」

「まあ! そうなのですかエメラルド様!?」

 サルファーの言葉に鼻声のマリアが喜色を現した。

 そう、あれは、一緒に植物園に行こうという……! …………!!

 思い出して私は身悶えした。


「まあ、公園でのあのエメラルド様の態度を見たら、ちょっと誘ってみようとは思うかもしれませんね。恋愛的な意味はなくても」

「え!?」

 私、何かしたかしら。

「お話が出来て嬉しい、という顔で自分と話をして、他の女性が来た途端絶望的な顔されたら、少なくとも自分といるのを楽しんでくれているというのはどんなに鈍くても察します」

「ぜ、ぜつぼうてきなかおなんかしてない……と、おもうわ」

 ルビーの声が聞こえた途端落胆したのは確かだけれど。

「絶望的な顔してたのは俺も見た」

 サルファーから追い打ちされる。


「恋愛的な要素は分かんねーな。そういう話聞かねーし。単純に今回の事件で落ち込まないように誘っただけにも見えるし。後でちょっと突っ込んで聞いとくわ」

「エメラルド様に教えなくて結構ですから、私には教えてください」

「マリア!」

 私が睨んでもマリアは涼しい顔をしている。

「サルファー様はコントルシー様といつの間に仲良くなったのです?」

 それは私も気になっていた。

「あいつの領地、豊作すぎて商品の出荷先に困って探してんだよ。だから食事会に連れ回してる最中なんだ」

「豊作すぎて?」

「植物園への薔薇もその一環だろ。花とか野菜とか果物とか豊作らしい。人手も足りてねーから移住者募集中だし、ホントなんであいつの家、爵位ねーんだろうな。王家が放置してるのが逆に怖ぇ」

 人手が足りないくらい豊作ってすごくない?

 でもこの世界、機械も魔法もないから全て手作業なのよね。

 公爵家からも何かお手伝いできないかしら。


「デート、楽しんで来いよ」

 サルファーはニヤニヤしながら私を見た。

 マリアを見ると「ドレス新調しましょうね」と笑顔だ。今日の事件のダメージを忘れているのはいいけれども、ちょっとここまで言われるのは恥ずかしいわ。

 縮こまっていると二人は「フフフ」と笑い合っている。ちょっと悔しい。


 デートできたら嬉しいけれど、ジャスパーとの婚約破棄はしばらく保留状態だ。

 浮気になるんじゃないかしら……

 コントルシー領が出荷先に困っていて相談に乗るという名目……いえ、それなら私じゃなくて父と会うわね。

 デートはしてみたいけれど、誰に見られるか分からないしちょっと無理かも。


 それにまず、銀色のものが怖いのをどうにかしたい。


 今回の事件も、動けずにいたから簡単に攫われてしまった。

 庇ってくれたマリアのナイフを怖がるなんて……怖がらずに逃げていたら時間稼ぎくらいにはなったかもしれないし、犯人たちも人違いだってことに気付いて逃げていったかもしれないわ。

 全て終わったことに対する後悔かもしれないけれど、私は自分が何もできず助けられるだけだったことに負い目を感じていた。


 恋に浮かれているだけでは駄目なのよ。


 子供の頃もナイフが苦手だったのを克服できていた。

 今回も克服できるはずだ。



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